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「イスラム国」日本人殺害で
メディアが肝に銘ずべき教訓

――板橋功・公共政策調査会 研究室長

板橋功
2015年2月9日
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 そのこともあり、第三段階のメッセージでは、「後藤さんとリシャウィ死刑囚との1対1の交換」を改めて強調し、「ヨルダンのパイロットの殺害」にまで言及したものと見られる。このとき「パイロットを後藤さんより先に殺害する」と言ったのは、ヨルダン国王が「リシャウィ死刑囚と交換するなら、カサスベさんの救出を優先する」と表明したため、日本政府と駆け引きができなくなってしまうことを、防ぐためだろう。こうして考えると、やはり第一、第二段階の声明はある程度計画的であり、また第二段階以降の声明は日本の動向を見ながら、それを反映してつくられているように感じる。

 その後、2月1日のタイミングで後藤さんと見られる男性の殺害映像を公開したのは、リシャウィ被告の解放と交換条件にしていたカサスベさんが生存している証拠の提出をヨルダン政府から求められ、それを示すことができずに、「このへんが引き際だ」と考えたのだろう。実際、イスラム国は2月4日にカサスベさんと思われる男性の殺害映像を公開したが、ヨルダンの国営テレビによると、カサスベさんは1月初頭にすでに殺害されていた可能性が高いという。

 今回の人質殺害事件で出された声明の背景を分析すると、おおむねこんな流れではないかと推察される。まさに、死者をも利用した狡猾かつ巧妙な計画であったと言える。

狡猾かつ巧妙な許せない暴挙
日本人が教訓にすべきこと

 今回のようなテロ行為は、断じて許されるべきものではない。ただ、日本人が意識すべき教訓も少なくない。1つは、日本のメディアも結果的に事件の当事者になっていた、ということである。イスラム国はインターネットを通じて、日本の報道を細かくチェックしていたはずだ。新聞やテレビの報道内容がインターネットに活字で掲載され、翻訳ソフトを使えば、その内容がすぐに英語の活字になる時代であり、メディア戦略に長けている彼らにとって、日本の報道を知ることはたやすい。今後メディアには、こうしたケースにおいて慎重な報道が求められるのではないだろうか。

 もう1つは、この人質事件に関わっていたのは、我々が普段イメージするイスラム国の指導者や戦闘員たちだけではない可能性もある、という認識を持つことだ。おそらくイスラム国の背後には、イラクの旧フセイン政権時代の官僚や、バース党(シリア、イラクなどのアラブ諸国で活動する汎アラブ主義政党)の幹部などで、外交や情報戦略に長けた人物がいるのではないかと思う。傍目から見る限り、各国の外交戦略なども考慮に入れながら、実に厄介で巧妙な作戦が練られているように思えてならないからだ。

 それでは、今後日本人は、イスラム国の脅威にどう対処したらいいのだろうか。第五段階の映像では、後藤さんと思われる男性の横に立つ黒ずくめの男が、日本がイスラム国と戦う連合に参加したことが後藤さん殺害の理由であり、「これからも日本人を場所を問わずに狙う」と語った。これをきっかけに、「日本はテロとの戦いに巻き込まれるのではないか」と日本中に不安が漂っている。

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