テレビ東京開局50周年特別企画 ドラマスペシャル「永遠の0」第1夜 2015.02.11


今宮部久蔵さんのこと調べてて。
現代に生きる若い姉弟が特攻で戦死した祖父の足跡をたどり始める
私は死にたくありません。
今何と言った!宮部一飛曹!!俺は自分が人殺しだと思ってる。
貴様に家族はいないのか?死んで悲しむ人間はいないのか?それなら死ぬな!特別攻撃に志願する者は一歩前!お前命が惜しいのか?答えろ!命は…。
惜しいです。
必ず君の元に戻ってくる。
どんな人だったのかね?死を覚悟したうえではなかった。
9人の証言と深まっていく謎。
封印された60年の真実が今明かされる
では行きましょうか。

日本人は次々に突っ込んでくる。
死に向かってくるなんて狂気の沙汰だ。
俺たちは撃ちまくった。
クレー射撃の標的を撃つように神風を撃ち墜とした。
そうしないと俺たちが死ぬからだ。
やがて我々の神風に対する防御は完璧になっていった。
そう思っていた。
あの悪魔のようなゼロを見るまでは…
はい。
今何してるの?何って…別に。
散歩。
仕事もしないでいつまでブラブラしてる気?昼から就職活動の予定。
あんたもうすぐ30でしょ?健太郎今何もしてないんだったらいいアルバイト紹介してあげる。
アルバイトって何?うん祖父のこと調べたいの。
調べたいって仕事?うんほら来年終戦60周年じゃない。
そうなの?なにおじいちゃんから戦争の話でも聞く気?ああ祖父っていってもそっちのおじいちゃんじゃない。
おばあちゃんの最初の夫のほう。
ほら6年前おばあちゃん亡くなったとき…。
おばあちゃん。
ありがとう。
ありがとうございました!おじいちゃん?違う。
えっ?私はお前たちの本当の祖父ではない。
お父さん今そんな…。
は?何だよ本当の祖父じゃないって。
訳わかんないこと言うなよ!だったら本当のおじいちゃんってどこにいんだよ?戦死したびっくりしたよな。
実のおじいちゃんだと思ってた人が全然血のつながらない人だったなんてさ。
かわいがられてたもんね健太郎は。
弁護士目指したのだっておじいちゃんの影響でしょ?そんなのとっくに諦めました。
失礼いたします。
っていうか司法試験から逃げたんでしょ?大変だから。
あのね3年連続で落ちたら考えるでしょ普通。
考えた結果がフリーターですか。
まだ考えてる途中なの。
あんたね最後に試験受けたの3年前でしょ。
3年間も何考えてんのよ。
あのさその戦死した人のことなんか記事になるの?ん…わかんないけど話したら興味持たれたから。
あっその仕事ってまさか…。
そう高山さんの企画終戦60周年プロジェクト。
なるほど恋人から頼まれた仕事ですか。
それもあるけどこの前お母さんが言ったのよ。
どんな人だったのかね?えっ?死んだお父さんってどんな人だったのかなぁって。
お父さん?違う違う母さんのほんとのお父さん戦死した。
お母さん実の父親のこと何にも知らないの?だってまだ3つよお父さんが戦死したの。
そっか。
おばあちゃんからは?何も聞いてないの?一度だけ10代の頃に聞いたけどね。
そしたら?「何て答えてほしいの?」って言われた。
何それどういう意味?わからない。
わからないってそれっきり聞いてないの?だって聞きにくいわよそんな言われ方したら。
今のおじいちゃんに気を遣って話さなかっただけじゃないの?かもしれないし単に語るべきことがなかったのかもしれない。
私が3つの時に死んだってことはお母さんだってお父さんとの結婚生活短かったと思うしだから母さんも実の父親は戦死したってことくらいしか知らないって。
じゃあさおじいちゃんはおばあちゃんから何も聞いてないのかな?そんなことおじいちゃんに聞けるわけないでしょ。
おばあちゃんから前の夫について何か聞いてないかなんて。
そっか。
でね戦死した祖父について厚労省に問い合わせてみたの。
「宮部久蔵大正7年生まれ。
昭和9年海軍入隊。
昭和20年神風特別攻撃隊として南西諸島沖で戦死」。
神風特別攻撃隊?神風特攻隊ってあれだよね飛行機であの敵の船とかに突っ込むやつ。
まあかなり乱暴に言うとそういうこと。
なんだよ本当のおじいちゃんってずいぶん勇ましい軍人だったんだな。
ほんとあんたにその血が流れてるなんて信じられないね。
はっきり言い過ぎだよ。
まあ否定はしないけど。
でどう?興味湧いた?湧かないよこんなたった1行の人生。
でも宮部久蔵っていう本名とこれだけの経歴がわかればどこの部隊にいたかくらいは調べられるでしょ。
まさか同じ部隊にいた人を捜せってこと?健太郎君頭いい。
60年前に戦ってた人たちだよ。
もう死んでるよ。
生きてるかもしれないじゃない。
確かに調べるの遅すぎだけどでもきっとこれがラストチャンス。
だったら姉ちゃんが調べればいいじゃん。
私はあんたと違って忙しいの。
何だよ。
フリーライターがそんなに忙しいのかよ?フリーだからいろいろ抱えなきゃなんないんでしょ。
それにこれは健太郎にも関係することでしょ。
だから俺は興味ないって。
もちろんタダでとは言わないから。
はい。
少しは興味湧いた?少しは。
〜ちょっと姉ちゃん道合ってんの?合ってるはず。
しっかしその手紙よく解読できたね。
昔はこういう字を書いてたんだね。
宮部さんって特攻隊だったんだから戦闘機のパイロットだったんだよね。
うんこれから会う人もラバウルで宮部さんと同じパイロットだったって書いてある。
元海軍少尉の長谷川さん。
ここ。
これが元海軍少尉の家?壊れてんじゃない?あの…ごめんください。
すみません。
戦友会を通して連絡させていただいた佐伯健太郎と…。
あの…長谷川さんは祖父をご存じだとか。
知ってる。
やつは海軍航空隊一の臆病者だ!えっ?宮部久蔵は何よりも命を惜しむ男だった。
それはどういう意味でしょうか?命が惜しくて惜しくてたまらない男。
そういう意味だ。
命が大切…。
それはしぜんな感情だと思いますけど。
それは女の感情だ。
女って…。
男でも女でも自分の命を大切にするのは当たり前のことじゃないでしょうか?お嬢さん…。
それは平和な時代の考え方だ。
いつの時代でも正しい考えだと思います。
あの時代我々は日本という国が滅ぶかどうかの戦いをしていたんだ。
そんな戦場だったんだわしが宮部と会ったのは。
あの頃日本から南に5,000キロも離れたラバウルから更に1,000キロも離れたガダルカナルで激しい攻防戦が繰り広げられていた。
ラバウルからガダルカナルへの出撃は毎日あった。
出撃のたびに多くの航空機が未帰還となった。
あの夜はわしと一緒にラバウル基地に配属された第三航空隊のベテラン2人が未帰還になって…。
どうだ?そうか。
俺たちは戦闘機乗りだ。
操縦訓練生のときから死と隣り合わせ。
わかっていたはずだ。
わかっています。
次は俺たちの番です!そうだ!どのみち俺たちも命はない!死ぬときも勇敢で男らしくだ!みじめに生きるより華々しく散ろう!
(一同)おお!いえ私は生きて帰ります。
私は生きて帰りたいです。
それが宮部久蔵だった。
今何と言いましたか?今何と言った!宮部一飛曹!!何と言った!おいふざけるな!!何と言った!ふざけるな!おい!ふざけるな〜!!やつのほうがわしより階級が上だった。
当然上官を殴れば禁固刑だ。
だが…。
殴るべきだった。
私は生きて帰りたいです。
冗談じゃない!生きて帰りたい…すばらしい考えだと思いますが。
すばらしいだと?みんながそういう考え方なら戦争は起きないと思います。
姉ちゃん。
みんながお命大事なら戦争はなくなる?本気でそう思ってるなら…。
思っています。
それなら今も紛争を続けている地域行ってそう説いて回ればいい。
だがな戦場は戦うとこだ。
目の前の敵を撃つのが兵士の務めだ!にもかかわらずやつはいつもいつも逃げ回ってた。
逃げ回ってた?その証拠にやつの飛行機はいつも無傷で帰ってきた。
その謎が解けたのはあの時だ。
ガダルカナルへ空襲に行く途中グラマンが待ち構えていた。
あっという間に乱戦になり2機のグラマンに追尾された。
敵を撃破したあと気がつくとわしは戦場から大きく離れていた。
それで戻るために機首を上げた。
その時だ。
戦場から離れたところに1機の零戦がゆうゆうと飛んでいるのが見えた。
宮部の零戦だ。
やつは戦闘に加わらず高みの見物をしてたんだ。
何が生きて帰りたいだ。
そりゃあ生き残るだろう。
あれだけ逃げ回っていたらな。
誰もが必死で戦って毎日のように戦友が未帰還になって。
そんななかやつは己の命がいちばん大事だったんだぞ!それがすばらしいか?お嬢さん!いや…。
やつはただ臆病だっただけじゃない。
ラバウルではまともな落下傘を持ってる戦闘機乗りなんかいなかった。
落下傘で脱出しても溺れ死ぬかサメのエサになるのが関の山。
なのにやつはいつも落下傘を点検していた。
宮部一飛曹その落下傘でどこに降りられるのですか?落下傘は大切なものです。
きちんと点検すべきです。
そこまで丁寧に点検していれば万に一つも開かないということはないでしょうね。
そんな機会がないよう願いたいものです。
やつに皮肉は通じなかった。
だがそれほど自分の命にこだわってたやつが…。
落下傘が大切。
そう言ってたやつが…。
あの時落下傘で脱出した敵の搭乗員をあろうことか…。
それを見てわしは虫唾が走った。
危険な戦場からは逃げ回るくせに無抵抗な人間を平気で撃ち殺す。
やつは臆病者どころか卑怯者だ。
わしはそんな宮部という男が心底嫌いだ。
だから覚えてるんですか?なに?嫌いだから祖父のことをそれほどまでに…。
中攻という飛行機を知ってるか?え…いえ。
海軍の一式陸攻という中型の攻撃機だ。
攻撃機は速度が遅い。
だから必ず零戦が護衛についた。
それを直掩という。
その日もわしは中攻の直掩をしていた。
敵は速い零戦との格闘を避けて中攻ばかりを狙ってくる。
だからわしは懸命に中攻を守った。
グラマンが遅いかかってきたときわしはとっさに中攻とグラマンの間に飛び込んだ!
(機銃音)肩から下が血で真っ赤だった。
傷みで何度も気を失いかけた。
それでも懸命に飛んだ。
その日帰還できた零戦は翼も胴体も穴だらけになったわしの零戦とあと数機だけだった。
しっかりしろ!長谷川大丈夫か?不思議なことにその零戦の中にただのひとつも傷がない機があった。
そうだ宮部の零戦だ。
長谷川さんしっかりしてください!なぜだ!やつも俺と同じ直掩だったはずだ!俺が必死で戦っている間やつはどこにいたんだ!俺が左腕を撃たれている間!あの卑怯者はどこを飛んでいたんだ!それがお前たちのじいさんだ。
わしがやつを忘れられなかった理由がこれでわかったか?宮部の戦後はどうだった?あんたたちがここへ来るというのを拒まなかった理由はそれを聞きたかったからだ。
祖父は…。
宮部久蔵は…。
神風特攻隊で戦死しています。
カミカゼ!?終戦近くに特攻か…。
あの臆病者のことだ。
嫌々行かされたんだろう。
命を投げ出して戦ったわしが生きながらえてあれほど命を惜しんだ男が特攻で戦死…。
おかしいですか?健太郎。
これが人生の皮肉でないとしたらいったいなんだ?恨んでるのね。
戦後60年も経ってるのに。
幸せじゃなかったのかな?片腕をなくして人生を奪われたと思ったのかな?なんかがっかりこない?自分の祖父が臆病者だったなんて。
この調査をするのつらくなってきた。
おお。
あれ?おじいちゃん起きてていいの?お客さんだ。
えっ?誰だと思う?藤木さん。
健ちゃん久しぶり。
なんか大人になってる。
えっ。
僕が大石先生んとこ辞めたときはまだ大学生だったよね。
もうとっくに卒業して今はね。
そう。
先生もう帰りますから。
まあまあ。
聞かないの?今俺が何してるか。
もうおじいちゃんから聞いてるか司法試験のこと。
まあ僕がそれについてとやかく言える立場じゃないから。
先生の事務所で働かせてもらいながらいろいろ教えてもらったのに投げ出したんだからさ。
投げ出したってしようがないよあんなことあったんだから。
お父さんまた入院したそうだ。
また倒れたの?大丈夫。
また無理に工場に出てさそれでちょっと。
どうなの?鉄工所。
うまくいってない。
やればやるだけ赤字みたいな会社でさたたみたいんだけど従業員もいるからそういうわけにはいかないし。
藤木さん結婚は?まさか無理だよ。
もう40なのにね。
俺も来年30なのにさいまだにブラブラしてるって姉ちゃんに言われてさ。
ありがとうございます。
保証人の件なんだが私の名前を使いなさい。
それから決算書を書いたら一度私のところへ送ってくるといい。
慶子ちゃん健ちゃん。
会えてよかったまたね。
うんまた。
じゃあ先生。
気をつけて。
うん。
おじいちゃんってさ30過ぎてからだよね?司法試験受かったの。
ああずっと国鉄にいたからな。
国鉄職員から弁護士か。
やっぱ立派だよ。
どうした?何があったんだ?今宮部久蔵さんのことを調べてて。
あっでも…。
松乃の前の夫だな。
でどうやって調べてるんだ?いくつか戦友会に手紙を書いて宮部久蔵を知ってる人を捜してもらってる。
まあまだ話を聞けたのは一人だけだけどね。
ラバウルで一緒だったっていう人パイロット零戦の。
宮部久蔵さんも零戦のパイロットだったみたい。
それで?え?その人はなんと言った?臆病者だったって。
いつも戦場から逃げてた人だったって。
あれかな。
俺に努力が足りないのもなんでも投げ出しちゃうのもその人の血が入っているせいかもしれないね。
バカなことを。
清子はなお前の母親は小さい頃から頑張り屋だった。
どんなときにも弱音を吐かなかった。
お前のなかに臆病者の血なんて入っちゃいない。
おじいちゃんはいつも優しいね。
こんなこと言うとあれだけど…。
血もつながってないのにか?〜しかし戦争が終わって60年も経って宮部の孫が訪ねてくるなんて。
これが人生でしょうか。
お手紙によると伊藤さんも零戦の搭乗員だったとか。
私たちはレイセンと呼んでいました。
零戦はあの戦争が生み出した奇跡です。
スピードがあるうえに小回りが利く。
航続距離は3,000キロ。
他の戦闘機は数百キロがせいぜいという時代にです。
零戦の出現によって日本軍はアメリカと戦争になっても勝てる。
そう確信したといいます。
よくも悪くも零戦は日本の運命を変えたんです。
伊藤さんは祖父とはどこで?宮部とは真珠湾からミッドウェーまで半年以上空母赤城の搭乗員として一緒に戦いました。
史上初の航空機だけによる艦隊攻撃は戦艦5隻沈没3隻大破基地航空機200機以上撃破という成果を挙げました。
真珠湾攻撃が終わった直後空母赤城ではたいへんなお祭り騒ぎでした。
しかしただ一人宮部だけは違いました。
どうした?宮部。
伊藤さん。
楽しそうじゃないな。
今日未帰還が29機出たらしいです。
知っている。
だがあれだけの戦果を挙げたんだ。
被害はほとんどなかったと言えるんじゃないか?戦争なんだから必ず誰かが死ぬ。
今日目の前で艦爆が自爆しました。
敵の対空砲火で被弾したんです。
聞いた。
最後は敵の戦艦に体当たりしたそうだな。
急降下の直前…。
艦爆に乗った2人は私に笑顔で敬礼しました。
彼らの笑顔はこれから死にいく者の顔とは思えませんでした。
十分な戦果を挙げることができたからじゃないか?俺たちも死ぬときは十分な戦果を挙げて満足して死にたいな。
私は死にたくありません。
なぜ死にたくないのだ?私には妻がいます。
誰だって家族はいる。
俺には妻はいないが父も母もいる。
だからといって死にたくないとは言わん!私は…。
私は帝国海軍の恥さらしですね。
そうだな。
あの時の宮部の死にたくないという言葉私は今でも肯定できません。
あ…すみません。
お孫さんたちの前でこんな言い方。
いえ…。
でも私は不思議なんです。
私たちは赤紙で召集された兵隊じゃありません。
自ら海軍に入り自ら航空兵を志願したんです。
志願した?まさか祖父も?もちろんです。
それほど自分の命が大事なら…戦うのが嫌なら志願すべきじゃなかったはずです。
確かに…。
祖父はどうして航空兵に志願したんでしょうか?わかりません。
ただ操縦の腕は優秀でした。
他に何か祖父のことで思い出せることは?私は最後に宮部を見たのはミッドウェーです。
ミッドウェー?はい。
日本は長期戦になれば敗北は必至だと考えていました。
そのためにできるかぎり敵の艦隊を叩こうとしたのです。
あの日のことは60年経った今でもよく覚えています。
米軍ミッドウェー基地への一次攻撃を終えて空母赤城に戻ると換装が行われていました。
二次攻撃が急遽決まったからです。
換装とは空母を攻撃する魚雷を陸上基地を攻撃する爆弾に交換することです。
ところがそれからすぐすべての爆弾を魚雷に付け替えろそんな命令が下りました。
何のんびりやってるんですか。
すぐに攻撃しないと!陸上用爆弾では空母は沈まん!沈まなくたっていい先手を取らないと!損傷だけ与え逃げられたら元も子もない!やらないよりはましです!作戦の目的は敵空母だ!目的が空母ならなぜ魚雷を外したんです!?あのまま敵空母を待つべきだったはずです!こうしてる間にも敵が来る!そのとおりでした。
あの時日本の空母を見つけた米軍は一刻も早く攻撃しようと準備の整った攻撃機を護衛戦闘機なしで飛ばしたそうです。
命がけで戦っていたのはアメリカも同じだったのです。
にもかかわらず日本軍は魚雷にこだわり爆撃機を飛ばさなかった。
結果空母4隻が沈められ真珠湾攻撃からわずか半年で日本軍が劣勢になった。
まさに転換点の戦いでした。
それで多くの仲間が死んでいきました。
しかし大きな判断ミスをしたトップたちのほとんどはその後誰も責任を取らなかった。
あの…その後祖父とは…。
宮部とはそれっきりです。
連絡をもらった戦友会から聞いたんですが宮部は戦死したとか。
はい。
祖父は神風特攻隊で戦死しています。
特攻隊?はい。
宮部がなぜ特攻隊に志願するんですか?え?志願?特攻は志願制のはずです。
宮部久蔵って臆病者だったんだよね。
証言者は2人ともそう言ってたね。
戦後60年経っても憎まれて恨まれて。
この調査やめたくなった?やめたかったよ。
でもどうして…。
いや臆病な軍人が特攻を命じられて嫌々行ったってそう思ってたのに。
でも特攻は志願制だった。
そう。
しかも宮部久蔵は自ら海軍に入ってで航空兵に志願して…。
あげく特攻にも志願した。
それって臆病者のすること?「臆病者の祖父はなぜ特攻に志願したのか」。
おもしろい。
「終戦60周年プロジェクト」に使えるかもしれない。
いやねまさかこんなネタが飛び出してくるなんて。
喜んでもらえてよかったけど。
ん?そっか他の仕事も入ってるんだよね。
あぁそれは別に。
ほとんど高山さんにふってもらった仕事だし。
OK。
じゃあそれ他にふるから慶子ちゃんはこの企画に集中して。
で次の取材相手は?あ…戦友会からなかなか返事が来なくて。
わかった。
じゃあ取材相手も俺のほうで捜す。
うん。
ありがとう。
礼なんかいいよ。
一緒にこの宮部久蔵さんの真実を見つけよう。
俺これ絶対にいい記事にするからね。
うん。
元海軍飛行兵曹長?うん。
井崎源次郎さんって人。
ラバウルにいた宮部久蔵を知ってるって。
よく見つけたね。
新聞社の力ってすごいのよ。
だったら最初からその恋人の新聞記者が調べればいいじゃん。
この井崎さんって人今入院中なんだって。
病人か。
まぁきっと高齢だもんな。
月曜日大丈夫よね?俺も行くの?嫌?いや…まぁ姉ちゃんの恋人にも会ってみたいし。
高山さんは来週忙しいから私たちだけで行ってくれって。
またかよ!これその人の企画だよね?忙しい人なのよ。
悪い人じゃないのよ。
惚れてんだその人に。
嫌いじゃないわよ。
すてきな人だとは思ってる。
もちろん独身だよな?うん。
あぁバツイチだけど。
バツイチかよ。
こんな格好で申し訳ない。
井崎源次郎です。
お父さんやっぱり横になっていたほうが…。
いや大丈夫だ。
連絡をいただいてからずっと宮部さんのことを思い出してました。
祖父とはラバウルでご一緒だったとか。
はい。
同じ零戦隊でよく一緒に飛びました。
宮部さんは慎重な飛び方をする人でしたね。
慎重な飛び方?えぇ。
周りを警戒して機体を…角度をよく変えるんですね。
途中で背面飛行までやったりして。
下のほうへの警戒も怠らなかったということです。
それは臆病だから…。
誰かに何か言われましたか?宮部久蔵は臆病者。
会った人みんなにそう言われました。
あっいいんです。
なんでもおっしゃってください。
ありのままの祖父を知りたいんです。
宮部さんがそんな飛び方ができたのは飛行機の操縦の腕が確かだったからです。
それと誰より慎重だったから。
しかし…。
しかし慎重なのはわかるがあれは度が過ぎてるな。
まったくです。
みっともないです。
あの…宮部小隊長のお話でしょうか?見ろ井崎だってそう思ってた。
いえ私も敵がいそうなところでは十分に警戒します。
そりゃあ俺たちだってそうだ。
しかしやっこさんの場合ラバウルを出た瞬間からだろう。
それから基地に戻るまでずっとです。
あれじゃあ神経が持たないだろ。
よほど恐ろしい目に遭ったのでしょうか?あるいは生まれついての臆病者かな。
だから臆病者と呼ばれていたんですか?いえそれだけではありません。
当時日本はアメリカとオーストラリアの連絡線を断つためにガダルカナルに飛行場を造っていたんです。
ガダルカナル…。
何か?あっ前に聞いたので。
ラバウルから毎日出撃した話を。
あじゃあこれはその少し前の話になります。
ガダルカナルに造った飛行場を米軍に奪われたときです。
ガダルカナルが奪われたという情報はその日の朝にはラバウルに伝わりました。
航空地図だ!ここがラバウルでここがガダルカナルだ。
ツラギの対岸だ。
ツラギには守備隊がいるはずだが。
遠いですね。
560浬もありますよ。
整列!敬礼!直れ!諸君もガダルカナルの話は聞いていることと思う。
そこでラビへの空襲を取りやめガダルカナルにて敵輸送船団を攻撃することとなった。
無理だ…。
こんな距離では戦えない。
今無理だと言ったのは誰だ!お前今何て言った!今朝友軍がツラギで玉砕した。
ツラギの飛行艇部隊も全滅したんだ。
弔い合戦に行くのが軍人だろ!申し訳ありません。
宮部だな?お前の噂は聞いてるぞ。
この臆病者が!今後今のような臆病風に吹かれるようなことを言ったら…。
ただでは済まさんぞ!大丈夫ですか?小隊長。
しかしまずいですよあんなこと言うのは。
私は…。
この飛行機を造った人を恨みたい。
今なんと言いましたか?お言葉を返すようですが零戦は優れた戦闘機だと思います。
航続距離一つとっても…。
確かに1,800浬も飛べることは…。
8時間も飛んでいられることはすごいことだと思う。
はい。
でしたら…。
しかしその能力が自分たちを苦しめている。
560浬を飛んで戦い560浬を飛んで帰る。
そんな作戦が立てられるのも能力があるせいだ。
8時間も飛べるということは我々は8時間一時も油断ができないということだろう。
はい。
いつ敵が襲ってくるかわかりませんから。
我々は民間航空の操縦士ではない。
いつ敵が襲ってくるかわからない8時間の飛行は体力の限界を超えている。
自分たちは機械じゃない。
生身の人間だ。
零戦を造った人はこれに人間が乗ることを想定していたのか?そんな宮部小隊長の臆病とも言える指摘は当たりました。
たった2日の戦いで我々の仲間も多くが未帰還となりました。
そんなことが続いていたある日…。
そうあれはたしか朝食の時…。
あ〜!一度でいいからおいしい大福を食べたい!大福?命かけて戦ってんだ!大福くらい食わせてもらってもいいだろ!あぁ!自分も!自分も食いたいです!それを言うなら俺だってそうだ。
俺も!俺も!こんな非常時に無理難題を言うな!だからこそ食いたいんだ!俺は今大福食えたら明日死んでもいいぞ!おい!そういうこと言うやつにかぎって死なん!驚いたことにその日の夕食の時…。
烹炊員たちが懸命にこしらえてくれたんです。
我々は各自座る席が習慣で決まっていました。
でも毎日のように仲間が未帰還になっていたときです。
朝ともに飯を食った仲間が夜にはいない。
そんなことが日常茶飯事だったときです。
そうあの時も…。
あ〜!一度でいいからおいしい大福を食べたい!〜仲間を失った悲しみは失った直後じゃない。
戦闘直後じゃない。
夕飯の時に感じるんです。
それがガダルカナルです。
しかもあの頃世界最大の戦艦大和はラバウルの北わずか千数百キロのトラック島にいたんです。
でも…。
大和は動きませんでした。
司令部の幕僚たちは豪華な食事をとりながら兵士たちにただ命令を下していたんです。
それで私たちは大和ホテルと呼ぶようになりました。
大本営や軍司令部の高級参謀たち。
彼らは…。
兵隊の命のことなどなんにも考えてはいませんでした。
目にも入ってなかった。
兵士の一人ひとりに家族がいて愛する人がいてそんなこと想像する気もなかったんです。
大丈夫ですか?
(ナースコール)すみません。
また痛みが出てきて。
すぐに行きます。
はい。
でも宮部小隊長だけは違いました。
お父さんもう…。
宮部小隊長は臆病者…。
そうあなた方は聞かされたかもしれない。
もう結構です。
体調のいいときにまた…。
いえ…私もそう思っていましたから。
でも…。
お父さんもうやめて!またお話を聞きに来ます。
またはない!80年近く生きてればそんなことはわかる。
または…またはないかもしれませんから。
まだ…。
お話ししなければならないことがあります。
お父さん…。
井崎さん横になってください。
お父さん…。
点滴しますね。
お父さん…。
井崎さん先生から言われてましたよね。
あんまり興奮する話はやめてくださいって。
あぁ…はい。
もうこれで最後にしますから。
お願いします。
すみません。
私は…いや。
私も小隊長は臆病者だと思ってました。
乱戦になってくるといち早くそこから離脱しました。
そんな宮部さんに私は命を助けられました。
昭和17年ポートモレスビーの空襲の時…。
敵を撃墜し空戦域に戻ろうとした時…。
2機もの敵に追尾され弾が両側を飛びました。
左右どちらに逃げてもやられます。
私は死を覚悟しました。
突然敵が1機撃墜されもう1機は逃げました。
助けてくれたのは宮部小隊長でした。
もしかしたら宮部さんがいつも空戦域を離れていたのは誰かが危なくなったらそれを助けようとしていたのかもしれません。
そのおかげで私は生き残れました。
私の他にもう一人敵を深追いした男がいました。
宮部さんはすぐ彼のあとを追いました。
私も一緒に空戦域を離れました。
そのため私たちは他の機とはぐれ3機だけでラバウル基地へ戻りました。
その途中小山が燃料が少なくて帰れそうもないからガダルカナルへ戻って自爆すると合図しました。
飛行機の不調で帰還が困難になったときには敵の艦船か基地に向かって自爆しろ。
我々はそう教えられておりましたから。
帰還しろ。
行かせてください!行かせてくださいお願いします!100浬しか燃料がもたないのに帰還しろという宮部さんの命令は私には無謀に思えました。
命令だ。
宮部さんがゆっくりと高度を上げました。
高く飛ぶほうが燃料の消費が少ないからです。
小山が言っていた100浬以上は飛べました。
あと10分飛び続けられれば…。
しかし小山の零戦はゆっくりと降下をしていきました。
小山!小山!!小山!小山!その時小山がどれほど無念だったかそう思うと…そう思ったら…。
小隊長!どうして小山を自爆させなかったんですか!小隊長!どうせ死ぬならせめて…。
せめて戦闘機乗りらしい最後を遂げさせてやりたかったです!小隊長お願いします。
私が被弾したら潔く自爆させてください!命はひとつしかない!貴様に家族はいないのか。
死んで悲しむ人間はいないのか。
貴様は天涯孤独の身の上か!答えろ井崎!田舎に父と母が。
それだけか?弟がいます!家族は貴様が死んだら悲しんでくれないのか?いいえ!それなら死ぬな!どんなに苦しくても生き延びる努力をしろ。
あとにも先にも宮部さんに怒鳴られたのはその時だけです。
とても臆病者の言葉とは思えなかった。
宮部さんは誰よりも人の命を大切にしていたんじゃないか。
今になってそう思います。
でも…。
何?誰よりも人の命を大切にする人がパラシュートで逃げるアメリカ兵を撃ち殺したりする?ああ…ありましたねそんなことが。
え?ご存じなんですか?はい。
あれはガダルカナルの攻撃を終えてラバウルへ帰る途中にグラマンの攻撃を受けました。
それを宮部小隊長が撃墜したんです。
私は小隊長の腕に感服しました。
しかしその直後…。
無抵抗の人間を撃つんですからね。
嫌なものを見たと思いました。
宮部!お前には武士の情けがないのか!墜とした敵の命まで奪うことはないだろう!そんなやつは男の風上にも置けない!俺たち戦闘機乗りは侍であるべきだ!落ち武者を竹槍で突き刺すような真似は二度とするな。
はい。
皆が分隊長と同じ思いでした。
宮部小隊長お尋ねしたいことがあります。
どうして落下傘の米兵を撃ったのですか?搭乗員を殺すためだ。
井崎。
俺たちがしていることは戦争だ。
はい。
戦争とは人を殺すことだ。
はい。
米国の工業力はすごい。
戦闘機なんかあっという間に造る。
だからこそ我々が殺さなきゃならんのは搭乗員だ。
はあ…しかし…。
俺は!自分が人殺しだと思ってる。
もちろん米軍の戦闘機乗りも人殺しだと思ってる。
あのグラマンの搭乗員の腕は確かなものだった。
あの男を生かして帰せば後に何人もの日本人が殺される。
そしてその一人は俺かもしれない。
これが戦争なのだ。
初めて気づかされたような気持でした。
戦いはきれいごとではありません。
しょせんは殺し合いなんです。
自分だけが生き残って1人でも多くの敵兵を殺す。
それが戦争だ。
アメリカ兵を生かしていたらあとで自分が殺されるかもしれない。
どうしてそこまで祖父は戦場で臆病者卑怯者とまで言われてまでどうして?宮部さんにはある習慣がありました。
夜になると宿舎を出て1時間ほどはもう帰ってこないんです。
えっ?何をしてたんですか?私も気になりましてね捜しに行きました。
何をしているかすぐにわかりました。
戦闘機は旋回や宙返りのときものすごく操縦桿が重くなるんです。
宮部さんはその鍛錬をしていたんです。
(物音)すみません。
覗くつもりじゃなかったんです。
別に秘密にしてるわけじゃない。
あの…。
それ持ってみても?ああ。
失礼します。
あっ…あぁ。
あっ。
ハァハァハァ…。
こんなこといつもやっておられるんですか?ああ自分のためだ。
毎晩やっている。
毎晩?出撃した日もですか?ああ。
でも出撃した日の夜は動くのも嫌になるくらい疲れてるはずです。
それなのにやめようとは思わないのですか?奥さんとお子さんですか?フッ清子といいます。
清い子と書きます。
清子さんはきれいな方ですね。
ハハッ清子は娘の名です。
あっ。
ご結婚はいつ?去年の初め中国から戻ったあと。
一時横浜の航空隊にいたときに。
本日媒酌人を務めます黒田と申します。
よろしくお願いいたします。
ご新郎は三口で飲み干してください。
盃をお預かりいたします。
そのあとすぐ真珠湾攻撃に参加するとわかっていたら結婚はしなかったのですが。
松乃とはひと言も交わさないうちに祝言を挙げました。
ああ松乃は妻の名です。
この写真まだ新しいですね。
届いたばかりです。
ではお子さんとは?はい。
まだ一度も会ったことがありません。
この夏生まれたばかりですから。
娘に会うためには…。
何としても死ねない。
それが宮部さんから聞いた唯一のご家族の話です。
祖父は恋愛結婚じゃなかったんですね。
結婚生活は1週間だったと。
じゃあ奥さんつまり僕たちの祖母と一緒にいた時間なんてほとんどなかったってことですよね。
そうかもしれませんね。
我々の時代には恋愛結婚なんてことはめったにありませんでしたから。
すみません少し疲れました。
半年前医者からあと3か月って言われたのになぜ今日まで生きていたのか今わかりました。
宮部さんの話をあなた方に語るそのために生かされていたんです。
当時まだ3つだったお母さん宮部さんに会えたのかな?さあねどうして?だって娘に会うためには絶対に死ねないってそう言ってたって宮部さん。
臆病者だったからでしょ。
えっ?言い訳だよそんなの。
だから戦場で逃げ回ってほとんどないような奥さんの思い出にしがみついてまで死にたくないって。
でもこれでよかったのかもよ。
おばあちゃん。
臆病者の宮部さんと結婚生活続けるより今のおじいちゃんと一緒になって。
ラバウルにいた整備兵?そう元整備兵曹長の永井清孝さん。
その永井さんが宮部久蔵を知ってんの?知ってるって。
でもラバウルにいた時期だから特攻に行った理由は知らないかも。
その人も高山さんが見つけたの?そうだけど。
じゃあ当然高山さんも来るんだよね?ごめん。
何してんの?早く行こうよ。
あっここで待ち合わせだから。
えっ?永井さんいつもこの時間は散歩してるんだって。
さすが新聞記者よく調べてある。
とげのある言い方。
お元気ですね。
毎日お散歩されてるなんて。
もう田畑は息子に譲ってますから少しは歩かないと。
しかしまあ自分でも信じられませんな。
こんなヨレヨレのじいさんが昔はアメリカと戦争をしてたなんて。
祖父の宮部とはラバウルでご一緒だったとか。
ええ宮部さんのことはよく覚えてます。
どんな人でしたか?どんな人…そうですね。
例えば臆病者。
健太郎。
確かに宮部さんには臆病者の噂がありました。
実を言うと私もその噂を信じていました。
宮部さんの零戦はいつも無傷でしかも弾が残っていたからです。
つまりあまり空戦してないのです。
宮部一飛曹の飛行機はいつもきれいですな。
発動機に異常加熱を感じるのですが。
はっ?音にも違和感があります。
発動機の担当は…永井さんでしたね?はい!計器を見るかぎり燃料不足はありません。
その場合他に原因があるはずです。
整備し直していただけますか?はいわかりました。
ありがとうございます。
皆さんの整備のおかげで存分に戦えます。
存分に戦いもせずによく言うよ。
宮部さんは口調こそ丁寧でしたが神経質なくらい整備に口を出してきました。
だから臆病者って言われてたんですね。
ところがそれで調べてみると必ず何かの不良個所が見つかるんです。
ではその発動機の違和感というのも。
はい。
燃料漏れという最も恐ろしい不具合が見つかりました。
機内の温度計も故障していて発見が遅れたんです。
それを宮部さんは発動機の音だけで当てたんです。
それがまた整備兵たちの気に入らぬところでもあったわけですが。
やっぱり嫌われてたんですね。
でも私は好きでした。
ここは私のふるさとでしてね。
あの辺りに醤油工場がありました。
私は小作農家の三男でして尋常小学校を卒業したあと奉公したんですが潰れましてね。
それで食いぶちがなくなり食うために兵隊になったんです。
それじゃあもしかしたら祖父も。
いえ宮部さんは違っていました。
でもかなり苦労されたようです。
祖父から何か聞いてるんですか?父親が相場に手を出し破産。
たしかそう言ってました。
祖父とそんな話を?私は囲碁が好きでしてね宮部さんがよく相手をしてくれました。
私みたいな兵と碁を打ってくれる下士官は珍しかったのでよく覚えています。
債権者に死んでわびる。
そう言って父は首をくくりました。
すみませんそんな話を聞くつもりでは。
いえ。
永井さんの番ですよ。
ご苦労なさったのですね。
苦労をしたのは母です。
それで病に倒れました。
まさかお母様もお亡くなりになっているのですか?ん…。
頼る人が1人もなくなりました。
それで宮部さんは海軍に。
中学を卒業したら一高に行くのが夢でした。
中学まで行かれたのに残念なことです。
別に残念ではありません。
は?今の私にはもっと大切な夢がありますから。
何かわかりますか?いえ。
何ですか?生きて家族のもとに帰ることです。
生きて家族のもとへ。
両親は亡くなってますから家族というのは妻子のことですよね?そうなりますね。
それじゃあやっぱり祖父は妻子のために生きて帰りたいとそう言ってたということですよね。
でもたった1週間の結婚生活だろ?娘とは会ったこともないのにどうして。
祖父は…宮部久蔵は妻を愛していると言っていましたか?いいえ。
私たちの世代は愛などという言葉は使いません。
ただ宮部さんは妻のために死にたくないと言ったんです。
それは私たちの世代では愛してるという言葉と同じです。
いえそれ以上の言葉のはずです。
えっ…だったらどうしてどうして祖父は特攻なんか志願したんでしょう。
愛する妻子が…。
待ってください。
宮部さんが戦死したことは聞いていましたが特攻へ行ったんですか?はい。
特攻で戦死しています。
そんな…特攻で散った多くの搭乗員は予備士官という若い飛行兵だったはずです。
えっ。
そうですか…。
宮部さんのような熟練搭乗員まで特攻に。
しかし信じられません。
だってあの時だって。
あの時?18年の夏以降ラバウルは連日空襲されるようになりました。
周囲の島々も敵に奪われラバウルはもう風前のともしびでした。
そんななか米軍の搭乗員が基地内に墜落したことがありました。
あそこだ。
死んでるな。
ああ死んでるよ。
もう死んでます。
こいつ落下傘で敵地に降りてくるなんて。
捕虜になる気だったんでしょうか。
俺なら敵の基地で自爆した。
なんて恥知らずな男だ。
持ち物調べてみろ。
はい。
あの…こいつこんなものを。
若い白人女性の裸の写真でした。
女の裸の写真などそれまで一度も見たことがありませんでした。
そこにいる誰もがそうだったはずです。
言ったとおりだったろ。
やはり恥知らずな男だ。
やめろ。
見ろ。
やつらはこんな卑猥な写真を見ながら…。
すすまない。
貴様…どういうつもりだ!その写真はこの男の奥さんだ。
愛する夫へそう書かれている。
できたら一緒に葬ってやりたい。
宮部さんはそういう人なんです。
愛する者を残して死ぬことがどれほど切ないか。
それを誰よりも感じていた人なんです。
宮部飛曹長今日は何か不具合は?はい。
操縦桿を引きつけるとき機体がこう少し左に振れるんですが整備し直していただけますか?はいわかりました。
それは寒冷地で支給される外套でした。
そういえば宮部さんはいつもその外套と一緒に乗っていました。
私は気になって…。
宮部飛曹長。
はい。
あの…いつも気になっていたのですがこちらは…。
あっこれですか。
支給されるものとは少し違うようですが。
襟に毛皮が張られていますそれに少し分厚いような。
妻の心尽くしです。
あぁ奥様の。
2年前の今ごろ真珠湾攻撃のために択捉に行く前…。
1日だけ家に帰ることができました。
帰りました。
(戸の閉まる音)おかえりなさい。
あぁただいま。
久しぶりに会ったにもかかわらず話すことがないのです。
無理もありません。
私と妻は会ったばかりで祝言を挙げ結婚生活は1週間しかありませんでしたから。
やっと話ができたのは夜遅くなってからでした。
松乃さん。
はい。
もっと早くに言うべきことだったのですが…。
はい。
あすの朝発ちます。
えっ?すみません。
今度はいつお帰りに?いやわかりません。
どちらへ行かれるのですか?いや…。
すみません。
こんなことお話しできるはずがないのに。
海に…。
海に氷が張るそうです。
はっ?そういうところだそうです。
あっそうだ見てください。
それでこのようなものを支給していただきました。
ほら。
暖かそうでしょ?それを着ればどんなに寒いところに…。
あぁ…何をするんですか?こんなことなら…。
こんなことならもっと衣服を残しておくべきでした。
これに綿を入れさせてください。
そうだ。
供出するための革が…。
革があります。
これを使わせてもらいましょう。
これを襟に張るんです。
こうしてこうしてこうすれば出来ます。
これで暖かい外套が出来ます。
間に合わせます。
あすの朝までに間に合わせます。
これさえ着ていればどんな寒いところに行っても大丈夫です。
たとえ氷が張っているようなところでも。
必ず…。
必ず生きて…。
生きて…。
あとは聞こえませんでした。
ただ掛け替えのないものを見た。
そう思いました。
必ず生きて帰ります。
たとえ腕がなくなってもたとえ足がなくなっても必ず。
必ず君の元に戻ってくる。
愛してたのよおじいちゃん。
たとえひと言も交わさずに挙げた祝言だって。
たとえどんなに短い結婚生活だって。
宮部さんは自分の命が自分の思いどおりにいかなかった時代誰よりも命を大事にしたのです。
はい。
祖父が命を惜しんだのはつかの間にでも確かに育んだ妻との愛を守るためですそれにまだ見ぬ娘と会うために。
おかしいよ。
だったらやっぱりおかしい。
そんな人が特攻に志願するはずない。
諸君たちの健闘を祈る。
〜私は生きて帰ります。
必ず君の元に戻ってくる。
それなのにどうして?宮部は特攻を拒否した。
俺は絶対に特攻には志願しない。
私は特攻隊員は洗脳されていたと思ってます。
自分が死ぬことで家族が守れると思ったんですか?私は絶対に死にません。
やつの目は死を覚悟した目ではなかった。
不時着しようとしてたのかな?誰にも何も言うな。
しかし。
これは命令だ!宮部久蔵は魔物だ。
特別攻撃に志願する者は一歩前へ。
宮部飛曹長お前命が惜しいのか?答えろ!命は…。
惜しいです。
俺は1機も守れなかったです。
何人死んだと思ってる?ん?何人死んだと思ってる!俺の命は彼らの犠牲のうえにある。
おじいちゃんがもし特攻に行ったんなら死ぬためじゃない。
きっと生きるために。
生きろ。
2015/02/11(水) 20:54〜23:18
テレビ大阪1
テレビ東京開局50周年特別企画 ドラマスペシャル「永遠の0」第1夜[字][デ]

史上空前の大ヒット小説を向井理主演でドラマ化。3夜にわたり放送する1夜目。「愛する妻のため、娘のために生き残る——」壮絶な運命との戦いを決意した宮部はなぜ特攻へ?

詳細情報
番組内容
終戦60年を翌年に控えた平成16年の夏。司法浪人生の佐伯健太郎(桐谷健太)は姉でフリーライターの慶子(広末涼子)に誘われ、慶子の恋人で新聞記者の高山隆司(山口馬木也)の「終戦六十周年プロジェクト」のために、自分たちの祖父・宮部久蔵(向井理)について調べ始める。資料では、宮部は神風特攻隊として死んだと記されているのみ。当時の宮部を知る長谷川梅男(笹野高史)は宮部を「海軍航空
出演者
 宮部久蔵…向井理
 松乃…多部未華子

 佐伯健太郎…桐谷健太
 佐伯慶子…広末涼子

 佐伯清子…高畑淳子
 大石賢一郎…伊東四朗
出演者2
【戦時編】
 長谷川梅男…中尾明慶
 伊藤寛次…千原せいじ
 井崎源次郎…満島真之介
 永井清孝…賀来賢人

 小山實…石黒英雄
 東野二飛曹…澤部佑(ハライチ)
 吉田大尉…奥野瑛太
 内田飛曹長…須田邦裕
出演者3
【現代編】
 長谷川梅男…笹野高史
 伊藤寛次…津嘉山正種
 井崎源次郎…近藤正臣
 永井清孝…小林克也

 高山隆司…山口馬木也
 藤木秀一…原田泰造

原作 脚本 監督
【原作】百田尚樹
「永遠の0」(太田出版 刊)
【脚本】櫻井武晴
【監督】佐々木章光
音楽 主題歌
【音楽】栗山和樹

【主題歌】MISIA「桜ひとひら」(Ariola Japan)
協力
防衛省、陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊、鹿屋市
お知らせ
ドラマスペシャル「永遠の0(ゼロ)」
◆第2夜 2月14日(土) よる8時58分
◆第3夜 2月15日(日) よる8時54分
関連情報
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制作
【製作】テレビ東京/テレパック

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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