連載/バイクの楽しさ、素晴らしさとは

(写真左)『不良番長』、DVD発売中、価格4,725円(税込み)、発売元:東映ビデオ(株)、販売元:東映(株)
(写真中央)『女番長 野良猫ロック』、DVD発売中、価格3,990円(税込み)、発売元:日活(株)、販売元:(株)ハピネット
(写真右)『爆発! 暴走族』、DVD発売中、価格4,725円(税込み)、発売元:東映ビデオ(株)、販売元:東映(株)
|
映画のなかで、“疾走するバイクたち”。
[モータージャーナリスト 沼田 亨]
[第31回]
「映画の見方はかなりマニアック」で「興味の対象はキャストやストーリーではなく、写し込まれている風景」であり、「そのなかでも真っ先に目がいくのがクルマやバイク」というモータージャーナリストの沼田亨さん。「ロケ撮影されたシーンにたまたま写っていたクルマやバイクが希少車だったりすると、それだけでその作品は自分にとって特別な1本になってしまう」という。ここに紹介した“バイクが活躍する映画”は、沼田さんにとっては“世間で言うところのどんな不朽の名作よりも価値のある作品群”なのである。 |
遡ること約40年、中学1年のときにまだ都内にもたくさんあった三番館で、封切りから2年遅れで『イージー・ライダー』(1969年)を観た。それ以来、これまでにいったい何本の「バイクが活躍する映画」を観たことだろうか。
ざっと思い返してみると、圧倒的に邦画(日本映画)が多いことに気づく。もともと邦画、それもいわゆる名作よりも娯楽作品が好きでよく観ていたから当然と言えば当然なのだが、今回はそれらのリストの中から特に印象深かった作品を紹介したい。
とは言え『彼のオートバイ、彼女の島』(86年)とか『汚れた英雄』(82年)といった、よく知られた作品は登場しないことをあらかじめお断りしておく。ちなみにこれらが制作された80年代には、空前のバイクブームを反映してかバイクが登場する作品が比較的多かった。
だが、今回はそれらよりもっと古い、1950〜70年代の作品について綴りたい。バイクもさることながら、そうした作品の舞台となっている時代の日本の風景、画面から伝わってくる空気が、筆者はたまらなく好きなのである。
本邦初? のレース映画である『火の女』
年代順に紹介していくと、まずは『火の女』(54年)。バイクを大々的にフィーチャーした、しかも、もしかしたら本邦初かもしれないレース映画である。さらに驚くべきことに、主演は若き日の山本富士子なのだ。と言われたところで、彼女を知らなければ驚きようもないだろうが、第1回ミス日本コンテストで優勝した後に映画界入りした、当時の日本を代表する美人女優のひとりである。
50年代の日本には100社を超す二輪メーカーが乱立しており、なかには3台作っただけで消滅してしまった「3大」ならぬ「3台」メーカーさえあったそうだが、本作に登場する「浜野モータース」もそうした零細企業。社長(兼設計技師兼メカニック)以下従業員4名の町工場なのだが、自社設計のバイクを試作している。
だが、そのバイクはというとホンダのドリーム3E。よく見ると東野英治郎演じる社長が被る作業帽には「HM」(ホンダ・モーター)のロゴマークが入っており、作中でバイクは「長年の夢を実現したドリーム号」と呼ばれている。「オートバイ技術指導」としてホンダのスタッフもクレジットされており、ホンダが制作協力していることは間違いない。
最大の見ものは山本富士子がそのドリーム3Eを駆って、日本一のオートバイを決めるという触れ込みの「全国オートバイ長距離競走」なるロードレースに出場するくだり。神宮外苑をスタート地点とし、山中湖〜富士〜箱根を経由して再び神宮に戻るという、全行程150マイルの公道レースである。これは前年の53年に実際に行われた「名古屋TTレース」を参考にしたのではないだろうか。
本編のほぼ4分の1にあたる20分近いレースシーンには、およそ100台のバイクが出走。空撮まで導入したなかなか本格的なものだが、クライマックスとなる横浜〜東京間のバトルが凄い。ライバルとの一騎打ちとなった山本はときにセンターラインを割り込み、100キロ以上で第二京浜を疾走するのだ。
現在では考えられないこうしたシーンを、なんの疑問もなく撮れたのだから、ずいぶんのんびりした時代だったのである。
映画の中では、ノーヘルも許されていた
続いては『黒の爆走』(64年)。産業スパイの暗躍を描いた梶山季之原作の『黒の試走車』(62年)に始まる大映の「黒」シリーズの1本で、田宮二郎が主人公の白バイ警官を演じた社会派サスペンスだ。
当時白バイ御用達だったメグロのスタミナZ7を駆る田宮の停車命令を無視して、国道を暴走する3台のバイク。3台はトライアンフ・ボンネビルなどの大型輸入車で、設計が古い単気筒500ccのZ7ではなかなか追いつけない。チェイスの果てに1台が団地内の児童公園に乱入し、事故を起こして逃走する。
事故原因は白バイの深追いと新聞に書き立てられた田宮は、汚名を返上すべく犯人の手がかりを求めて休日ごとにバイク好きの一青年を装い、モトクロス場などオトキチ(オートバイ○チ○イの略、作中をはじめ当時は普通に使われていた)の集う場所に通う。
そこで知り合った不良がかったクラブに誘われるまま、彼らが主催する大阪までの「遠乗り会」に参加したところ、これがどうにも怪しい。会費は格安なのに貸与されたバイクはハーレー、BMW、トライアンフ、BSAなどの高級外車ばかりで、ガソリン代も向こう持ち。道中を行くうちに田宮を含めた参加者は、ツーリングを装った盗難車の陸送をやらされていることに気づく。やがてはクラブのリーダー格が事故を起こした犯人である確証を掴んで逮捕に至る……というのが大まかなストーリーだ。
ラストシーンでは、図らずも現代とのギャップが明るみに出る。事件が解決し、名誉を挽回した田宮がガールフレンドを伴って、児童公園で事故に遭った男児を病院に見舞った後、バイクにタンデムして走り去っていくのだが、2人ともノーへルで、しかも彼女は横座りなのだ。当時の法規では問題なかったとは言え、人一倍安全意識が高いはずの白バイ警官役にこんな行動を取らせてしまうとは……。
梅宮パパも活躍していたバイク映画もあった
今では俳優より梅宮アンナのパパ、あるいは漬物や焼肉チェーンのオーナーとしてのほうが有名かもしれない梅宮辰夫が、俳優業に専念していた68年から72年にかけて、彼を主演に全16本も作られた東映の人気シリーズが『不良番長』である。
この手のシリーズものにありがちだが、どれを見てもストーリーはほとんど同じ金太郎飴状態で、梅宮を番長と仰ぐアウトロー集団「カポネ団」と、彼らを配下に収めようとする組織暴力団との抗争がテーマ。といってもシリアスなものではなく、お笑いやお色気シーンもあるアクションコメディといった趣だ。
当初はピーター・フォンダ主演の『ワイルド・エンジェル』(66年)のような和製バイカー映画として企画されたというだけに、梅宮のほか谷隼人、山城新伍、安岡力也などが常連メンバーであるカポネ団にとってバイクは欠かせない道具である。とりわけオープニングとクライマックスとなる殴り込みの場面では、メンバーが隊列走行する姿がほとんどの作品で見られる。
シリーズ第1作の『不良番長』(68年)では、梅宮はホンダCB72に跨がっている。そのライディングファッションは、サラシを巻いた素肌に背中にドクロマークの入った革ジャンを引っかけ、ニッカボッカと半長靴を履き、頭にはナチス風ハット。チャンバラからヤクザ映画へとシフトした東映らしい泥臭いスタイルだが、基本となるアイディアはマーロン・ブランド主演の古典バイカー映画『乱暴者(あばれもの)』(53年)あたりから引用したものだろう。
シリーズが作られた60年代後半から70年代初頭にかけては、音楽やアートなどの若者文化に続々と新たなムーブメントが生まれ、ファッションも目まぐるしく変わっていった。そうした時代風潮に沿ってバイクのデザインもどんどんカラフルになっていったのだが、シリーズを通してみると、その数年間の変遷を期せずして眺めることができるのだ。
初期作品では黒タンクのホンダCBなどが主流だったが、第6作の『不良番長・大手飛車』(70年)あたりからはキャンディカラーに塗られたホンダCB750FourやヤマハDT1、スズキGT750やカワサキ・マッハVなどに世代交替を果たすのである。
また、第8作『不良番長・出たとこ勝負』(70年)では、『イージー・ライダー』にかぶれた街のアンチャンが跨がっていたような、ノーマルのCBを派手な原色に塗り替え、超アップハンドル、やたらステーの長いミラーやバックレストを装着したダサい「チョッパーもどき」が勢揃い。こうしたバイク風俗がリアルタイムで写し込まれているところも見逃せない。
西新宿を舞台に大暴れ
時代を切り取ったという点では、『女番長・野良猫ロック』(70年)も秀逸だ。セックス、スピード、バイオレンスをミックスした70年代初頭のフリーキーなグルーブがあふれる作品として、カルト的な人気を誇る『野良猫ロック』シリーズの第1作で、新宿を根城とする若者グループの生態を描いている。
主演はかつて大阪でホンモノの女番長として鳴らしたという当時20歳の和田アキ子。物語のテーマは何者にも縛られず気ままに生きようとするズベ公たちと、街をシメようとする暴力団の手下である愚連隊の抗争。和田はキャンディレッドのホンダCB750Fourに跨がりどこからともなくやってきて、ズベ公たちに加勢して去っていくという、ちょうど馬に乗ってやってくる『渡り鳥』シリーズの小林旭のような役回りである。ちなみに和田自身はバイク経験ゼロということで、ライディングシーンは男性スタントマンによる吹き替えだ。
作品のハイライトは、CB750と藤竜也演じる愚連隊のヘッドが駆るダイハツ・フェロー・バギィ(軽トラのシャシーにサンドバギー風のボディを載せた限定生産車)の追走劇。舞台は当時のヤング向け娯楽映画に欠かせないロケーションだった、副都心建設中の西新宿。伝説の「新宿カミナリ族」を生んだ、まだ交通量の少ない街路や殺伐とした工事現場に加えて、歩道橋や西口公園、果ては西口地下街まで縦横無尽に走りまくるという狼藉を働いているのだ。
CB750はともかく、それを追うフェロー・バギィまでもが360cc軽ならではの小さな車体を利して、地上から階段を駆け降り西口地下のショッピングアーケードに突入するシーンには言葉を失う。そして驚く通行人を尻目に、2台はバトルを展開するのだ。なんとも時代の勢いを感じさせる、日本映画史上唯一無二のカーチェイスである。
映画から生まれた“岩城仕様”
70年代半ば、若者風俗から社会問題と化した暴走族にスポットを当てた作品が、その名も『爆発! 暴走族』(75年)。数年前には鈴鹿8耐の名誉顧問まで務めたバイク好き、レース好きで知られる俳優、岩城滉一のデビュー作である。当時彼は原宿をベースとするバイクチーム「クールス」のサブリーダー(リーダーは舘ひろし)で、集合管を装着した黒ずくめのカワサキ750RS、通称Z2(ゼッツー)を駆ったこの作品で、一躍バイク好き青少年の間でヒーローとなった。
本作での岩城は自動車修理工場で働く勤労青年。本来はツルむのを嫌う一匹狼だが、その男気とライディングテクニックを慕って集まってきたバイカーによってチーム「ブラックパンサー」の頭に祭り上げられる。それを快しとしないチームとの抗争に恋やセックスがからむという、いかにもアウトローに憧れる青少年が好みそうな、そして世の良識派が眉を顰めそうなストーリーだ。
映画としての評価はB級娯楽作品以外の何物でもないのだが、バイク好きの間での人気はいまだに高い。その理由は岩城がホンモノのバイカーだったこと。ファンから「岩城仕様」とか「爆発仕様」などと呼ばれている黒づくめのZ2は彼の自前だったそうだが、ライディングシーンもすべて自身で演じている。そうした作中で見せる彼のバイクの扱いや身のこなしに、バイク好きはホンモノの匂いを嗅ぎ分けたのだ。惚れ込んで「岩城仕様」のレプリカを作る者も少なくないという。
これについては、以前にバイク雑誌の取材で岩城氏に会った際に興味深いエピソードを聞いた。転倒するシーンで壊れてもいいように、Z2のミラーを「何か安くてダッサいヤツ」に替えてあったそうだが、後年になって「岩城仕様」を目論むマニアのおかげで、絶版となっていたそのミラーの部品価格が高騰したというのだ。本人も「よく見てるよねえ」と感心していたが、“マニア恐るべし”である。
沼田 亨(ぬまた とおる)

1958年、東京生まれ。楽器メーカー、オーディオメーカー勤務を経て、フリーランスのライターに。クルマを中心に音楽、映画、テレビ、ファッションなど昭和の時代風俗・大衆文化に独自のこだわりを持つ。「CAR GRAPHIC」(カーグラフィック)、「webCG」(日経デジタルコンテンツ)、「Oldtimer」(八重洲出版)などに自動車関連記事を寄稿。著書に「新聞広告でたどる60〜70年代の日本車」(三樹書房)。 |
|

前へ 7/9 次へ  |