なぜ最悪の結果につながったか?
「5つの声明」に隠された意図
第一段階では、日本時間の1月20日、イスラム国のメンバーが湯川さん、後藤さんと思われる男性2人と共に映像に登場し、日本政府に向けて「72時間以内に2億ドル(約240億円)の身代金を支払わないと、2人の人質を殺害する」という声明を出した。
続く第二段階では、身代金の要求が取り下げられ、人質の交換へと要求が変わる。日本時間の1月24日深夜に、後藤さんと思われる男性が、殺害された湯川さんと思われる男性の写真を掲げる映像がインターネット上に投稿され、後藤さんとされる声で「湯川さんを殺害した」という声明が出されたのだ。
さらにこの声明には、後藤さんを釈放する代わりに、2005年にヨルダンの首都アンマンで多数の死傷者を出した自爆テロの実行犯として収監されているサジダ・リシャウィ死刑囚を釈放しろという、交換条件の要求もあった。リシャウィ死刑囚はイスラム国の前身組織のメンバーで、彼らにとって象徴的な存在であった。
第三段階の声明は、1月27日に出された。後藤さんとリシャウィ死刑囚の「1対1の交換」を要求し、ヨルダン政府が要求に応じなければ、ヨルダンが解放を求めている空軍パイロット、ムアス・カサスベさんを後藤さんより先に殺害するというものだ。ここで初めて、ヨルダン兵の名前が出てくる。
続く日本時間の1月29日、後藤さんを名乗る男性の声で、第四段階目の声明が出される。内容は、リシャウィ死刑囚を29日の日没(日本時間の29日深夜~30日未明)までにトルコとイスラム国支配地域との境界に連れてくるよう要求するものだ。要求が実行されなければ、拘束しているカサスベさんを殺害すると予告した。
そして第五段階目の声明では、最悪の事態が告知された。日本人に恐怖を与えるメッセージと共に、後藤さんと見られる男性が殺害される様子を映した映像が、日本時間の2月1日早朝、インターネット上に公開されたのである。
これが「日本人人質事件」の顛末だ。一連の声明は要求内容の変化など、一見不可解に見えるものの、かなり狡猾(こうかつ)かつ巧妙(こうみょう)だ。また、声明の多さも特徴的だ。彼らが外国人を人質にとって、ここまで交渉を長引かせることは今までなかったし、人質を殺害したときに公開した声明や映像は、今回のケースに当てはめると、第一段階、第五段階のタイプのものだけだった。もかかわらず、今回第二、第三、第四段階のようにイレギュラーとも言える声明や映像を、なぜ彼らは出したのか。