財政再建の道のりがいかに険しいか。内閣府による試算がそのことを物語る。

 目標は、基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化だ。毎年度の財政で、過去に発行した国債の元利払い分には新たな国債発行を認めるが、社会保障や公共事業などの政策経費はその年度の税収を中心にまかなう。これが黒字化だが、今年度は国・地方の合計で25兆円強の赤字だ。

 試算は示す。アベノミクスが奏功し、名目成長率が毎年3%程度になる「経済再生」ケースを想定。税収が伸びても、予算を今の仕組みのまま計上していけば20年度のPBは9兆円強の赤字が残る。成長率が1%台にとどまると赤字は16兆円強になる。いずれも17年度からの消費増税を前提にしての数字だ。

 財政の再建には、成長に伴う税収増、税制改革による増税、歳出の抑制・削減の三つしか手段はない。経済再生ケースの成長率は、民間調査機関の見通しと比べても高めだ。残るのは、増税と歳出抑制・削減という、国民への「苦い薬」である。

 首相には、反発を恐れずに処方箋(せん)を示す覚悟があるか。20年度のPB黒字化に向けた具体的な計画づくりが政府・与党内で本格化してきたが、まずはその点を注視したい。

 政権は当面、歳出の見直しを優先させる構えだ。試金石となるのは社会保障分野である。国の新年度予算案では31兆円強、全体の3分の1を占めるうえ、国民の関心は高い。

 首相は施政方針演説で「経済再生と財政再建、社会保障改革の三つを同時に達成していく」と断言した。だが、社会保障分野の具体策は、難病患者への助成拡充や認知症対策の推進、子ども・子育て支援新制度など「充実」ばかりだった。

 いずれも不可欠な対策である。しかし、そのための財源が足らず、国債発行を通じて将来の世代に負担のつけを回しているのが現状だ。そこにどうくさびを打ち込むのか。高齢者でも所得や資産が多い人には給付減や負担増を受け入れてもらうことが避けられないはずだ。

 社会保障だけではない。「聖域なき見直し」は政権の口癖だが、問われるのは実行である。

 国会に出した新年度予算案は、既に成立した今年度の補正予算とともに景気への配慮を最優先させた内容だ。が、原油値下がり効果の広がりとともに環境は様変わりしている。

 新年度予算案を見直し、財政再建への出発点とする。そのぐらいの姿勢を見せてはどうか。