2月5日からチューリッヒ、ローザンヌ、ダヴォスの計3都市で行われた「アート・オン・アイス」も、昨日いよいよ千秋楽を迎えた。
演劇でも、ダンスでも、そしてアイス・ショーでも、千秋楽は特別なものだ。
(個人的には、もしお財布と時間の両方のゆとりがあるなら、初日と千秋楽を観るのが好き。)
で、昨日は少し落ち着かなかった。千秋楽だけでも特別なのに、アフター・ショー・パーティーがあったからだ。
わずか数年のフィギュアスケート・ファンで、海外観戦・鑑賞もわずかに4回目――これでも0回の知人には「多い!」と言われる(笑)――という私にとって、「オフィシャル・ホテル」の重要性などさっぱりわかっていなかった。
だから利便性を重視して、ダヴォスでは会場近くのホテルをとっていた。
ところが、一昨日偶然にもオフィシャル・ホテルに迷い込み、目の前を通るスケーターに驚き、さらにその後知ったのはアフター・ショー・パーティーの開催。ツアー中、すでに何度か開催されているらしい。
(ふ~ん、こんなのがあるんだ。でも、どうせ関係者だけしか出られないのよね?)
一応フロントで聞くと、最終日もまだ何枚かチケットが残っていて、会費さえ払えば一般の人でも出られるとのこと。
早速、会費を払った。(笑)
すると、こんなリストバンドをされた。ソチでも経験した「一度つけるとハサミで切らない限りとれないリストバンド」だ。
(洗面やシャワー、明日まで一体どうするの!?)(苦笑)
防水でもないリストバンドをほぼ1日手首に巻いて過ごし、千秋楽の会場へ。
一昨日は北側のほぼセンターだったが、昨日はそこから数席左に寄ったやはり1列目。
(ついてる!)
会場の様子はこんな感じ。私が観たダヴォス公演二日間とも超満員だ。
写真は、今回のプログラムと、終演後出口で配られるお土産のチョコレート。
プログラム内容は一昨日とまったく同じだったが、見飽きることはない。構成演出がしっかりとしていて、そこに超一流のスケーターの個性が乗れば当然のことだ。
昨日のレポでは「高橋大輔さんを観に来たので」と高らかに「宣言」したが、実はほかにも気になるスケーターはいる。(笑)
たとえば、ダンスの観点から気に入っているフロラン・アモディオ選手。ジャンプの調子がこのところずっと悪いのが気がかりだが、キレと表現はすごい。
(実を言うと、昨年のソチ・オリンピックの男子シングルで、私は3回泣く羽目になった。怪我で棄権を余儀なくされたエフゲニー・プルシェンコ選手、怪我が治りきっていない中で今できる最高の演技を見せてくれた高橋大輔選手、そしてジャンプが思うように飛べずキスクラで泣き崩れたフロラン・アモディオ選手だ。)
また、「プリンス・アイス・ワールド」でいつも見慣れていたはずのフィオナ・ザルドゥアさん&ドミトリ・スクハノフさんの演技。彼らにテクニックがあるのは重々わかっていたが、演出によってここまで彼らが「水を得た魚」になるとは……。脱帽!
また、昨日のカロリーナ・コストナー選手とダンサーとのコラボレーション「Broken Strings」も刺激的だった。一本の紐によって繋がれた二人が氷と舞台で同時に行うパフォーマンスは、フィギュアスケートの可能性を拡げるようにすら感じた。
そして第2部の最後のステファン・ランビエールさんのソロ・プログラム「Try」もさすがだった。長丁場のツアーで疲れも出ているはずなのに、完璧な演技。しかも気品ある衣装がよく似合う。
もともとアイス・ダンスやペアが好きな私には、テッサ・バーチュー選手&スコット・モイアー選手やタチアナ・ボロジャール選手&マキシム・トランコフ選手の演技も夢中で観た。
で、高橋大輔さんはどうかといえば、昨日の第1部のタンゴで私は不覚にも大泣きしてしまった。最初のフリップの着氷がどうのこうのなど、私には一切関係ない。
あのピアソラのタンゴを、「最後だといって力むことなく」「とても滑らかに」「情感たっぷりに」演じてくれた。これが高橋大輔! 唯一無二のスケーターだ。
申し訳ないが、その後の4つのプログラムはずっと泣きっぱなしで、よく見えなかった。(苦笑)
休憩に入ったので、近くにいらした高橋さんのファンの方に感想を伺うと、大泣きしたのはどうやら私だけだった。
(恥ずかしい……)
2部の高橋さんのコラボ・ナンバー。昨日に続き感動した。恐ろしいまでの才能!
(高橋さんは残念なことに、まだご自分の才能に気づいていないと思う。)
また、ソロ直後のグループナンバーで、高橋さんがほかのスケーターとまったく違うところを発見した。首の使い方だ。
ネリー・フルタードさんが歌う舞台下に座り、全員で手で舞台をたたくシーン。たとえ無音にしたとしても首をやわらかく使える高橋さんからは、音楽が聞こえてくるだろう。
フィナーレでは、全員がやりきった安堵の表情を浮かべていた。高橋さんとアモディオ選手がいっしょに滑るシーンは、二人共嬉しそう。
(私まで嬉しい。)
終了後、アフター・ショー・パーティーに出席するため、オフィシャル・ホテルまで徒歩で向かった。
会場へ。日本人のみなさんは、きちんとしたドレス姿でアクセサリーもしていらっしゃる方が多い。スケートと雪道のことだけで、パーティーのことなどまったく頭になかった私は、ドレスやアクセサリーはみなパリにおいてきてしまった。で、パリで買ったチュニックワンピースをジーパンの上に着て参加した。(涙)
まずはシャンペン。次に赤ワイン。つまみはあまり種類がなかったが、鶏肉入りライス・サラダ、ソーセージ、ポテト・サラダなどをいただく。
周りは、ロシア語でごいっしょだったWさんとMさん。また、一昨日「シュナイダー」でごいっしょした3人の方、昨日「シュナイダー」でごいっしょしたKさんなど。
スケーターの方も次々に着替えを終えて、パーティー会場にいらした。
ステファン・ランビエールさんとは前日は英語で話したが、もう酔っていて英語を話す気力がなく、フランス語で話してみた。
「ステファン、『アート・オン・アイス』大成功じゃないですか。おめでとう! そして、素敵なショーをありがとう!」
「成功かな? 嬉しいよ。ありがとう!」
ショーの成功がよほど嬉しかったのか、ランビエールさんは見ず知らずの私の手もぎゅっと握ってくださった。
そうこうするうち、赤ワインがなくなったので生ビールでももらおうと、カウンターへ。すると、「野村さーん、早く早く!」と数人からいっせいに声がかかった。
どうやら、シャワーを浴び、着替えを済ませた高橋大輔さんが会場にみえたようだった。
このダヴォス公演の千秋楽のアフター・ショー・パーティーには、「追っかけ歴」11年以上を誇る方が多い。新参者の私が昼間バラの花束を買ったことをそうしたみなさんが覚えていてくださり、直接手渡せるよう協力してくださったのだ。
(感謝!)
入口のほうに行くと、まるでイタリアかスペインの伊達男のようにビシっとキメた高橋さんの姿があった。
ドジな私は、花束を取りに行っても手が震えてなかなかつかめない。やっと手にして、すでにカウンター前に移動した高橋さんのほうへ。みなさんが道を開けてくださったので、近くまで行き、蚊の鳴くような声で言った。
「だいちゃん、お花……」
「え、ほんと? ありがとう。」
目の前に、これまで私の見たことのないあまりにも穏やかな高橋さんの顔があった。
それからは、話しかける人、サインを頼む人で会場は少し混乱しかかったが、高橋さんが巧みにファンの人を廊下に誘導し始めた。(驚)
で、みんなで何をしたかというと記念撮影。ツーショット、スリーショット、その他さまざまな組み合わせで高橋さんとの撮影を行った。
その一部始終を写真に撮らせていただいたが、なにしろ高橋さんは「誘導係」も兼ねていたため、動いてしまってブレている写真も多い。(笑)
比較的ブレていないものを2枚、下記にご紹介させていただく。
高橋さんは撮影を終えると、奥の「スケーターズ・ルーム」に向かわれた。その様子を見て、「よかった」とおっしゃる方が多かった。なんのことかわからず伺うと、「高橋さんは英語の問題もあってあまりほかのスケーターと交流しない人だから、スケーターズ・ルームに行ってくれてよかった」のだとか。
(なるほど。)
また、ファンのみなさんによると、「一般の人がいなくなってスケーターがくつろげるのは午前2時ぐらいからかしら?」とのこと。「残念ながら、明日のことを考えてそろそろ失礼します」と告げ、一人会場を後にした。
実を言うと、私はもともと丈夫なので翌日のことなんか全然平気。つまりウソだった。(笑)
千秋楽を観て、お花を受け取っていただき、ご好意で写真までいっしょに撮らせていただけた。あとはホテルに戻り、すばらしかった「アート・オン・アイス」の余韻に浸りたかっただけなのだ。
時間はすでに午前1時を回っていた。気温マイナス5度。雪道のサクサクとした音と足の裏の感触が、また涙を誘った。
「私は、きっとダヴォスに泣きに来たんだ」と感じた。