黒田総裁は変わっていない、それでも日銀はがんじがらめに-サーベイ
(ブルームバーグ):現時点で一段の追加緩和を行うことは日本経済にとって逆効果との見方が日本銀行内で浮上していることについて、エコノミストの間では、そうした見方は主流派ではなく、黒田東彦総裁は変わっていないとの見方も根強い。もっとも、円安に対する反発が強い中で追加緩和に踏み切るのは困難との見方も徐々に増えている。
ブルームバーグ・ニュースが5日から10日にかけてエコノミスト35人を対象に行った調査で、17、18日の金融政策決定会合は全員が現状維持を予想した。年内に追加緩和があるとの予想は26人に達し、追加緩和なしは8人と、全体の23%にとどまった。
その後、ブルームバーグ・ニュースが「現時点で一段の追加緩和を行うことは日本経済にとってむしろ逆効果になるとの見方が日銀内で浮上している」と報じたのを受けて、エコノミスト24人を対象にあらためて13日行った調査では、追加緩和なしとの回答が8人(33%)と全体に占める比率が上昇した。
シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは16日のリポートで、「現在、金融政策に関わる決定は、黒田総裁を中心とするごく少数の幹部により主導されている可能性が高い」と指摘。このため、報道の出所が「そうした少数幹部以外の人物によるものである場合、実際の政策決定に影響を及ぼす可能性は低いように思われる」という。
岡三証券の鈴木誠債券シニアストラテジストは「消費増税先送りと同様に、政府サイドはこれ以上の円安にはやや慎重な姿勢になっていることは考えられるだろう。日銀内でも追加緩和に反対した政策委員を中心に、円安の影響を警戒する委員も一部にはいるだろうが、黒田総裁などはあまり気にはしていないと思う」と述べた。
円安弊害論が強まっているBNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストも「黒田総裁自身は、日本経済がデフレからインフレへと転換する中で、インフレ期待の高まりに伴い円安が先行して進行するのは必然と考えていると見られ、この考え方は基本的には大きくは変わっていない」とみる。
もっとも、「経済が完全雇用にある中では、一段の円安が輸出や設備投資を刺激する効果は小さく、一方で輸入価格の上昇で家計の実質所得は下押しされるため、景気に対してはむしろ弊害の方が大きくなる。昨春以降の低調な景気動向を踏まえ、日銀内でもこうした見方が強まっていると見られる」と指摘。
「景気を最重要視する政府も一段の円安は望んでいないと見られ、日銀に対して2%目標の達成時期の後ずれを容認する姿勢を明確にしている。黒田総裁としても、こうした政府の明確なスタンスの変化を考慮に入れざるを得ないだろう」という。
世論が2%受け入れるか頭痛の種に伊藤忠経済研究所の武田淳主任研究員は「内外の各種圧力や反応が日銀の政策判断に影響を与えるのは言うまでもないが、昨今においては、円安に伴う物価上昇に対する世論の反発が、円安による株価押し上げ効果を上回った」と分析。
「円安の悪影響は所得水準が低いほど大きく、つまり、その数は多く、一方で円安の恩恵は資産家中心で数が少ないため、総選挙や統一地方選という選挙シーズンの中で、政治は円安の悪影響をより意識せざるを得ないということだろう。日銀のスタンスが変わったのではなく、取り巻く環境が変わったに過ぎない」とみている。
その上で、「こうした状況を踏まえると、2%のインフレを世論が本当に受け入れられるのかも心もとなく、それが将来の日銀の頭痛の種になると思う」という。
東短リサーチの加藤出チーフエコノミストも「円安で国内の中小企業が苦しんでいるのを日本の与党の政治家が気にしていること、全世帯の3割を超える年金世帯は、円安が進んで生活コストが上昇すると財布のひもを締めてしまうことも日銀は意識していると思われる」と述べた。
「4月の経済・物価情勢の展望(展望リポート)発表時に消費者物価がマイナスになっていても、日銀は『2015年度後半か16年度の早い時期にはインフレは2%にいく』と言い続けて、追加緩和は当面見送る」と予想する。
市場の反応「恐ろしい」一方、信州大学の真壁昭夫経済学部教授は報道を受けた市場の反応について、「この記事で2円近くも為替が動いたことは注目に値する。ヘッジファンドはドルロング、円ショートのポジションを積み上げてきたので、シリアやウクライナ情勢を含め、リスク要因に過敏になっていることがうかがえる」という。
12日に1ドル=120円台前半で推移していたドル円相場は、ブルームバーグ・ニュースが日銀内の見方を報じた後、一時118円台後半まで円買いが進んだ。日本時間16日午後3時現在、118円台半ばで推移している。
南アフリカのスタンダードバンク東京支店の池水雄一代表は13日のリポートで、「どうもニュースヘッドラインを読むアルゴ取引の反応的な動きだったようです。コンピュータには感情がないってのがよくわかる動きですね。恐ろしい。しかしその動きが円買いドル売りの流れを作ってしまったようです」と指摘。
その上で、「ほんのちょっとしたヘッドラインにこんなに反応してしまうのをみると、本当に日銀が現在の異次元の金融緩和をやめようとして出口に向かおうとしたら何が起こるのか相当恐怖を感じます」としている。
日銀ウオッチャーを対象にしたアンケート調査の項目は、1)今会合の金融政策予想、2)追加緩和時期と手段や量的・質的金融緩和の縮小時期および「2年で2%物価目標」実現の可能性、3)日銀当座預金の超過準備に対する付利金利(現在0.1%)予想、4)コメント-。
1)日銀はいつ追加緩和に踏み切るか?
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調査機関数 35 100%
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2月 0 0.0%
3月 0 0.0%
4月8日 1 2.9%
4月30日 6 17.1%
5月 1 2.9%
6月 0 0.0%
7月 8 22.9%
8月 0 0.0%
9月 0 0.0%
10月7日 0 0.0%
10月30日 10 28.6%
11月 0 0.0%
12月 0 0.0%
2016年1月以降 1 2.9%
追加緩和なし 8 22.9%
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2)追加緩和の具体的な手段
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マネタリーベースの増加ペースの引き上げ 20
長期国債の買い入れペースの引き上げ 15
ETFの買い入れペースの引き上げ 20
J-REITの買い入れペースの引き上げ 11
付利の引き下げ 2
の他 3
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3)日銀は生鮮食品を除く消費者物価(コアCPI、消費増税の影響を
除く)前年比が2016年度の「見通し期間の中盤頃に2%程度に達する
可能性が高い」としてますが、この見通しは実現しますか。
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調査機関数 33
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はい 2
いいえ 31
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4)銀は生鮮食品を除く消費者物価(コアCPI)前年比が「2015年度を中心とする期間に
2%程度に達する可能性が高い」としてますが、この見通しは実現しますか。
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調査機関数 33
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はい 14
いいえ 19
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5)日銀は今後、付利を引き下げる可能性があるとお考えですか。
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調査機関数 34
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はい 12
いいえ 22
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6)日銀が2%の「物価安定の目標」が安定的に持続すると判断し、
量的・質的金融緩和の縮小を開始する時期はいつ?
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調査機関数 32
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2015年上期 0 0.0%
2015年下期 0 0.0%
2016年上期 0 0.0%
2016年下期 2 6.3%
2017年上期 1 3.1%
2017年下期 4 12.5%
2018年以降 9 28.1%
見通せず 16 50.0%
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問1に対しての回答の詳細
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メリルリンチ証券、吉川雅幸 10月30日
バークレイズ証券、森田京平 7月
BNPパリバ証券、河野龍太郎 追加緩和なし
キャピタルエコノミクス、Marcel Thieliant 4月30日
シティグループ証券、村嶋帰一 7月
クレディ・アグリコル証券、尾形和彦 10月30日
クレディ・スイス証券、白川浩道 追加緩和なし
第一生命経済研究所、熊野英生 10月30日
大和総研、熊谷亮丸 4月30日
大和証券、野口麻衣子 追加緩和なし
ゴールドマン・サックス証券、馬場直彦 7月
HSBCホールディングス、デバリエ・いづみ 4月30日
伊藤忠経済研究所、武田淳 7月
ジャパンマクロアドバイザーズ、大久保琢史 2016年1月以降
日本総合研究所、山田久 追加緩和なし
JPモルガン証券、菅野雅明 7月
明治安田生命保険、小玉祐一 10月30日
三菱UFJモルガンスタンレー証券、六車治美 10月30日
三菱UFJモルガンスタンレー景気循環、景気循環研 嶋中雄二 4月8日
三菱UFJリサーチコンサルティング、小林真一郎 4月30日
みずほ総合研究所、高田創 10月30日
みずほ証券、上野泰也 10月30日
ニッセイ基礎研究所、矢嶋康次 7月
野村証券、松沢中 追加緩和なし
農林中金総合研究所、南武志 4月30日
岡三証券、鈴木誠 追加緩和なし
信州大学、真壁昭夫 5月
三井住友銀行、西岡純子 7月
SMBCフレンド証券、岩下真理 10月30日
SMBC日興証券、森田長太郎 追加緩和なし
ソシエテジェネラル証券、会田卓司 10月30日
三井住友アセットマネジメント、武藤弘明 4月30日
東海東京証券、佐野一彦 追加緩和なし
東短リサーチ、加藤出 10月30日
UBS証券、青木大樹 7月
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更新日時: 2015/02/16 16:54 JST