(風間)空に穴が開いていた。
月という言葉から離れて見るその穴は棒立ちになってしばらく見上げてしまうほどに不思議なものだった。
写真とエッセーをつづった齋藤陽道さん。
ありふれた日常に命を吹き込む写真家です。
カメラのレンズを通して齋藤さんが見つめているもの。
それは誰もが見ているのに気が付かない一瞬の輝き。
齋藤さんは生まれた時からほとんど耳が聞こえません。
少年時代補聴器をつけても聞き取れない友達の声。
言葉が怖くて誰とも話さず過ごした日々。
二十歳の時決断しました。
「言葉以外の声を見つけたい」。
補聴器を捨てました。
自分だけに見える世界がある。
その感動を声にして伝えたい。
心を写す写真家齋藤陽道さんのブレイクスルーに迫ります。
(取材者)おはようございます。
よろしくお願いします。
去年11月齋藤さんの自宅兼仕事場を訪ねました。
齋藤さんがカメラを見せてくれました。
(シャッター音)あっデジタルカメラじゃない。
フィルムのカメラを使っているんですね。
カメラのレンズを通して齋藤さんが見つめ続けているテーマがあります。
それは命の輝き。
障害や病気さまざまな生きづらさを抱えている人々の何気ない日常。
「いっしょに海に行こうよと声かけて海にいきました。
さけんでるのかな。
わからない。
あくびだったかも。
わからない」。
「写真をとるきもちの源生きようとするちからの源動こうとするエネルギーの源はなに?と考えるとやはり感動だよな…」。
この日齋藤さんがやって来たのは高速バスの乗り場。
2のA席。
はいどうぞ。
撮影の仕事が入ったのです。
ある女性から「自分の写真を撮ってほしい」と頼まれました。
(取材者)「無」?向かったのは愛媛県の今治。
12時間の長旅です。
朝8時今治に到着。
齋藤さんに撮影を依頼した広瀬舞子さん。
撮影を始める前に齋藤さんはあるお願いをしました。
この町で舞子さんの好きな場所に連れていってほしいと頼んだのです。
(鈴の音)
(鈴の音)
(笑い声)
(広瀬)「焦げても音いっしょ?」って。
「うんそうだね〜」って。
「へ〜しぶといね」って。
(笑い声)舞子さんは2年前の秋幻聴と妄想に襲われ自宅で療養をしています。
…って思ったのがきっかけですね。
(シャッター音)舞子さんに寄り添って歩く齋藤さん。
ここで齋藤さんが初めて尋ねました。
「メールでいまの状況すこし教えてもらったけどまた改めてきかせて下さい」。
「あることがきっかけでげんちょうともうそうがおそってきて家のガラスたたきわって外をはだしで走って車の中にとびこんでいって」。
舞子さんはあの日警察に保護されそのまま入院しました。
齋藤さんが選んだ撮影場所は舞子さんが車に飛び込んだこの交差点。
あの日の舞子さんを感じる。
齋藤さんははだしになってシャッターを切ります。
(シャッター音)
(シャッター音)
(シャッター音)
(シャッター音)野に咲く花を摘む齋藤さん。
(シャッター音)
(シャッター音)最後に向かった撮影場所。
そこは舞子さんが子どもの頃から大好きな場所。
つらい事があると眺めていた自宅の前にある海でした。
(シャッター音)
(シャッター音)
(取材者)すごいね。
すごい。
すごいびっくりした。
「感じとったこと…わからないけど…ひろせさんといっしょに劇的なふつうの散歩ができてよかったなあと思います」。
(鈴の音)
(鈴の音)
(笑い声)人が好きと語る齋藤さん。
しかし高校に行くまでは人と関わるのが怖くてしかたなかったといいます。
親の希望で地域の学校に通いましたが補聴器をつけてもかすかにしか聞こえないため友達と会話ができませんでした。
そんな日々が9年間続いたある日どうしようもない孤独感に襲われました。
きっかけは当時人気だった青春コミック。
何気ないやり取りが突然心に突き刺さってきたのです。
「僕はこんなふうに会話を楽しんだ事がない。
人とつながれない僕に生きる価値はない」。
この日齋藤さんは久しぶりに母親を訪ねました。
お帰り。
あら久しぶり。
おお。
おいしそう。
ありがとう。
母親の美津子さんは息子に聴覚障害があっても地域の学校で学ぶ方が幸せだと考えていました。
中学3年生になって「聞こえない友達が欲しい」って言ったの。
「えっ?」って。
「ろう学校に入りたい」って。
でもそこで半年の間でぐわって変わったのが。
目の前で。
「お母さん友達と『おはよう』っていうのがちょっと手をやるとみんなで何人いても分かるんだよ」って。
「人と話をするのがこんなに楽しかったんだ」って「初めて分かった」っていう言葉を言われた時に…。
手話と出会い人とつながる喜びを知った齋藤さん。
二十歳の時補聴器を捨て新しい世界を見つけようと決意しました。
齋藤さんには新潟県十日町に少し年の離れた親友がいます。
別府倫太郎さん12歳。
円形脱毛症と腎臓の病気を患っています。
小学校3年生の時いじめが始まり学校に行かないという選択をしました。
将来の夢は作家になる事。
本を書いたり料理を作る事が倫太郎さんの楽しみです。
齋藤さんに出会ったのは2年前。
その時一枚の写真を撮ってもらいました。
病気や外見で判断しないで一人の人間として見てくれる人がいた。
倫太郎さんは笑顔を取り戻しました。
齋藤さんにとっても倫太郎さんとの出会いは心地のよいものでした。
自分の知らない世界や感性を持っている少年。
世界は感動にあふれている。
もっと心を自由に。
自分にしか見えない輝きを見つけよう。
(シャッター音)倫太郎さんと齋藤さん。
19歳年の離れた親友です。
おはようございます。
広瀬舞子さんの自宅を訪ねました。
いいお天気ですね。
齋藤さんから送られてきた写真を開封します。
齋藤さんと一緒につらい過去と向き合ったあの日。
舞子さんは何を感じ取ったのでしょうか?
(司会)さあ登場致しました。
(司会)新進気鋭のカメラマンとして活動中です。
(拍手)
(司会)鶴園誠!
(拍手)ファイト!
(ゴング)
(ゴング)
(拍手)
(司会)29対28鶴園!
(拍手と歓声)2015/02/09(月) 13:05〜13:35
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV ブレイクスルー「File.23 写真家・齋藤陽道」[字][再]
新進気鋭の写真家・齋藤陽道さん(31歳)。作品は、ありふれた日常に命を吹き込み“感動”にあふれている。耳が聞こえない自分だから見える世界がある。その活動に迫る。
詳細情報
番組内容
新進気鋭の写真家・齋藤陽道さん(31歳)。作品は、ありふれた日常に命を吹き込み“感動”にあふれている。5年前、新人写真家を発掘するコンテストで優秀賞を受賞。実は齋藤さんは、生まれた時からほとんど耳が聞こえません。誰とも会話できず、自分は生きる価値がない人間だと悩んだ少年時代。孤独の中で、言葉以外の“声”を見つけたいと、写真を通して表現者になる決断をした齋藤さん。そのブレイクスルーに迫る。
出演者
【出演】写真家…齋藤陽道,【語り】風間俊介
ジャンル :
福祉 – 障害者
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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