運転手奪い合い深刻/被災地のバス事情(中)/かすむ復興
<慢性的に不足>
「いつでも辞めてやりたい気分だ」。仙台市の宮城交通に勤める男性運転士が不満をにじませる。入社して5年以上。いまは路線バスのハンドルを握っている。
早朝や夜間の勤務に加え、土日も休みになるとは限らない。高速バスの担当になれば深夜勤務が待っている。乗客の命を背負う毎日に、肉体的、精神的なストレスが積み重なる。「忙しすぎてリフレッシュできない。何とかぎりぎり体調を保っている」。男性が疲れた表情を見せた。
負荷の理由は明確。慢性的な人手不足だ。東日本大震災後、復旧復興工事に投入されるトラックなどのドライバー需要が急増した。近年、バス業界から転身を図る人が後を絶たない。
大型二種免許があればバスもダンプカーも運転できる。資格を持った求職者は限られており、宮城交通の採用担当者は「建設業界との奪い合いだ」と嘆く。
<待遇格差響く>
同社では年間数十人が退職し、通年採用で補充する状態が続いている。入社後の免許取得を後押ししたり、女性枠を増やしたりしても定員は埋まらない。昨年11月に路線の便数を3%減らしたほか、高速、観光バスの減便や運休で何とかしのいでいる。
運転士が流出する要因として挙げられるのが待遇の格差だ。
国の調査では、宮城県内の営業用バス運転士の月給は27万3600円(2013年)。トラックなど営業用の大型貨物運転手の32万9700円との開きは大きい。
交通関連の労働組合関係者は「規制緩和によって長距離バスが過当競争になったのが痛い。従業員に利益を還元できない構造になっている」と指摘する。
<沿岸部を優先>
被災地の鉄路復旧の遅れも苦境を深める要因になっている。不通区間にはそれぞれ代行バスが設定されており、限られた人材を振り向けなければならない。
「復旧への貢献は公共交通機関の義務。マンパワーに余裕はないが、沿岸部には優先的に対応せざるをえない」。岩手県内56社が加盟する県バス協会(盛岡市)の高橋聖一専務は話す。
復旧・復興工事が終われば求人環境の改善が見込めるとはいえ、業界の憂いが晴れるわけではない。「地域再生の先行きが見えない。路線撤退が相次ぐ事態になれば、いずれ人員過剰になる恐れも拭えない」。高橋専務が表情を曇らせた。
2015年02月16日月曜日