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「引きこもり」するオトナたち

生活保護窓口にハローワーク併設の効果はいかに

池上正樹 [ジャーナリスト]
【第232回】 2015年2月16日
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 福祉事務所にハローワークの窓口があれば、現場での連携もスムーズにしやすい。厚労省の担当者は「自治体からの評判もよいですし、成果は出ているのではないか」と分析する。

 もちろん、1ヵ所の窓口においてワンストップで対応できることは、行政の担当者間だけでなく、利用者にとっても利便性の面で意味がある。

 実際、社会で傷ついた人たちが、せっかく意欲を持ち始めて、やっとの思いで窓口に相談に訪れても、たらい回しに遭ったり、他団体を紹介されるだけで終わったりして、さらに深く傷つけられていく。そうした度重なる“傷つき体験”が、ますます社会からの撤退を促し、生きる意欲や意味さえも失う“あきらめの境地”へと陥っていく。

 誰に助けを求めればいいのか、相談先がわからずに、声を上げることのできない人たちが、水面下には数多く埋もれている。

 そうした人たちにとって、やっとの思いでつながることのできた窓口で、自分の望む情報の得られるワンストップ的な対応をしてもらえるのかどうかは、とても重要だ。

 ハローワーク町田の担当者も、こう明かす。

 「もちろん数字的な上澄みが期待できるというプラス面は大きい。ただ、地道な家庭訪問の末、面談ができるようになって、就労に結びつく人がいます。これまではお誘いしても、ハローワークまで行くのが大変でした。面談で外に出てくることに慣れてきたとき、隣にある端末で、どんな仕事があるのか見てみよう”とやりとりできるのは大きい。相談まで行かなくても、どんな仕事があるのかを見ることによって、想像を膨らませることができる。社会全体で取り組まなければいけない問題なんだと思います」

 今回は、福祉サービスと就労支援との連携による小さな取り組みかもしれない。

 でも、4月から生活困窮者自立支援法が施行されれば、第229回の連載で紹介したモデル事業の高知市の取り組みのように、相談窓口をネットワークで結び、「断らない」「あきらめない」「投げ出さない」を目指した切れ目のない仕組みづくりが必要だ。

 窓口につながった当事者の思いを真ん中に置いて、多様な情報をもつ周囲の人たちが共有し、みんなで難しい課題に向き合っていく。そんな現場でのワンストップの取り組みへと向けた大きな第1歩になることを期待したい。

※この記事や引きこもり問題に関する情報や感想をお持ちの方、また、「こういうきっかけが欲しい」「こういう情報を知りたい」「こんなことを取材してほしい」といったリクエストがあれば、下記までお寄せください。
otonahiki@gmail.com(送信の際は「@」を半角の「@」に変換してお送りください)

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池上正樹 [ジャーナリスト]

1962年生まれ。大学卒業後、通信社の勤務を経て、フリーに。雑誌やネットメディアなどで、主に「心」や「街」をテーマに執筆。1997年から日本の「ひきこもり」現象を追いかけ始める。東日本大震災後は、被災地に入り、震災と「ひきこもり」の関係を調査。著書は、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)、『ドキュメント ひきこもり~「長期化」と「高年齢化」の実態~』(宝島社新書)、『ふたたび、ここから~東日本大震災、石巻の人たちの50日間~』(ポプラ社)、『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書)などがある。最新刊は『石巻市立大川小学校「事故検証委員会」を検証する』(ポプラ社)、最新刊『大人のひきこもり~本当は「外に出る理由」を探している人たち~』(講談社現代新書)
。池上正樹 個人コラム『僕の細道』はこちら

 


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「会社に行けない」「働けない」――家に引きこもる大人たちが増加し続けている。彼らはなぜ「引きこもり」するようになってしまったのか。理由とそうさせた社会的背景、そして苦悩を追う。

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