今国会の焦点となる安全保障法制に関する自民、公明両党の与党協議が始まった。

 昨年7月の閣議決定をどう法案化するか。集団的自衛権の行使をめぐる「存立事態(仮称)」▼自衛隊の「後方支援」▼武力攻撃にいたらない「グレーゾーン事態」――が柱となる。

 グレーゾーン事態から始まった議論で、いきなり両党間の溝があらわになった。

 閣議決定は、自衛隊とともに行動する「米軍部隊の武器等」を防護できる考えを盛り込んでいた。だが政府はオーストラリア軍を念頭に、米軍以外にも対象を広げる方針である。

 そうなると、あの閣議決定は一体何だったのか、という疑問がふくらむ。公明党から慎重論が出たのは当然だろう。これを認めるのなら、閣議決定の見直しが必要ではないか。

 与党協議をへて閣議決定したはずなのに、今も法案化をめぐって与党内に溝が残る。このこと自体、閣議決定の中身が生煮えだったことを物語る。

 同じ閣議決定でも、自民党はできるだけ自衛隊の海外活動を広げようとし、公明党は歯止めをかけようとする。結局は、あいまいな閣議決定をもとに、あいまいな法案をつくろうとしているのではないか。

 たとえば現行の日米防衛協力のための指針(ガイドライン)をもとにした、周辺事態法を存続させるか、どうか。

 政府・自民党は当初、周辺事態法を廃止し、自衛隊の多国籍軍などへの後方支援を常に可能とする「恒久法」に一本化して自衛隊の活動範囲を地球規模に広げる腹づもりだった。

 だが、難色を示す公明党に配慮して、周辺事態法を存続させる方向になっている。

 もともと周辺事態法は、海外での武力行使はしないという一線を引いた法律である。とすると、集団的自衛権の行使との兼ね合いはどうなるのか。武力行使への一線を越えるなら、大きな変質と言わざるをえない。

 政府・自民党の論議から見えてくるのは、自衛隊をすばやく派遣するため、政府の裁量を大きくする考え方だ。国会の関与が不十分なまま、いかようにも解釈可能な法律のもとで、政府の一存で自衛隊を動かす恐れがぬぐえない。根底には、憲法と国会を軽んずる発想がひそんでいないか。

 そのときの都合で簡単に解釈を拡大するのでは、原則がないも同然だ。安保法制への国民の信頼は得られまい。

 筋の通らぬ話を与党だけで押し通してはならない。