次々と捨てられるカップ麺。
去年末、生産停止に追い込まれた食品メーカーです。
きっかけは商品に虫が入っていたというツイッターの投稿でした。
ネットに書き込まれる企業へのクレーム。
匿名の投稿が一気に拡散し企業に打撃を与えるケースが相次いでいます。
しかし真偽不明の情報も多く企業はどう対応すればいいのか難しい課題です。
一方、ネットで声を上げるようになった消費者。
今まで以上に、企業に対して厳しい目を向けています。
ネットに拡散する見えない声にどう向き合うのか。
模索する企業の現場に迫ります。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
企業にとって気が付かないうちに商品や会社のイメージが傷つくような情報が広がっていくというのはとても恐ろしいことです。
1人の消費者あるいは1人の従業員による1枚の写真や投稿があっという間に広がり不特定多数の人々から批判を受け企業価値が損なわれるという事態が珍しくなくなりました。
大手牛丼チェーンでは、従業員が過重労働であることを訴え従業員を大切にしない企業であるというイメージが一気に広がりました。
このほか、ご覧のように企業の規模を問わず食品への異物混入の苦情が消費者の間に広がる事態も相次いでいます。
かつて、苦情や不満は企業の窓口に直接届けられ顧客と企業という1対1の関係性の中で個別に対応されクレームや企業の対応が多くの人の目に触れることはありませんでした。
しかし今企業は気付いたときには手のつけようがない事態に陥ることにもなりかねないSNS・ソーシャルネットワーキングサービスのリスクに、日々直面しています。
誰でも匿名で、気軽に情報発信することができるソーシャルメディア。
消費者が手に入れた企業に物が自由に言えるこの場は利用のしかたによっては企業にとって自社をアピールする絶好の情報発信ツールにもなりますが一方で、厳しい批判や中傷中には、おもしろ半分だったり不正確な投稿も含まれそれが爆発的に増えるいわゆる炎上に苦しめられる事態にもなりかねないのです。
どんな会社でも標的になりうる中でどのような危機管理が求められているのか。
対応の難しさが浮かび上がっています。
都内に住む50歳の男性です。
先月中旬、とうもろこしの缶詰を開けたところ異変に気付きました。
毎日、ツイッターに10件以上の書き込みをしているこの男性。
すぐに撮影した画像と共にコメントを投稿しました。
「ひと事と思っていた。
ビニール片が混入」。
ふだん、男性のツイッターを閲覧しているのは、80人以上。
情報はその人たちを通じて拡散していきました。
男性の家族が食品メーカーのコールセンターに電話をします。
数日後担当者がやって来て謝罪し代替品として缶詰と1000円を手渡されたといいます。
しかし男性は、再び投稿します。
再発防止に向けた姿勢が感じられなかったからです。
1週間後、メーカーからは再発防止策を記した書類が届きました。
今回の事態について食品メーカーは「再発防止に向け最善の努力を重ねていく」としています。
ネットにあふれる企業へのクレームなど匿名の書き込み。
「異物混入」をキーワードにツイッターで検索すると先月末の1週間で、80件以上の投稿が確認されました。
「牛丼に輪ゴムらしきものが付着していた」。
「プリンを開けたら毛が入っていた」。
真偽を確かめるのが難しいものも数多くありました。
ネットの情報は、どのようにして企業を追い詰めていくのか。
去年、生産停止に追い込まれた食品メーカーのケースでは情報が拡散する中でネット上の反応が過激になっていったことが分かってきました。
きっかけは、この投稿。
カップ焼きそばに虫が入っているというものでした。
ソーシャルメディアなどによる企業のリスクを研究している団体です。
最初の投稿のあとそれに反応した書き込みの件数がどのように変化したか調べました。
虫が入っているという投稿は去年12月2日の夜でした。
翌日、その投稿を引用するなどした書き込みが急増。
1万5000件以上に上りました。
2日後、メーカーはコメントを発表します。
調査の途中でしたが「通常、製造工程上混入は考えられない」としたのです。
すると、書き込みはさらに増えます。
「上から目線だ」「反省する気ゼロ」などの声が相次ぎました。
その後、いったん投稿は収まります。
しかし、1週間後今度は、3万5000件を超える書き込みが行われます。
きっかけは、メーカーが「調査の結果、混入の可能性は否定できない」と発表したことでした。
当初の態度を翻したことに対して「イメージ最悪」「二度と買わない」などさらに過激な声が広がったのです。
その後、この食品メーカーは製造ラインの改良を検討し始めています。
異物混入の書き込みがあってから2か月余り。
今もすべての工場で生産が停止したままです。
今夜は社会学がご専門で、ネット社会や消費文化にお詳しい関西学院大学准教授の、鈴木謙介さんをお迎えしています。
書き込みの真偽が分からない中で、企業は対応しなければいけない。
遅すぎると炎上する、そして、誤ると過激な反応が出る。
難しいですね。
そういうふうに見てしまうと、インターネットの匿名の情報が広がっていくのって怖いな、企業も倒されてしまうのかというふうに見てしまうんですけれども、まず大前提として、日本の場合、消費者団体というのは、ほかの国に比べて弱くて、消費者の声っていうのが、企業に対して届きにくい、あるいはうまく伝わらない、無視されるってことが続いてきたっていう経緯があります。
そうした中で、ソーシャルメディアが登場したことで、自分たちの声が、やっと企業に直接、届けられるようになったと。
こういうふうになったことを考えると、一人一人のお客さんとしては、自分をちゃんとお客さんとして扱ってほしいという気持ちになってくるのは当たり前だと思うんですね。
今回のVTRにあったような、そのとうもろこしのケースなんかですと、確かに、おうちまで行って対応しているようには見えるんですけれども、対応された側からすると、客として扱われなかったという気持ちがどうしても残ってしまった。
自分たちとしては、ちゃんとやったではなくて、ちゃんと相手の納得する対応だったかどうかということを、考えないといけない、そういうところに来ているんだと思いますし、そういうふうに見ると、これ、インターネットの話じゃなくて、昔ながらのお客さんとの1対1のフェース・トゥ・フェースのコミュニケーションの話なんですよね。
ただ、企業からすると、本当にこれは、本当の情報なのか、それとも、おもしろ半分で投稿されているものかどうかって、見分けがつかない中で、どう対応すればいいのかって、迷うでしょうね。
難しいと思います。
ただ、こうした安全に関わる問題の場合、あとからやっぱり危険だったというのは、非常に最悪の対応で、もしかすると、安全かもしれないけれども、自分たちが100%悪いことを想定して、最初に動くっていうことが非常に重要なんですね。
この初動を誤ると、あとからあとから悪いことが出てきて、どんどん印象が悪くなってしまうということが起こる。
その最悪のケースを想定するってことができるかどうか。
これまでだったら、どうしても防衛的になって、まずは都合の悪いことは言わないように、隠そう隠そうとしてたと思うんですけど、そうしたことが、ソーシャルメディアの登場で、やりにくくなってしまっているということはあると思います。
また違う例としては、大手ハンバーガーチェーンでは、次々と異物混入、こうした事例が出てきて、企業のブランドっていうものが、非常に痛めつけられる事態になってますよね。
これもまた対応が難しかったケースだと思います。
どうしてもこうした騒ぎが起きると、例えばツイッターなどですと、検索をして、何か似たような事例がないかというのを探す方が出てきますし、また、消費者も不安になってますから、自分の口に入れたものの中に、なんか入ってるんじゃないかと思って、口に入れて、ほら、やっぱり!みたいなことがどうしても通常より増えてしまう。
さらに言うと、例えばハンバーガーチェーンのケースですと、4か月前にブログで話題になったことが、ブログに載ったことが、改めて記者会見を通じて、話題になって、ツイッターで拡散した。
そうすると、騒ぎになってるぞっていう情報だけが独り歩きして、いつのものだったのかっていうのが伝わらないまんま、ここ最近、ずっとあのチェーン、なんか悪いことが起きているぞって見えてしまう。
そうすると、もう先入観で、なんか口に入れるの怖いな、行くのやめとこうという、負の連鎖が止まらなくなってしまうんですね。
本当、今起きていることではないことでも、今、起きてるように感じてしまうんですよね。
対応済みのことでも、またリバイバルして炎上してしまうということが起こってしまう。
お伝えしているように、企業に本当に大きな影響を及ぼす、この見えない声。
どのように対応すればいいのか、模索も始まっています。
菓子の製造・販売を手がける食品メーカーです。
ネット上のクレームなどに対応するためにマニュアル作りを進めています。
異物が混入しているという情報が寄せられた場合健康被害の有無や同時に複数起きているかどうかなどをもとに、3つに分類し対応策を検討しています。
マニュアル作成の指揮に当たっている副社長の松尾裕二さんです。
おととし、異物混入の疑惑に見舞われたときの経験を生かしたいと考えています。
当時、投稿された画像です。
商品に虫が入っていたという情報は、1分間に数百件という速さで拡散したといいます。
消費者から、クレームの電話が殺到したことで投稿の存在を知った松尾さん。
商品が期間限定品だったため出荷時期が半年前だったとすぐに突き止めました。
一方で、画像の虫は生後1か月ほどのものだと判明。
工場から出荷されたあとに混入したものだと分かりました。
3時間後にコメントを発表。
出荷した時期と虫が生きた期間とがずれているという情報を発信しました。
するとネットの書き込みが収まりクレームの電話も鳴りやみました。
松尾さんは、分かった情報を素早く発信できたことが決め手だったと考えています。
松尾さんが重視する素早い情報発信。
しかし、投稿が匿名の場合はいつもそうした対応ができないことも分かってきました。
投稿した人と連絡が取れないと製造日や出荷時期などが特定できない場合があるからです。
調査が進まないうちにネットの書き込みが拡散。
そのとき、どのように情報を発信すればいいか方策は見つかっていません。
ネットの投稿をきっかけに経営方針の大幅な見直しを迫られた企業もあります。
全国におよそ2000店舗を展開する大手牛丼チェーン。
去年、経営体質について消費者から厳しい批判を受けました。
従業員の長時間労働や深夜の過重労働などを巡って「人を大事にしない企業」「もう行かない」などの書き込みが広がりました。
こうした影響などもあり今年度の営業損益は17億円のマイナス。
創業以来、初めての赤字となる見込みです。
この牛丼チェーンを運営する会社の取締役、国井義郎さんです。
これまでは、価格の安さや24時間営業を売りにしてきましたが今、それだけでは消費者が受け入れてくれないと感じています。
消費者に受け入れられる企業となるにはどうすればいいか。
従業員の働き方への不満をいち早く把握する取り組みを始めました。
今月から始まったクルーミーティングです。
アルバイトや契約社員などを集めふだん、職場で言いにくい不満などを聞き取っています。
さらに、人件費などコストがかかる改革にも乗り出しました。
消費者から、特に問題視された深夜の1人勤務を廃止。
2人のスタッフを配置することにしました。
これによって店舗ごとの人件費は1割ほど増えました。
新たにトレーニングセンターも設置。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
スタッフの技術力向上のためにこれまで現場の店舗に任せていた調理場の研修を一括して行うようにしました。
研修にかかる費用は年間1億4000万円近く増えますが必要な投資だと考えています。
商品のチョコレートから、虫が出てきたという、これは本当に怖い情報に対して、スピード感を持って対応したということで、炎上を抑えられたケース。
と思いきや、これ、あえて砕けた言い方をすると、超ラッキーなケースです。
普通はチョコ1個の流通って捕捉できませんから、いつ、どこで、どういうルートで売られたものなのかというのは分からないので、全く特定できません。
特定できないと、今回のような情報を発信することもできませんから、多くの場合は、こうした全く特定もできない状態で、これ本当なの?どうしよう?というところからしかスタートせざるをえないというのが現状だと思います。
もしそうだった場合はどうすればいいんですか?
そうですね。
最悪を想定して動くっていうのもそうなんですけれども、まずこうした不安が起きたときに、どうしてもデマが流通しやすくなります。
不安が起きて、なんかそれを解消してくれる確かな情報がないと、もっともらしい情報にみんな、飛びついてしまうんですね。
これを解消するためには、きちんとした公式のソースから情報を出すことが、非常に重要です。
例えば分からないなら分からない。
分からないけど、いつまでに検証します。
いついつまでになったら分かります。
こうしたことを逐次出していくことによって、ああ、それなら大丈夫だなというふうに、安心をすることができるし、それを拡散させていくということが、非常に重要になります。
これまでだったら、企業の情報発信というのは、ホームページで一方的に行うことが多かったと思うんですね。
ところがこれ、一方的に今、そういう情報発信をするとどうなるかというと、その企業のホームページに対して、例えばソーシャルメディアで、普通の消費者がコメントをつけて、なんだ、この一方通行の発信はという形で、本来言いたかったこととは全然違う形で、流通されてしまう。
これが例えば、ソーシャルメディアに自分たちでアカウントを持っていて、公式にリツイートされるような環境を作っていれば、本来、公式のことはこういうことを言っているよねというふうに、消費者が安心して確認をすることができます。
こういう確認できるソースから確かな情報を出していく。
分からないなら分からないと、正直に言っていくということが、大事なんだと思うんですね。
ふだんから、このSNSリスクに強くなるには、どういうことが必要ですか?
リスクに強くなることがどこまでできるかは分からないんですけれども、少なくとも情報発信を止めて、なんか、おとなしくしていようというのではなくて、日頃から何気ないことでも、情報発信をして、あっ、いつもつぶやいている、あの人が言っているから、これは確かなんだなっていうふうに思ってもらう、そういう先入観をちゃんと与えておくことが大事だと思いますね。
そして、牛丼チェーンの場合は、従業員を大切にしない企業だという評判が広がったあと、これ、行動を変えさせる、そして企業の行動を変えさせるところまで今、動き始めましたよね。
本来、これまでだったら、人のうわさも七十五日というか、ほとぼりが冷めたら、また同じことをやろうということができた環境が、ソーシャルメディアの登場によって成り立たなくなっています。
これまでのように、ほとぼりが冷めるのを待つというよりは、きちんと消費者の声に応えて、それに見合うだけの行動をしないといけない。
いわゆる企業の社会的責任・CSRというものが、本来の形で機能してくるようになったんだと思います。
CSRというのは、右手で悪いことをしてもうけたお金で、左手でいいことしたから、チャラだよねというものではなくて、自分たちのやっている仕事というのは、そこからお金をもうけさせてもらっている社会にきちんと還元してるんだということを、消費者に知ってもらう、理解してもらうという取り組みですから、そうしたことを怠っていると、消費者の側から選択をされなくなってしまう。
安ければなんでも買うという時代ではなくて、きちんと価値のあるものを選ぼうという消費者にそっぽを向かれてしまうということが起こるようになっています。
本当に、消費者がもの申せる手段を得たということが、いわば企業を変えるところまで今、影響力が及んできたのかなというのはすごいですよね。
そのときに大事になってくるのは、ただ、その消費者が、ただ火をつけたくて、おもしろ半分でやっているのか、それともきちんと企業を変えたくて行動しているのか、これを区別していくことだと思うんですね。
その区別ができるようになるためには、私たち消費者の側も、ただただ、せき髄反射でおもしろい情報だからっていって拡散してしまうんじゃなくて、例えば、あの件、あのあとどうなったんだろう、どういう対応したんだろうというのを、ちゃんと確認するだとか、あるいはそうした意識を常に持っておくことから、消費者と企業のよりよい関係を作っていくような、そういう社会に変えていく、力に変えていけるんじゃないかなと思2015/02/10(火) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“見えない声”にどう向き合うか〜匿名情報に揺れる企業〜」[字]
食品への異物混入などの情報がネットに流れ、対応に追われる企業が相次ぐ。中には匿名で真偽不明のものもあるが、こうした声とどう向き合うのか、企業の模索を伝える。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】関西学院大学准教授…鈴木謙介,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】関西学院大学准教授…鈴木謙介,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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