このブログのコメント欄には、STAP騒動に関して様々な観点からのコメントが寄せられているが、やや混乱している感がある。 

 研究で行き詰った時には、データを最初から見直すというのが鉄則である。ここでもこの騒動の初期の動向について振り返ろう。このブログで既に述べたことも含まれるが、その点はご了解いただきたい。また、この記事については、追加・訂正があるかもしれないことを最初に述べておく。 

 STAP騒動の初期の動向(41日まで)については以下のブログで詳しく述べられている(http://stapcells.blogspot.jp/2014/02/blog-post_5586.html)。発端は、画像に不自然な点(TCR組換えの証拠として示された電気泳動の図に画像切り貼りが認められることを含む)があることや、論文方法の記載にコピペがあるということであり、通報(実際には、「研究論文に疑義があると連絡を受けた研究所職員が役員を通じて監査・コンプライアンス室に相談」)を受けた理研は、石井氏を委員長とする調査委員会を2月13日に発足させた。その調査中に「テラトーマ画像」が小保方氏の博士論文と酷似していることが発覚し、また世界中の研究者が小保方氏の実験結果を再現できないという結果が公表されていく。石井委員会は3月14日に中間報告を発表し、4月1日には最終報告書を示し、「電気泳動画像」を改ざん、「テラトーマ画像」を捏造と認定する(石井委員会の問題点については、7月29日のブログ記事で詳しく述べているので参照されたい)。小保方氏は4月8日に不服申し立てを行なったが、5月7日付に調査委員会に却下されている。

最終報告を受けて理研は「研究論文(STAP細胞)の疑義に関する調査報告について」を発表する(http://www.riken.jp/pr/topics/2014/20140401_2/)。そこでは、(1)不正者の処分と論文取り下げの勧告、(2)不正防止への取り組み、(3)「検証実験」が表明される。「検証実験」は同日にその概要が発表され(小保方氏ぬきでの「検証実験」については、63日のブログ記事でその問題点を批判している)、4日には研究不正防止改革推進本部が設置され、9日には岸輝雄氏を委員長とする研究不正防止のための改革委員会が設置されている。

 理研(野依理事長)が行った最大の問題点は、不正と認定された者が不服申し立てを行い、それに関してまだ結論が出ていない段階で「不正者の処分」や、不正者ぬきの「検証実験」の実施を発表したことである。これは理研の「科学研究上の不正行為の防止等に関する規程」に対する違反行為であろう。不服申し立てに対する委員会結論が出る前に、「不正者」と認定することは規定上許されない。こんな出鱈目な行為が許されるのは日本だからであろう。米国のように被疑者の人権が保障され、検察側が法の手続きを厳密に守ることが求められている米国であれば、弁護士から「理研の手続き上の不正」を訴えられて、処分などは行えなくなるはずだ。

 手続きだけの問題ではなく、そもそも理研が「検証実験」を行うこと自体に問題があった。これは「研究不正」とは関係ない話であり、実験は研究不正認定のための「再現実験」に限定すべきであったのだ。「検証実験」は、「STAP細胞はあるのか、ないのか」というマスコミ、政治家、世論へのパフォーマンスであり、これが問題を大きくこじらせる原因となった。世間がどんなにやかましくとも、理研は「研究不正」に絞り、「再現実験」も含めて綿密に調査を行って結論を下すべきであった。そして、「STAP細胞はあるのか、ないのか」は不明であり、今後のこの研究に興味を持った研究者あるいは小保方氏が誰かのサポートを受けて解明される問題である」と言明すればよかったのだ。「検証実験」は、STAP細胞はあるのか、ないのかをはっきりさせろ」という世間の風圧に、野依良治という科学者がすり寄った・屈服したことの証左であり、これによって日本の科学は更に信頼を失うことになった。改革委員会の会見で東大教授の塩見氏は、「将来誰かが同じ現象を見つけ出し、それを科学的に証明したら、その人が新たに命名すればよい」といった主旨の発言をしていたと思うが、理研はそういった姿勢に徹するべきであった。瞬時にはマスコミがその姿勢をたたくであろうが、今日まで続く騒動にはならなかったであろう。

 最近、このブログに登場したJ・ワトソン氏はSTAP細胞の存在を主張されているが、存在の有無についてはこの問題に興味を持った科学者の将来の研究に任せるべきであり、現時点では「小保方氏の不正」に限定して議論を行うべきだろう。勿論、持論を展開されるのは自由であるので、私の方としてはコメントを制限する気はない。

 研究は「個人の責任」なのか、「所属組織が責任を持つべき」なのかについてもこのブログコメントで疑問が出されているが、基本的には「個人の責任」であり、所属組織は個人がその責任を遂行することをサポート・ガイド(指導・支援)する責任があるということだ。今の議論では、組織による不正の「管理」ということが強調されてしまっているが、私は科学者そして教育者として「管理」という言葉は適切ではないと思っている。

小保方氏が「論文を撤回したらSTAP細胞はなかったことになるので撤回しない」と発言したにもかかわらず、論文を撤回したのだから、「STAP細胞はなかったことになる」という主張を展開される方がいるが、このような論理の展開は「議論」を否定することにつながるので止めた方がよいだろう。小保方氏が論文を撤回したのは、当初はそう思っていたが、竹市氏や他の人の「データが信用性を失っている論文は撤回すべき」という「意見を受け入れた」と理解すべきであろう(あくまで撤回の時点での判断であるが)。議論や他の人の意見を聞いて意見を変えることは当然ありうることであり、それに対して「当初言っていたこと」を持ち出してコメントするのは、「私は意見を絶対に変えない」ということを暗に言っているようなものであり、それなら議論をしても意味がない。

 小保方氏の不服申し立てに関連してであるが、不服申し立て審査結果の報告書(http://www3.riken.jp/stap/j/t10document12.pdf)には、小保方氏の不服理由として以下の記載がある。「研究所では、4 月に、「論文に記載された方法で再現性を検証する」 こともその目的の一つとして、STAP 現象を検証するプロジェクトが立ち上げられていることからすれば、この検証実験の結果を待たずに、不服申立て者の行為を研究不正と断ずることは許されない」。「検証実験」の過程で自ら「再現実験」を行い失敗したわけであるから、「不正認定」については彼女も認めるであろう。ただし、「テラトーマ画像」については、「捏造」であったかどうかは不明である。もしかすると小保方氏の主張どおり、「画像の取り違い」であった可能性は残る。なぜなら、小保方氏がES細胞を使って捏造をしたのであれば、DNAのメチル化実験と同様に(123日のブログ記事参照)、捏造の必要はなかったはずなのである。


追記

 小保方氏のキャラクターをめぐって意見が出されているが、このような事件が起きた原因として、彼女のキャラクターが大きく影響していることは疑いの余地はなく、その点では彼女のキャラクターの議論には「公共性」があるので、名誉棄損には当たらないだろう。ただし、プライバシーは守られるべきであり、コメントを求めて追いかけまわし怪我を負わすなどというNHKの行為は許されるものではない。これに関しては、マスコミやサイエンスライターたちは、まるでそのようなことがなかったかのようにふるまっているが、これに関しては121日のブログでも述べたように「仲間意識」が影響しているのであろう。 
 

 114日のブログで「小保方擁護派」と「小保方批判派」について考察したが、小保方氏像については各自の経験や考えが強く投影されていると思われる。 

 私の小保方氏像であるが、最近このブログに登場した「ななこ」女史がいくつかの点で小保方氏と共通であるように私には思えてならない(勿論、「ななこ」女史が捏造する人間であるというような意味ではないので、お気を悪くされないように)。
 

 共通点の一つは、年上の男性の庇護欲をかきたてるということだ。「ル」氏も、私に対してシニカルな在米ポスドク氏もメロメロであり、それ以外の人も彼女との対話を喜んでいる。これは若山氏、笹井氏が小保方氏を可愛がったのと類似している。相澤氏などは、小保方氏が石井調査委員会で「捏造者」と認定されていたにもかかわらず、検証実験中、彼女を励ましていたという話もある。このようなことが起こる理由は、その女性が有する礼儀正しさ、謙虚さ、人への尊敬、純真さ、甘え上手などに起因するのであろう。小保方氏の場合は、彼女が笹井氏へ送ったメールにその一端が伺える。


笹井先生

いつも大変お世話になっています。寒い日が続いておりますが,お体いかがでしょうか
お陰様で丹羽先生からEpiSCと抗体などを分けていただき大変楽しく実験をさせていただいております。
もうすぐFigの仮作りが出来そうですので、また近いうちにご相談に伺わせていただけないでしょうか?
よろしくお願いいたします。
小保方 晴子 
 

 これはNHKスペシャルで放送された笹井氏と小保方氏のメールのやりとりであるが、当時は男女関係を想像させると思われていたものであるが、今、読み返すと、小保方氏がなぜ年上男性から庇護されるのかがよくわかる。「ななこ」女史の場合も「「分からない事があればいつでも聞きに来なさい」高校時代、大好きな先生に言われたこの言葉が嬉しくて、休み時間は数学準備室に入り浸っていました」(110日付けのブログ記事へのコメント)とあるように、純真に相手の申し出を受け入れる甘え上手だ。 

勿論、同性からすると小保方氏のような行為は「また爺ころがしをしている」ということになる。実際、ワシントン大学の鳥居氏は、最近の彼女のtwitter何度も申しますが、実力派女性研究者が彼女の生データを直接精査できる立場にいたら、全然異なった結果になったのでは。どうやって周りを信じ込ませたのか、その集団心理を解明する必要性が」と述べているのはその例であろう。

 もう一つの共通点は、言葉の使い方が独特であるということだ。小保方氏はSTAP細胞研究に関しては「やめてやると思った日も、泣き明かした夜も数知れない」、STAP細胞の検証実験の参加に関しては「生き別れた息子を捜しに行きたい」、再現実験の失敗に関しては「魂の限界まで取り組み」と述べている。通常の人はこのような言葉は使わない。「ななこ」女史も、「魔法は現在修行中です(^^)V。やっと、ほうきに乗って30センチほど浮くようになったのですが、早くも効果が表れた」、「高校時代の物理の先生に「どこまでも果てしない宇宙よりも、ミクロの世界の方が貴方に向いてる気がする。」と言われた時の複雑な気持ちは今でも忘れられません」。後者は高校の先生の発言であるが、「ななこ」女史には男性教諭にそのような言葉を発せさせるキャラクターがあり、また、彼女もその言葉を忘れずに他人に対して述べることをいとわない。
 

 「ななこ」女史は明らかに小保方擁護派なのだが、多くの人に好かれている。