100分de名著 フランケンシュタイン 第2回「疎外が“邪悪”を生み出す」 2015.02.11


科学者フランケンシュタインから捨てられた怪物はもともとは善良な存在でした。
ある家族との出会いや読書を通じて人間性も芽生えます。
しかし姿が醜いというだけで迫害を受け怪物は人類に復讐を誓うようになるのです。
もう念押しの念押しの念押しみたいに絶望していく中…。
この怪物がまさに…「100分de名著」「フランケンシュタイン」。
第2回は怪物の視点を通じてけがれなき魂を悪に染めるものを探ります。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…さあ誰もが知っているようで誰もが誤解しているこの「フランケンシュタイン」でございますが。
2m以上あるでかい怪物がフランケンシュタインではなくて彼をつくったのがフランケンシュタイン博士。
指南役引き続き京都大学教授の廣野由美子さんです。
さてこちらをご覧頂きましょう。
これはイギリスの権威あるナショナル・シアターで上演された舞台の写真なんですね。
これ今シャーロック・ホームズをやってるカンバーバッジさんというとても人気の方。
こちらもジョニー・リー・ミラーさんという方なんですが2人が交互に博士と怪物を演じ分けるという。
非常に先生これ話題になったそうですね。
「フランケンシュタイン」という作品に関しては無数の翻案作品が作られてきてまさに怪物のごとく増殖してきたという点で決して古びる事のない作品で文学研究においても最近特に再評価されている作品ですね。
前回は科学者ヴィクター・フランケンシュタインが怪物に命を与えながらその怪物を捨ててしまったと。
はいはい逃げちゃった。
捨てられた怪物が一体どうなったかという事ですがこれは怪物自身がまたこれ「おれ」という一人称でこれから語っていくんですね。
ええ。
こういう部分は映画なんかでは描かれない部分ですよね。
とても巧みな方法で書かれていると思います。
そもそも僕の誤解はほとんどしゃべれないと思ってたわけですからどんな感じなのか今から楽しみですけど。
さあそれでは怪物が語る物語をお聴き頂きたいと思います。
朗読は俳優の柳楽優弥さんです。
ヴィクターに見捨てられた怪物は森の中をさまよった末みすぼらしい小屋に住む事にしました。
隣にはド・ラセー一家が暮らしていました。
盲目の老人と息子のフェリックスそして娘アガサの3人家族です。
貧しい中互いを思いやりながら暮らす隣人の姿に怪物はみいられます。
やがてフェリックスの恋人でアラビア人のサフィーも一家と共に暮らすようになります。
サフィーはフェリックスから言葉を習っていました。
怪物はその様子を盗み見て人間の言葉やさまざまな知識を身につけてゆきました。
やっぱり誤解してますね。
怪物のイメージ全然違いますね。
すごい知的ですもんね。
この辺りはまるで赤ん坊がこの世に生まれて一つ一つの事を経験していく過程と似ていますよね。
でも赤ん坊の場合はそれは生まれた直後の事ですから記憶にありませんし第一それを伝える言葉もないわけですよね。
怪物は頭がいいわけで自分が学んだ言葉を使って自分がどういう経験をしたかという事を全部語ってくれると。
そういう点でとても面白い所ですね。
でね怪物の言葉出てくる言葉なんですけれどもふだん私たちが見慣れたものを言いかえてるんですね。
怪物は「暗闇」って言葉を知りませんから自分の持ってるボキャブラリーで表現するわけですよね。
言いかえてみるとちょっと新鮮に。
面白いのは言葉を覚える順番みたいなものが僕らとちょっと違うわけじゃないですか。
「暗闇」って言葉より先に表現の方を思いついちゃうという。
これはもう文学的にも一つの方法と言えまして文学的な効果で「異化」というんですね。
ふだん見慣れたものからその日常性を剥ぎ取って新たな光をあてて初めて見るかのように新鮮に物事を捉えるというこれを異化というんですがそれが見事に達成されている所だと思いますね。
ただセンスは要りますよね。
センスいいですよね怪物。
とてもいいですね。
とりわけ火について説明した所がとても面白い所なんです。
子供のようでもありでもすごく知的レベルが高くて面白い表現ですね。
この辺はほんとに子供らしい表現なんですけどもその次ですね。
こういう所に怪物の知的な所が見られると思いますね。
「うれしい」と思ったら「痛い」という。
そうですね。
面白いのは「作用」なんていう大人びた言葉を使ってみたりなるほどそういう疑問点を持つとは知的だなと思うんだけどやってる事は2メートルいくつのおっきな男が火の中に手を入れて「あつっ!」とやってるその滑稽な動きはちゃんと伝わったりとか。
これはやっぱり相当な文才だなとちょっと思いますね。
この怪物の子供のような純真さというのは隣人のド・ラセー一家に対する表現からも分かるんですね。
その部分をちょっと読んでみたいと思います。
これは「感動した」という事ですよね。
でも「感動」という言葉知らないし人間は感動するものだという事も知らない。
それを「思わず身を引いた」と。
何とも奥ゆかしい所で。
怪物がとてもうまく情操が発達していってるなという所が見られると思います。
しかもそれを「おれがこう思った」という言い方はすごい効果的ですね。
自分の中に湧き上がってる事を僕らに伝えてくれてるからすごく納得がいく感じがします。
それはやっぱり…もし私たちがこの一家を見たとしてもただ貧しい人がここに住んでるなと思うだけかもしれませんよね。
でも怪物は家族同士皆愛情を持ってるとか穏やかな生活をしているとそれがすごく高貴で美しいというふうに思うんですね。
これは疎外された人の憧れの目を通して初めて見える美しさ。
こういう所にもこの作品の美しさというのはあると思うんです。
さてこのド・ラセー一家への思いを募らせる怪物は彼らと近づきたいと夢みるようになります。
そしてもっともっと人間を理解しようと努力するんです。
こちらをご覧下さい。
怪物が人間らしくなるために励んだのは読書です。
森で拾ったプルタルコスの「英雄伝」やミルトンの「失楽園」などを熱心に読みました。
中でも怪物が夢中になったのがゲーテの名著。
「若きウェルテルの悩み」。
これは18世紀のドイツの小説でございますけれども…自分も憂鬱に陥ってますから共感したと。
そしてまたここで…これあまり知られてないんじゃないかと思いますが是非記憶にとどめておきたい所ですね。
そんな古典文学を読んでそのちゃんとエッセンスを感じて感動して泣く。
いや全然想像つかないですね。
ところで怪物はどうしてフランケンシュタインがつくったという事を見捨てられたという事を知ったんでしょうか。
知ってるんですか?怪物は。
実は生まれて間もない時はまだ何も分からないんですが実験室から出る時にそこにあった服を羽織って出るんですね。
それがフランケンシュタインの服でそのポケットの中にフランケンシュタインの日記が入ってたんです。
それで怪物は文字が読めるようになってからそれを読んでみると自分がどういうふうにしてつくられたかという過程が全部細かく書いてあったと。
でも面白いですね。
そうやって最初は何も分からないんだけど読めるようになって初めてずっと自分がポケットの中に持ってた運命に関して知るわけですね。
そうですね。
その時には既に「失楽園」を読んでたんですよね。
どうも自分のつくられ方はそれとは全然違うらしいと。
あまりにもひどいじゃないかと。
親であるフランケンシュタインから随分ひどい扱いを受けたんだという事をその日記を読んで知ったわけですね。
そこからじゃあヴィクター・フランケンシュタインに対する憎しみの感情みたいなものも出てくるんでしょうか。
まあぼちぼちですがまだその段階では憎しみだけではなくてまだ希望もあったんですね。
一つには…さあ怪物は一体どんな行動に出たのか。
ご覧下さい。
怪物はド・ラセー一家と親しくなりたいという思いを募らせていました。
しかしかつて村で人間と遭遇した時に醜い姿ゆえに迫害された経験があるため受け入れてもらえないかもしれないと悩んでいました。
そこで怪物は盲目の老人が一人きりの時を狙って家を訪ねます。
「通りすがりの旅人」と名乗る怪物を老人は招き入れてくれます。
怪物は孤独に悩んでいる事そして心から愛する友達に嫌われそうだという悩みを告白しました。
その「友達」とは老人の家族の事でした。
老人は言います。
何でしょう目の見えない老人の「あなたは誰か?」という問いに答えられないうちにみんな入ってきてしまう。
名前がないわけですから答えようがないわけですね。
名前もないし身分もないし身寄りもないと。
そう考えると名前がないというのは罪深い事ですねとても。
名前が与えられないという事は存在が認知されていないという事ですよね。
文学作品としての「フランケンシュタイン」で忘れてならないのは…存在に関わる苦しみですよね。
そして老人はこんなふうに言っていました。
これはうれしかったと思うんだよな。
容姿とかにコンプレックスを僕はずっと抱いてたから第一印象に対して「僕は人に嫌われるんじゃないか」というような恐怖を持ってる人間がこういう事を言われたら何か本当に自分の本質は認められる自分の本質は間違ってないんだというすごい自信になるしそういうのを分かってくれる人ってまあ大切になると思うんですよね。
そうですね。
ですからそういう意味でも感動的な場面です。
最後なんだ。
老人が盲目であった事は怪物の醜さが人の目を偏見で曇らせる決定的な要因になってるという事を皮肉な形で露呈していますよね。
こういう裏返しの形で描いてる部分だと言えると思いますね。
これが最後ですか。
最初で最後なんだ。
希望を失った怪物に残されたのはヴィクターへの強い怒りだけでした。
その後怪物がとった行動なんですがちょっとこちらをご覧下さい。
「子供だから大丈夫かもしれない」。
このウィリアムは「僕を誰だと思ってるんだ」と。
「僕のお父様は偉い人でフランケンシュタインっていうんだ」と。
同じ「フランケンシュタイン」だという復讐心が起こってとうとうこの怪物は殺人を犯してしまうんですね。
そうですね。
ただこの殺人を犯す一歩手前でもう一つこういう事があったんですね。
怪物がフランケンシュタインの故郷へと向かっている時に途中で川で溺れかかってる少女を見つけてその少女を助けるんですね。
ところがそのそばにいた父親らしき男から鉄砲で撃たれてしまう。
その傷にもだえ苦しみながらこれは人類に復讐をするんだというふうに誓ってそして殺人へと一歩踏み出してしまうという。
優しい心でお嬢さんを助けようと思ったら銃で撃たれるわけだからもう体の痛みとしても絶望的な痛みですよねきっと。
それでもこいつ偶然会ったウィリアムは子供だからもしかしたらと思うんですよね。
で罵られる。
もう念押しの念押しの念押しみたいに絶望していく中ついに爆発というか初めての殺人。
そうですね。
これで本物の…中身まで外側だけじゃなくて中身まで本物の怪物になってしまうという。
これは改めて考え直すべき非常に重たい問題を含んでいるんじゃないかなと思います。
うわ〜…何かハッピーエンドの方も書いてほしいわ。
ねえ。
ねえ。
「これ以上罪を犯さないで」とかちょっと叫びたくなりますけど。
次回はそんな怪物を生んだ今度はヴィクター博士その人に迫っていきたいと思います。
先生次回もどうぞよろしくお願いいたします。
ありがとうございました。
2015/02/11(水) 23:00〜23:25
NHKEテレ1大阪
100分de名著 フランケンシュタイン 第2回「疎外が“邪悪”を生み出す」[解][字]

ある家族と出会い怪物は「人間」として目覚め始める。しかし姿が醜いというだけで苛烈な迫害を受け始め、怪物は人類に復しゅうを誓った。第二回は「怪物の告白」を読み解く

詳細情報
番組内容
ある家族との出会いや読書体験を通して怪物は「人間」として目覚め始める。それもつかの間、姿が醜いというだけで苛烈な迫害を受け始め、いつしか怪物は人類に復しゅうを誓うようになった。怪物の視点に立つとこの作品は「人はなぜ生きるのか」を問い続けるアイデンティティー探求の物語として読める。第二回は「怪物の告白」を読み解くことで「人間存在とは何か」「社会になぜ悪が生まれるのか」といった普遍的な問題を考えていく
出演者
【ゲスト】京都大学教授…廣野由美子,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】柳楽優弥,水島裕,【語り】好本惠

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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