それはあなたの中に潜んでいる

はじめまして。
村上さんの小説を愛読している者です。以前、村上さんが、「書きたいことがあって小説を書くのではない」といった発言をされているのを読みましたが、書きたいことがなくても小説を書く、その原動力は村上さんにとってどんなものだとお考えですか? また、ご自分の中から出てきた最初のアイデアや文章が、小説になる、と感じる瞬間には、どんなことが起きていますか? 私自身も小説を書こうとしていますが、よく書きあぐねます。書きたいことがあるというより、ぼんやりとある書き表したい雰囲気やイメージを言葉にしたい、という衝動があります、が、まだいい形になりません。

村上さんは、自分のために書くとか、自分を信じて書くとか、考えたことはありますか? お聞きしたいことは山ほどあります。お返事をもらえたら、嬉しいです。
(祝祭男、男性、35歳、教師)

「これを書きたい!」と思って書き始めると、小説ってなかなか書けません。マテリアルが重すぎると、それを背負って進むのがつらくなります。それよりは軽い足腰が大事です。マテリアルのことはあまり考えないで、まず文章を書くことによって、自分の中にあるものを少しずつ引き出していくといいのです。あなたの中には描かれるべき何かが確実に潜んでいます。小説を書くというのは、それを見つけていく作業です。最初から目に見えているものを見つけたって、あまり意味はありません。

ということでよろしいでしょうか? わかりにくいですか? 

村上春樹拝