黒い雨:「国援護の対象に」区域外の40人が提訴へ

毎日新聞 2015年02月16日 06時30分(最終更新 02月16日 09時07分)

広島市などが拡大を要望している地域
広島市などが拡大を要望している地域

 広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」を浴びながら、被爆者援護法に基づく援護を受けていない広島県内の40人以上が、国の援護対象区域拡大を求めて集団訴訟を起こす方針を決めた。3月にも被爆者健康手帳の交付などを求めて広島市と県に集団申請するが、却下される可能性が高く、却下処分の取り消しを求めて提訴する形を取る。広島市と県などは援護対象区域を6倍に広げるよう要望したが、国は2012年に退けた。被爆70年の今も黒い雨の被害実態は不明で、「被爆者認定」を求めて司法の場で争う見通しになった。

 提訴の構えをみせているのは、広島県「黒い雨」原爆被害者の会連絡協議会のメンバーら。1945年8月6日に米軍が広島市に原爆を投下した後、援護対象区域外で黒い雨を浴び、がんや心臓病などを発症したとしている。これまでに46人が集団申請に加わる意思を示した。同協議会によると、黒い雨の被害認定を巡る集団訴訟は初めてという。

 メンバーらは、被爆者健康手帳の取得要件のうち、被爆者を救護したなどで「身体に原爆の放射能を受けるような事情の下にあった」ことが理由の「3号」に相当するとして、手帳交付を申請する。更に、現行の援護対象区域内で黒い雨を体験した人が対象で、無料で健康診断を受けられる「第1種健康診断受診者証」も交付するよう申請する。

 ただ、「3号」が適用されるのは援護対象区域内での黒い雨体験者で、区域外からの申請は不受理か却下になる公算が大きい。審査には通常4、5カ月程度かかり、却下の処分が出れば速やかに広島地裁に提訴する。手続き上は処分不当を理由に広島市と県を被告に争うが、訴訟では国が現行の援護対象区域を拡大しないことの不当性を訴え、被爆者援護法の適用を求める。

 国は2012年8月、厚生労働省の検討会がまとめた意見を基に、広島市と県の要望を「科学的根拠がない」として認めなかった。一方、原爆症認定を巡る一連の集団訴訟で原告が勝訴した判決の一部では、黒い雨が援護対象区域より広範囲で激しく降り、住民が被ばくした可能性に言及している。

 広島県「黒い雨」原爆被害者の会連絡協議会の高野正明会長(76)は自らも申請に加わる予定で、「黒い雨に遭い、放射線の影響を受けたという真実を訴え、国に認めさせたい」と話している。【加藤小夜】

 ◇黒い雨

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