NHK短歌 題「メモ」 2015.02.10


ご機嫌いかがでしょう?「NHK短歌」司会の濱中博久です。
第二週の選者斉藤斎藤さんです。
今日もどうぞよろしくお願い致します。
今日の冒頭の一首は?意味がスライドしていくような感じの作りなんですけれどもこれちょっと選者の話でつながってくる内容です。
後ほどの選者のお話のコーナーとつながる歌という事ですね。
では後ほどよろしくお願い致します。
さあそれでは今日お迎えするゲスト早速ご紹介致しましょう。
芸人の又吉直樹さんをお迎え致しました。
ようこそお越し下さいました。
よろしくお願い致します。
又吉さんといえば今はこれです。
文芸誌のこの月刊誌に又吉直樹さんの書き下ろした小説が載りました。
「火花」でございます。
発売と同時にすぐ売り切れたそうですね。
僕も驚いたんですけど文芸誌に載ってる自分の名前の大きさにも驚きましたけど。
なかなかこんなでかい名前載る事ないですからね。
これでこれは売れたという事ですがいつかこうした本格小説をとお考えだったんですか?小説読む方は好きなんですけど一度書いてみようかなと思いまして何とかギリギリ書き上がったという感じです。
お忙しい中でね…。
さあ読まれていかがでした?面白かったですよ。
会話というかやり取りがすごい跳ねてる感じがしてちょっと涙ぐんだりして面白かったですね。
又吉さん俳句もされるという事はファンはよく知ってるんですが短歌の方はどうなんですか?短歌は自分で作った事はないんですけど歌集を読んだりするのは昔から好きでいろいろ読んでます。
大変な読書家なんですよね。
本は好きですね。
その中には歌集もある?ありますはい。
最近お好きな歌を一首ご披露頂けませんか?なぜこの歌が?「欄外の人物として生きて来た」というのがちょっと悲しくあるんですけどここに僕としては結構共感できる部分もあってその悲しい言葉が来たあとに「夏は酢蛸を召し上がれ」っていうちょっと愉快なそういう欄外の人物で生きて来た人が酢蛸を自分に勧めてくれてるという夏はいいですよそういうの食べやすいですよみたいなその優しさがすごいぐっと来るというか笑えるんですけど何かこうぐっと来る。
展開がね…うんなるほど。
さあゲストにはいつも短歌どんなイメージ持ってますか?と短い言葉にして頂いてるんですが又吉さんどうなるでしょう?こちらですね。
ちょっと待って下さい。
短歌とは?ですよ。
短歌とは「投げてない方の手」という事ですね。
利き腕の事なのか?後ほど詳しくお伺いします。
よろしくお願い致します。
さあそれでは今週の入選歌でございます。
題が「メモ」または自由でした。
斉藤斎藤選入選九首です。
一首目。
何か分からないんですけれどもレシートの裏に今日済ませておく例えば銀行に行くとかそういったやぼ用みたいなものが書いてあったんでしょうね。
それに家に帰ってから気付いたんだけどまあいいかと。
今日はもうおしまいですというような感じでねメモの内容が書かれていないところが更にいいんでしょうね。
では次二首目です。
又吉さんこの歌はどう読まれましたか?こういう何か自分で覚えてないメモってありますよね。
僕も子供のころに母親に怒られた時にタンスに自分でしか読まれへん字で「おいみよこ」って自分の母親の名前なんですけど。
お母ちゃんに抗議するような。
書いてそんな事もう覚えてないんです。
その数年後にその畳の部屋でこう横になって横を見たらそこにそういう文字があってこれは自分以外に書く人間はいないしその時すごい感情的になってたんだなっていう。
そういう記憶と重ね合いますね。
メモを書いた時の私と今の自分が違くて昼間の私は目標を持って「目標をもたないでくれ」ってこのメモを書いている私を追い詰めてる方なんですよね。
そこがちょっと分裂しちゃっているという。
メモの内容がすごい切実でね。
これは「メモ」という題をテーマで詠んでいるんですね。
では三首目にまいりましょう。
次の歌です。
共感される方も多いと思うんですけれども授業中メモのやり取りをして何をやっても楽しかった日々という事ですね。
下の句のリズムがとてもいいですね。
「なすことすべて楽しかる日々」額縁に収めるような感じで。
さあ次にまいります。
四首目です。
又吉さんいかがでしょう?温かい感じの風景が見えてくるというか僕も両親共働きだったのでよく首から鍵をぶら下げてたんですけど僕の家はメモは母親は置いてなかったんです。
そのかわり机の上に食べ物があったり冷蔵庫に飲み物が入ってたりしてそれで大体自分で感じ取ってこれを食べろという事やなと。
「これ食べなさいね」とお母さんのメッセージだね。
この場合恐らく「ただいま」みたいな事がメモの最初に書いてたのかもしれないですよね。
あっ「おかえり」と書いてたんですかね。
「留守だってわかっていても」って口語で弾むようにいくんですけどメモが答えたって口語だけで成り立ってるんだけど下の句が重みがあってなかなか巧みな歌だと思いますね。
さあ次にまいります。
五首目です。
恐らく口下手だったご主人の遺品を整理されていてそこに感謝の言葉をふと見つけてしまうという事ですね。
平成20年のこの「H20年」という表記も効果的でこういう手帳ありますからね。
感謝してくれてたんだなという事ですよね。
具体的な手帳が浮かびますね。
「H20年」というね。
はいそれでは六首目にまいりましょう。
又吉さんどう読まれました?卒塔婆をメモとしてるという言葉にはっとしまして僕は何となく生き物とかそういう昔お墓って作りましたよね。
鳥とか飼ってるものとか。
その時にその辺にある石とか木とかでお墓作ったりしたんですけどそういうものっていつか自然に返っていって何でしょうねその生物が生きてた事っていつかみんな忘れるんですけどその時確かにおったという事をメモとしてるのかなと思いました。
今おっしゃったとおりすごい長いスパンで時間を見ているような感じ。
お墓とか卒塔婆とかもいっときのメモなんだというこの見立てがちょっと驚きましたね。
「暫しのメモに」というここの見立てですね。
なるほど。
では次が七首目です。
この便の時刻がですねお父様恐らくわりと几帳面な方だったんでしょうし病気とも向き合おうとされていたその事が「便の時刻」っていうだけで伝わってきて「帰ろう」というのがとても切ないですね。
では次の歌です。
八首目です。
下の句がちょっとびっくりしましたね。
「納得すれば明日があるさ」。
ひょっとすると重めの深刻な病状の説明だったのかもしれないですけれども結局「はい分かりました」って言うしかないわけじゃないですかそういう時に。
でもまあ納得しようと。
諦めというとあれですけど受け入れて前に進もうというその下の句ですね。
病気にしっかり向き合おうというお気持ち私は感じますけどね。
納得してよしこの治療法でしっかり治療していこうと。
前向きな諦めというかそんな感じがしますね。
では続いて九首目です。
スポーツだからといってやってやるぞと燃えるんではなくて静かにデータを積み重ねてやっていくという。
でもそこには静かな情熱を感じているっていうそこが「平熱」っていう言葉に表されていてうまいですねこの結句は。
以上入選九首でした。
ではこの中から斉藤斎藤さんの選んだ特選三首です。
まず三席からです。
角田正雄さんの歌です。
では二席です。
石井宏子さんの歌です。
それでは一席の発表です。
下町昭さんの歌です。
やっぱり決め手は「外づら脱いで」ですよね。
一日の終わりに今日はやる事はやったかなという事でリラックスしていく感じのこの切り替えの下の句がとても面白いと思いました。
今日ご紹介しました入選歌とその他の佳作の作品はこちらです。
「NHK短歌」のテキストにも掲載されています。
是非テキストもご覧下さい。
さあそれでは「うた人のことば」です。
中央アジアのシルクロードの旅行をしたころの歌です。
ふと家に残してきた夫の事を思い出して何となく悪いなというような気持ちにもなったそんな歌だと思います。
また宮さんをほったらかして旅行に行くのかって随分非難されたんですけれども夫の方は一度も非難めいた事は申しませんでした。
宮柊二は手をリューマチで使えなかったものですからやわらかい3Bの鉛筆を使っておりました。
削った鉛筆がたくさんたまりまして箱いっぱいになるくらいたまって短くなっても捨てる事ができないでそのまましまっておりました。
では続いて「入選への道」のコーナーです。
たくさん寄せられたご投稿歌の中から斉藤斎藤さんが一首取り上げて改作。
こういうふうに表現を変えてみようというご提案でございます。
さあどうでしょうか?今日は。
今日こちらの歌です。
ありますよねこういう事。
みんな誰しもが自分も悪いんだろうなって思っていながら素直になれずに黙々と食卓を囲んでいるという歌ですね。
非常に面白い光景を切り取られているんですが短歌ではこの歌って家族みんながそう思っているっていう歌になっているんですけれども短歌ってあくまでも一人称の表現一人称単数私の表現なので「みんなそう思ってる」って書くのではなくて私はそう思ってる。
そう思ってる私が4人いるみたいな…。
一人一人に開いて書きたいんですよね。
なので例えば改作こうなります。
私も悪いんだろうなって思ってる人が4人いてそれぞれに目玉焼きがひとつずつ置かれているという形ですね。
「みんな」って書くんじゃなくて私が4人いるというふうに書いて頂きたいというのでちょっと参考にして頂ければと思います。
どうぞ皆さんも歌作りの参考になさって下さい。
さあそれではここでお知らせです。
番組では新年度選者が変わります。
さあそれでは選者のお話です。
「初心者になるための短歌入門」今日の斉藤斎藤さんのお話は「一字空けるか、空けないか」です。
まず申し上げておきたいのがテレビなんで「NHK短歌」って短歌を五行ぐらいに分けて書くじゃないですか。
画面が横長ですからね。
それはしょうがないんですけど短歌って基本的には一行つなげて書くものなんですよ縦に。
間に句読点も一字空けも入れないでずらずらってつなげて書くのが基本だという事をまず押さえて頂きたい。
何でそうなのかというとつなげて書いた方がいろんな意味にとれて読みが膨らむからなんですね。
例えばこの永井さんの歌だと「アルバイト仲間とエスカレーターをのぼる」ここで例えば切って読むと私がエスカレーターをのぼると読めますね。
つなげて読むと「のぼる三人ともって」いうエスカレーターを三人がのぼっていってその三人が一人っ子なんだよっていうふうに切って読むと私だけだけどつなげて読むと三人がというふうに意味がスライドするんですね。
ここが面白いところ。
じゃあどういう場合に一字空けるのかっていうと「空までの距離に引きつる縄梯子つかもうとして」とここがもし一字空けがなかった場合にはさっきみたいに「引きつる縄梯子」とも読めてしまうので縄梯子がああ空が高いよって引きつってるみたいな感じに読めてしまってこの擬人法は避けたい感じがするんですよ。
なので一字空けて「空までの距離に引きつる」ってバシッと切って引きつってるのは私ですよ。
私がちょっと空高いなと思ってるんですよというふうにはっきりさせている。
このように短歌は基本一行でつなげて書く事で読みが膨らむんだけれども意味を切ってこっちの読み私が引きつってるんですよというふうに片方の読みに確定させたい場合だけは一字空けて下さいねというのが今回のお話でした。
そうですね。
この一字空けには意味があるという事ですね。
意味がある一字空けを空けて下さいね。
選者のお話でした。
それではゲストにお迎えしている又吉さんにいろいろとお話を伺ってまいりましょう。
まずは例の謎の言葉です。
「短歌とは何ですか」でこういう言葉でした又吉さん。
これはどういう意味でしょう?短歌の僕のイメージなんですけど僕が好きな短歌とかはっとする短歌というのはそんなとこを見てたのかという事なんですよね。
大体物を投げてる人がいたとしたら投げてる物か投げてる手を見てますよね。
確かに。
でも僕が思う短歌というのはみんなが投げてる方の手を見てるのに投げてない方の手がどうなってたかという事を例えば観察してたりとか何かそういう事に気付いてるすごい感覚の人たちだなというふうに歌人の事を僕は思ってて。
もしくは投げ終わった手とかそういう事を見られてる方が多いというか。
なるほど。
斉藤さんもそういう所見てますか?ああ…分からないですけどでも何かそうですね。
意味のない方の。
例えばみんなが視野の中心で見ているものじゃなくてへりの方にあるものを描くというのはそういう習性はやっぱり歌人ありますよね。
そうですよね。
まだ名前付いてないものとかあんまり目立ってない所をこう見るという。
確かにね。
すごい所に着眼したなという歌たくさんありますよね。
ところで又吉さんのこの話題の小説ですけど「火花」ですよね。
これを斉藤さんいたく感動しておられたわけです。
短歌的なものも感じるとおっしゃってましたけど。
これもう既に短歌なんじゃないかみたいな所が結構あると思うんですよ。
どんな所でしょう?例えばこれお話としては主人公の芸人と先輩芸人との関係を描いたお話なんですけれどもその2人のメールのやり取りでこんなやり取りがあるんですね。
後輩ですね。
はいこれ主人公の後輩です。
これ食事の誘いへの返信みたいなメールですよね。
この用件のあとになぜか「聖なる万引き」という謎の何か大喜利的なやり取りなんですかね。
添えられているんですよ。
その先輩からの返事がこんな感じなんですよね。
この「おもち」が何だろう先ほどの話ともちょっとつながるのかもしれないですけど「投げてない方の手」というか「酢蛸」というかですねただ存在としてあるような謎の存在感があるんですよね。
字数は違いますけどそこに「おもち」を持ってくるところなんか既に歌なんじゃないかなという感じがしました。
どうですか?又吉さん。
いやうれしいですね。
このメールの両者でやり取りする中でどんどん言葉のキャッチボールをしていくとどんどん食った事というか凝った複雑な言葉にどんどんなっていくんですけどその中で最後にその先輩側が「おもち」っていう枠の外に行ける人物という事で書いたので。
僕もやっぱりそういう表現が好きなんですよね。
これ…何で「おもち」って出てきたんでしょうね?まあおもちって形もふっくらしてて誰もが食べた事があってちょっと鈍くさいイメージもあって。
この雰囲気的には両者ずっと緊張状態にあるんですよね。
売れたいけどなかなか世に出られへんというそういう状態の中での全然合ってないものというかそういう事もあるかもしれないですね。
これにぴんと感じられるわけですね斉藤さんは。
そうですね。
大抵の場合って何か短歌でも2つのものを取り合わせるという時にその取り合わせるものが上の句に引っ張られるんですよ。
どうしても意味に。
何か意味ありげなものを持ってきたいんですけどそこでものすごい白いちょっとふっくらした伸びているようなゼロのものを置けるというのがやっぱりすごいですよね。
これなかなかできないと思うんですよ。
斉藤さんの作品でもこの言葉がなぜ後ろに来たんだろうちょっと考えるのは確かにありますよね。
そうですね。
いやいやいや…でもやっぱりすごいと思いましたね。
是非短歌とかも作って頂きたいという気がしてならない。
そうですよね俳句は随分親しまれておられるのに短歌に行かないのは…。
そう言って頂けるとちょっとやってみようかなという。
意識したらなかなかできるもんじゃないとは思うんですけどでもちょっと練習していきたいですね。
俳句から短歌へというハードルみたいな事はお感じになるんでしょうか?そうですね。
俳句はやっぱり季語がありますしね季語がお題やとしたら割と大喜利じゃないですけどこうやって考えるんやみたいなのつかんできたんですけど短歌ってすごい感覚的な部分が大きいじゃないですか。
それができるかなっていう。
そのセンスが果たしてあるんだろうかって。
でも又吉さんこういう取り合わせの面白さもそうなんですけど小説で描かれているようなあるいはエッセーとかでも何かちょっとその屈託の部分をもっと歌の方が出せると思うのでその屈託の部分と取り合わせの部分というのが多分爆発すると思う。
十分又吉さん投げない方の手に注目しておられますよね。
いやうれしいですけれど。
今日は芸人の又吉直樹さんをお迎えして楽しいお話を伺いました。
どうもありがとうございました。
では斉藤斎藤さん次回もどうぞよろしくお願いします。
「NHK短歌」時間でございます。
ごきげんよう。
2015/02/10(火) 15:00〜15:25
NHKEテレ1大阪
NHK短歌 題「メモ」[字]

選者は斉藤斎藤さん。ゲストは芸人の又吉直樹さん。最近文芸誌に発表した小説「火花」が話題になっている又吉さん。俳句作家としても有名だが意外にも短歌は難しいという。

詳細情報
番組内容
選者は斉藤斎藤さん。ゲストは芸人の又吉直樹さん。最近文芸誌に発表した小説「火花」が話題になっている又吉さん。俳句作家としても有名だが意外にも短歌は難しいという。今回は特別に斉藤さんが、簡単な短歌の作り方を伝授する。【司会】濱中博久アナウンサー
出演者
【出演】又吉直樹,斉藤斎藤,【司会】濱中博久

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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