わさっき RSSフィード

2015年02月14日

[] 単位の換算

いきなりですが問題です.

求める式と答えを書きましょう.

(1) 1時間は,60分です.2時間は,何分ですか.

(2) 240分は,何時間ですか.

さっそくですが解答です.(1)は,1時間が2つということで,60×2=120 答え120分です.(2)は,240÷60=4 答え4時間です.

さらにですが問題です.

(3) 48分は,何時間ですか.

(4) 0.4時間は,何分ですか.

分を60でわれば,時間になるのですから,(3)は,48÷60=0.8 答え0.8時間となります.

時間を分にするのは,その逆演算とみて,60をかけるとしましょう.そうすると,(4)は,0.4×60=24 答え24分です.

こうして並べたときに,(2)と(3)はともに「60でわる」によって答えを求めていますが,(1)では60がかけられる数,(4)ではかける数となっています.

このような式の多様性は,Vergnaud (1983, 1988)を知っていればスムーズに理解できます.(1)の式は,1時間の2倍です.累加で60+60=120と求めることもでき,これもまた,60×2の根拠となります.

それに対し,(4)では,「時間」の量空間をイメージすることからはじめます.「何時間」で表される数量すべてからなる集合です.次に,「分」の量空間も,同様にイメージします.

それらの量空間の仲立ちとなるのが,「時間の値を60倍すれば,同じ(時間的な)長さの,分の値になる」という性質であり,略すと「時間に60をかければ,分になる」です.その逆演算は,「分の値を60分の1にすれば,同じ(時間的な)長さの,時間の値になる」であり,「分を60でわれば,時間になる」です.

ここで60倍というのは,1時間=60分,2時間=120分,0.8時間=48分など,同じ(時間的な)長さになる2つの数量を対応づけるものとして,どちらかというと帰納的に,成立することを知っておく必要もあります.そういった対応づけは,小学校の算数では4年や5年で学習するとされています.

「空間をイメージ」を,小学校の算数で実現するには,対応表です.

f:id:takehikom:20150214074411j:image

かけ算・わり算の関係をつけると,以下のように表せます.

f:id:takehikom:20150214074416j:image

大人の世界では,ここまでの議論をもとに,(1)には2×60の式,また(4)には60×0.4の式を,それぞれ立てて答えが求められると言ってもいいのですが,Vergnaud (1988)で取り上げられている,おもちゃの車の問題をふまえると,(1)に対して2×60は,低学年の子どもたちにはなじみにくいかもしれません.

ここでさらに,問題です.

「0.4時間は,何分ですか.」をかけ算で求めるとき,何がかけられる数,何がかける数であるべきでしょうか.

優等生的な解答はというと,60×0.4でも0.4×60でも求められるので,「どちらでもいい」なのですが,ここに,出典を挙げて一つの答えを導出せよ,という条件をつけ加えるなら,60をかけられる数,0.4をかける数にするのが良さそうです.

参照するのはGreer (1992)です.乗除算のモデル表の"Measure conversion"に着目します.そして表の,他の内容と合うようにするなら,60をかけられる数*1,0.4をかける数に対応づけるのが自然です.

「0.4時間は,何分ですか.」をもとにすると,乗除算の問題文は,次のように書くことができます.

  • Multiplication problem:1時間は,60分です.0.4時間は,何分ですか.
  • Division (by multiplier):0.4時間は,24分です.1時間は,何分ですか.
  • Division (by multiplicand):1時間は,60分です.24分は,何時間ですか.

Greerの表にはかけ算・わり算の式はこうだと明記されていませんが,上の2番目の文章題から,24÷0.4=60と書くことができ,0.4が,multiplier=かける数です.また3番目の文章題は,24÷60=0.24という式になり,60が,multiplicand=かけられる数です.

ここから,Greerの文献を離れた考察をします.3つの文章題を書きましたが,2番目の「0.4時間は,24分です.1時間は,何分ですか.」には違和感があります.「1時間は何分かなんて,60分だよ,『0.4時間は,24分です』は,いらないよ」とツッコめるのです.

算数でそんな問題を出すわけにいかないからと,取り除いたら,「0.4時間は,何分ですか.」のタイプと「24分は,何時間ですか.」のタイプが,時間・分の相互換算の問題として考えられます.実質的に,1つのかけ算に1つのわり算という関係になります.

このことは,「分を60で割ると時間」「時間に60をかけると分」---「60に時間をかけると分」ではなく---という公式に至る理由となるようにも思います.


本日の記事を書こうと思ったきっかけは:

乗法ではかえって同一単位の量どうしの積の意味が薄いようです.縦の長さ×横の長さ=長方形の面積 といった公式も,縦の長さ(側長)と横の長さ(幅)を別種の量と見て,その積によって面積(という新しい量)を定義する,とでも考えたほうが理解しやすいかもしれません.単位の換算も,Aの単位=BのC単位*2 という換算率が明確なら,A,Bそれぞれで測った量a,bに対し,a=b×cという公式で換算できます.第3章で述べる分数も「単位の換算」という一面があります.教育上ではこの種の自由な発想・解釈を許容すべきです.

(『数の世界 (サイエンス・パレット)』p.41)

それと,http://togetter.com/li/742591のコメントにも「単位の換算」のやりとりがあります(takehikomの名前でコメントしています).

*1:「パー書きの量」と見るのも可能です.実際,「1時間は60分である」という命題を,「60分/時間」という値で表せます.

*2:右辺は「Bを単位としてそのC倍」なのか,「B倍のC単位」なのか,文脈から判断できませんでした.以前に「「6×5円」では「6×(5円)」か「(6×5)円」か曖昧なので,「5円×6」または「6円×5」と書けば,同じ字数で曖昧さを解消できるのではないか」と書いたのを,思い出しました.

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150214/1423867877
リンク元