理研OBの石川智久氏が、兵庫県警に小保方氏を刑事告発した。告発状によると、「小保方氏が名声や安定した収入を得るため、STAP論文共著者の若山照彦教授の研究室からES細胞を無断で盗み出したなど」とのことである(http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/ann?a=20150126-00000039-ann-soci)。

 

 124日の「追加記事」では、「有志の調査委員会」の行動に問題がある可能性を指摘したが、ここでは、小保方氏がES細胞を若山研究室から無断で盗み出す理由が存在しないことを説明したい。

 

事実1.桂不正調査委員会は、小保方氏および若山氏が保存していたSTAP幹細胞、FI幹細胞、および関連するES細胞を分析した。また桂委員会はAcrosinを持つES細胞を取り寄せて解析している。

 

合理的推論. 保存細胞の中には、窃盗されたとされる「ntES BOX Li」細胞も含まれていたはずである。当然、分析され、その結果は桂不正調査委員会報告書の3ページに記載されている細胞のいずれかである。また、Acrosinを持つES細胞の提供者はおそらく大田氏であったと推測される

 

事実2.分析から、STAP幹細胞FLSおよびFI幹細胞CTSFES1細胞(Acrosinを持つES細胞)STAP幹細胞GLSGOF-ES細胞(Oct4を持つ、B6由来細胞)、STAP 幹細胞 AC129、並びに、STAP幹細胞FLS-T1FLS-T2 129B6 F1ES1細胞(CAG-GFP)に由来すると結論された。

 

事実3. 保存ES細胞の中で「核移植」で作られたものは、GOF-ES細胞(Oct4を持つ、B6由来細胞)のみである129/GFP ES細胞の作製法は不明であるが、解析の結果から、FES1細胞(Acrosinを持つ、129/B6マウスの受精卵から作製)に由来すると結論されている。また、とり寄せられたntESG1ntESG2の「X染色体はC57BL/6であることが判明したことから、調査対象のSTAP幹細胞 FLS3FI幹細胞CTS1と性染色体の構成が異なる」(桂不正調査委員会報告書5ページ)。

 

事実4ES細胞は培養して増やすことができる。

 

結論.結論は一つしかありえない。すなわち、「ntES BOX Li」細胞はGOF-ES細胞である。この細胞は、「小保方氏から、当該メンバーに対し、STAP細胞の研究でコントロールとして使用したい、との依頼があり、培養皿ごと ES 細胞 GOF-ES が小保方氏に手渡された」(桂不正調査委員会報告書7ページ)ので、小保方氏は「ntES BOX Li」細胞を所有していた。細胞は増やせるので盗む理由が存在しない。

 

 ここまで自明でも、「ntES BOX Li」細胞がGOF-ES細胞であることを納得できない人のために、「「ntES BOXLi」細胞がGOF-ES細胞でない」と仮定して話を進める。

 

 「ntES BOX Li」細胞がGOF-ES細胞でない」とすると、残る候補は129/B6 F1ESと上に述べた129/GFP ES細胞の2つである。

 

事実1129/B6 F1ES細胞は若山氏が作製した。

推論1.若山氏が樹立した129/B6 F1ES細胞(受精卵由来なので、「nt」ではありえないのだが)をLi氏が培養してストックしたという可能性はゼロではないが、それならば、6月の会見で若山氏がそのことについて言及しているはずである。

 

事実2129/GFP ES細胞の由来は不明であるが、上述したようにAcrosinを持つ。若山氏は6月の会見で、Acrosinを持つES細胞が若山研究室に存在することを言及しなかった。

推論2.「ntES BOX Li」細胞がAcrosinを持つES細胞(おそらくこれも受精卵由来なので、「nt」ではない)であったなら、大田氏が転出した後にも若山研究室ではAcrosinを持つES細胞を培養していたことになる。当然、若山氏も知っていたはずである。

 

結論.「「ntES BOX Li」細胞がGOF-ES細胞でない」とすると、若山氏が故意に事実を隠蔽していた可能性が高く、そうなると真犯人の可能性が出てくる。

 

 上述のように小保方氏が「ntES BOX Li」細胞を窃盗する理由は存在しない。石川氏は窃盗の理由が存在しない小保方氏を告発した。告発の理由は、強制調査権のある警察に調査してもらい、ES細胞の混入者(すりかえ者)を捜してもらうためであろうが、これは別件の目的の告発であり、窃盗の動機の無い者を告発するという行為は行き過ぎだ。虚偽告訴罪のおそれすらある

 

 「ntES BOX Li」細胞は、小保方氏が独立する時に間違って若山研のフリーザーから持っていったか、あるいは引っ越しの整理の時に小保方氏に一時的に預かってもらっていたのを忘れている可能性があるのではないだろうか。また、山梨大学へ持っていくことになっていた大切な細胞ならば、紛失した時に、「小保方さん間違って、うちのフリーザーから細胞ボックスを持っていかなった?」という問い合わせをするのが当然だ。引っ越しの整理をしている時に、一時的に他のフリーザーに細胞ストックを置いてもらうということはあり得ることなので、「山梨大学に引っ越した時に、ES細胞ボックスが紛失したのだけど、もしかして小保方さんに預かってもらったというようなことはない?」と聞くだろう。もしそういったことが行われ、小保方氏が「知りません」と答えていれば、窃盗の可能性もありえるが、小保方氏の疑惑を無理矢理こじつけようとしたNHKスペシャルでも報道されていなかったので、そのようなコミュニケーションはなかったのだろう。

 

 最後に一言。私は小保方批判派からも擁護派からも批判を受けるが、主張は一貫している。51日付けの記事では、「再現できなければ、「画像の改ざんと捏造」という結論」と記載した。

 

 誰かがES細胞を混入させた(すり替えた)ことに関しては疑いの余地はない。幹細胞作製には小保方、若山氏の両名が関与し、第三者が培養のタイミングを見計らって混入させることは極めて難しい。そうなると二人のうちのどちらかである。そして、GFPが光る(細胞の初期化)かどうかの実験は小保方氏のみが関与し、小保方氏は実験の再現ができなかった。そうなると、2名のうちでは動機が生じている小保方氏がすり替えを行ったと考えるのが「合理的」である(それが真実かは100%ではない)。懲戒処分は「合理的」判断で十分行えるであろうし、それに対して小保方氏が裁判を起こしても、「合理性」と「実験記録が保存さていない場合には、不正と見なすことがある」という文科省のガイドラインで理研が負けることはないだろう。

 

 一番問題なのは、適切な処分を行わずに退職を認めてしまった理研の野依理事長である。石川氏が訴えるなら、野依理事長を不作為で訴えるべきであろう。