21世紀の資本:広がるピケティ現象…異例のベストセラー

毎日新聞 2015年01月31日 08時31分(最終更新 01月31日 13時47分)

 膨大なデータを基に富の分配と格差問題を掘り下げた著書「21世紀の資本」が注目を集めている。約700ページの分厚い経済書にもかかわらず、世界で150万部以上が売れる異例のベストセラーとなり、執筆したフランスの経済学者、トマ・ピケティ氏(43)は一躍「時の人」になった。格差拡大に警鐘を鳴らすピケティ氏だが、その主張には批判的な見方もあり、論争も呼んでいる。【竹地広憲、ワシントン清水憲司】

 ◇格差論争、世界で熱帯び

 「21世紀の資本」は2013年8月にフランスで出版されたが、ブームに火が付いたのは14年4月に米国で英語版が刊行されてから。貧富の格差が社会的な問題となっている米国では反響も大きく、50万部以上売り上げた。

 オバマ大統領は今月20日の一般教書演説で、年収50万ドル(約6000万円)以上の「上位1%の富裕層」への課税強化を打ち出し、格差是正に取り組む姿勢をアピールした。ニューヨーク・タイムズなど有力紙は、一般教書演説について、ピケティ氏の影響があったと指摘した。

 格差への不満が爆発した11年の「ウォール街占拠運動」もピケティ氏の過去の研究が支えになった。同氏の業績について、ノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン氏は「(富の偏在は)実力主義の結果だとの神話が突き崩された」と評価した。クリントン政権で財務長官だったローレンス・サマーズ氏も「有識者のスター」と称賛し、民主党に近い識者から歓迎されている。

 ◇日本語版も13万部発行

 「21世紀の資本」は日本でも売れている。日本語版は14年12月、みすず書房から刊行され、すでに13万部が発行(販売部数は未集計)された。経済学者らが同書を読み解く研究会を開くなど関心が高まっている。

 背景には格差拡大への懸念がある。日本は米国ほど格差は大きくないとされるが、正社員より収入が低い非正規雇用の比率は雇用者全体の4割近くに達した。政府は「アベノミクス効果で失業率が改善した」と強調するが、「非正規雇用が多く、格差が広がっている」との批判は根強い。東京都内の書店で「21世紀の資本」の解説本を購入した50代の男性は「日本でも関心が高いのは、格差問題に対する問題意識があるから」と指摘した。

 ◇「理論的説明不足」批判も

 「21世紀の資本」を巡っては、批判的な見解も出ている。

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