(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(柳家さん喬)いっぱいのお運びを頂きまして誠にありがとう存じます。
どうぞしばらくの間おつきあいの程を願っておきます。
お客様方はいかがでございますかね?夏から秋に移るのと冬から春に移るのとどちらの季節がお好きでございますかね?寒さに閉ざされてやっと花が咲き何となくのんびりと鶯などが鳴いて春を迎える頃と「もう暑くて暑くてしょうがない早く涼しくならねえかな」。
薄の穂がゆらゆら揺れるようなそんな秋とどちらがお好きでしょうか?まぁそんな事はどうでもよろしいんでございますが。
「春眠暁を覚えず」なんてな事を言いますね。
うん春は眠いんだそうです。
ですが秋も夏の疲れが出るんでしょうか眠うございますですね。
炬燵に入って足を突っ込んで何となくテレビをぼんやり見てるうちにウトウトするこれも何とも気持ちのいいもので。
夏場でもクーラーの効いた部屋でもってもう本当パンツ一枚でもって大の字になって昼寝をするのもこれも気持ちがいいもんで。
まぁ人間というのは一年中寝てるのが一番気持ちがいいのかもしれません。
(笑い)まぁ季節の楽しみ方というのはあるようでございますが。
寝ていて夢を見るという事がよくおありになると思うんですが電車の中でもよく…まぁお仕事でお疲れなんでしょうか寝てらっしゃる方がおいでになります。
グ〜ッとね。
時々ウッとね。
「この人魚になっちゃったのかな」と思う事があります。
(笑い)前座の頃師匠の家が目白でございました。
五代目柳家小さん。
山手線当時は山手線って言っておりましたがね山手線に乗りましてウトウトして「あ〜大塚か。
もうすぐ目白だな」なんて。
フッと次目覚ましますと「大塚〜大塚〜」。
「一回りしたな」と思う訳でございます。
(笑い)夢というのは一体どこで見るんでしょうかね?お客様方はどうお考えですか?夢。
まぁ実際に画像が映る訳ですから目。
ところがこれは寝てる訳ですから目をつぶっておりますね。
ウ〜ンどこで見るんだろう?頭の中?いえ。
でも頭の中ばかりでもないようですね。
何か心に何となく嫌な事があったりとても楽しい事があったらするとまたそれでいい夢とか悪い夢をご覧になる。
いろいろ考えてフッと寝つくとやはりそこで夢を見る。
夢は目で見るんでしょうか?頭で見るんでしょうか?心で見るんでしょうか?よく分かりません。
ですが現実に夢をご覧になりますと自分がその中にいる訳ですね。
画像の中に自分がいるんです。
ですが寝ている自分もそこに存在している訳ですね。
という事は一時に二人の人間がそこに存在する訳ですね。
ともう2次元とか3次元とかそういうもんでもないようですね。
もう本当に夢というのは不思議だなと思います。
フッと目を覚まして「あっ夢で良かったな」とかフッと目を覚まして「あ〜続きが見てみたいな」とかそれぞれ夢のお感じになり方も違うようでございますが。
私今まで夢を見て一番楽しかった今でも思い出してニコッとしてしまう夢があります。
もう何十年も前の話なんですがアグネス・チャンと手をつないでお花畑をスキップして歩く。
(笑い)これいまだに忘れられないですね。
・「丘の上」あのころなんでございますかね。
青春の一ページかなと思ったりも致しますが。
まぁまぁどんな夢を見ましても夢を見るというのと夢を持つというのは違うようでございますね。
女の方はどうやら夢を見る男性は夢を持つ。
まぁいずれに致しましても見る事も持つ事も人間では大切な事なのかもしれません。
相なるべくならいい夢をご覧になるのが一番よろしいようでございますが。
「ね〜あなた起きて下さいよね〜。
こんな所寝てるといけませんお起きになって。
フフフ。
若旦那起きて下さいよ。
あらっ笑ってる。
あっまた笑った。
夢見てんのかしらね?フフフ。
きっと夢見てんだ。
どんな夢見て…。
ね〜若旦那あなた起きてあなた若旦那」。
「おっはいはい。
いえいえもう…もう…。
何だお花か。
がっかりさせるな〜」。
「えっ?」。
「何だって起こすんだよ」。
「フフフだってこんな所でお休みになってると風邪ひいちまうじゃないですか。
それより何か夢ご覧になってたんでしょ?ね〜うれしそうな顔していて私が起こしたからそんないい夢見ていたからお怒りになってるんでしょ?ね〜どんな夢見たの?」。
「うん?ウウ〜ン夢なんか見てない」。
「いえ〜。
ご覧なってましたようれしそうな顔してたもん。
で私が起こしたから怒ってらっしゃるんでしょ?どんな夢?」。
「いや本当私は夢なんか見てないよ」。
「見てたわよ〜!あなたがそこで夢見てんの私ここで見てたんだから」。
(笑い)「本当に訳の分からない事言いなさんな。
私は本当に夢なんか見てませんよ」。
「そんないいじゃありませんか話して下すったって。
あなたお帳場にいて店の若い人といつもケラケラ笑ってお話してどんな話してんだろうって私お聞きしたいのにあなたこっち戻ってきちまうとすぐここで昼寝してしまうんですもの。
私だってお話いろいろ聞きたいもの。
ね〜どんな夢ご覧になったの?話して下さいよ。
ね?話してね?話して」。
「あ〜うるさいな話して話してって。
私ゃ噺家じゃないんだからね」。
(笑い)「夢は見てません」。
「ご覧になってたわよ。
ね〜」。
「ンフッウ〜ン。
話してもいいけどもさお前怒るよ」。
「何を言ってるんです。
夢のお話でしょ?怒る訳ないじゃありませんか。
ね?どんな夢ご覧になったの?ね?話して聞かせて下さいよどんな夢?」。
「本当に怒らないかい?」。
「怒りません」。
「本当だね?あのね私向島をブラブラ歩いてたんだ」。
「向島?」。
「うん。
あっ知らないかほらあの三囲さんとか長命寺とか。
あそこは花柳界花街さ。
もうたくさんね料理屋があるのさ」。
「あっそうなんですか?」。
「うん。
そりゃ芸者衆たちがねお三味線のお稽古したりまぁ踊りのお稽古をしてるんだろうな。
どこからともなく唄が聞こえてきたり三味線の音が聞こえたりまあ〜風情のあるいい所さ」。
「あらまあ〜そうなんですか?」。
「うん。
ブラブラ歩いてたらね雨が降ってきたんだよ」。
「あ〜らいけません」。
「雨宿りしようと思ったんだけどさうん言ったとおり花柳界だろ?みんな料理屋ばっかさ。
うん庇のある家なんざないのさ。
『困っちまったな』と思ってねヒョイと見たら庇が長く出ているね家があったから『ありがたいな』と思ってそこへ雨宿りをしたのさ」。
「あ〜ら良かったじゃありませんか」。
「うん。
雨宿りしてるとねその戸の中戸がガラガラッと開いてね女中さんが出てきたんだ。
うん。
それで『あ〜らそんな所で雨宿りなさってちゃいけませんよ』『いえすみません程なくやみますでしょうからどうぞ雨宿り…』『いえ。
そうじゃありませんよ。
ご覧なさい雨だれが肩にかかってるじゃありませんか』うん『ほら雨のしぶきも裾にかかってるから奥へお入んなさいまし』ってこう言ってくれるのさ」。
「まあ〜ご親切」。
「うん。
フフフ『いやいいですよ』って言ったらその女中さんが私の顔ジ〜ッと見てね『あらっ大黒屋さんの若旦那さんじゃありませんか?』ってこう言うのさ」。
「あらっご存じだったんですか?」。
「うん。
きっとなんだろうな家に買い物に来て下さってんだろうな」。
「あ〜そうですかね?」。
「うん。
したらねその女中さんが奥へ声かけるんだああ。
『あの〜ご新造さん大変ですよ。
あなたの恋い焦がれている大黒屋の若旦那がお見えになりましたよ〜』って奥に声をかけるのさ」。
(笑い)「そうなんですか?」。
「うん。
そしたらそのご新造ってぇのが奥のほうから泳ぐようにして出てくるのさ。
『あらっ大黒屋さんの若旦那さんじゃありませんか』って。
私その顔見て驚いた。
きれいだったね〜。
美しい女の人ってぇのはこういう事を言うのかと思った。
色が白くて鼻筋が通ってこう目が切れ長でねうんそれでもって口元に何とも言えないこう笑みをたたえるってぇのかな。
ほら『あ〜こういう人が本当の美しい人なんだろうな』と私は思ったのさ」。
(笑い)「そうなんですか?」。
「うん。
そしたらねそのご新造が『お清何してんの。
若旦那に上がって頂かなくちゃしょうがないじゃないの』『いえいえとんでもございません私は雨宿り…』『いいから早くお清上がって頂いて』って。
で女中さんが『さぁお上がりをお上がりを』って私の背中を押すんだよ。
まぁしょうがないから上がっちゃたんだ」。
(笑い)「知らないお宅に若旦那お上がりになったんですか?」。
「しょうがないよそんな無理やり上げられちゃったんだ。
うん。
そしたら『お清。
お運びだよ』。
酒肴のね膳が運ばれてきたんだよ。
それで『おひとつ如何ですか?』ってお酌をしようとしてくれるんだな。
『いや。
私は酒は飲まないよ』」。
「そうですよねあなたお酒お飲みにならないもの」。
「うん。
そうしたらそのご新造が『私のようなお婆ちゃんのお酌じゃうまくないんでしょうけどね。
だけどまんざら毒が入ってる訳でもありませんからどうぞ』って。
勧め上手なんだね〜。
しょうがないから一杯だけ頂いたんだ。
うん。
そしたら『私も一杯頂こうかしら』って言うからそれじゃってんでご返杯ってぇのかな一杯。
でまた一杯」。
「あなたお酒お飲みにならないのに飲んだんですか?だっていつもお父っつぁんがお酒飲んでると『何であんな物飲むんだ』って苦々しい顔してるあなたが飲んだんですか?」。
(笑い)「あなた女の方のお酌だとお酒飲むの?」。
「いや。
そうじゃないよ〜。
無理やり飲まされちゃったんだよ。
だからやったり取ったりしてるうちにあれでそうだな〜二人で6本ぐらい飲んだかな」。
(笑い)「そんなにお飲みになったんですか?ふだんお飲みにならない方が女の人のお酌だと6本も…」。
「ウフンやめたこの話やめた」。
「聞かせて下さいよ」。
「いいよ。
お前怒ってるじゃないか」。
「怒ってませんよ。
いいお話だなと思って聞いてるんじゃありませんか」。
(笑い)「でどうしたんです?」。
「でこう飲んでるうちにね三味線掛けから三味線を持ってきて爪弾きでさ何て言うのかな?小唄って言うのかい?歌ったんだよね『飲めぬ酒』。
・『飲めぬ酒なら助けてもやろが』っていい声なんだよ〜」。
(笑い)「それでどうなすったんです?」。
「そうしたらねそのご新造が三味線の調子変えてさ今度は都々逸で『これほど想うにもし添い遂げられなきゃ私ゃ出雲へ』・『どなり込む』っつって唄尻をちょっと上げてねで私の顔を上目遣いでチラッと見てニコッて笑うんだね。
弱っちゃって」。
(笑い)「それでどうしたんです!?」。
(笑い)「もうこの話やめようやめよう」。
「聞かせて下さい」。
「だって怒ってるじゃないか」。
「怒ってませんよ」。
「だってお前怒らない…」。
「怒ってないじゃありませんか。
それでどうしたんです!?」。
「それでさぁ頭痛くなっちゃったんだ。
うん。
だからね『私ちょいと頭痛くなりましたからこれでご無礼します』ったら『あらっ無理やりお酒飲ませちまったからいけませんごめんなさいね』ってね『ちょいとお清布団を敷いておくれ』って布団を延べてくれたんだな」。
(笑い)「布団ですか?」。
「そうなんだよ。
うん。
それで私布団ゴロッと横になってでそのご新造が手拭いをね水で浸してこう頭冷やしてくれたりなんかしてさ。
ウ〜ンウフッね〜フフフ。
いくらか気分が良くなったんだ。
だから『私これでご無礼します』って『あ〜ら良かった。
ご気分がよろしくなったんですね』ってそう言われてねうん。
それで起きようとしたらそのご新造が『何か私も頭が痛くなりました』って言うんだな。
『あっそれはいけませんすぐ私起きますから』『いいえ。
起きないで下さいな。
私も一緒に若旦那の傍へ休ませて下さいな〜』」。
(笑い)「こう言うんだな」。
(笑い)「それで?それでどうなすったんです!?」。
「ウ〜ンとご新造が着物を脱いでまぁ派手な長襦袢一枚になって私の床の裾のほうへス〜ッと入ってこようとした時にお前が起こしたんだ」。
(笑い)「悔しい〜っ!」。
「な何だよ?」。
(笑い)「あなたそういう方なんです。
ふだんお酒もお飲みにならないあなたがそんな女の人とお酒飲んでふだん固い事を言ってるあなたがそんな知らない家へお宅へ上がって女の人と…」。
「何を言ってんだよ夢の話だろ?」。
「夢はあなたがねそうやってふだんそういう事を思ってるからそういう夢見るんですよ本当に。
あなたはそういう人だ。
本当にもう不潔〜っ!」。
「何が不潔だよ。
何言ってんだよ」。
「おいおいおい。
何だな?二人で。
ええ?お花大きな声出すんじゃない。
お帳場のほうへ聞こえてるよ。
何だ伜もお前も何だ。
そうやってむきになって。
ええ?本当にもう。
どうしたんだよ?」。
「どうしたもこうしたもない」。
「お父っつぁんお父っつぁん若旦那はこんな不行状な事なさる人だと思わなかった」。
「何だい?不行状っていうのは。
ええ?人の道に外れるような事?伜。
お前したのか?ええ?」。
「お父っつぁん聞いて下さい。
若旦那向島をブラブラ歩いてたんだそうです」。
「向島?」。
「ええ。
向島という所は花柳界とか花街とか言ってたくさん料理屋さんがあって芸者さんやなんかが三味線の稽古したり踊りの稽古して粋な所なんだそうです」。
「うんうんまぁそうだね」。
「そうなんです。
そしたらね雨が降ってきたんです」。
「雨が?ほうほう」。
「雨宿りしようと思ってみんな料亭で庇のある家なんかないんだそうです」。
「あ〜そうかもしれないな」。
「ええ。
そしたら庇のス〜ッと伸びてる家があったんでそこで雨宿りしたんですって」。
「ハア〜そりゃ良かった」。
「そしたらそこの女中さんが出てきて『そんな所で雨宿りしてたらかえって濡れちまうから奥へお上がりなさい』」。
(笑い)「中入っちゃったの」。
「うんうんうんうん」。
「そしたらその女中さんが若旦那の顔を見て『あらっ大黒屋さんの若旦那さんじゃありませんか』」。
「ハア〜それじゃなんだお客様だった?」。
「そうかもしれません。
そしたらその女中さんが奥に声をかけて『ご新造。
あなたの恋い焦がれてる大黒屋の若旦那さんがお見えになりましたよ』ってそう言ったんだって。
ア〜ンア〜ンア〜ンア〜ン」。
「息を吐きなさい息を」。
(笑い)「うん。
それで?」。
「ええ。
そしたらそのご新造が出てきてそのご新造の顔を見て若旦那『世の中に美しい人っていうのはこういう人の事を言うもんで色が白くて鼻筋が通って目元がウウッ口元が…。
ア〜ンウウ〜ッ。
『何してるのお清上へ上がって頂きなさい』ってまあ〜若旦那上へ上がって。
その方がお酒を支度してくれて『お酒私は飲めません』ってそう言ったらそのご新造が『私みたいなお婆ちゃんのお酌じゃうまくないでしょ。
まんざら毒が入ってる訳じゃないから一杯如何』って。
若旦那お酒飲んだんです」。
「何だ?伜が酒を飲んだ?」。
「そうなんです。
やったり取ったりして二人で6本も飲んで」。
(笑い)「6本も飲んだのか?」。
「そうなんです。
そして…ア〜ンア〜ンア〜ン」。
(笑い)「吐きなさいよ息を」。
(笑い)「うんうんうんそれでどうした?」。
「ウウ〜ッウ〜ッ。
頭が痛くなってきたって布団敷いてもらって寝たんだそうです」。
「うんうんうんうん」。
「ええ。
ご新造が看病してくれてすっかり具合が良くなったから『私これで帰ります』ってそう言ったらそのご新造が『何か私も頭が痛くなってきた。
一緒に寝かせて下さいって…』。
ウワ〜ッア〜ンア〜ンア〜ン」。
「大丈夫かよ?おい。
ええ?うん。
ええっ?」。
「うん。
それで着物を脱いで…。
若旦那一緒に寝たんです」。
「ええっ?伜がか?そりゃ不行状」。
「そうなんです。
お父っつぁん。
私ねやきもちでこんな事言ってんじゃないんですよ。
そういう方ですからきっと男の人がおいでになってその男の人が明くる日家へ来て『よくも家のかみさんに手を出した。
どうしてくれるんだ』って。
そんな事が世間に聞こえたらウウ〜ッ暖簾に疵がつくでしょ?そしたら家の店が潰れちゃうから。
私やきもちで言ってんじゃないんです」。
(笑い)「伜。
お前は何てぇ事するんだ。
ええ?お花が怒るの当たり前だ。
何を笑ってんだ何を。
私とお花がこうやってお前の事心配してるのに何笑ってんだ」。
「笑いたくもなりますよお父っつぁんええ?今の話はみんな夢の話ですよ」。
「ええっ?」。
「私ね帳場からこっち下がってきてそれで昼寝してたんですよそしたら夢見たんですそれでお花がそれ見てて『話聞かせてくれ』って言うから『いや。
お前怒るから嫌だよ』っつったら『いや。
怒りませんから聞かせて下さい』ってで夢の話聞かせたらこれなんですよ」。
(笑い)「お花。
今の話は夢の話なのかい?」。
「そうなんです」。
(笑い)「夢の話かアハハハハハフフフ。
伜。
ばか。
何だってそういう手数のかかる夢を見るんだ」。
(笑い)「アハハお花堪忍しておくれ。
まぁお前の言うとおりだ。
な〜家の伜はまぁそんな事するような奴じゃないがどこか心に隙があったんだろうね。
それでそんな夢見たんだろうと思うよ。
まぁ堪忍しておくれ」。
「ええ。
私も大きな声出してすみませんでした」。
「うんうん話分かりゃいい。
お前帳場へ行ってこい帳場さぁ。
アハハどうもお花すまなかったな堪忍しておくれ」。
「ええ。
ウウッいいんです。
私もついつい大きな声出しちゃってすみませんでした」。
「しかしなんだええ?伜が夢の中でもって飲めない酒を飲んだりなんかしてハハハそらぁ面白いもんだな。
夢なんてぇなぁ妙なもんだねお花」。
「ええ。
そうです。
お父っつぁん」。
「何だ?」。
「お願いがあるんですけど」。
「何だい?頼みがある?何だい?」。
「ええ。
お父っつぁんその向島って所へ行ってそのご新造に会って『家の伜に手を出さないでくれ』って言ってきちゃくれませんか?」。
(笑い)「お花。
ゆ夢の話だよ?ええ?夢の話だ」。
「ええ。
そうです。
だけど心配でしかたありませんから行ってきて」。
「いや行ってきてったってなこらぁ弱ったねその夢の…アハハハハハその夢の中の人と会うといってもね〜。
どうやって会う事ができるんだよ?」。
「ご存じないですか?淡島様に願をかけるんです。
それでね『上の句を差し上げますからもし夢の中の人に会う事ができたらあとで下の句を差し上げます』って淡島様に願をかけるとその夢の中の人に会う事ができるんですって。
ね?ですからお父っつぁんお願いこのとおり。
淡島様に願かけて。
ね?」。
「ええ?そんなおかしな…まぁそんな話聞いた事があるけどもね。
ああ分かった分かった。
それじゃあねうん今日夜寝る時に淡島様に願をかけてその夢の中のご新造に会えるように頼む」。
「今行って下さい」。
「いや今ったってお前昼間…」。
「だって今若旦那お帳場でお仕事をなさっててそれでもしですよ?コックリコックリ居眠りでもしてさっきの夢の続きを見たらどうなる?」。
(笑い)「着物を脱いで布団に入ってきたまでで私がお起こししたからいいけどその続き見るかと思うと私は…」。
「アッハハハハハハハハ女の人だね〜ヘエ〜。
いや〜こういうところは男は気が付かないエヘヘヘヘ。
はいはい分かった分かった。
うん。
それじゃねお前の言うとおりひとつその淡島様に願をかけてねうん夢の中のご新造に会える…。
いや布団なんざ敷かなくっていいよ私ゃ昼寝なんぞしないんだからうんいいいい。
いや枕も要らない枕も要らないフフフ。
分かった分かった淡島様にな?うん。
淡島様。
夢の中の人に会わせて頂きどうぞ上の句を差し上げます。
どうぞ夢の中のご新造に会わせて下さい。
これでいいか?うんうん分かった分かった。
はいはいどうぞご新造に会わせて…向島のご新造夢の中のご新造に会わせて下さい。
会わせて下さい」。
「ご新造。
大黒屋さんの大旦那がお見えになりましたよ」。
(笑い)「あ〜らお父っつぁん。
何ですね。
今若旦那お帰りになったばかしなんですよ」。
「うんアハハそりゃどうも。
え〜いつも伜がお世話になっておりますな。
実は今日はその伜の事で…」。
「今お帰りになったんでお会いになりませんでした?お清何してるのお父っつぁんに早く上がって頂きな。
どうぞお父っつぁんお上がりになって」。
「いえいえ。
今日はねちょっと伜の事でお話がありました。
ええちょいとお聞きを頂きたい」。
「いえお父っつぁん話はゆっくりできますもの。
さぁ早く。
お清何してるの早く上がって早く。
どうぞひとつお父っつぁんお上がりを」。
「いえいえ。
そうじゃないんです私はね伜…。
アハハハこりゃ…。
どうもどうも」。
「お清。
早くお運びしてお運びして。
あのねお父っつぁんお酒お好きだからうん御飯よりお酒がお好きなんで。
今すぐお父っつぁんお支度しますから」。
「いえいえ。
お酒はいいんでございますよ。
今日はねちょっと伜の事でお話がありました。
家の伜なんでございますが…」。
「お清何してるの早くお父っつぁんにお酒お出ししなさいよ。
ええ?肴?肴あったでしょ?そこに。
それに何かうんちょっと見つくろって。
今お父っつぁん…。
お父っつぁん冷やでいいですね?」。
「いや。
冷やは駄目なんですよ。
私ね冷や酒でね若い頃大きなしくじりをしたんです。
ですから冷や酒は駄…。
いやそんな事はどうでもいいんですあの〜ちょっと伜の事でねお願いです」。
「早くしなさいお父っつぁんねお冷やは駄目なんだってうんお燗しなきゃ駄目早く燗しておくれね早く。
ね〜お父っつぁんちょっとお湯が沸くまでお冷やで」。
「いや。
冷やは駄目なんです。
私は燗しか飲まないんですから。
いえそんな事じゃないんでございます家の伜の事でちょっと伺いまして。
家の伜がですなあなた様に…」。
「お清何をしてるのよ。
早くお父っつぁんにお酒出してあげて下さいな。
ね?お父っつぁん。
ちょっとだけでも冷やで一杯」。
「いや。
冷やは駄目なんです。
燗でなきゃ駄目なんです。
もう私ゃ冷や酒飲まないんですから。
いやいやそれで…いやそんな話じゃないんです私は伜の事でちょっと伺いましてな。
家の伜の事でえ〜ちょっとご新造様に…」。
「お清何をしてるのまだお湯沸かないの?ええ?駄目よお父っつぁん燗酒でなきゃ駄目…。
ね〜お父っつぁん一杯だけでも冷やで」。
「いや。
冷やは駄目なの冷や…。
いやいや。
そうじゃない。
燗でなきゃ私は飲まない。
いや。
そんな話じゃない。
いやあのねそうじゃない。
あの〜いえいえ私は冷やは飲まない」。
「ね〜お冷や」。
「いや。
冷やは飲まないんで。
燗でなきゃ冷やは駄目なんで冷やは駄目冷や…」。
「お父っつぁんお父っつぁんお父っつぁんおと…おと…」。
「私はねひ…」。
「あ〜お花か。
惜しいことしたな〜」。
(笑い)「向島のご新造に会って下すったんですか?」。
「うん」。
「あ〜それじゃこれからご意見して頂くところを私がお起こししてしまったんですねごめんなさいね」。
「いやいや。
そうじゃないんだ。
冷やでもよかったな〜」。
(笑い)
(拍手)
(打ち出し太鼓)
(テーマ音楽)2015/02/09(月) 15:00〜15:30
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 落語「夢の酒」[解][字][再]
落語「夢の酒」▽柳家 さん喬▽第665回東京落語会
詳細情報
番組内容
落語「夢の酒」▽柳家 さん喬▽第665回東京落語会
出演者
【出演】柳家さん喬
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz
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