IT、クールジャパン、地球温暖化の国際交渉、再生可能ネルギーと、この数年、実に色々なお仕事を経験させていただきました。そして、昨夏、3か月間のエコノミスト修行を経て、10月から、地方創生担当に着任しています。
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地方創生のキモはどこに・・・
プロフィール
村上敬亮
長年、官の立場からIT業界に携わり、政策の立案、実行をしてきた経済産業省 資源エネルギー庁の村上敬亮氏が、ITやエネルギー、様々な角度から、日本の発展のための課題や可能性について語ります。
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再エネ担当の時にも地方のことはいろいろ勉強させていただきましたが、今また、地方創生の課題に正面から取り組んでいると、実に色々な課題に直面します。それらは、ほぼそのまま、日本経済の体質の縮図そのものでもあることが多く、正直、”痛っ”と思うことが少なくありません。
今回は、こうした課題の総論的な部分を、少し咀嚼してみようと思います。
1.地方創生はなぜ、急に重要課題になったのか
地方創生の成否は、大雑把に言って、国からの「脱・補助金」と自立的な地方経済の蘇生にかかっている、そう思います。今後急速に進む地方の高齢化と経済の疲弊に対し、国にはもはや、それを支えるだけの財政的余裕が無くなっていくからです。
これまでは、地域経済は自らの足りない部分を、公共事業と工場立地に頼ってきた部分があります。でも、公共事業は頭打ち、企業の立地は海外へ、という時代になりました。その結果、地域経済の疲弊は急速に進みつつあります。
加えて、深刻なのは高齢化です。若者の東京流出が進む地方では、都市部より更に急速に高齢化が進みます。人口減少の時代に突入し、地方の働き手不足は深刻です。
このダブルパンチの状況の中で、補助金に頼らない自立的な経済を作れと言われても、人はいない。財源はない。地方は一体、どうしたらいいのでしょうか?
かくして、地方創生は、あれよあれよという間に、深刻かつ重要な課題となりました。
2.「脱・補助金」が難しいのはなぜか
(1)必要なのは、「しごと」と「ひと」の好循環
地方経済の疲弊と人口減少を食い止めるためには、地域に新しい仕事を作らなければなりません。仕事ができれば人も来る。人が来れば仕事もできる。「しごと」と「ひと」の好循環の確立が第一の課題です。その好循環が始まれば、好循環自体を支える「まち」も、徐々に活性化していく。「まち」に与えるべき刺激の方向性も見えてくる。
これが、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」と名付けられた地方創生戦略の基本的な考え方です。
でも、新しい仕事を生み出しつつ、補助金依存を減らすためには、その分、民間ファイナンスが、補助金の役割に取ってかわらなければなりません。ただ徒らに、「脱・補助金」を叫ぶだけでは、世の中に何も生み出すことはできないと思われます。
幸い、今の民間ファイナンスは、金余り状態にあります。それは地方銀行や地方の信用金庫でも、変わりません。実際、預けていただいたお金を貸し返している預貸率は、地銀・信金でも、全国平均で6割を下回っています。地方の金融機関でも、地元で貸しきれなかった資金を使い国債などの資産運用を行っている状態です。国債を消化していただくことそのものは、日本経済にとって重要な機能なのですが、いずれにせよ、地方の金融機関にお金がないわけではない。足りないのは資金需要の方なのです。
しかし、いくらお金があるからといっても、民間ファイナンスは補助金ではありません。補助金の役割をそのまま果たせるわけもありません。この問題の解決のためには、地域における取組の内容自体をどう変えていくかも含め、数多くの課題に取り組んでいく必要がある。それが、地方創生の悩ましさであり、難しさでもあります。
(2)補助金と民間ファイナンスの違い
ではどうして、補助金の代わりに、民間ファイナンスが、地域経済における新たな取り組みに貢献することが難しいのでしょうか。補助金抜きで、地方に新しいビジネスや新しい取り組みを始めることはできないのでしょうか。
あえて、問題を因数分解してみます。
① 取組の内容に融資可能性がない
まず第一に、「補助金でやっているプロジェクトには、銀行が融資できるようなものが、まずない。」ということが挙げられます。
一見あたりまえの命題ですが、一応検証してみましょう。例えば、補助金には審査があります。その審査を確実に勝ち抜くには、取り組むプロジェクトに際立った個性がなければなりません。例えば、バイオマス発電の実証事業の獲得を目指せば、日本で唯一、日本で最先端といった、他の候補にないプロジェクトの特徴をアピールする必要があります。他と同じようなプロジェクトでは、補助金の採択がおぼつかないからです。
しかし、そういう「最先端の」プロジェクトは、まさにそれゆえに、全国に普及する可能性はまだ低いと言えましょう。普通の銀行の立場から見れば、そんな風に内容が難しく、今すぐ普及も期待できないプロジェクトには、とても融資できません。見込める利息収入に対し、審査に係るコストがとても見合わないからです。
② 出資しようにも、国のお金は無責任
では、出資ならどうでしょうか。ファイナンスは融資だけではありません。「融資ではなく出資なら、補助金の対象となっていたようなプロジェクトに対しても、できるのではないか。」
しかし、それも多くの場合、難しいのが現状です。
補助金プロジェクトの多くは、審査委員会の審査員、省庁の担当者など、関係者の人為的な判断で運用されています。しかも、具合が悪いことに、補助金の運営に関わった有識者や行政官は、事業運営自体には、全く協力してくれません。もちろん、事業リスクも取りません。どちらかと言えば、他人事のように「成果」を厳しく求めてくるだけの場合がほとんどです。結果として、補助金プロジェクトのリスクは、全て、民間側でお金を出した出資者が全て負わなければなりません。ある意味、国のお金は、とても無責任なお金なのです。そんな無責任なお金がたくさん入り込んだ事業に、投資家が出資したいと思うでしょうか?
③ 過小資本問題と補助金の自転車操業
もちろん、投資をした人が実際の事業実行の当事者で、補助金事業の結果に対しても、始めから全て自分で責任を取るつもりなら、それも良いと思います。でも、今度は規模の問題が出てきます。
地方の事業家で、数億円以上の事業に全て自分で取り組める事業主は、そうはいません。当然、できることの規模と内容が限られてきます。地方にはよく、十分な自己資本を積まないまま補助金漬けになって、お金がないからまた次の補助金、そしてまたお金がないから次の補助金と、補助金の自転車操業的状態に陥る事業者も少なくありません。風力発電のような大型装置産業でも、似たような事例が多く見られ、自己資本不足はその度に、大きな課題となってきました。加えて、そうした危ない財務運営をしていること自体がまた、民間ファイナンスを遠ざける決定的な要因にもなってしまいます。
④ 過小資本を補いに走れば、「東京の植民地化」
ではどうすれば、事業規模と事業リスクに見合う資本金を積み上げられるのでしょうか。
これまでのパターンだと、そこでよく登場してくるのが、東京の資金力のある大企業です。例えば、十分な資金力のない地方の事業主が、風力発電のような大型装置事業に手を出そうとすれば、どうしても資金力のある東京の大資本に協力を仰がざるを得ません。風力発電がよく、「東京の植民地」になりやすい、そう言われる所以でもあります。
しかし、全ての東京の大企業が悪気に満ちているわけではありません。東京の大企業には、大資本を持っているなりの厳しい社内の収益管理基準があるのです。よしんば、地方のためになんとかしてあげたいと思っても、低収益のままでは、投資をするなと自社の財務部門にストップをかけられてしまうのです。だから結果的にギリギリまで、地方のプロジェクトに対しても収益を求め続け、最終的に、地元からは裏切りとも映るような「収奪」を行うこととなるわけです。どちらの側から見ても、ということですが、こうした状態を放置していては、本来協力的になり得るはずの大企業と地方との関係も、長続きさせることは難しい。それが現実です。
⑤ かくして補助金に戻る
かくして、求める出口がなくなると、やっぱり地方創生は補助金だという話になり、話は振り出しに戻ることになります。これが地方経済の多くに見られる厳しい現実ではないでしょうか。脱・補助金のために、国の財政資金や制度立案能力をどう効果的に活用するか。民間資金をどう有効に使っていくか。いずれも、とても難しい課題です。
3.地方創生に向けて、どこからアプローチを変えていくか
そうだとすれば、何をどこから変えてくか。個人的には大きく三つの切り口があるように感じています。
① 第一に、戦略。
各地方が、他の地域とは一味も二味も違う地域固有の戦略を持つこと。その地域の戦略を基礎に、しっかりとしたPDCAサイクルを回していくこと。
② 第二に、人材。
地域の戦略をしっかりとした事業計画に転換できるような経験値のあるプロフェッショナル人材を集め、若しくは育てること。
③ 第三に、ガバナンス。
そうしたプロフェッショナル人材が思う存分リスクを張って活躍できるような、低収益でもしっかりと事業継続に再投資していけるような事業主体を整えること。
国がすべきことは、地方の進むべき道や取り組むべき政策を決めてあげることではありません。それは、地方自らが選ぶべきもの。国がなすべきは、地方が選んだ道を進む取組を、横から必死になって助けることであります。
そのために必要な全国共通の課題が、以上の三つだと思うのですが、そうした話を、また次のエントリで展開していきたいと思います。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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