過激派組織ボコ・ハラムが大勢の女子生徒を誘拐してから300日になります。
(爆破音)ダイナマイトによるビルの爆破解体。
すさまじい爆音と大量の粉じんがまき散らされる。
ご低頭願います。
そんな中驚くべき技術が日本で産声をあげた。
(一同)おう!東京のランドマークだった赤坂プリンスホテル。
138メートルの超高層ビルが都会のど真ん中でいつしかその姿を消したと衝撃を与えた。
技術開発の指揮を執るのはかつて鳴かず飛ばずで出世とも縁遠かった一サラリーマン。
人呼んでミスター・ビル解体。
その斬新な工法は世界から「技術立国ニッポン」らしいと賞され数々の栄誉を手にした。
失敗は数知れず。
それでもめげずに前を向く。
(主題歌)戦後の建設ラッシュから40年。
迎えたビル解体時代。
世界初の技術を世に送り出してきた。
入社から15年。
何一つ芽が出なかった。
プロジェクトの存続を懸けた勝負の現場。
アクシデントが襲った。
土壇場で迫られるリーダーの覚悟。
そして迎えた運命の時。
男たちの熱き開発の現場に密着!オフィスビルが建ち並ぶ東京・赤坂。
去年10月その一角でツインタワーの解体工事が進んでいた。
(取材者)おはようございます。
おはようございます。
朝7時半。
ミスター・ビル解体市原英樹が姿を現した。
計画立案から半年工事は佳境を迎えていた。
やっとこの時が来てるって感じですよね。
今まで長い間時間かけて計画しましたからね。
これからが本番ですから。
ある意味楽しみです。
ビルの敷地内にあるかつて料亭だった建物が事務所。
違いましたっけ。
年下にも年上にも気さくに接する市原は会社きってのムードメーカーだ。
市原の仕事は技術開発リーダーとしてシステムの設計から予算の折衝まで解体計画を取りしきる事。
勤務先は本来本社。
現場に来る必要は全くない。
それでも毎日欠かさず現れ作業員たちと顔を合わせる。
はいいきます。
1234567891022345678910。
(一同)おう!市原が現場を見回り始めた。
ビル解体の難しさ。
それは計画段階では建物の詳細な内部構造が分からない事にある。
この日天井の梁に図面には記されていない穴が見つかった。
解体工事を進める際梁の強度に不安が生じる可能性がある。
これから壊すにもかかわらず一度溶接で穴を補強するよう指示した。
革新的な技術を生み出してきた市原には心に刻む流儀がある。
高度経済成長期の高層ビル建設ラッシュから40年。
当時建てられたビルは今大きな転換期を迎えつつある。
耐震性や老朽化などの問題が噴出し「解体ラッシュ」に突入したのだ。
だが解体には騒音や粉じんといった問題がつきまとう。
建物が密集した日本で超高層ビルを壊す場合その影響は計り知れない。
6年前その問題に挑むべく技術開発を命じられた市原さん。
僅か5人でスタートしたプロジェクトながら世界を驚かせる型破りな工法を編み出してきた。
その工法の最大の特徴は解体する建物の屋上を蓋として利用する事だ。
要となるのがジャッキ機能の付いた仮設の柱。
屋上を持ち上げ解体するフロアを防音パネルを取り付けた足場で覆う。
その上で壁や柱などを破壊。
粉じんや騒音を封じ込める事ができる。
壊し終えたらジャッキで屋上を下げる「ジャッキダウン」。
これを繰り返す事で解体していく。
2年前にはビル解体としては国内最高の高さとなる「赤プリ」で導入。
騒音はほとんど出さず粉じんも実に90%カット。
ビルが静かにその寿命を終える姿は「最後さえも美しい」と国内外から大きな称賛を集めた。
業界では技術やコストの面から不可能とされてきた夢の工法。
生まれて間もない技術を進化させるために市原さんはあらゆる場を利用する。
この日は特許について話し合う席上ひょんな事を言いだした。
部署の垣根を越えてあらゆるアイデアを求める市原さん。
揺るぎない信念がある。
ほら。
(取材者)さつま揚げ?11月半ば。
この日も現場に詰めていた市原がいつになく険しい顔で飛び出してきた。
思わぬ事態が起きていた。
防音パネルを取り付けた足場に補強を加えた結果想定より重くなってしまいクレーンで持ち上がらないという。
今回の足場は35歳の現場監督福井が志願し初めて任された大仕事だった。
工期は既にいっぱいいっぱい。
そうですね。
福井は予期せぬ事態に困惑していた。
市原たちが目指すのは後世の主流となりうる画期的な新工法。
その道のりは容易ではない。
3時間後。
福井が足場の施工を請け負った業者を呼び出した。
そこへ出席する必要のない市原も現れた。
さりげなく打ち合わせに同席する。
足場の強度は保ったまま軽量化を図るにはどうしたらいいか。
いくつかの部品を取り替える事で0.5トンの軽量化を見込める事が分かった。
翌朝。
足場の重さを改めて量る。
6トン以下であれば検討した軽量化の方法で解決できる。
だがそれ以上であれば工事全体に致命的な影響を及ぼす。
重量はクリアした。
2人にようやく安堵が広がった。
休日市原さんは気の置けない仲間と海へ繰り出す。
大学時代ヨット部で腕を磨いた経験を生かし今もレースに参加している。
仲間を巻き込み新たな世界への航海を続けてきた市原さん。
しかし自分の生き方を定めるまでの道のりは長く険しいものだった。
市原さんは親子2代で建設会社に勤める家の長男として生まれた。
「祖父が羽田で父は成田」。
2代で空港を造ったというのが家族の語りぐさだった。
大学を卒業後市原さんもまた父たちの後を追うようにゼネコンへの就職を決めた。
配属されたのは研究部門。
建設資材のサビの研究を命じられた。
耐久性の変化など条件を変えては実験を繰り返した。
その後も防火や外壁の加工技術などさまざまな研究に取り組む。
けれど一つとして成果に結び付くものはなかった。
入社して6年がたったある日。
忘年会の席で先輩にこう言われた。
「このままパッとしないサラリーマン人生を送るのか」。
入社から13年が過ぎたある日また新たな研究を命じられた。
後に社会問題となるシックハウス。
接着剤などに含まれる有害物質が多くの人を苦しめていた。
メーカーの担当者と有害物質を出さない画期的な接着剤を共同開発する事になった。
だがまたもや失敗の連続。
試作は100回を超え200回を超えた。
「これもまた駄目なのか」。
弱気になる市原さんのもとにメーカーの担当者は次々と試作品を作り直しては持ってくる。
その諦めない姿勢に市原さんは自分の中で何かが変わっていくのを感じた。
そしていつしか競い合うように開発にのめり込んでいった。
500回の試作の末かつてない接着剤が完成。
予想をはるかに超える売り上げを記録した。
6年後実績を積み上げた市原さんはビル解体プロジェクトの技術開発リーダーに抜てきされる。
メンバーは僅か5人。
市原さんを除き皆他の仕事との掛け持ちだった。
騒音や粉じんを防ぐため蓋状のものでビルを覆うというアイデアは出たもののコストが高くつき実現不可能だと思われた。
市原さんは会社中の知恵を求め知らない部署を回り始めた。
年齢や肩書を超え教えを請うた。
その思いに共鳴する社員が1人2人と加わった。
ある日技術者の一人がふと漏らしたアイデアを市原さんは聞き逃さなかった。
屋上を活用すれば懸案のコストを大幅に削減できる。
メンバーの士気は高まり開発は大きく動き始めた。
そして1年後。
夢にまで見た技術がついに形となった。
2年後にはより高層で複雑な解体を見事に成功させた。
鳴かず飛ばずの研究者が歴史的な仕事を成し遂げた瞬間だった。
お疲れさまでした。
苦労を共にしてきた仲間は市原さんにとって掛けがえのない存在だ。
いつかはニューヨーク・マンハッタン。
夢は世界へと広がっていく。
あんま言われたらうれしいわけよバカだから俺も。
(笑い声)バカでしょ?今宵も宴は終電が過ぎても続いた。
去年10月下旬。
赤坂のビル解体が山場を迎える中ある深刻な課題が市原に突きつけられていた。
市原たちの新工法は発展途上。
コストが膨らみこれまで手がけた案件は全て赤字。
今回も経費がかさんでいた。
どれだけ画期的な技術でも利益を生まなければプロジェクトの存続は危うい。
どうやってこの難題を乗り越えるか。
この日コストダウンの切り札として市原たちが開発に力を入れてきた極秘機材が搬入された。
新型ジャッキシステム。
今回の解体。
市原はジャッキダウンの要だった仮設の柱を思い切って使わない事にした。
代わりに元からある建物の柱を活用。
そこに新型ジャッキシステムを取り付けジャッキダウン。
仮設の柱を省く事で大幅なコスト削減を図る。
だが新システムはあくまで試験導入。
シミュレーションを重ねてきたが安全性は未知数だ。
市原は正念場を迎えていた。
1週間後のジャッキダウンに向け重要な作業が始まった。
建物の柱のうちジャッキダウンに用いる4本を除いて全て切断する。
だが屋上はクレーンなどが載っているため柱と梁に200トン以上の負荷がかかる。
万一ひずみが許容範囲を超えれば最悪の事態を招きかねない。
ひずみの安全基準は600マイクロ。
柱を切断する度に数値が上昇していく。
慎重に最後の柱を切断する。
残された4本で200トンを支えきれるか。
基準まで250マイクロに迫った。
ねえそうですよね。
ひずみは市原たちのねらいどおり基準を下回った。
ジャッキダウン前日。
市原はトレードマークのひげをそり落としていた。
毎回欠かさず行ってきた験担ぎだ。
台所では妻の彩子さんがいつものお握りを作っていた。
スタミナがつくようにとこの日のために考案したスペシャルお握り。
いってきます。
はいいってらっしゃい。
(ハイタッチの音)だが現場はあいにくの雨。
作業は遅れに遅れた。
そんな中恐れていたアクシデントが起きた。
もう〜!作業員が誤って梁の一部を切断してしまったという。
安全性に問題はないか。
ひずみの数値を再度計測するには1時間以上かかる。
ちょっと出てもらっていいですか。
出てもらっていい?思わぬトラブルに現場はいらだっていた。
市原は下からの突き上げにも嫌な顔ひとつ見せず自らの仕事を全うしようとしていた。
ジャッキダウン当日。
屋上を下げるための最後の大仕事。
柱と梁を切り離す。
了解しました。
そのやさきまた課題が持ち上がった。
慎重を期すため切断方法を変更する事となった。
作業が遅れジャッキダウンができない可能性が出てきた。
(福井)ジャッキダウン開始が7時ごろ。
あぁ〜。
周囲への騒音を考慮しジャッキダウンはやむなく延期する事となった。
沈んだ空気の中市原は皆に語りかけた。
はいよろしくお願いします。
翌朝再び皆が動きだした。
ジャッキダウンに向けて最後の準備に入る。
ゆっくりね。
切り離された屋上を新型ジャッキシステムが無事支えきった。
ついにジャッキダウンの時。
市原が塩をまき始めた。
全員で安全を祈願する。
皆さんお疲れさまです。
とうとうこのタイミングが来たという事になります。
この苦労を一回かみしめた上で再度引き締めてですね集中して皆さんが同じベクトルを向いてこの作業ができる事を私としては強く願ってます。
新型ジャッキシステムは正常に稼働するか。
(かしわ手)一度のジャッキダウンで下ろせるのは18センチ。
それを17回繰り返す。
それではジャッキダウンを行います。
ただいまの時刻12時13分。
(無線)50ミリ経過。
重さ200トンの屋上がゆっくりと下がり始めた。
異常はないか。
うんOK。
ジャッキダウンスタート。
(主題歌)
(笑い声)近づいた。
屋上は2時間かけて見事に下がりきった。
各自持ち場の点検をお願いいたします。
3日後市原の姿は本社にあった。
工法の更なる進化を目指し次なるアイデアを既に考え始めていた。
(笑い声)後世に残る新技術を追求する果てなき闘い。
だが仲間がいればきっと道は開ける。
無の状態から種をつくり技術の種をつくりそして花を咲かせて枝葉をいっぱい伸ばしていく。
そんな技術の幹をつくれる人がプロフェッショナルだと思うんですけどね。
2015/02/09(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「世界初のビル解体 技術開発者・市原英樹」[解][字]
「音もなく超高層ビルが消えた!」と話題を呼んだ東京のランドマーク・赤プリの解体工事。前代未聞の工法を編み出したミスター・ビル解体に密着。巨大ツインタワーに挑む。
詳細情報
番組内容
「音もなく超高層ビルが消えた!」と話題を呼んだ東京のランドマーク・赤プリの解体工事。前代未聞の工法を編み出した「ミスター・ビル解体」市原英樹に密着。かつて鳴かず飛ばずの研究者だった市原が仲間と共にこの冬挑んだのは巨大ツインタワー。最大の懸案であるコスト削減を図るべく、新型ジャッキを導入した。だが現場で思わぬ難問が続出。技術開発リーダーとして決断を迫られる。サラリーマン技術者たちの熱きドラマ。
出演者
【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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