認知症になっても誰かの役に立ちたい…。
そんな思いをかなえるため認知症の人たちにさまざまな仕事を提供しているデイサービスがあります。
この日は地元の小学校を訪ね紙芝居を演じます。
認知症…認知症っていう言葉知ってる人?聞いた事ない人?はい。
(前田)それを紙芝居を通じてみんなに認知症の事を分かってもらおうかなと思います。
自らの体験も重ねながら演じる認知症の紙芝居。
「すうちゃんは今日も一人で買い物に行きました。
夕方になっても帰ってきません。
お父さんもお母さんもとっても心配しました。
夜になってすうちゃんはおまわりさんと一緒に帰ってきました。
迷子になってたそうです。
認知症という病気でした。
認知症は覚えていた事を…」。
かつて何も分からない何もできないと思われていた認知症の人たち。
地域での役割を取り戻す事で今まで考えられなかったような生きる姿が生まれています。
こんばんは。
「ハートネットTV」です。
認知症の本人の視点から社会の在り方を考える3回のシリーズ。
「“わたし”から始まる」。
第2回は認知症になってからも希望を持って生きていくために具体的にどのような取り組みが必要なのか考えていきます。
認知症の早期診断が広がる中診断を受けたあとどのように生きていったらいいのか途方に暮れてしまう人も少なくありません。
しかしこうした問題はこれまでの医療や介護の体制だけでは解決が難しいのが現状です。
認知症と共に歩んでいける社会をどう実現するのか。
日本とイギリスの先進的な取り組みからそのヒントを探っていきます。
東京・町田市の住宅街にちょっと風変わりなデイサービスがあるといいます。
朝利用者を迎えに行く…おはようございます。
おはようございます。
よろしく。
よろしくお願い致します。
認知症ケアの可能性を切り開こうと挑戦を続けています。
(インターホン・女性)「は〜いおはようございます」。
はいおはようございます。
利用者は50代から90代まで22人。
その全員が認知症と診断された人たちです。
おはようございます。
おはようございます。
おはようございます。
いかがですか?もうねもうろうとしちゃって。
前後左右に揺れちゃって大変でしたよ。
お医者さん連れてって診察受けるまで。
いや〜でもね朝というか午前中…。
(妻)急に熱発しちゃったんです。
何かはやってるのかな?どうなんでしょうね?じゃあお願いします。
お願いします。
(前田)よろしくお願いします。
前田さんが目指しているのは認知症の人たちが心の底から通いたいと思えるデイサービス。
わざわざ隣の県から通ってくる人もいます。
行ってらっしゃい。
行ってらっしゃ〜い。
お目当ての場所に到着しました。
その名も…活動の拠点はこのごく普通の民家。
しかし変わっているのは名前だけではありません。
どうぞどうぞ。
今日の午前中の…みんなで何をするか活動の内容を決めていきたいと思うんですけれども。
有限会社ツトムさんのところからパンフレット折り込みの仕事が入りまして。
一般的なデイサービスと最も違っている点。
それは利用者に提供するのが食事や入浴などの介助ではなくさまざまな仕事だという事です。
何個か今日お仕事としてあるものは書き上げましたので。
今日はこんな事がしたいといろいろありましたらほかにも受け付けますので。
仕事のメニューはチラシの折り込みのほか洗車や野菜の配達など多岐にわたります。
前田さんたちがこんな活動を始めたきっかけは認知症の人たちの声でした。
「自分にもまだまだできる事がある」。
「家族や社会のやっかいになるだけでは嫌だ」。
実際に仕事に携わってもらうと表情が生き生きと変わりました。
近所の保育園から依頼のあった雑巾を慣れた手つきで縫い上げていくこの男性。
子どもの頃浴衣くらいは自分で縫えるようにと親から仕込まれた腕を存分に発揮します。
デイサービスに行くとお風呂に入ってごはんを食べて体操をしてレクリエーションして家に帰るというのが今までの多くのデイサービスのプログラムというか流れだったんですけども。
けどそれってどうなんだろうかと。
もっともっと本人の思い声を聞いてみるとやっぱりその…働きたいとか社会とつながりたいだとかもっとこう…例えばこんな活動がしたいんだとかっていろんな声が聞こえてきて。
本人の声を聞きながらここに来る事によってその思いを実現して頂こう。
ここに来るのが目標ではなくてここに来てから…ここに来てからがスタートなんだっていうそんな思いのもとにやっているんですね。
数ある仕事の中でも特に人気があるのが洗車です。
自動車販売店との1年半にわたる交渉の末去年からようやく任せてもらえる事になりました。
最初の頃は「車に傷をつけるのでは?」と心配されていましたが熱心な働きぶりが評価されひとつき1万円の謝礼をもらえるようになりました。
仕事をする事で生きる意欲が湧いてきたという男性がいます。
3年前認知症と診断された…
(取材者)精が出ますね。
車好きですか?はい。
もう免許なくなっちゃったけどね。
(取材者)免許なくなっちゃった?はい。
(取材者)認知症と診断されて?そうです。
娘に「もうやめろ」と言われて。
「人殺したら大変な事になるんだよ」って言われて。
でもここへ来れば車いっぱいあるから。
認知症と分かったあと酒浸りの毎日を送っていたという青山さん。
死にたいと思った事は1度や2度ではありません。
今は磨き上げた車を見るだけで心が落ち着くといいます。
認知症の人たちと共に歩んできた前田さん。
その道のりは平たんではありませんでした。
最も悩まされたのは認知症に対する誤解と偏見でした。
以前働いていたデイサービスで認知症の人に働く機会を提供し始めた前田さん。
滑り出しは順調でした。
工務店だと一番…いろんな仕事ができるんじゃないか。
近所の保育園に声をかけるとプールの掃除やペンキ塗りなど仕事を次々に頼まれました。
抑えていたエネルギーがふき出すように生き生きと働く認知症の人たち。
そんな時地元の介護関係者から疑問の声が上がりました。
働いて報酬を得る事は認められないのではないか。
デイサービスは支援を必要とする人が通う場所であり働ける人が利用している事自体おかしいというのです。
背景にあったのは認知症の人は何もできないという誤解と偏見でした。
「働ける訳ないだろう」。
「いやでも実際働いてるから見てくれ」って言ったんですけど一回も見に来なかった。
愚痴になっちゃいますけど見に来なかった。
これを解決するにはどうすりゃいいんだって。
いろんな人のつてをたどっていって厚労省の老健局の方たちとつながっていったりだとか横のネットワークがどんどんどんどん広がっていって本人の声を国に届けたりだとか団体…大きな団体から提言してもらったりだとかそういった事をして国がオーケーを…ゴーサインを出したんですね。
国は認知症の人たちの仕事をボランティア活動と見なし謝礼を受け取る事を認めました。
「認知症になっても社会の一員としてできる事はありその機会を奪うべきではない」という前田さんたちの主張が受け入れられたのです。
やっぱり一般の社会の人たちにまだまだ認知症であってもこんな事ができるんだとか本当に知られていなくて。
「何をされるか分からないでしょ」みたいな事を言われましたのでやっぱりまだまだかなと思いますね。
でもそれが社会全体の大体のイメージ。
やはりそれを変えていくにはもっともっと社会だったり地域だったりとつながっていかなければいけないし。
一緒に活動したりとかしていく中でこう…広げていかないとやっぱりまだまだ広がりという部分ではまだまだやるべき事は多くあるのかなと思ってます。
社会に存在する認知症への負のイメージ。
それでも少しずつ変化の兆しが見えてきています。
カボチャキュウリセロリ…。
この日青山さんたちがやって来たのは地元の八百屋さん。
この地域で一番初めに仕事を任せてくれました。
(嶋田)傷つくからさ。
傷ついて後で「傷ついてるよ八百屋さん」って言われるから必ずこういうミカンとかリンゴはそうっと置く。
必ず。
はい。
(嶋田)これは生で食べるから。
炒めないし。
ねっ。
以上。
よろしく〜。
はい。
野菜を配達する仕事では地域に暮らす大勢の人たちと触れ合う事になります。
たとえ最初認知症について何もできない危険と思い込んでいる人でも認知症の人が実際に働く姿に触れればたちまち誤解は解けていきます。
はいお預かりします。
はいどうも。
どうもありがとうございます。
ご苦労さまです。
助かってます。
助かってますよ。
休まない。
時間どおり来る。
車も掃除してくれる。
ねっ。
返事もしてくれる。
普通でしょ?何でもない。
普通ですよ。
でも普通なんだけどこうやって普通にやってくれるだけでうちは助かるし。
ねっ。
(嶋田)じゃあこれ先月分のお金です。
(青山)ありがとうございます。
(嶋田)はいどうもすいません。
頑張って下さい。
今日も頑張ってね。
よろしくお願いします。
昼休み青山さんは前田さんたちと連れ立って行きつけのラーメン屋へと向かいました。
これでいいですか?毎週金曜はサービスデイ。
青山さんの注文はいつもラーメン中盛りです。
(店員)いらっしゃいませ〜!認知症と診断された頃自分でお金を稼ぎ仲間と一緒にラーメンを味わう日が再び訪れるとは想像もできませんでした。
(店員)はい中盛りのお客様。
(前田)中盛り。
はいすいません。
その1年後前田さんたちと出会った青山さん。
タマネギの皮むきに始まり野菜の配達洗車。
紙芝居に訪れる小学校では子どもたちの人気者になりました。
これまでの人生で初めての経験に挑み続けてきました。
完食。
ごちそうさまです。
(店員)ありがとうございます。
(店員)どうもありがとうございます。
(前田)スタッフだからとか当事者だからとかという事で分けて考えていくと介護する側される側みたいな感じにどことなくなってしまう。
ここの場所に集う人たち全てが私たちも含めて全てが仲間メンバーっていうような位置づけでやっているんですけれども。
違和感なく仲間として成り立ってる感じですね。
地域の企業や住民を巻き込み認知症への理解を深めていく。
それを国ぐるみで進めているのが…原動力となっているのが…さまざまな企業や団体がネットワークを組み認知症の人が暮らしやすい地域を目指し独自の取り組みを展開してきました。
例えばこのバス会社は認知症の人が安心してバスを利用できるカードを作りました。
バスに乗る時運転手にカードを提示すればもし仮にどこで降りるか忘れてしまっても目的地に到着した時教えてもらえます。
更に認知症について学ぶ講習会を開催。
認知症の人が利用しやすくなる事を顧客サービス向上の一環として推進しています。
一方こちらの学校では全ての教科に絡めて認知症の人を理解する授業を行っています。
単なる知識の習得ではなく人間同士の触れ合いを大切にしています。
そしてもう一つの取り組みが認知症大使です。
ハリウッド女優やジャーナリストに加え認知症の本人も大使に任命。
それぞれの立場で認知症への関心を高める活動を行います。
中でもひときわ注目されたのがこちらのCM。
テレビCMを通じて「認知症になっても人生は続いている」と訴えたピーター・ダンロップさんです。
認知症と診断されたのは5年前。
誇りにしてきた産婦人科医としての仕事は諦めざるをえませんでした。
趣味の魚釣りや家族と過ごす時間を大切にしながら自分にはまだできる事があると思い続けてきたピーターさん。
そんな時舞い込んだのが「認知症のイメージを変えるためのCMに出演しないか」という誘いでした。
私にとって困難な時期が来るのは分かっていました。
だからもし人の役に立つのならやってみようと思い立ったのです。
それがあなたにとって一番大切な事よね。
認知症は人生の終わりではありません。
確かにこれまでとは違う人生になります。
でも笑う事ができれば大丈夫なのです。
認知症のイメージを覆すピーターさんのメッセージ。
認知症になったからこそできる事があると身をもって証明しました。
一連の取り組みを進めてきたのがアルツハイマー病協会です。
認知症の人とその家族を支援する事を目的に30年前に設立されました。
職員の数はボランティアなども含めると9,000人。
今やその活動は本人や家族の支援にとどまらず認知症に関する調査や研究政策作りにまで広がっています。
この協会が今力を入れて取り組もうとしている事があります。
組織の運営にこれまで以上に認知症の人たちに関わってもらえないかという事です。
今検討しているのが職員を採用する際の面接官を任せられないかという事。
実際に認知症の人を呼んでこの事についての意見を聞く事になりました。
認知症の人に職員採用の面接をお願いする場合どんな事に注意したらいいですか?採用に際し協会が認知症の私たちに何を期待しているのかどのように私たちの意見を反映するのか明確にしてほしいです。
というのも私の理解力は以前より衰えているので間違った判断をするのではという不安があるからです。
理想的な候補者がいるのにチャンスを奪ってしまったと思いたくありません。
認知症当事者の参画は単なるリップサービスではないんですよね?
(ヒューズ)確かにヒラリーさんが言うように採用するかどうかの全責任を認知症の人に負わせるのはあまりに荷が重すぎますね。
私が以前に職員の採用をお願いした方はもともと人事部で働いていた経験があり見事に役割を果たされました。
役割を明確にする事は極めて重要です。
私たちは認知症の人が社会生活のあらゆる場面に参加できるよう力を尽くさねばなりません。
認知症の人が社会に合わせてくれるのを期待するのではなく社会の方が変わるべきなのです。
認知症の人が求めているものを本当に理解する事ができれば全ての人にとってより生きやすい社会をつくり上げる事ができるでしょう。
日本でもイギリスのような認知症の人が暮らしやすい地域づくりの取り組みが始まっています。
この日町田市役所にやって来たのは認知症の人に働く機会を提供してきた次世代型デイサービスの前田さんたち。
目的は町田市が計画する新しい認知症カフェ作りについて行政の担当者と話し合う事でした。
この会議を仲立ちした…そのねらいは前田さんたちが進めてきた地域の企業や住民を巻き込む取り組みを行政と連携する事で加速させていく事でした。
町田市内でもいろんな活動認知症関係の活動されてる方たくさんいらっしゃるんですけどなかなか行政の方と当事者の方が一緒にお話を気軽にする機会っていうのがないなっていうふうに思ってまして。
もちろん医療とかケアとかも非常に大事な事ではあるんですけどやはり認知症の方の暮らし全体を考えた時に町を構成するさまざまな人たちができる事ってもっとあるんじゃないかなというふうに思ってまして。
今認知症の課題に関わりがない方たちをどうやって巻き込んでいくかっていうのが私たちのNPOの主なミッションなんですけども。
徳田さんは認知症の人が地域で生き生きと暮らしていくためにはそれを支える団体や住民が確かなつながりを持つ事が大切だと考えています。
その実現に向け認知症について関心のある人が集える場を作ったりスポーツイベントを開いたりしてきました。
一つ一つのつながりがやがて社会全体を動かすネットワークになる事を目指しています。
一応お正月の初売りのセールの時に使う福袋を…はい。
それをちょっと詰め物をしてお客様用という形で作って頂きたいんですけども。
数が大体おおまかで300ぐらい…。
次世代型デイサービスに通う青山さんたちに新たな仕事の依頼がありました。
自動車販売店の初売りに使う福袋作りです。
認知症と診断され一度は諦めた人生。
しかし今頼りにしてくれる地域の人たちと苦楽を共にできる仲間がいる。
活躍できる場所が1つ増えるごとに認知症と共に生きる可能性が広がります。
(女性)青山さん代表でお願い致します。
いつもの洗車のリーダーなので。
いつもありがとうございます。
お疲れさまです。
また来年もよろしくお願いします。
こちらこそよろしくお願い致します。
2015/02/11(水) 13:05〜13:35
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV シリーズ 認知症“わたし”から始まる 第2回[字][再]
認知症になっても自分らしく生きられる社会をどうしたら実現できるかについて考える3回シリーズ。第2回は認知症にフレンドリーな社会の実現に向けた具体事例を紹介する。
詳細情報
番組内容
誰もが認知症になり得る時代を迎える中、“認知症になっても、最期まで自分らしく生きられる社会”の実現が喫緊の課題になっている。求められる支援について考える3回のシリーズ。第2回は、“認知症フレンドリーな社会”の実現に向けた日本国内の先進的な実践を紹介すると共に、企業や学校など地域社会全体で認知症の人が暮らしやすい環境づくりに取り組むイギリスの事例を紹介。未来へのヒントを探る。
出演者
【司会】山田賢治
ジャンル :
福祉 – その他
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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