理由は第一に、これらはイスラム国による「交渉引き伸ばし作戦」であった可能性が高い。彼らにとっては、今回の人質拘束で自分たちが失うものは何もなく、得るものしかなかった。より大きな利益を得るためには、時間を引き延ばしたほうがいいと考えたのだ。始めから、「あわよくば交渉を成立させて得をする。だけどうまくいかなくてもいい」という考えだったのではないか。
たとえば第一段階の声明を発したとき、彼らには本気で巨額の身代金を要求する意図はなかったと思う。240億円もの大金は到底身代金のレベルではなく、日本政府が飲めないことは明らかだったからだ。また、第二~第四段階の声明で主張したリシャウィ死刑囚とカサスベさんの交換を、本気で実現したかったかどうかも疑わしい。
唯一明らかな目的があったとすれば、世界に向けて組織をPRすること、プロパガンダであろう。それから、欧米に協力する日本人や日本政府に恐怖心を植え付けること、そして日本というカードを使ってヨルダン政府を弄ぶことだったろう。
第三段階以降の声明はハプニング
イスラム国の「心の動き」を読み解く
第二に、第三段階以降の声明は、イスラム国にとってハプニングのような形で出されたものではないか。それには、日本のマスメディアによる報道の在り方が大きく関わっていると、私は見ている。「この事件をコントロールしているのは、全部自分たちだ。なのに、なぜ自分たちが知らないところで勝手な報道が出るのか」と、彼らはフラストレーションを感じていた可能性が高い。
たとえば彼らは、第二段階の声明を出した後に、日本のメディアが行った一連の報道を見て、「正しく報道されていない」「疑いの目を持ちすぎだ」という思いを強めたかもしれない。事件が起きてから日本のメディアは、「湯川さんと後藤さんの映像は本物なのか」といった分析を、延々と報道した。「日本人の1人を殺害したと言っているのに、日本人は自分たちの言うことを信用していない」という憤りを、彼らは感じたのだろう。湯川さん殺害を伝えた第二段階の声明の後に、わざわざ自らのメディアを使って、「自分たちがやった」と表明している。第五段階で、後藤さんと思われる男性の殺害映像が公開されたときも、同様のメッセージが出された。
また、彼らのフラストレーションをさらに高めたかもしれないのが、日本のメディアが「後藤さんとカサスベさん、リシャウィ死刑囚との2対1の解放だ」「いや、カサスベさんとリシャウィ死刑囚の1対1だ」といった、憶測に基づく様々な報道を行ったことだ。イスラム国側は、「自分たちはパイロットのことなんて、ひとことも言っていないじゃないか」と感じただろう。