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おととし、広島県で起きた少年少女による女子生徒殺害事件。
事件を主導したとされる少女に1審判決が下り、その背景としてある障害が指摘されました。
今、その障害がさまざまな少年犯罪で要因の一つになっているのではないかと注目されています。
幼少期に親から虐待などを受けることで自分の感情や行動をうまくコントロールできなくなる愛着障害。
脳にどのようなダメージを与えるのか、最新の科学で明らかになりつつあります。
愛着障害のある子どもをどう支えるか。
専門家がチームを組んで改善させる取り組みも行われています。
不可解な少年犯罪の背景で子どもたちの心に何が起きているのか。
最前線からの報告です。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
おととし、広島県呉市で10代、20代の少年少女7人が仲間の16歳の少女を暴行し死亡させ遺体を遺棄する残虐な事件がありました。
少年少女たちを残虐な犯罪へ向かわせる要因は何か。
一つの要因として裁判で指摘されたのが愛着障害という精神疾患です。
愛着とは一般的に物や他者への親しみといった意味で使われますが医学的には主に親と子の間で結ばれる深い信頼関係のことをいいます。
子どもにとって初めての人との関わりであり自分を無条件に守ってくれる自分が大事な存在であることを認識できる大切な関係です。
しかし、幼少期に虐待や育児放棄などでこの愛着を形成できないと自分のことを大事に思うことができなかったりほかの人を思いやったりする想像力が育まれなかったりすることで自分の感情や行動をコントロールできなくなる精神疾患、これが愛着障害です。
これは昨年の12月に出されたデータです。
少年院にいる少年少女のうち男子の2割、女子の4割に虐待された経験があります。
虐待を受けた少年少女の中には愛着障害である子どもたちがいると見られています。
広島県呉市の事件の一因と見られているこの愛着障害。
幼少期に受けた虐待が子どもたちの脳の発達や心のブレーキにどのような影響を及ぼすのか。
そして、こうした子どもたちをどうやって救えるのか。
脳科学の分野で研究が進められています。
おととし6月広島の山中で起きた16歳の少女の殺害事件。
犯行に及んだのは通信アプリで知り合いお互いをファミリーと呼び合って共同生活をしていた7人の男女でした。
殺害を呼びかけたのはそのうちの一人16歳の少女です。
事件は、その凶悪性から家庭裁判所で行われる少年審判ではなく成人と同じ刑事事件として扱われることになりました。
去年10月に下された判決は求刑よりも2年軽い懲役13年。
判決理由には減刑した理由の一つとして少女の生い立ちが挙げられていました。
「犯行動機に被告人の不遇な成育歴に由来する障害が影響している」。
裁判では、少女が幼少期に虐待を受け続けたとしそのことで怒りをコントロールできなかったとしました。
精神鑑定で指摘されていた愛着障害の影響を認めたのです。
少女は4歳のころから母親からたびたび激しい虐待を受けほとんど会話することもなく家で生活することが苦痛だったといいます。
事件のあと、初めて少女と会った主任弁護士の中田憲悟さんは16歳とは思えぬ幼さと粗暴さを感じたといいます。
逮捕後に少女が母親宛てにつづった手紙にはそれまでの生活が次のように記されています。
「16年間、一緒におって楽しいって心の底から幸せだって思った日私の記憶の中にないんよ。
ずっと気遣って、言うこと聞いてそんな記憶しかない」。
長年、少年院で子どもたちと向き合ってきた医師は今起きている多くの少年事件の背景に、虐待や愛着の問題が存在するといいます。
少年事件を起こし愛着障害の疑いがある子どもの多くは医療少年院に送られ更生プログラムを受けることになります。
しかし、愛着障害がある子どもは基本的な人間関係をうまく築けていないためその接し方に苦慮するといいます。
愛着障害特有の難しさに加えさまざまな事情が複雑に絡むので更生といっても従来の対処法だけでは困難な面があるといいます。
少年犯罪の要因の一つとして指摘されながらも実態がつかみにくい愛着障害。
今、脳科学の視点から究明が進められています。
福井大学教授で医師の友田明美さんです。
友田さんは愛着障害の子どもたちとそうではない子どもたちで脳の機能に違いがないか調べています。
6年前には激しい虐待によって前頭皮質と呼ばれる部位の体積が減少する傾向があることを突き止めました。
前頭皮質は感情や理性をつかさどり反社会的な行動を抑制する信号を発する場所で体積の減少は、その機能を低下させることにつながります。
さらに、2年前からは線条体という別の部分にも着目しています。
線条体は前頭皮質からの信号を受け行動を起こしたり逆に行動を抑止したりすることに直接関わる部位です。
これは、愛着障害の子どもとそうでない子どもの線条体を比べたもの。
平均的な子どもは刺激を与えると線条体が大きく反応する傾向を示します。
しかし、愛着障害の子どもに同じ刺激を与えても小さくしか反応しないことが多いというのです。
脳の変異と犯罪の因果関係はまだ明らかではありません。
しかし、愛着障害の究明を脳科学から進めることで新たな対処法を見つけることができるのではと友田さんは期待しています。
今夜のゲストは、児童精神科医で、数々の少年事件の精神鑑定を手がけ、非行少年の精神病理にお詳しい、岐阜大学准教授の高岡健さんです。
褒めても子どもが反応しなかったり、少しの、例えば批判などで逆ギレして暴発する。
愛着障害を持った、その障害の子どもさんたちの心もようというのは、実際に、どういうものなんですか?
愛着っていうのは、しばしば船と港の関係に例えられます。
港すなわち親や家族が安心できる場所、安全な場所であると、船である子どもは、外の海に向かって悠然と出かけていくことができます。
そして燃料が少なくなってくると、また安心な港に帰ることができます。
ところが、もしその港がうまく機能していない場合はどうかといいますと、子どもはまず、常に裏切られた経験というのを積み重ねてしまった結果、自分を分かってくれる大人なんかいるわけがないという、そういう気持ちに陥りがちです。
これが、褒められても喜ばないということですね。
また一方で、非常に危険な目に遭ってることが多いものですから、そのために、つい警戒信号というのを、常にぴりぴりと発信させている。
ですから、客観的にいえば非常に小さい刺激であっても、過剰に反撃してしまうっていう、そういうことが起こりやすいという、そういう意味で、今、おっしゃったようなことが起こってるんだと思います。
そうすると、わざと大人が嫌がるようなことをやるっていうことも、する傾向ありますか?
それは心の隅ではひょっとしたら自分を分かってくれる大人もいるかもしれないという気持ちがあるものですから、そのために、試してみるということで、わざとそういう行動をするっていうことが少なくありません。
港が大切な安心していられる場所ですけれども、多くの親御さんがなかなか、自分と子どもの時間を確保できなくて、十分な港になれているのだろうか。
この愛着を形成していくうえで、これ、どれだけ時間が必要なのか、子どもと親の間に、そして何歳ぐらいまでが大事なんでしょうか?
時間は関係ありません。
短くても大丈夫です。
むしろ子どもの行動や気持ちに対して、必ず応えてあげてることがあるかどうか。
私どものことばでは、応答性って呼びますけれども、応答、すなわち応えてあげてるってことがとても大事なわけです。
つまり、お父さん、お母さん、何か子どものほうから声かけてきたときにきちっと向き合うってことですね。
おっしゃるとおりです。
逆に、それを無視してしまいますと、いくら長い時間つきあっていても、それは意味がなくなってきます。
そして、お子さんたちにとっての愛着形成の期間、何歳までが大事なんですか?
これはあくまで目安という意味ですけれども、大体3歳ぐらいを過ぎますと、自然に、その港から外に行く時間が長くなってきます。
ですから、いくら引き止めようと思っても、自然に3歳ぐらいからは、だんだんだんだん手が離れていくっていう、それが実情だと思います。
なるほど。
今のリポートの中で、愛着障害を持ったお子さんの、脳の変化についての研究も行われていましたけれども、虐待など、強いストレスを受けることによって、脳の発達への影響というのは、今のところの段階でどう捉えたらよろしいでしょうか?
脳研究というのは、日進月歩の分野ですので、これから10年先、15年先、どのぐらいのものが生き延びているかというと、なんともいえないところがあります。
ですから、過剰な信頼は避けるべきだと思いますけれども、少なくとも、この環境的な要因が、脳にも影響を与えるぞというそういう警鐘の意味はあると思いますね。
一方で、それをあまりに強調しすぎますと、虐待がすぐ脳に影響を及ぼし、そして、またダイレクトに、犯罪につながるというふうな、間違った固定した考え方を与えてしまうことがありますので、そういう考え方は避けるべきだと思います。
さあ、虐待や不適切な養育を受けて、愛着を築けなかった子どもたちを、どうやって救っていくのか。
愛着の再生に向けた取り組みを続いてご覧いただきましょう。
愛着障害を研究する福井大学教授の友田明美さんは脳科学の知見を生かした新たな治療薬を模索しています。
その一つがオキシトシンと呼ばれるホルモンです。
スキンシップなどで安心感を得られたときなどに分泌されるホルモンで人との信頼関係を醸成する役割を果たすとして国内外から注目されています。
友田さんは、2年ほど前から愛着障害の子どもたちに対して試験的に投与しています。
オキシトシンは愛着障害によって反応が鈍くなったと見られる線条体に強く作用するため効果が見込めるのではないかと考えたのです。
脳の機能を回復させる治療は人間的な関係を取り戻す心理的なアプローチと合わせることで意味を持つと友田さんは考えています。
はい、どうぞ。
この日、友田さんは精神安定薬を処方しながら6年間カウンセリングを行っている少女を診察しました。
現在、中学1年生。
1歳でネグレクトを受け、以来児童養護施設で暮らしています。
小学生のころから暴言を吐いたり包丁を持ち出して人を脅したり問題行動を続けてきました。
友田さんは施設の職員や心理士そして学校の教師などとチームを組んで少女に愛着の心が育つようアプローチを続けてきました。
誰かが必ず少女に関心を抱いている環境を作り幼いときに育まれてこなかった愛着の形成を促そうとしているのです。
長い時間をかけて行われる愛着の再生。
今、少女に少しずつ変化が現れています。
本来、幼いときに育まれるべき愛着。
その再生への取り組みは早ければ早いほど効果が高いと友田さんは考えています。
愛着障害の問題を投げかけた広島の殺害事件から1年半余り。
事件を主導したとされる少女も母親との愛着の再生を目指しています。
70通を超える母親との手紙のやり取り。
拒絶されていた母親は虐待をしてきたことを娘に謝り続けました。
「本当にごめんなさい」。
「ママの考え方がおかしかった」。
「今回のことがあり、あなたがどんな思いをしていたのかよく分かりました」。
どんなに拒絶しても手紙をよこしてくる母親。
今、少女の記す文面が少しずつ変わってきているといいます。
「私は今までママを傷つけることばかりしてきた言ってきたなって思った」。
「10月17日裁判所で泣いとる私をママが初めて背中をなでてくれた日」。
「17年間生きとって初めてじかに伝わったママからの愛情なんじゃないかなと思った」。
みずから犯した取り返しのつかない罪。
失った過去と向き合う作業は始まったばかりです。
愛着障害を持ったお子さんたちをどうやって救うのか、非常に重い課題ですけれども、今のリポートの中に、薬の研究というのも始まっていますけれども、この薬の効果、薬を再生に向けて、どう位置づけたらいいんでしょうか。
オキシトシンというのは、あくまでもまだ試験段階ですから、それがある程度の有効性があるのか、全くないのか、結論が出ていないんだということを、はっきり申し上げておきたいと思います。
将来、仮に多少の効果があるというふうに仮定しましても、そればっかりで問題を解決しようというやり方は間違っていると思います。
あくまでそれぞれの人間関係というのを修復していく、ここに主眼が置かれるべきだろうというふうに思います。
広島県呉市の事件も控訴審がこれから始まっていくことになるんですけれども、今のリポートにありましたように、娘と母親、手紙の交換を通じて、その愛着の再生というのを試みていますけれども、多くのお子さんたち、虐待を受けた子どもたちが少なくない中で、その中で愛着障害を持っている人々に対して、どうやって、それを回復していくのか、何を大事にしながら進めていくことが大事なんでしょうか?
港、すなわち親へのサポートということ、それから子ども、船である子どもへのサポートということ、この両方を並行して行っていくことが大事だと思います。
親に関しては、一番大事なことは、孤立させないということですね。
さまざまなつながりを親の周りに作っていって、親にゆとりを持っていただくということが大事です。
子どもに関しては、自分の興味のあることを通じて、自信を回復していく中から、人間的なつながりを広げていくってことが一番大切です。
具体的には、自分の興味のあることを通して、人間関係。
例えば今のリポートの中で、愛着障害を持ったお子さんが、4歳の子どもに対して、優しいしぐさができるようになったってことがありましたよね?
それは大変大事なことで、人間関係というのは、同じ年代よりも、小さな子どもとのほうが、持ちやすい、優しい心を発揮しやすいというところがあるんですね。
ところが、本人はそれを立派なことというふうには、意外に気付いていないんです。
そこを何度も周りの人が高く評価していって、そして、本当は立派な行為なんだってことが、本人にも自覚できるような方向に持っていく。
これも人間関係の一つだと思います。
自分のそういった得意なところを、むしろ評価してあげるということですか?
そうですね、それによって自分を大切にすることができるようになります。
そして、なかなか親との再生が難しい場合、チームになって取り組んでいましたけれども、そういったときに、大人が接するときに、どういうところに気をつけなければいけないんでしょうか?
これまでと違ったタイプの大人がいるんだってことを分かってもらうことが、大事ですね。
そのために、一方的に指示したり、命令したりするんではなくて、共同行動という呼び方をしてますけれども、一緒に行動していくということが大切です。
多くの子どもたちと向き合ってこられた中で、あっ、愛着が再生されてきたって感じる瞬間って、どういうときですか?
自分のことを語り出す、自分の気持ちや考えを少しずつ語り出す、それも、何か恥ずかしそうに語り出すっていうことが、私たちが一番、ほっとする瞬間です。
そういうものがあると、あっ、自分を大切にすることができているなというふうに感じるわけです。
2015/02/09(月) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「少年犯罪・加害者の心に何が〜“愛着不形成”と子どもたち〜」[字]
少年犯罪の背景の一つに、幼少期の「愛着不形成」があると指摘されている。最新の医学的研究や関係再構築の試みを紹介し、子どもを犯罪から守る社会の取り組みを伝える。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】岐阜大学医学部准教授 精神科医…高岡健,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】岐阜大学医学部准教授 精神科医…高岡健,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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