古畑任三郎ファイナル〜ラスト・ダンス〜 2015.02.12


(古畑)これまで何人の殺人犯を逮捕したことでしょうか。
中には女性の犯人もいました。
その誰もが美しくそして誰もが悲しみを秘めていました。
最後の犯人はその中でも特に美しくそして特に悲しい女性。

(テーマソング)〜〜
(ブルガリ)「小佐野さんを殺したのは先生あなたです」
(先生)「何の証拠がある?」「わたしには動機がない」
(ブルガリ)「フフフフ。
んー。
動機は遺言状です。
あの遺言状が公になるとあなたは猿丸教授の遺産を独り占めできなくなる。
だからどうしても栗林夫人から取り戻す必要があった。
そのためには小佐野さんが邪魔だったんです」「そんな遺言状など存在しない」「とぼけるのもいいかげんにしろ」「だったらここで見せてみろ。
今すぐここで!」
(ブルガリ)「ふーん。
あなた遺言状が見つからないと思っているからそんな強気でいるんでしょうがこのブルガリ三四郎に解けない謎はない!あなたたった今ここでわたしの目の前で遺言状隠しましたね?それも絶対に捜査の手が届かない場所に。
いくらわたしが探しても普通は絶対に気づかない場所に。
それはわたしの背中です!」「あなたを逮捕します」
(殿山)傑作ですね。
(かえで)演出よかったね意外に。
フフッ。
意外にっていう言い方もどうかと思うけど。
小手川聞いたらもう泣いて喜ぶと思いますよ。
(小手川)えー。
ラストのテロップはもうちょっと出を遅らせますんでねブルガリの顔にかかっちゃってね。
ダメだな。
先生からお褒めの言葉をいただきましたよ。
(小手川)うおー珍しい!傑作だって。
そこまで言ってない。
力作?
(社員)おはようございます。
(社員たち)おはようございます。
(社員)おはようございます。
(かえで)打ち上げって何時だっけ?
(福井)6時です。
来てくださいね。
いつものお店でしょ?六本木の。
(福井)後で地図を事務所のほうに送っておきます。
あっ大丈夫。
分かるから。
あっ。
お姉さんはどうでしょうか?お姉さん?どうだろう?来ないんじゃないかな。
できれば来てもらえるとうれしいですね。
みんなも会いたがってますし。
なあ?ぜひ。
最近どんどん偏屈になってるから。
あっ。
大先生今何してる?
(杉浦)今仕事場でホン書かれてますけど。
回しますか?
(かえで)あーいいや。
手が空いたら電話くれるように伝えといて。
はーい。
多分ダメだと思うよ。
(殿山)もみじさんもたまには表に出て人に会うほうがいいんじゃないんですか?こもりっぱなしで具合悪くなりませんか?いいのよ変人だから。
(ノック)
(もみじ)どうぞ。
あのー。
かえで先生が手の空いたときにお電話が欲しいそうです。
(もみじ)ありがとう。
(殿山)それじゃあ6時によろしくお願いします。
(福井)お願いします。
(小手川)お願いします。
(社員)おはようございます。
(かえで)おはようございます。
(社員たち)おはようございます。
えっ?意味よく分かんない。
どういうこと?
(東)ホントお恥ずかしい。
わたしの力不足です。
ちょっと待って。
台本に文句言ってきたわけ?いや先生。
そういうわけではないんです!内容的には文句なしに面白かったって事務所の社長も喜んでました。
星野夢子をこんなにうまく使ってくれてありがとうございますって。
先生。
直接電話があったぐらいなんですから。
分かんない。
じゃあ何が問題なの?彼女の出番をもっと増やせってこと?あー。
だったらいいんですが。
何?逆なんですよ。
減らせって?
(海老沢)本人が第1回と第2回の台本を読んで自信がなくなっちゃったらしいんですよ。
(ため息)
(海老沢)ホンがあまりに完成されてるんで自分が足引っ張っちゃうんじゃないかって心配になったみたいですね。
(東)ホンがすばらしすぎたんです。
そういうのはいいから。
でもそれはさ説得しなきゃダメなんじゃない?直すのはいいのよ。
でもホンとしてはどんどんつまらなくなっていくわけでしょ?
(東)うーん。
完成度は下がっちゃう。
いいの?それでも。
(海老沢)いや。
それは困ります。
若干3話目から彼女の出番を減らすという方向にはいかないでしょうか?だって主人公は彼女じゃないの?
(ため息)やはり事務所に言って何とかしてもらうしかないでしょう。
星野夢子は主役なんだから出番を減らすわけにはいかないでしょう。
甘やかしすぎなのよ。
今会議中。
(もみじ)電話しろって。
(かえで)ああそうだ。
今夜の打ち上げあなたにも来てほしいって殿山さん言ってたわよ。
(もみじ)わたしはいいわ。
今夜はちょっと調子悪いの。
何だか熱っぽいの。
そう無理しないで。
一応ね頼まれたから伝えただけだから。
じゃあね。
待って。
あの話考えてくれた?はあー。
その件はあした行って話す。
じゃあね。
これから「ブルガリ三四郎」の打ち上げなの。
ああ。
収録はもう終わったんですか?先週ね。
(東)「ブルガリ三四郎」相変わらず面白いですね。
先生。
最終回の犯人誰でしたっけ?だったらこうする?第3回は彼女の少女時代の話。
夢子ちゃんには頭と終わりだけ出てもらって後は子役が演じるの。
なるほど。
その手があったか。
(東)先生は天才ですね。
どっちみち主人公のバックボーンは描くつもりだったから今書いてるのを後に回して先にそっちを持ってくれば全体の構成はそんなに変えずに済むから。
はあー。
なるほどー!すぐに子役のオーディションを。
分かりました。
はあー。
本当にいつもいつも申し訳ございません。
いいのよ。
それも含めて仕事なんだから。
何?
(杉浦)かえで先生からお電話です。
はい。
もしもし。
(かえで)「ポタージュ」ね今書いてるのは第4回に回して先に回想やることにしたから。
(もみじ)回想は早いんじゃないかしら?いろいろあるのよ。
7回でやろうと思ってた少女時代の話あれ持ってこよう。
いいけど間に合うかな。
今夜締め切りよ。
ちょっとぐらい遅れたって平気よ。
無理言ってるのはプロデューサーのほうなんだから。
そっちはわたしに任せて。
いつまでなら書ける?
(もみじ)あしたの朝かな。
じゃああしたの夜までにしてもらうから。
ゆっくり考えて。
よろしくね。
杉浦さん。
今日はもういいわ。
遅くなりそうだから先に帰って。
戸締まりはわたしがやっとくから。
(杉浦)あっすいません。
あっあの。
今日お泊まりですか?
(もみじ)かもね。
何か夜食買ってきましょうか?いいわ自分でやるから。
お疲れ。
(受付)照明のセキさん来ました。
(かえで)えーさっき殿山プロデューサーがぜひ続編をやりたいと言ってましたけど大抵のプロデューサーはそういうこと言うのでうのみにしないように。
でもこれだけは嘘ではありません。
わたしもこの世界長いですけどこんなにもキャストとスタッフの思いが一つになって作り上げた作品をほかには知りません。
だから殿山さん。
口だけじゃなく続編やろうね。
お疲れさま。
(一同)お疲れさまでした。
(殿山)脚本家の加賀美京子さんでした。
えー続きましては演出家の小手川ディレクター。
どうぞ前のほうに。
(拍手)
(店員)どうもありがとうございました。
いらっしゃいませ。
こんばんは。
(受付)料理持ってきたよ。
(受付たち)ありがとうございます。
(古畑)何か?あっ。
あの。
こちら「鬼警部ブルガリ三四郎」の打ち上げパーティー会場ですよね?あっはい。
関係者の方ですか?関係者?あっ。
一応はい。
あの。
私古畑と申します。
どういった関係の?どういった関係?何と言ったらいいんでしょうか。
んー微妙なところでして。
招待状をお持ちですか?招待状見せるんですか?はい。
ちょっと待ってください。
えーとどこにあったかな?すいません。
置いてきました。
脚本家の加賀美先生呼んでいただけますか?失礼ですがもう一度お名前を。
もう1回言うんですか?何べん言わせんですか?古畑ですよ。
古畑任三郎ですよ。
古畑さん!ああー。
来てくれたんですね!ご迷惑じゃなかったですか?
(かえで)そんなことありませんよ。
どうぞ。
(受付)あっあの。
こちら本職の刑事さん。
台本にいろいろアドバイスもらったの。
そうですよ。
わたしがアドバイスしたんですこのドラマの。
古畑でした。
(かえで)どうぞ。
誉さんがビンゴ!おめでとうございます。
(誉)ビンゴビンゴビンゴ!お疲れさまでした。
アハハ。
あーおいしい。
フフフ。
わたしね正直な話今回のドラマでいちばんの収穫は古畑さんに出会えたこと。
うーん。
ご期待に沿えたかどうか。
何言ってるんですか。
古畑さんのアドバイスすごく助かったんですよ。
刑事ドラマなんか書いたことなかったのにここまでやれたのは古畑さんのお陰。
そうですか。
そう言っていただけるとうれしいな。
光栄です。
ありがとうございました。
ああとんでもないです。
あっそうだ。
プロデューサーの方から伺ったんですけども加賀美京子さんって二人いらっしゃるってホント?
(かえで)ええ。
へえー。
それって有名な話ですか。
別に隠してるわけじゃないから。
加賀美京子っていうのはわたしともう一人の合同ペンネーム。
もう一人というのは?もみじ。
姉です。
お姉さんですか。
双子のね。
変わり者だから人前に出たがらないの。
ということはお二人で台本を?じゃあね古畑さん。
いいこと教えてあげる。
脚本っていうのはストーリーを組み立てる才能とセリフを書く才能は全く別なんです。
ストーリーは面白いのにセリフがダメな作家もいればいいセリフは書けるのに構成がめちゃくちゃな作家もいる。
だからわたしたちは二人で始めたの。
うん。
つまり…。
プロットを立ててもみじさんがそれをセリフにする。
どっちが大事ということではなくどちらも大切なんです。
うーん。
これビンゴじゃないかな。
あっリーチだ。
リーチだリーチだ。
リーチリーチ!
(殿山)あっ。
はいリーチが出ました。
あっほらほら。
ねっ?立って。
えっ?立つんですか?リーチの人は立つの。
立つんですか。
まいったなぁ。
(殿山)次にいきたいんですがいらっしゃいませんか?じゃあいきますよ。
ビンゴは出るか。
さあ続いてはLの34!ビンゴ!
(殿山)えっ?ビンゴ!
(殿山)ビンゴ?ほらビンゴ。
ねっ?
(殿山)ビンゴ出ました。
ビンゴ!
(殿山)おめでとう。
どうぞ前のほうへ。
どうぞ前のほうへ。
どうぞ。
じゃあ行ってきます。
(殿山)おめでとうございます。
リーチの後いきなりビンゴですからね。
おめでとうございます。
さあはい。
あっ当たってますね。
どうも。
(殿山)まずは自己紹介のほうお願いします。
自己紹介ですか。
えーっとこんばんは。
私古畑任三郎です。
えー今日はお招きいただいてどうもどうもどうもありがとうございました。
えー古畑さんはですね今回の警察の捜査について監修をしていただきました。
なんと現職の刑事さんです!あのー。
この件は内密にお願いします。
クビが飛んでしまいますんで。
(殿山)おめでとうございます。
景品はブルガリ三四郎が実際にドラマの中で着たコートでございます。
これいただけるんですか?好きな色です。
あっ黄色ですか。
はい。
あっそうですか。
それはよかった。
おめでとうございます。
じゃああしたからこれ着て現場通います。
古畑任三郎さんでした!どうもありがとうございました。
あっ袋。
どうも。
(拍手)
(殿山)続いていきましょうか。
ゴルフバッグ欲しいんですよね?えーもらっちゃいました地味なコート。
(かえで)今度事件現場それ着ていけば?目立ちそうですね。
(二人の笑い声)
(かえで)ねえ?古畑さん。
何でしょうか?ちょっとご相談したいことがあるの。
何ですか?今夜時間平気?えー時間大丈夫です。
遅くなって奥さんにしかられない?しかる奥さんいません。
フフフフ。
出ましょうか。
えっ?こちらよろしいんですか?もう挨拶も済んだし。
いやしかし。
どうせここにいるみんなとはまた別の仕事で会うんだから。
フェードアウトしよう。
フェードアウト?あー。
ちょっちょっ。
〜つまりそっちが本物のつぼだったんです。
やられました。
完ぺきにやられました。
ごめんなさい。
全然聞こえなかった。
えー。
あー音が。
かまいません。
大した話じゃありません。
また今度。
フフフフ。
もっと飲まれます?えーっとまだありますから。
うーん。
あのー。
先生は何ですか。
先生はやめて。
何かバカにされてるみたい。
いやいやそんなつもりじゃあ。
何とお呼びすれば?加賀美さん?それは姉との共同の名前だから。
わたし本名かえでっていうの。
大野かえで。
かえでさん。
でお姉さんもみじさん?
(二人の笑い声)安易でしょ?親も能がないっていうか。
あっいやいや。
そんなことありませんけども。
うーんそうですか。
じゃあかえでさんとお呼びします。
かえでさんはここよくいらっしゃるんですか?ここってねたくさん人はいるけどみんな自分の世界に入ってるから。
だから逆にわたしも人を気にせず安心して自分一人になれるの。
考え事するときは最適?あーなるほどね。
(かえで)実はね古畑さん。
はい。
(かえで)今新しいドラマの企画を練ってるんですよ。
刑事が主人公だけど事件ものじゃないの。
刑事が主人公のラブストーリー。
タイトルは「ラブポリス」って言うんだけど。
「ラブポリス」フフフ。
面白そうですね。
それで古畑さんに力を貸してほしいの。
えっ?もっといろいろ聞かせて。
特に刑事のプライベートな部分をね。
刑事がどんな恋愛してるか知りたいの。
うーん。
わたしの場合参考になりませんねえ。
古畑さんのことじゃなくていいの。
一般的に職場結婚はあるのかとか。
容疑者を好きになっちゃうことはあるのかとか。
もちろん話せる範囲でかまわないんだけど。
そっちの分野は詳しくないもんで。
ヘヘヘ。
ほかに刑事さんの知り合いいないの。
お願い。
わたしを助けて。
ああー。
ハハッ。
わたしでよければお手伝いしますけども。
フフフフ。
助かる。
あっ。
はっ?踊ろう?あっいや。
あの。
ハハッ。
わたし踊ったことないもんで。
教えてあげる。
はい。
(かえで)左から横へ。
左?あっ。
(かえで)12。
前へ。
34。
失礼しました。
左足ですね?
(かえで)はい。
左から横へ。
はい。
(かえで)12。
前へ。
34。
右から横へ。
12。
後ろへ。
34。
(かえで)早速ですけど古畑さん。
はい。
(かえで)あしたって空いてる?あしたですか?あしたはあのちょっと。
できれば午後いちあたりだととってもありがたいんですけど。
空いてます完ぺきに。
フフフフ。
喜んで。
古畑さんってどうして結婚しないんですか?結婚。
どうしてでしょうかね?結婚したことは?えーどうだったかな。
忘れました。
女性が苦手だったりする?いやいやそんな事ありませんよ。
むしろ女性のほうがわたしを苦手とする傾向にあるみたいです。
(かえで)そんなことないでしょ。
あの。
わたしですね犯人を相手にするといろいろしゃべれるんですけど犯罪を犯してない人とはどうも会話が進まないんですね。
そう思ってるだけじゃないですか。
フフッ。
どうなんでしょうかね。
わたし古畑さん好きよ。
ああ。
(かえで)恋に臆病になってないですか?古畑さん。
あっ!ごめんなさい。
すいません。
大丈夫ですか?ごめんなさい。
ああー。
どうも。
戻りましょうか?失礼しました。
練習しておきます。
古畑さん!どうも。
ゆうべは楽しかったです。
1時でしたよね?ちょっと早いんですけど来てしまいました。
あーごめんなさい。
わたしこの前に仕事が1件入ってるんですよ。
いやいや。
わたしが早く来たのがいけないんです。
お待ちしてます。
姉のオフィスすぐそこなんです。
何だか話があるって呼び出されちゃって。
そうですか。
ごゆっくり。
1時には戻ります。
古畑さん。
例のコート着てないじゃないですか。
あー。
やっぱり勇気がいります。
フフフ。
持ってきたんだったら着なくちゃ。
はい。
じゃあ後で。
行ってらっしゃい。
(チャイム)
(杉浦)はい。
(かえで)かえでです。
(杉浦)おはようございます。
どうぞ。
(かえで)おはよう。
(杉浦)おはようございます。
お待ちですよ。
昨日は徹夜されたみたいです。
はあー。
ひどい顔。
とりあえず書いてみたわ。
早いわね。
(もみじ)まだ直しは必要だけど。
うまくつながった?多分。
無理言ってごめんね。
あなたのせいじゃないわ。
まあ早めに回想入れとくのも一つの手かもしれないかなって。
(もみじ)わたしは早すぎると思うけど。
今はよくても後がきつくならないかしら?まあそんときはそんときで考えるわ。
ありがとう。
すぐ読んじゃうね。
ねえ?あの話考えてくれた?ねえ?いつからこんな趣味?ファンの人が送ってくれたの。
(かえで)年を考えなさい。
(もみじ)ねえ?あの話。
(かえで)心配しないで。
あれからずーっと考えてるわ。
わたしの気持ちは変わらないから。
はあー。
いいんじゃない?わたしたちの共同作業は「ラブポリス」でおしまい。
もみじちゃんがどうしてもそうしたいって言うなら反対はしないわ。
コンビ解消。
一人でやりたければやってみれば?あなたの才能はわたしがいちばんよく分かってる。
やめよう。
(もみじ)いつもよくそんな話思いつくなって感心してるの。
でもわたしにはわたしの書きたい世界があるの。
いいんじゃない?自分の思うとおりにすれば。
ごめんね。
だけど打ち合わせとかできる?ああ多分。
(かえで)プロデューサーと会って自分の意見ちゃんと言える?自分の作品のためだもん。
やれると思うわ。
マネジメントは?企画持ち込んだりたまには俳優さんと会って直接交渉したりもするんだよ。
制作発表で記者が食いついてくれそうなコメントあなた発表できる?誰かさんみたいに上手じゃないけどわたしだって人前で話せないわけじゃないから。
大きく出たわね。
じゃあ妹から一つだけアドバイスを。
人前に出るならもっと身だしなみには気を付けたほうがいいわね。
今は徹夜明けだから。
お化粧も勉強しなさい。
してるわ。
洋服さもっといいもの買えば?お金持ってるんだから。
これは仕事着だから。
わたしだってきれいにして出かけることぐらいあるわよ。
想像できないわ。
いいもの見せてあげる。
これ自分で買ったの?ええ。
まさかこれ着て出歩いてんじゃないでしょうね?ねえ?やめて。
顔が同じなんだからわたしだと思われるじゃない。
悪いこと言わないからスタイリストつけたほうがいいって。
今どきそんな服着てる人いないよ。
はあー。
いいんじゃない?好きなようにやれば。
わたし応援してあげるから。
(もみじ)わたしってわがまま?
(かえで)かなりね。
でも気にすることないわよ。
人間はもともとわがままな動物なんだから。
じゃあこの話はこれでおしまい。
(かえで)古畑と話したわ。
(もみじ)どうだった?あの人警部補なんだね。
警部じゃないんだって。
(もみじ)そうなんだ。
「ラブポリス」の件はね全面的に協力してくれるって言ってた。
(もみじ)へえー。
よかったね。
今度警察の中も案内してくれるって言ってた。
すごい。
まあわたしが本気出せばこんなもんね。
どんな手使ったの?打ち上げの後クラブに誘ってチークタイムで1回踊ったの。
それだけでわたしに夢中?打ち合わせは?1時に「ラ・ボエム」さっき店の前を通ったらもういたわ。
フフッ。
相当なせっかちさんみたい。
はあー。
じゃあ時間がもったいないわ。
始めようか?悪いけどタバコ買ってきてくれない?あっいいですよ。
何でしたっけ?バージニアスリム。
ごめんね。
自分の事務所じゃないのに。
とんでもないです。
大成功。
これっぽっちも疑ってないわ。
(もみじ)それにしても不思議な人ねあなたって。
(かえで)何で?時々急におかしなこと考える。
昔からそうだった。
(かえで)そう?ほら。
小学校のとき校庭で飼ってた鶏みんな逃がしちゃったことがあったじゃない。
鶏にも自由を与えるべきだとか。
小学生のくせに偉そうに。
あのときは驚いたわ。
でもそれでいいのよ。
あなたはそうやって人と違うことをしたほうがいいの。
小さく収まったらつまらないわ。
(もみじ)で次は?
(銃声)
(作動音)わざわざごめんね。
いえ。
はいこれお釣りです。
はい。
お帰りですか?うんこれから打ち合わせ。
大先生はしばらく仕事に集中したいから中には入るなって。
はい。
電話も取り次がないようにって言ってた。
分かりました。
(かえで)じゃあね。
お疲れさまでした!もみじちゃん最近疲れてる?何か気になりました?何か元気なかったから。
いやわたしは特には気になりませんでしたけど。
ただあまり食欲はないみたいです。
ストレスたまってるんじゃない?あの人ももっと外に出ればいいのよ。
外に出て人に会えば気分転換にもなるし。
あれじゃ引きこもりだもんね。
アハハハハハ!今度三人でおいしいもの食べに行こう。
はい!お疲れ。
(杉浦)お疲れさまでした!
(管理人)あっお疲れさまです!「鬼警部ブルガリ三四郎」毎週見てますよ。
ありがとう。
(管理人)行ってらっしゃい。
かえでもう帰った?ええ。
お帰りになりました。
しばらく一人になりたいからよろしく。
(杉浦)はい伺っております。
杉浦さんってうちに来て何年だっけ?
(杉浦)もう2年半になりますね。
そんなになるんだ。
今までわがまま言ってごめんね。
そんな。
ありがとう。
ハハハ。
どうも。
お待たせしました。
時間ぴったりですね。
ええ。
(店員)いらっしゃいませ。
姉がよろしくって言ってました。
ああ。
お姉さんとはあの何ですかよく似てらっしゃるんですか?周りはよくそう言いますね。
わたしはそうは思わないけど。
洋服の趣味も全く違うし男の趣味もね。
すいません!すいません!古畑さん。
わたしお昼食べてないんですよ。
ああどうぞ食べてください。
サーモンとクリームチーズのクレープとコーヒー。
コーヒー先に持ってきて。
はいかしこまりました。
古畑さんも何か食べれば?ここのクレープ最高においしいんですよ。
そうですか?じゃあいただこうかな。
ええと何にしようかな。
クレープがおいしいんですか?ええと…。
あれ?これは?このベリーベリーとベリーベリーベリーってどう違うんですか?はい。
ベリーベリーはストロベリーのソースとストロベリーのアイスクリームのクレープでそしてそこにブルーベリーのソースをトッピングしたものがベリーベリーベリーです。
ごめんなさい。
ああー両方ともおいしそうだね。
はい。
じゃあわたしはね…。
何?どういうこと!?オレンジジュース。
(店員)オレンジジュース?はい。
よろしく。
ふざけないで。
今古畑さんと一緒。
そうよ。
お姉ちゃんいいかげんにして。
切るよ。
ごめんなさい。
すぐ戻ります。
はい。
あっお疲れさまです。
どうされました?
(かえで)もみじちゃんは?
(杉浦)仕事場ですけど。
何か今変な電話もらったんだけど。
(古畑)ワンツー。
ワンツー。
ワンツー。
(杉浦)あのドアに鍵がかかっていて中に入れないんです。
呼んでも返事しないし。
(ノック)お姉さん!さっきの電話何!?何で黙ってるの!?
(ノック)いいからここ開けなさい!聞こえてる!?あのう電話では何と?本気じゃないと思うけどもう終わりだとか死ぬとか。
仕事場の鍵は?
(杉浦)ここにあったはずなのに!
(ノック)
(かえで)お姉さん!お願いだからここ開けて!
(ノック)
(かえで)お姉さん!
(ノック)
(かえで)お姉さん!
(破裂音)鍵は?
(杉浦)見つからないんです!捜して!これは!?それです!ああ…!救急車!はい!
(西園寺)亡くなったのは加賀美京子さん。
(今泉)聞いたことあるな。
テレビドラマの脚本家です。
(今泉)テレビドラマ?「白い巨塔」?いえ。
それは井上由美子さんです。
最近では「鬼警部ブルガリ三四郎」「ブルガリ」!?あのくっだらない刑事ものだろ?1回くらい見たことある。
結構僕はファンですが。
つまんないから5分で替えちゃったよ。
あんなにさ簡単に犯人が自白するわけないんだよ。
ドラマですから。
それにさあれに出てくる鶴田刑事だっけ。
マジで嫌い。
あんなバカな刑事実際にはいないって。
こないだなんかさ公衆トイレに閉じ込められてやんの。
あんまりバカバカしいんで笑っちゃったよ。
結構見てるじゃないですか。
そうか。
あれ書いてたんだ。
ほかにもたくさん書いてますけどね。
売れっ子ですよ。
そんなに売れっ子なのに何で自殺するの?
(西園寺)遺書の様子だとやはり創作上の悩みのようですね。
あんなくだらないドラマ悩みながら書いてる感じしないけどな。
簡単そうに見えて結構いろいろ大変なんじゃないですか?僕だったら一晩で書けちゃうけどな。
そういうレベルだと思うよ。
まっ「白い巨塔」は無理だけどさ。
(今泉)ねえ古畑さんまだ連絡取れないの?弱りましたね。
何やってんだろうなあの人は。
(西園寺)お呼びしてください。
今泉さん。
うん?加賀美京子さんがお会いになりたいそうです。
うん?気分がよくなられたそうでお話がしたいと。
ちょっと待ってよ。
呼んできます。
加賀美京子?ええ。
さっき死んでたじゃん。
今泉さん。
生き返ったの?だけど頭打ち抜いてんだろ?頭。
(西園寺)あっ加賀美さん。
こちらへ。
おい。
ああー。
随分失礼な方ね。
今泉さん。
こちら加賀美京子さん。
妹さんのほうです。
妹?あれ?二人いるって言ってませんでしたっけ?わたしたち双子なんです。
亡くなったのは姉のほう。
姉妹で同じ名前なんですか?ややこしくないですか?加賀美京子というのはお二人の合同のペンネームでご本名は大野かえでさんです。
取り乱して失礼しました。
何かお話ししたいことがあるそうですね。
ええ。
多分姉と最後に話したのはわたしだと思うんです。
(今泉)ほう。
携帯に電話がかかってきましてそのときの様子がおかしかったんで急いでここに来てみたら…。
(西園寺)ちなみにその電話があったのは何時ごろですか?着信が残ってます。
(かえで)1時3分です。
そのときあなたはどちらに?すぐそこのカフェで打ち合わせをしてました。
今度ドラマで刑事の話をやるので本職の刑事さんとお会いしてました。
刑事?もしかしたら皆さんもご存じの人かもしれません。
ちなみに?古畑さん。
古畑任三郎さんです。
ここだ。
古畑さん!
(今泉)何で逃げんですか!?
(今泉)情けないですよ。
古畑さんがそういう人だとは思わなかった。
わたしは何も悪いことはしてません。
聞いた!?開き直ってるよ。
古畑さん残念です。
残念って何が残念…。
ちょっと待ちなさいよ。
大体ね外部の人間に警察の内情をリークするなんて犯罪ですよ。
リークなんかしてないリークなんか。
アドバイスだって何度も言ってるでしょ。
同じことじゃないですか!同じじゃないでしょ。
いいかい?実際の捜査ではどんなことをするのかそういった質問を作家がしてそれにわたしが答えていただけだよ。
いくらもらったんですか?もらった!?もう話す気にもならないなこれは。
相当もらってるよこれは。
もらってないよもらってないよもらってないよ。
打ち合わせのコーヒー代自分で出したよ。
そんなわけないじゃないですか!出したよコーヒー代ぐらい。
ちょっとこいつ連れてってくれどっかへ。
分からないんですがどうして古畑さんがドラマの監修をすることになったんですか?あのねプロデューサーのほうからね広報課に電話があってたまたまわたしのところに話が回ってきたんだよ。
教えてくれたっていいじゃないですか!表立って協力できないからくれぐれも内密にって言われたんだよ!何でそういう面白いことを独り占めするんですか!?あーあ。
(かえで)いい?こういうときはあなたがしっかりしないといけないのよ。
杉浦さん。
お通夜と密葬の段取りは全部あなたに任せます。
姉もそれを望んでるはずだから。
わたしには分かるの。
新聞発表はしません。
スキャンダルにしたくないから。
喪が明けた段階で発表。
聞いてる?聞いてます。
自殺であることは伏せます。
病名は心臓病。
3年前に一度入院してるから都合がいいわ。
マスコミにもそれで通します。
カルテが必要ならわたしが何とかする。
分かりました。
お願いね。
(泣き声)いい?泣いてる場合じゃないわよ。
やることは山ほどあるはずよ。
(杉浦)はい。
(西園寺)状況から見て自殺と考えて間違いなさそうです。
西園寺君。
はい。
加賀美先生は?どちらの?どちら?生きてるほうに決まってるじゃないか。
隣の部屋に。
こちら?ああどうも。
(杉浦のすすり泣く声)
(今泉)もしかして…。
うん?
(今泉)鶴田刑事って僕がモデルですか?僕がモデルですか?気が付いた?僕が閉じ込められたのは観覧車です。
公衆トイレじゃない!いや先生に話したら観覧車じゃリアリティーがないって言われたんだよ。
(西園寺)古畑さん。
何だよ?
(西園寺)正直言って僕は悲しいです。
何が悲しいんだよ?
(西園寺)今泉さんが出てきてどうして僕が出てこないんですか!?優秀で小柄な部下というのはキャラクターとしては最高なのに!あのなわたしが書いてるわけじゃないんだよ。
先生がいらないって判断したんだからさ。
やるせないです!いや…。
僕は公衆トイレに閉じ込められるほどバカじゃない!
(杉浦のすすり泣く声)
(ノック)
(古畑)古畑です。
どうぞ。
失礼します。
びっくり。
お察しします。
ナイーブな人だったけどまさかこんなことするなんて。
いろいろとお悩みもあったんでしょう。
悲しいっていうか悔しいわね。
涙も出やしない。
あのとき無理にでも部屋に飛び込んでいればこんなことには…。
それは考えないことです。
ご自分を責めてはいけません。
ねっ。
あのうところでお姉さんはなぜ銃をお持ちだったんでしょうか?こんなときに申し訳ございません。
ただわたしとしてもこっちが本業なもので一応聞いておかないと。
かまいません。
すいません。
あのう拳銃の入手先ご存じありませんか?知ってます。
何年か前に暴力団幹部の一家を描いたドラマを書いたんです。
過激すぎてお蔵になっちゃったけど取材で実際に幹部の人に会って話を聞いたの。
そしたら気に入られちゃってそれでいただきました。
いただいちゃったんですか?いらないって言ったんですけど最近は世の中も物騒になってるから。
で拳銃のことは警察には?言ってません。
あまり褒められたことじゃありませんね。
考えてみたらわたしも犯罪者ね。
いいわよ逮捕しても。
その件に関してはまた日を改めて。
であの銃はどこに保管してあったかご存じですか?確か金庫の中です。
こちら?ちょっと失礼します。
よく双子は以心伝心相手の気持ちが分かるっていうじゃない。
わたしたちはそんなことなかった。
見た目は似てたかもしれないけど性格は正反対。
姉は小さいころから引っ込み思案で人間嫌い。
わたしは人と会うのが大好き。
姉の気持ちなんか全然分からない。
少なくともわたしは神様からもらった命を自分から手放そうとは思わないわ。
わたしもそちらの意見に賛成です。
杉浦さんいる?
(杉浦)はい。
申し訳ないんだけど車呼んでくれる?
(杉浦)分かりました。
お出かけですか?これから仕事なんです。
あっお仕事?予定がびっしり。
姉があんなことになったからって仕事休むわけにいかないでしょ?マスコミにはまだ発表してないし。
知れたら大騒ぎですね。
しばらくは心筋梗塞で通します。
うーん。
あの今車を?ええタクシーを。
古畑さんも乗っていきますか?わたしまだ仕事ありますから。
あのお見えになるとき車運転されてきましたよね?強そうに見えてもわたしも普通の人間です。
姉があんなことになって平常心で車を運転する自信がないのよ。
ですよね。
お察しします。
あのこれから大変ですけど頑張ってください。
ありがとう古畑さん。
はい。
じゃあお見送りをします。
あっと。
ちょっとすいません。
どうかされました?ええーと。
ちょっとこれお借りします。
ええー。
あれ?あっ。
これどうやって使うんですか?どうぞ。
あっ。
どうもすいません。
ええと誰かいるかな?古畑だけども。
誰かいない?
(西園寺)はい西園寺です。
ああ君か。
あのこの部屋は手つけてないんだよね?
(西園寺)はい。
そのままの状態にしてあります。
間違いないね?
(西園寺)間違いありません。
はいありがとう。
すいませんでした。
何か気になりますか?あの最後にお姉さんとお話になったのはあなただそうですね?ええ電話で。
携帯電話からかかってきた?そうです。
着信も残ってます。
ふーん。
あの本当にお姉さんの声でしたか?間違えようもありませんわ。
そうですか。
古畑さん気を持たせすぎよ。
ちょっと失礼。
お姉さんはあなたに電話をしてさようならを言ってから亡くなった。
ええ。
はい。
この原稿はお姉さんが倒れた拍子に床に落ちた。
ええ。
はい。
表紙と1ページ目。
2ページ目はここにありますね。
みたいね。
はいそして3枚目からはそちらに。
ええー。
わたし頭悪いのかしら。
何が気になってるのかさっぱりなんですけど。
携帯電話はここに置いてありました。
3ページ目の上です。
ということはそのときはすでに表紙と1ページと2ページは床に落ちていたということになります。
ええーお姉さんが亡くなった後で携帯電話をここに置いた人物がいた可能性がありますね。
そうとは言い切れないわ。
はい?もっと前から落ちてた可能性もあるんじゃないかしら?電話してる間に3枚だけ風で飛んだのかもしれないし。
風で飛んだ?なるほど。
古畑さんって面白いわね。
はい?姉が自殺したのは明白な事実なのに。
遺書もあってわたしは声も聞いてる。
フッフフフフ。
そうでしたね。
いつもこんな感じなんですか?うーん性格なんでしょうか。
つじつまの合わないことがあるとどうしても考えてしまうんです。
刑事の習性ね。
次のホンで使わせてもらうわ。
恐れ入ります。
はい行ってらっしゃい。
(西園寺)古畑さん。
そこは炊事場になっていてその向こうは非常階段です。
下りればそのまま表に出られますね。
入ってくることもできるの?外からロックされていて開きませんが内側からあらかじめ鍵を開けておけば可能と思われます。
うーん。
古畑さんは自殺ではないとお考えですか?えっ?さあ。
(西園寺)あとかえでさんが最後に取った電話ですが確かにもみじさんの携帯にはその時間にダイヤルした形跡が残っていました。
しかし彼女以外の人物がかけた可能性は十分にあります。
そのときは亡くなったのはそれよりももっと前ということになります。
そうなるね。
しかしかえでさんがお姉さんの声を聞き間違えるはずがありません。
そこが分からないんです。
かえでさん自身が事件に何らかの形でかかわっている可能性もあるということでしょうか?まだ決めつけるのは早いよ。
申し訳ありませんでした。
ただ遺書の筆跡鑑定やっておいてくれる?分かりました。
よろしいですか?あの先生の住所録を。
どうぞ。
大きな水槽ですねこれ。
はい。
先生は熱帯魚が趣味だったの?ええ。
最近ですけど。
このところ先生は仕事に詰まるとここに座ってお魚を見てらっしゃいました。
ああどうも。
あのかえでさんなんですけどもここへはよく来るの?いえ。
めったにお見えにはなりません。
かえで先生もご自分のオフィスをお持ちですから。
今日は何で?先生が…。
もみじさんが呼んだみたいです。
二人で何か相談事を。
うーん。
あの杉浦さんだっけ?はい。
あの先生は何で亡くなったんだと思いますか?わたしには…。
そうですか。
どうも失礼しました。
仕事に煮詰まっていたというようなことは?
(杉浦)分かりません!最近何か変わったところは?どんなささいなことでもかまいませんから。
最近化粧品をお買いになってましたよく。
(西園寺)化粧品?
(杉浦)ふだんお化粧されない方なんで不思議だなと思ってたんです。
おめかししてどこか出かけたりしていたの?それは分かりません。
実際にお化粧したところも見たことはないんです。
でもこの引き出しの中に…。
あれ?どうしました?
(杉浦)ここにあった化粧品がなくなってます。
先生お買いになった口紅とかコンパクトとかここにしまってらっしゃったんです。
それは間違いないですか?昨日わたししまってるところ見ましたから。
(西園寺)どういうことでしょうか?あのー。
ほかに何かなくなってるものは?化粧品だけだと思いますけど。
そうですか。
どうもありがとうございました。
あああ…。
あのうそれは?ファンの方からの贈り物です。
いつもはその上に?はい。
いつ落ちたの?さあ。
今朝お掃除したときはちゃんとここにありましたけど。
そうですか。
どうもありがとうございました。
(杉浦)失礼します。
(今泉)どうします?みんなもう帰してもいいですか?どうぞ。
(西園寺)結構です。
今日は解散しましょう。
それから言っておきますけど古畑さん。
僕はあいつほどバカじゃありませんからね。
何の話?「ブルガリ三四郎」ですよ!何が鶴田刑事だよ。
冗談じゃないですよ!
(ドアの閉まる音)
(作動音)
(ノック)
(スタッフ)加賀美先生そろそろお願いします。
はい。
先生!先生ああ…。
古畑さん!こんなところで何してるんですか?やっとつかまりましたよ。
先生のご意見伺いたくて捜してたんです。
事務所に聞いたらこちらだと。
(かえで)ごめんなさい。
歩きながらでいいですか?どうぞどうぞ。
ちょっとですね見ていただきたいものがあるんですけども。
これから何が始まるんですか?「ノンルトゥール」っていう映画のね試写会。
先生がお書きになった?ご冗談を。
フランス映画よ。
わたしはトークのゲストに呼ばれたの。
働く女がテーマの映画だから。
それで先生が。
ええ。
わたしも聞いていこうかな。
興味ないくせに。
いやいや…。
(スタッフ)先生こちらです。
(拍手)
(司会者)今日は皆さまお忙しい中ようこそいらっしゃいました。
このフランス映画「ノンルトゥール」は…。
しかし先生多忙でいらっしゃいますね。
本業のかたわらこんな仕事まで。
嫌いじゃないからね。
古畑さん。
そんなに時間ないの。
あっそうですね。
あれ?やっぱり後にしましょうか。
何言ってるのよ。
せっかくお見えになったんだもん。
今聞かせて。
よろしいですか?手短にね。
分かりました。
えっと見ていただきたいのはこれなんですけども。
ちょっと台が欲しいなぁ。
あっこれにしましょう。
わっ重いですこれ。
よいしょ!はい。
えーこれなんですけども。
見覚えございますか?お姉さんの仕事場に飾ってあったものなんですけども。
あるわ。
そうですか。
何かファンの方からもらったものらしいんですね。
あと5分ほどで出番です。
ありがとう。
続けて。
3分で終わりますからよろしいですか?そう言ってる時間がもったいないと思いません?そうですね。
えーっとこの人形ですねピエロのピンキーという名前らしいんです。
中にセンサーが付いてて音に反応するんですよ。
ご存じでしたか?ええ。
はいちょっとやってみますね。
ピンキー!はいこのとおりです。
(スタッフ)困ります。
ああごめんなさい。
すいません。
アハッ。
怒られちゃいました。
客席まで聞こえたかも。
そのようですね。
やっぱり後にしましょう。
でピンキーがどうしたの?大丈夫ですか?続けますか?はいじゃああの。
事務所のですね杉浦さんの話によりますと今朝掃除をしたときはピンキーは棚の上にちゃんと置いてあったって言うんです。
ところがですねえーお姉さんの遺体が発見されたときは床に落ちていた。
覚えてらっしゃいますか?覚えてるような覚えてないような。
そうですか。
落ちていたんです。
はい。
これで分かんなくなっちゃいまして。
問題は一体いつピンキーは床に落ちたのか?うーん。
そんなの簡単だわ。
と言いますと?姉の撃ったピストルの音に反応したのよ。
声で動くんだったら銃声にだって反応するんじゃない?はい。
最初わたしもそう思いました。
ところがですね…。
ピンキー!ごめんなさい。
すいませんご迷惑をかけて。
えーはい。
ねっ?確かに音には反応するんです。
しかしずーっと動いているわけじゃないんです。
計ってみました。
きっちりと5秒で止まってしまいます。
そして棚の幅約20センチありました。
これぐらいです。
はい置いてみます。
ねっ?これではまず棚から落ちることはない。
ところがですねここからが面白いところなんですが。
ピンキー!すいません何べんも。
もう1回だけ。
ピンキー!あんたね…。
もう大きな声出しません。
もう終わりました。
ふざけてるでしょ?ホントにごめんなさい。
すいませんでした。
(スタッフ)ふざけてるよね?すいませんでした。
(かえで)ごめんなさい変わった人なの。
かかわらないほうがいいわ。
どうも。
ねっ?お分かりになりました?ピンキーが棚から落ちるには少なくとも2回は音に反応しなければなりません。
そうみたいね。
はい。
しかしながら弾は1発しか発射されてない。
えーということはですね銃声のほかにもう一つあの部屋で大きな音がしたということになります。
えー杉浦さんが掃除に入ってからお姉さんが亡くなるまでの間にです。
ところがですね杉浦さんは何も聞いてないとおっしゃってるんですよ。
彼女はずっと隣の部屋にいたんです。
仕事場で大きな音がしたら聞こえたはずなんです。
ところが聞いてないとおっしゃる。
ではもう一つの音は一体いつ鳴ったのか?えー実はですね杉浦さん一度だけ席を外してるんです。
先生に言われてタバコを買いに行ったときです。
ですから音が鳴ったとしたらそのときしかないんです。
お姉さんとあなたが二人っきりになったときです。
先生。
何か心当たりございませんか?ないわ。
そろそろスタンバイお願いします。
(かえで)今行きます。
よーく思い出してください。
お姉さんと二人っきりのとき何か大きな音がしませんでしたでしょうか?残念だけどそんな音はしなかったわ。
うーん。
しかしそれではピンキー落ちていた説明がつきません。
先生。
ごめんなさい。
もう行かなきゃ。
そうですか。
はい分かりました。
頑張ってください舞台。
ありがとうございました。
思い出した。
古畑さん謎は解けました。
はい?わたしこれ触ったのよ。
えーどういうことでしょうか?姉と話してるときに何となく。
ピンキーを?そのときちゃんと棚の奥に戻さなかったのねえ。
多分手前に置いたのよ。
ピンキー!これが真相。
なるほど。
これで謎が解けました。
ごめんなさいね大した真相じゃなくて。
とんでもないとんでもない。
真実とはえてしてそんなものです。
もうよろしいですか?行ってらっしゃいませ。
(司会者)お待たせいたしました。
(司会者)それでは今日本でもっとも輝いている働く女性をご紹介いたしましょう。
本日のスペシャルゲスト脚本家の加賀美京子さんです。
(拍手)
(今泉)古畑さんには悪いけど僕は犯人はあの女だと思いますね。
どうしてそう思うの?
(今泉)怪しいからですよ。
どうやって殺したの?多分トリックを使ったんです。
トリック?複雑なトリック。
(西園寺)恐らく彼女と杉浦さんが聞いた銃声というのは発火装置の付いた爆竹のようなものだったのではないでしょうか。
実際に銃が発射されたのはもっと以前。
杉浦さんが席を離れていた間です。
そのときもみじさんと一緒にいたのはかえでさんだけです。
動機は?もし長年のパートナーであったもみじさんが突然独立したいと言いだしたとしたらどうでしょうか?だとしても殺す必要あるかい?死ぬのも独立するのもパートナーがいなくなるのは一緒だよ。
悔しかったんですよ。
もみじさんは一人でも作家としてやっていけるけどかえでさんは無理だから。
誰がそんなこと言ったの?だってあの人はマネジャーみたいなもんでしょ。
そういう簡単なものじゃないんだよ。
分かったもんじゃないですよ。
知ったような口たたくな。
かえでさんをかばう気持ちは分かりますがピンキーの件にしても彼女の言い分にはまるで説得力がありません。
それをいちばんご存じなのは古畑さんのはずです。
あの人がやったんですよ。
間違いないですって。
あれはどう説明する?事務所のおばさんの証言は。
はい。
確かにかえでさんが帰った後もみじさんはまだ生きていたと事務所の杉浦さんは言っています。
西園寺君。
それはどうなの?僕の推理です。
仕事場から顔を出したのはもみじさんではなくかえでさんだったのではないでしょうか。
玄関を出るのは管理人さんが見ています。
その後彼女は裏口を使って再び入り非常階段で仕事場に戻った。
そしてもみじさんの服に着替えて彼女がまだ生きているかのように見せかけた。
西園寺君成長したな。
(西園寺)ありがとうございます。
(今泉)それに間違いないですよ古畑さん。
あんたがぞっこんの美人脚本家は相当なワルだこりゃ。
ただし時間の問題があります。
玄関を出たのが12時50分。
これは管理人さんが証言しています。
そして古畑さんの前に現れたのが1時ジャスト。
わずか10分の間にそれだけのことが果たして可能か。
やっちゃったんじゃないの?わたしは難しいように思うのですが。
何言ってんだよ。
弱気になってどうすんだよ。
西園寺君。
(西園寺)はい。
実験してみて。
(西園寺)分かりました。
裏のドアはすべて内側からロックを解除してあります。
最短距離を描いておきましたのでここを通って犯行現場まで来てください。
はい。
それじゃいきます。
用意スタート。
はあはあはあ…。
(西園寺)これに着替えて。
急いで。
(今泉)何か僕ばっかり大変な気がする。
着替えたらあのドアを開けて顔を出す。
はい。
早く。
はい。
はっ!どうも。
早く着替えて。
ああ急いで。
はい!着替えたら非常階段を通って下へ。
そのままさっきのカフェまで走ってください。
急いで!どうだった?20分です。
とても10分では無理ですね。
ということは?あのとき仕事場に顔を出したのはもみじさん本人ということになりますね。
そんなわけないだろ。
非常階段を使わずに表から入ってエレベーターに乗ればもっと早くオフィスに到着できます。
しかし戻る姿を管理人さんが見ていない。
こっそり人目を盗んで入ったってことは?だとするとセキュリティーシステムの問題があります。
あそこのは最新設備で手の静脈をセンサーに当てることで本人かどうかを確かめるんです。
つまりいくら双子でも機械をごまかすことは不可能なんです。
分かんないよ。
あんだけ顔が似てたんだから血管だって同じじゃないの?静脈は指紋と一緒で誰ひとり同じものはないんです。
そんなバカなわけあるかい。
はい。
となるとかえでさんの線も疑わしくなってきましたね。
(西園寺)古畑さんのおっしゃるとおり彼女はシロなのかもしれません。
いいえ。
わたしはシロだとは言ってない。
えっ?はいありがとう。
クソ。
何でした?いや何でもない。
教えてくださいよ。
教えたくない。
どうして隠すんですか?今泉君。
どこからの電話だったんですか?鑑識から。
鑑識が何と?現場にあった遺書もみじさんの字に間違いないって。
(西園寺)本当ですか?
(今泉)現場にあった手紙と照らし合わせたら同じだったって。
そうか。
(今泉)おかしいよそんなわけないのに。
古畑さん。
わたしたちの勇み足だったのかもしれません。
これはやっぱり自殺なんでしょうか。
違う。
えっ?これではっきりした。
これは殺人事件だ。
しかし彼女は…。
彼女はクロだ。
えー今回の事件はわたしにとって非常につらい結果に終わりそうです。
この事件の犯人は自分の実の姉妹を殺して自殺に見せかけました。
彼女は殺人を犯した後いったん外へ出てまたここへ戻ってきました。
そして被害者がまだ生きているかのように見せかけた。
問題はそれをどうやって10分でやったのか。
今泉君は20分かかったというのに。
その方法が分かったときわたしは事件の真相にたどりつきました。
ヒントはこの水槽。
そして彼女はなぜ車に乗らなかったのか。
そしてグラスの口紅。
古畑任三郎でした。
(海老沢)というわけで恋愛ドラマの新しいスタイルになると確信しております。
どうか皆さんよろしくお願いいたします。
(拍手)
(司会者)はいありがとうございます。
さあそして「ポタージュ」の脚本を担当するのは「鬼警部ブルガリ三四郎」でおなじみテレビドラマの世界に常に新風を巻き起こすこの人です。
今回は一体どんな風を吹かせてくれるのでしょうか。
加賀美京子さん。
(拍手)加賀美京子です。
この「ポタージュ」はわたしにとって全く新しい挑戦になります。
言っておきますが殺人シーンはありません。
(笑い声)でも今まで以上にスリリングでそして感動的なドラマになると思います。
お楽しみに。
(拍手)
(星野)ええ。
今回わたしにとっても新しい挑戦になると思います。
(記者)今回は加賀美さんにとって大きなチャレンジになると思うんですが。
(かえで)チャレンジっていう言葉を使うならわたしはいつもチャレンジしてますからね。
とにかくテレビドラマっていうのはもっともっといろんな可能性を秘めてると思うの。
だからわたしたち作り手も何かの二番せんじみたいなものじゃなくてどんどん新しいジャンルを切り開いていかなくちゃいけないの。
(記者)加賀美さんから見て今のドラマでいちばん足りないものって何だと思いますか?やっぱりわたしたち作り手側のいいものを作ろうと思う気持ち?それからあなたたち記者の皆さんのバックアップね。
(笑い声)
(かえで)みんなね視聴率に左右されすぎ。
ちょっとでも低いと失敗作ってあなたたち書くじゃない?もっと温かい目で見てほしいわ。
それだけは強くお願いします。
かえでさん絶好調だな。
ええ。
(カメラマン)すいませんこちら向いてもらえますか。
(カメラマン)こちらもお願いします。
はい。
何だかいつもと様子が違うなあ。
こんなにはしゃいでる彼女は初めてだよ。
ええ。
(記者)今回のドラマは音楽に例えると何ですか?えっ?
(記者)前回のときは制作発表で「音楽に例えると椎名林檎さんの過激さと平井堅さんの優しさをブレンドしたみたいな感じ」って確かおっしゃったと思うんですが。
ごめんなさいちょっと浮かばない。
(記者)主演の星野さんとはもうお話しになりましたか?
(かえで)ええ。
いつも加賀美さんは主演女優にアドバイスをされるときこんなふうにやってもらいたいとハリウッドスターの名前を挙げますよね。
今回は誰のイメージとおっしゃったんですか?やだ何か頭ボーッとしちゃった。
実をいうとねゆうべ寝てないの。
ごめんなさい。
えーではこの辺で終わらせていただきたいと思います。
(東)どうもありがとうございました。
(海老沢)新番組「ポタージュ」毎週水曜9時オンエアです。
皆さんよろしくお願いします。
(東)よろしくお願いします。
(かえで)それでは「ポタージュ」の成功を祈って乾杯!
(一同)乾杯!
(拍手)
(かえで)いい制作発表だったね。
(海老沢)いやー盛り上がりましたね。
(東)あれだけ記者から質問が出るのも珍しいですよ。
(海老沢)それだけ期待されてるってことでしょ。
それよりほらあのつまんない質問ばっかりしてたのはどこの記者だ?あれ。
(海老沢)かえでさんのメークのこと言ってたヤツでしょ。
いつもより濃いとか言って。
(東)そんなふうには感じないけどなぁ。
光線の具合だと思いますよ。
全くほかに聞くことはないのかって話ですよ。
後でどこの記者か調べておいてください。
(東)すぐに。
(海老沢)とにかくあしたの新聞が楽しみですね。
後は大きな事件が起きないのを祈るだけだ。
(東)君!お料理のほうどんどん持ってきて。
(店員)はい。
ねえ?みんなに今のうちに話しておきたいことがあるの。
(海老沢)何でしょう?
(かえで)今日最後のほうごめんなさい。
ちょっと頭が混乱しちゃって。
そうでしたっけ?うん?いやいい会見だったと思いますよ。
(かえで)一瞬頭が真っ白になっちゃったの。
でも言い訳させて。
ホント言うと記者会見とかやってる場合じゃなかったの。
実は大変なことが起きちゃって。
何があったんですか?まだ正式には発表になってないんですけど今朝姉が他界しました。
えっ!本当ですか?心筋梗塞でした。
驚いたなぁ。
(かえで)落ち着いたらみんなにも話そうと思ってたんだけど。
(海老沢)そんな大変なときに申し訳ございませんでした。
(かえで)そんなこと言わないで。
仕事は仕事だから。
まいったなあ。
告別式の手配は?告別式はやりません。
派手なことが嫌いな人だったからできるだけ静かに送ってあげたいの。
わたしたちにできることがあれば何でも言ってください。
ありがとう。
でも大丈夫。
一切はこっちでやりますから。
(かえで)そんなわけでこれからは加賀美京子はわたし一人だけど今まで以上にいいホン書きますから心配しないで。
(海老沢)ありがとうございます。
「ポタージュ」はきっといい作品になると思う。
今日俳優さんたちと話してすごくイメージわいてきたし。
(店員)失礼いたします。
加賀美先生にお客さまが。
わたしに?はい。
古畑さんとおっしゃる方です。
よくここが分かったわね。
スタッフの方に伺いました。
今度は何?先生に見ていただきたいものがあるのです。
また?先生のご意見が伺えればと思いまして。
ねえ?姉は自殺したんじゃないの?わたしはそうではないと踏んでいます。
言うわね。
いいわよ。
早く見せてちょうだい。
ここにはありません。
お姉さんのオフィスまでおつきあいいただけませんか?お願いします。
立派な水槽ですね。
これレンタルらしいんです。
毎月業者の方が魚を替えてくれるらしいんです。
ご存じでしたか?ええ。
手入れも全部やってくれるらしいんです。
便利な世の中になったものです。
えーわたしが気になったのは加賀美京子という人物です。
つまりあなたとお姉さん。
実際にホンを書いていたのがもみじさんで妹のほうはマネジャーにすぎなかったなんて単純な間柄ではなかった。
それは分かっています。
あなたご自身いつかおっしゃってましたね。
おおまかに言えばわたしが話を考えて姉が書いていた。
でも姉だって話を作るときもあればわたしが書くときもありました。
はい。
つまりホントの意味での共同作業だった。
理想的な関係です。
ええ。
でもお二人が書きたいものは微妙に違っていた。
「鬼警部ブルガリ三四郎」と今回の「ポタージュ」では描かれる内容がまるで違います。
恐らくですね「ブルガリ」のほうはあなたが主導権を取り「ポタージュ」はお姉さんが中心だった。
いかがですか?そのとおりです。
しかしお二人の方向性の違いは年々大きくなっていった。
そしてついにお姉さんは独立を考えるようになった。
もういいわ。
あなたはそれでわたしが姉を殺したって言いたいんでしょ。
それぐらい分かるわよ。
すべては推測でしょ。
姉が独立したがってたなんてどうして分かるの?どこにそんな証拠があるっていうの?あなたがお姉さんを殺したなんてわたしは思っていません。
それはありえない。
じゃあ…。
今まで表に出ることのなかったお姉さんが最近意識的に出るようになったのはご存じでしたね。
買い物とかは行ってたみたいね。
昔はそれも嫌がってたから大した進歩だわ。
それだけではありません。
化粧道具をそろえて流行の服も買うようになった。
嘘よ。
杉浦さんが証言されています。
姉がおめかしして出かける姿なんか想像できない。
彼女は変わろうとしていたんですよ。
ひょっとしたらこれからはあなたに頼らずにマネジメントも自分でやろうとしていたのかもしれない。
推測でしょ。
もみじさんはそんな話を一度もしませんでしたか?一度も。
姉が変わろうとしてた具体的な証拠があるの?実は不思議なことにこの部屋にあった衣類や化粧道具すべてなくなってるんです。
ほら。
誰かが持ち去ったんです。
もみじさんの変化を隠そうとしている誰かが。
古畑さん。
話がどんどん飛躍してる。
しかしその人物にも一つだけ持ち去ることができなかったものがあった。
鏡です。
鏡?もみじさんは1か月前大きな鏡を購入しました。
自分を映す等身大の姿見。
以前の彼女なら考えられない買い物です。
衣装を持ち去った人物もそれだけは持っていくことができなかった。
最初に見たときから気になっていました。
水槽の大きさのわりに魚が少なすぎる。
こちらへ。
恐らくもみじさんはこの前で化粧をし買ってきたドレスを身につけて眺めていたんでしょう。
鏡を買えば絶対妹に何か言われる。
そう思って彼女はこんな方法を。
これをじっと見ているとつい考えてしまうんです。
この水槽の前に一人ガラスに映った自分の姿を眺めていたもみじさんのことを。
彼女はどんな思いでいたんでしょうか?華やかな世界でスポットライトを浴びてきた妹さんのすぐそばで常に日陰の存在だった彼女。
自分も一度は妹のように脚光を浴びたい。
脚本家の才能はむしろ自分のほうが上なのに注目を集めるのはいつも妹。
見た目もほとんど変わらない妹。
自分もあの子のようになりたい。
しかしそれができない悔しさ。
超えることのできない永遠のライバル。
場所を変えましょう。
はっ?もう1か所つきあってもらいたいところがあるのです。
ホントは今夜お休みだったんですが特別に開けてもらいました。
捜査の一環という名目で。
結構強引なのね。
刑事の特権を利用させてもらいました。
実はあれからダンスの教則本を手に入れましてね今日も暇さえあればステップの練習を。
言い訳に聞こえるかもしれませんがわたし昔は踊れたんです。
ただゆうべは久々だったものでどうにも恥ずかしいところをお見せしてしまって。
『ラストダンスはわたしに』〜本を読んだら思い出しました。
そんなわけでゆうべの汚名を返上させてください。
〜シャルウイダンス?〜〜もういいわ。
あなたはもみじさんですね?
(もみじ)ええ。
見た目はどんなにごまかせても踊りのステップだけはやったことのない人には無理です。
どこで分かったの?決め手になったのは時間です。
時間?マンションを出てからいったん部屋に戻りそれからわたしに会いに来るまでの時間。
部下が調べてくれたんです。
非常階段を使っては絶対に無理でした。
10分ですべてのことをやるには正面玄関を通るしかない。
しかしあそこには静脈のセンサーが。
かえでさんには無理です。
それができたのはもみじさんだけ。
それに考えてみればかえでさんにはお姉さんを殺害する動機がなかった。
しかしもみじさんにはあった。
妹さんにいてほしくない理由が。
自分と全く同じ姿の姉妹がいること想像してみてください。
当然周りは比較する。
子供のころからずっと。
あの子は明るい性格だったし頭もよくて大人たちに気に入られるすべを知ってた。
わたしは不器用で引っ込み思案で社交的な妹を見てると余計暗くなっていった。
あの子は太陽でわたしは月。
あの子の光でかろうじて輝くことができた。
今までずっと。
でもわたしだって自分の力で輝きたいと思うのはいけない事?かえでさんは反対されたんですか?全然。
むしろ応援してくれたわ。
あの子には自信があったのよ。
いくらわたしが頑張ったって自分を超えることはできないって。
だから余計妹が憎かった。
どんなにわたしが変わっても結局はあの子と比べられる。
あの子がこの世にいる限りわたしはいつまでも陰でしかない。
もっと早くに気づくべきでした。
例えばあなたはお姉さんの事務所の旧式のインターホンを普通に使いこなしていました。
妹さんはたまにしかあそこに来ないのに。
それに車の問題。
かえでさん来るとき車を運転してきたのになぜ出ていくときはタクシーを呼んだのか?あなたは免許をお持ちではなかった。
まだあります。
わたしは妹さんに言われてあの黄色いコートを着たのに二度目に会ったときはまるでその事には触れてはくれなかった。
あれ妹が着るように言ったんですか?そうでなければあの色は着ません。
フフフ。
それにグラスの口紅。
口紅?あなたが使ったグラスには口紅の跡がはっきりとついていました。
お化粧に慣れていない人はよくそうなります。
どうすればよかったの?妹さんはいつも飲んだ後さりげなくふいていました。
はぁ。
そういうところでお里が知れるのね。
あなたはかえでさんをオフィスに呼んで互いの衣服を交換しその後で殺害した。
彼女には何と言って話を持ちかけたんですか?それは聞かないほうがいいかもしれない。
ぜひ伺いたいです。
本職の刑事さんにどれだけ注意力があるか実験してみたいって言ったの。
妹がまず刑事さんに会ってそれからわたしが妹の格好をして会ってみようって。
妹はすぐにばれると言った。
わたしはばれない自信があった。
でも今にして思えば古畑さんがすぐに気づかなくてよかったわ。
お陰で今日1日は夢のような時間を過ごすことができました。
ありがとうございました。
フフフ…。
でもね妹になってみて分かったことがあるの。
やっぱりわたしには無理ね。
人には向き不向きというものがあります。
おかしなものね。
何だか肩の荷が下りたみたい。
こういう結果にならなくてもきっとわたし自首してたと思うし。
随分昔になりますがあなたにとてもよく似た女性と会ったことがあります。
わたしに?やはりものを書く仕事をしていました。
作家さん?漫画家です。
才能に満ちあふれていて若くして地位も名誉も手に入れた。
しかし彼女自身はとても控えめでそして孤独でした。
その人も誰か殺したの?自分を捨てた恋人を別荘の地下に閉じ込めて殺害しました。
古畑さんが逮捕したんですか?はい。
彼女は今どうしてるんですか?いろいろありましたがアメリカに渡って幸せな結婚生活を送っています。
意外ね。
わたしが言いたかったのは人は生まれ変われるということです。
行きましょう。
その前に。
1曲踊っていただけませんか?無理よ。
わたし踊れないもの。
実を言いますとわたしもなんです。
フフフ。
さっきはあなたに自白してもらいたくて嘘をつきました。
あなたが踊れたらどうしようかと思ってました。
フフフ。
悪い人。
でもいいんじゃないですか。
踊れない者同士というのも。
『ラストダンスはわたしに』シャルウイダンス?〜〜
(すすり泣く声)〜〜〜〜2015/02/12(木) 01:58〜03:57
関西テレビ1
古畑任三郎ファイナル〜ラスト・ダンス〜[再][字]

一緒に踊って頂けますか?私が出会った中でも特に美しく哀しい女性…そして最後の犯人

詳細情報
番組内容
テレビ局。颯爽と廊下を歩く加賀美京子こと大野かえで(松嶋菜々子)。すれ違うスタッフは皆一様に売れっ子の作家であるかえでに挨拶する。かえでが手がけた連続ドラマの完成披露試写が行われ、作品の出来に満足の様子である。
 打ち上げ会場。大勢の関係者の中、壇上でスピーチするかえで。派手目なメイク、女優を思わせるような衣装。社交的な彼女はいつも華やかなスポットライトを浴びている。
 高級マンションの一室。
番組内容2
パソコンの前でキーボードを叩くもみじ(松嶋=2役)。化粧もせず、地味な装いの彼女はかえでの双子の姉であり、もう一人の加賀美京子。外出も滅多にせず不器用で、妹のかえでとは大違い。
 カフェテラス。ダンスの教本を手に座っている男。ご存知・古畑任三郎(田村正和)。車が止まり、駆け寄るかえで。古畑は、かえでが手がけた連続ドラマの監修として以前からかえでと面識があり、次回作の打ち合わせに来ていたのだった。
番組内容3
古畑はかえでの魅力にすっかり虜になっているようだ。実は、打ち上げの日、2人はダンスホールへと抜け駆けしていたのだ。チークダンスを踊る2人、華麗に踊るかえで、慣れないステップの古畑、つい足を踏んでしまう…。バランスを崩すかえで。そして抱き合ったままの2人—。
 急に姉・もみじに呼び出され、早々に店を去るかえで。戻りを待つ古畑だったが、このときすでに彼女の計画は実行されていたのだった…。
出演者
田村正和 
西村雅彦 
石井正則 ほか
【ゲスト】
松嶋菜々子
原作・脚本
【脚本】
三谷幸喜
【企画】
石原隆
監督・演出
【プロデューサー】
関口静夫 
柳川由起子
【演出】
河野圭太
音楽
本間勇輔

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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