つくば市のある研究所。
高さ1メートルほどのタンクがズラリと並んでいます。
中は液体窒素で超低温に保たれていてその中身はというと…トキ?そう絶滅した日本産のトキの細胞なんです。
近い将来この細胞を使って日本産トキが復活するかもしれません。
そのカギを握っているのが細胞操作の技術。
近年目覚ましい進歩を遂げているこの技術を使えば絶滅動物の復活も夢ではなくなってきました。
本当に復活は可能なのか?その可能性に迫ります。
絶滅した動物を復活ってすごい技術が開発されたんですね。
細胞操作の技術が進歩したので…すごい!ところでいきなりクイズなんですが。
お〜!はい。
これ実はある試算によると年間約5万種。
5万種!そんなにですか!?今地球上では500万から5,000万種の生物が存在しているといわれているんですがその多くは数が減っているんですね。
え!?うわっそれは大変ですよね。
そこで希少動物を絶滅から守る取り組みを行っているのが神戸大学の楠比呂志さんです。
ん?動物たちが見当たりませんよ。
そこにはたくさんの容器が。
この中に眠っているっていうのは…。
容器の中はマイナス196度の液体窒素で満たされており希少動物の精子や卵子が凍結保存されているんです。
この黄色のストローの中にシロサイの精子が入っています。
こちらはチーターの精子が入っています。
この研究室ではおよそ170種600個体の希少動物の精子や卵子が保存されています。
楠さんは20年ほど前から全国の動物園などと協力してこうした精子や卵子を使った希少動物の繁殖に取り組んできました。
こちらは…5年ほど前からアフリカゾウの精子を凍結保存する取り組みが行われています。
オスのゾウの肛門に腕を入れ直腸の下にある前立腺をマッサージします。
訓練されたゾウでは開始から数分で射精してくれるんです。
採取された精子はすぐに検査室に運ばれ獣医師が状態を確認します。
若干理想から言えばやや低い形にはなってます。
神戸大学では一部の精子を染色して更に詳しく観察します。
この首の部分でちぎれてしまってバラバラの状態になってる。
こういうものがいくつも見つける事ができます。
このゾウからはこれまで100回ほど採取をしてきましたが保存に適した精子がとれた事はほとんどありません。
今後は条件を変えながらこの取り組みを続けていく予定です。
更に楠さんは希少動物が死亡するとその個体からも精子や卵子を採取しています。
この日研究室に届いたのは…マーコールは中央アジアや南アジアに生息している野生のヤギです。
野生での生息数は推定2,500頭にまで減っています。
まず精液を取り出しやすいように生殖器を切り分けていきます。
こちらが採取したマーコールの精液です。
凍結保存に使うのはこちらの細いストロー。
保存用の特殊な溶液と一緒に精子を入れます。
急に凍結させると精子が壊れるためまずは液体窒素の冷気を利用してゆっくりと凍らせていきます。
最後に液体窒素の容器に入れます。
こうして長期間保存できるのです。
へえ〜。
種の保存のためにこんな取り組みがされてたんですね。
これは冷凍動物園といわれてるんですよ。
冷凍動物園?はい。
へえ〜。
さあここからはその冷凍動物園という取り組みについてお話を伺いましょう。
神戸大学農学部の楠比呂志さんです。
精子や卵子がたくさん保存されてましたけど今後どのように活用されていくんですか?将来万が一絶滅するような事があるかもしれません。
そのために保管をしておくというのが一つですね。
それともう一つは実際に今…これは扱い方としては人の場合と大体同じっていう事ですか?理論的にはもうほぼ同じです。
ただやはり実際に精子とか卵子から赤ちゃんをつくるという作業になりますともっともっとたくさんの問題点があります。
例えば…ですから全て一から考えないといけないという事になります。
映像でゾウが出てきましたけれども…はい。
あと例えばヒトの場合には子宮というのは1つの形になっているんですが実は動物によっては…それで1つしか排卵しないような生き物の場合には……という事も現実にはたくさんあります。
卵子の凍結保存もされているんですか?はい。
精子っていうのはもう本当に小さな細胞になるんですけど…魚はどうして特に難しいんですか?哺乳類の卵子っていうのはまあそれでもやっぱり顕微鏡で見ないと見えないぐらいの大きさになりますけど例えばイクラとかあれぐらいの大きさになります。
大きいですね。
じゃあもう魚の冷凍水族館みたいなのは難しいんですかね?う〜ん。
いや多分ちょっと難しいんじゃないでしょうかね。
…でその魚の場合なんですが実はメスの卵を使わずにオスから卵や精子をつくり出せるすごい技術が開発されたんです。
この技術を開発したのは…メスの細胞がなくても卵を自在につくり出せる技術を開発しています。
使うのはオスの細胞。
別の魚に移植するだけで卵に変わるというのです。
実験で使うオスの細胞は体の白いアルビノのニジマス。
移植相手は普通のニジマスのメス。
このニジマスからアルビノの卵が生まれたらオスの細胞が卵になった証明になります。
この方法で使うのはアルビノのオスの始原生殖細胞です。
始原生殖細胞とは生まれたばかりの魚が持っている…実験のもようです。
アルビノの細胞を普通のニジマスの仔魚に移植して1か月。
しっかり定着しています。
そしてオスに移植した場合はアルビノの精子が。
メスに移植した場合はアルビノの卵が生まれました。
オスの細胞が卵になったのです。
更にこの技術を絶滅のおそれがある魚にも応用するためニジマスからヤマメの異種間移植にも挑戦しました。
ニジマスの始原生殖細胞をヤマメのオスとメスに移植した結果定着させる事に見事成功。
しかしこの方法を実用化するにはある問題がありました。
実は始原生殖細胞は生まれたばかりの魚しか持っていないので取り出すのが大変なのです。
ところがここである大発見をします。
移植して卵になるオスの細胞がほかにも見つかったのです。
それは始原生殖細胞が成長した…精原細胞は本来は卵になる事はありません。
それが卵になってしまった。
この不思議な発見のきっかけは一人の不器用な学生でした。
その学生は貴重な始原生殖細胞の移植を何度も失敗しており移植の練習のために大量にとれる精原細胞を使っていたのです。
練習に使ったオスの魚をそのまま飼育していたところできた精子はニジマスのものでした。
そして驚いた事にヤマメのメスの中ではニジマスの卵がつくられていました。
精原細胞が卵に変化する力を持っている事が世界で初めて分かったのです。
精原細胞は少し成長した幼魚も持っていて数もたくさんあるためずっと利用しやすくなりました。
というふうに私たちは思った。
そんな出来事でした。
この技術を使って絶滅のおそれがある魚を守る取り組みが山梨県で始まっています。
その魚とはクニマス。
ここでは300匹ほど飼育されています。
クニマスはもともと秋田県の田沢湖に生息していた魚で水質の悪化により1940年ごろに絶滅したと考えられていました。
ところが5年前…ここではクニマスが絶滅した場合近縁種のヒメマスのおなかを借りて復活させようと考えています。
2013年およそ300匹のヒメマスにクニマスの精原細胞が移植されました。
順調にいけば来年にはこのヒメマスからクニマスが誕生する予定です。
更に東京海洋大学と協力してクニマスの精巣を凍結保存する取り組みも行っています。
万が一クニマスが絶滅した場合はこの精巣の中にある精原細胞を使えば復活できるはずです。
これで魚も冷凍動物園の仲間入りなんですね。
ですね。
ただまあいけすでねず〜っと飼っとけばいいような気もするんですがそれじゃ駄目なんですかね?そうですね。
多様性を維持していくという事にはすごく大きな貢献ができるんじゃないかなというふうに思います。
ここまでは希少な動物を絶滅の危機から守ろうという技術について見てきました。
更に…おっあの方法を使うんですね?そうです。
こちらクローン。
もう実現可能になりつつあるという事ですね。
へえ〜。
復活できるかもしれない動物の代表がこちらです。
メスのキンとオスのミドリです。
日本産トキの中で最後に残った2羽です。
でも今トキって増えてきてるって聞いたんですけどどうして復活させる必要があるんですかね?そう新潟県ではトキの野生復帰の取り組みが行われています。
個体数は順調に増えており現在およそ140羽が野生で暮らしています。
ところが2013年環境省が緊急会議を開く事態が発生。
生まれたひなが回収され人工飼育に切り替えられました。
近親交配によって生まれたヒナなので問題とされたのです。
実はこの問題の背景にはある事情があります。
現在日本にいるトキはその全てが中国から来た5羽の子孫です。
人工繁殖では近縁を避けて交配していましたが野生の環境下では近親交配になる確率が非常に高いのです。
今後トキの近親交配が起きにくくするには遺伝的な多様性が高い方がいいのです。
そこで注目されているのが…つくばにある国立環境研究所。
ここでは希少動物を中心におよそ100種2,500個体の細胞や組織を保存しています。
絶滅した日本産トキの組織や細胞もこの中で眠っています。
この細胞を使って日本産トキのクローンができれば遺伝的な多様性を高められるかもしれないのです。
近親交配とかそういう問題があったんですね。
そうですね。
更に中国から…駄目なんですかね?ああ。
日本にやって来た5羽もこの4羽を繁殖させたものなんですよ。
ああ。
という事でどこかで今…なるほど。
(楠)培養している状況だと思いますけども何かひものように長く伸びてるのがありますよね。
あれが細胞になります。
今元気よくたくさん広がっていってる状態。
えっ生きてるって事ですか?
(楠)はい。
分裂をしますのでどんどんどんどん数を増やしていくようになりますから十分使えると思いますね。
へえ〜。
じゃあここからどうやってクローンをつくるか説明しましょうか?
(江崎南沢)はい。
(竹内)まず中国産のトキから無精卵をとり出します。
そして日本産トキの細胞から核をとり出します。
それを無精卵に入れてクローン胚をつくります。
それを卵の殻の中に入れて培養します。
すると日本産トキのクローンができる。
お〜!これはうまくいきそうですね。
ねえ?ところが残念な事に…そうなんですか!どうしてですか?さっきイクラの話をしましたけど鳥の卵もっと大きいですよね。
ですからこういったところが研究の非常に大きな邪魔になりまして…へえ〜。
そのように難しいと思われる中鳥類のクローン誕生に大きく近づく技術が開発されました。
鳥類のクローン誕生にあと一歩のところまで迫っているのが…そう鳥類ではこの受精方法が重要なんです。
哺乳類の場合卵子に1つの精子が入り受精します。
これが…一方鳥類では卵に複数の精子が入ります。
精子が1つだけでは受精しても胚が成長しません。
これが…笹浪さんはクローン成功のカギは多精受精の何らかの要素にあると考えたのです。
そこでまずウズラの精子1個と精子100個分の抽出物を入れて受精卵をつくりました。
すると胚が成長してウズラのひながかえったのです。
胚の成長を促す物質は何なのか。
笹浪さんは精子の抽出物を詳しく分析しました。
その結果3種類のタンパク質を特定する事に成功したのです。
次に笹浪さんは胚の成長にはこの3種類が必要である事を確認する実験を行いました。
まずは卵に精子1つと3種類のタンパク質を混ぜたものを注射します。
そのあと体内の環境に近い41度の培養器で24時間温めます。
次に発生に必要なカルシウムが得られるように卵の殻に移し替え50時間ほど温めます。
37.5度親鳥が卵を温める温度です。
そして鶏の卵の殻に移し替えてふ化を待ちます。
こちらが受精後5日ほどたった胚です。
心臓が鼓動しているのが分かります。
そしてついにひなが誕生しました。
世界で初めて鳥類の受精からふ化までを3種類のタンパク質で再現する事に成功したのです。
それは非常にうれしかったですね。
今まで誰もできなかった事が初めてできたという事で非常にうれしかったですね。
今笹浪さんはこの方法を応用して3種類のタンパク質を使った…無精卵の中に核を入れ更にこの3種類のタンパク質を入れれば成長が進むはずだと考えました。
まだふ化までは成功していませんがクローン胚をつくり背骨のもとができる段階まで成長させる事ができたのです。
へえ〜。
そもそも鳥類って哺乳類とだいぶメカニズムが違うんですね。
違いますね。
結構感動的ですよね。
もう一歩って感じですよね。
本当ですね。
仮に技術が確立されたとしてもいろいろと考えなくちゃいけない問題というのが出てくるんですよね?こういった技術を使う事によって将来野生動物を復活させる事はできるようになるかもしれません。
一旦壊れた環境を修復するっていうのは結構大変な事ですよね。
ですからあの中で永遠の眠りにつかせてはやっぱりいけないんじゃないのかなというふうに思います。
そうですね。
だからこのクローン技術というのが確立されつつあると。
それによって絶滅の危機から救う事ができるというところは非常にいいと思うんですね。
ただそれを本当にやろうと思ったらやっぱり環境を整備しなくちゃいけない。
それがじゃあ動物園を増やせばいいのかそれとも自然保護区を大きくすればいいのか。
でもそうやっていくと人間が住むとこも無くなるしとかこれはすごく難しい問題ですね。
はい。
そういう環境を整えるという部分はもっと技術では実現できないような部分なのでそこを本当研究者ではないみんな全国民がというか人間が考えていかなきゃいけない部分なので結構大きなテーマだなって実感しましたね。
楠さんどうもありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに!2015/02/08(日) 23:50〜00:20
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「“絶滅動物”がよみがえる?」[字]
絶滅した日本産トキのクローンが作れる日も近い!?魚では精巣から卵も作れるようになったので、冷凍保存が簡単に!絶滅から動物を救うための最新の細胞操作技術に迫る。
詳細情報
番組内容
絶滅してしまった動物までを復活させる細胞操作技術が着々と進化している。その方法の一つが「クローン」。実は鳥類ではいまだにクローン作成に成功していないが、それに大きく近づく技術が開発された。また、絶滅にひんしている希少生物の精子や卵子を冷凍保存することで絶滅から守ろうという「冷凍動物園」の試みも進んでいて、従来は卵の冷凍が難しかった魚でも、卵を作り出す新技術で可能になりつつあるのだ。
出演者
【ゲスト】神戸大学農学部准教授…楠比呂志,【司会】竹内薫,南沢奈央,【キャスター】江崎史恵,【語り】土田大
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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