この日ある殺人事件に対する判決が下りようとしていた
(裁判長)刑事訴訟法319条1項より強制拷問または脅迫による自白は証拠とする事が出来ない。
(中原明子)自白が証拠にならないなんて…。
(裁判長)よって被害者を強姦暴行し殺害したとされる自白調書は警察官の違法な尋問があったと考えられる以上任意性を欠き証拠能力を認める事は出来ない。
あなた…。
(裁判長)主文。
被告人は無罪。
ひどい!
(中原誠司)明子…明子!娘が泣いています!裁判長…!由紀子が泣いている…。
由紀子が泣いています!
(小田豪一)被告人何を笑っているんだ!?
(岩崎健二)私は無実です。
何もしてませんから。
由紀子をレイプして殺しておいてなぜ無罪なんですか!?明子…。
(泣き声)明子…。
中原由紀子に対する強姦殺人事件の無罪判決は検察にとって大きな打撃であった
(緒方信子)検事正起訴状です。
電車内で痴漢をした会社員の。
(篠崎昭)私は起訴猶予が妥当だと判断した。
どうしてですか?下半身を押しつけて女性の胸を触ったんですよ。
悪質です。
起訴猶予でいい。
僕の判断だ。
僕の判断って…。
私の調べでは…。
君はわかってるのか?今それどころじゃないんだ。
検事総長から電話です。
説明に来いと言ってます。
君検事辞めたければ辞めればいいじゃないか。
はあ!?
中原誠司は判決のあと初めて娘の殺害現場を訪れた
(ため息)怖かったろうな…。
中原由紀子に対する強姦殺人事件は松ヶ原の森で2012年5月13日に起こった
警察の捜査で岩崎健二が逮捕され起訴されたが物証が乏しく自白は警察の暴行によるものと認められ無罪判決が下りたのであった
中原由紀子は川崎市麻生区のテラスハウスから夜の9時過ぎに姿を消した
16日父親の中原誠司が来て会社帰りのサラリーマンから13日の夜9時過ぎにテラスハウスの前に白いワゴンが止まっているのを見たと聞いた
(伊藤)あっ男の人が1人。
で…娘は?ええテラスハウスから出てきてその車に乗っていったんです。
中原誠司は娘が白いワゴンに乗った事を警察に届け出た
失踪して5日後の18日の朝8時頃
森の中で女性の死体が発見された
ひどいな…。
身元が割れないように所持品持ち去ったんだな。
13日の夜に怪しい車を見た…。
(井上)ええ。
13日の夜白いワゴン車が松ヶ原の森に走り込むのを見ました。
(井上の声)なんとなく変だなと思ったんですよ。
(リポーター)「13日の夜午後10時半頃遺体が発見された森の中に白いワゴン車が入っていくのをタクシー運転手が目撃していました」白いワゴン車!?テラスハウスの前に白いワゴン車が止まってたってあなた…!
(明子)ああ…!
(湯浅)相当激しく抵抗したんでしょう。
こんな顔になっちゃって…。
ああ…。
由紀子!由紀子…!お前をな…お前を殺した犯人をなお父さんが必ず殺してやる。
(仲春一)肩を絶対に離さないでくださいね。
腰踏ん張って。
はい。
どうぞ。
(銃声)
(仲)いいですよ。
左腕をしっかりと肩にねじ込んで…。
腰から合わせて…。
はい。
(銃声)
(中原遼)「旅?父さんどこに行くの?」
(遼)ペルーに来たら?空気は薄いけど山の景色は雄大だよ。
(遼)父さんは僕の布教の邪魔になると思って遠慮してるんでしょう。
そんな事を考えなくていいんですよ。
日本にいたって母さんや由紀子の事を考えてつらいだけでしょう。
「彼はどうしてるんですか?」岩崎は新宿のバーで働いている。
ほら…駄目ですよ忘れないと。
ペルーに来てアンデスの山々を眺めながら2人で色んな事を話そうよ。
家の事は栄子おばさんに頼んでおくから。
本当にどこに行くんです?帰国させてもらいましょうか?遼…お前は神に尽くしなさい。
お前を頼る人々の…光になりなさい。
(中原由紀子)お父さん!はい。
ジャン!お母さんと選んだの。
誕生日プレゼント。
ヘえ〜。
でもちょっと派手じゃないか?あらお父さんそれぐらい明るい色のほうが似合うわよ。
そうか?ありがとう。
(明子)写真撮ろう写真。
いい?いくわよ。
はい。
(シャッター音)
岩崎に無罪判決が下った半年後中原の妻明子は心労から重い心臓病を患い入院した
ん?悔しい…!悔しいよな。
悔しいよな…。
そして1年後明子は命を落とした
行ってくるよ。
必ず岩崎を殺してくる。
やれるのか…?お前を殺した犯人をなお父さんが必ず殺してやる。
いらっしゃい。
あなた中原由紀子を殺した岩崎さんですね?何しに来た?
(ドアの開閉音)お前あの女の父親だろ?そうです。
私は由紀子の父親です。
俺は無実だ…。
帰れこの野郎!
(銃声)
(銃声)
(悲鳴)警察はどこですか?
(岡田純紀)東京地検の岡田だ。
中原由紀子の父親の中原誠司です。
中原由紀子?岩崎にレイプされて殺された私の娘です。
岩崎さんは裁判で無罪だ。
検察官も裁判官も裁判員も岩崎が犯人だとわかっていた。
しかし自白が刑事の暴行や強制によるもので証拠として認められなかったために岩崎は死刑にならなかった。
お前は自分の行為を正当化している。
岩崎健二は法的には無罪で普通の市民なんだ。
本気でそう仰ってるんですか?もちろん。
そうですか…。
では始めるがこれからあなたの発言や行動は映像に記録されます。
あなたには黙秘権がある。
答えたくない事には答えなくていい。
(岡田)大学の教授ならモラル事の善悪というものがわかるだろう。
わかりますよ。
そうか…。
わかっていたのに岩崎健二を猟銃で撃ったんだな?私は岩崎を死刑にしなかった日本国に代わり死刑を執行したのです。
ふざけた事を言うな。
お前のした事はただの人殺しだ。
ただの人殺し?そういうように私を裁判にかけたい気持ちはよくわかりますよ。
しかし私は許さない。
検察や警察裁判所がなんの罪もない娘を殺した真犯人を…無罪にした大罪を!私は徹底的に弾劾します。
(遼)よくやったね…。
よくやったよ父さん!家の玄関に由紀子と母さんの靴が並んでいた。
私の靴だけじゃ寂しいじゃないか。
由紀子と母さんもきっと喜んでると思います。
お前はペルーに帰りなさい。
私にはまだ司法との闘いがある。
自殺したりはしないから大丈夫だ。
弁護士は?お父さんと一緒に闘ってくれる弁護士はいるの?いない今のところは。
いいさ。
いなければ1人でやるさ。
(携帯電話)
(安田陽一)電話電話!ほら電話!
(携帯電話)電話は吉岡判事からだったわ。
明日私に会いたいって。
検事を辞めてから会ってないのよ。
ケンカして辞表を叩きつけて辞めたんで評判悪いのよ私。
なんで今頃電話してきたんだろう?吉岡判事って君とどういう関係?父と親友だったのよ。
父が公判中に脳梗塞で亡くなった時に子供みたいに泣いてたわ。
お父さんも判事だったんだ。
弁護士よ。
ああ…。
あなた私の事なんにも知らないのね。
それで結婚したいなんて言うんだから…。
吉岡判事ってさ明日何時に来いって言ってた?10時にって。
えっ?明日婚約指輪買いに行こうと思ってたのに…。
私まだあなたと結婚するって決めたわけじゃありませんから。
…えっ!?わざわざ悪いね。
いえとんでもないです。
この事件を知っていますか?ええ知っています。
(吉岡)これは厄介な事件だよ。
君には荷が重いかもしれないが…。
私にこの事件を?君のお父さんならきっと引き受けた事件だ…。
そう思って。
はい。
弁護士は依頼人の気持ちに寄り添わなくちゃいけない。
この男難しいよ。
(吉岡)今まで3人弁護士がやめている。
この被告人ははっきりと有罪を認めていて弁護人の助けを求めていないんだ。
助けを求めていないとは?刑を軽くしてもらおうという気がないという事だ。
それでは弁護士は何もする事はありませんね。
何もする事がない…。
そうかな?えっ?
(沢田)中原面会だ。
誰ですか?弁護士が来ている。
わたくし弁護士の緒方です。
失礼ですが…。
はい。
キャリアは?はい。
2012年の9月30日までさいたま地検の検事でした。
退職して弁護士を。
ですから弁護士のキャリアは1年と1か月と…今日で3日です。
それが何か?失礼ですがそれでは…。
あなたの事件を弁護する事が出来ないと言うんですか?なぜ…?えっ?検事を辞めたんですか?電車内で痴漢した男を起訴猶予にすると上司が言ったのでそれじゃ駄目だと言ってケンカになりました。
痴漢された女性はその事がトラウマになって会社を辞めたんです。
そうですか。
それが何か?由紀子の事は…?なんて悲しいんだろうって…。
ありがとう。
中原さん!私が弁護人でいいんでしょうか?いいんですね?戻りました。
(酒井芳江)あら?どうしたんですか?難しい顔して。
仕事がきちゃったの。
本当?よかった!久しぶりですね。
この間の離婚裁判が終わったのが8月だったから…3か月ぶりですねえ。
それがよくもないのよ。
あら?もしかして殺人事件?そうなの。
私です。
今日の予定ですがキャンセルをお願いします。
ええ指輪の件です。
急な仕事が入りまして大事件の弁護をする事に…。
指輪?いりません。
その件は忘れて頂けたら。
(陽一)指輪の事は忘れて頂けたら?あの…どういう事でしょうか?ちょっ…もしもし!もしもーし!どうしたの?お前青い顔して…。
(芳江)資料です。
先生頑張ってくださいね。
ありがとう。
緒方信子は中原の娘由紀子の事件を調べ始めた
あっ…!ああ…。
事件の手がかりを求めて信子は岩崎を逮捕した刑事たちの案内で中原由紀子の殺害現場を訪れた
こんな寂しいところで夜にレイプされて殺されたんですね。
しかし調べれば調べるほど中原誠司の事件は弁護が難しい事件であった
お前本気で検察や裁判所を相手に岩崎の無罪判決についてやり合うつもりか?極刑になりたいのか!反省しろ反省!
(湯浅)あの家が岩崎の家です。
事件のあと家族は夜逃げをして今は誰もいません。
岩崎の自白調書を見せて頂く事は出来ませんか?
(湯浅)見せられません。
岩崎の自白調書は私の取り調べが原因で殴ったり蹴っ飛ばしたりしたものだから証拠にならないと裁判で言われて…。
それで岩崎は無罪放免です。
いやあ悔しかった…。
泣きました我々捜査員は。
そうですか…。
緒方先生。
はい。
自白調書の中身は一字一句覚えています。
お見せする事は出来ませんが先生が知りたい事にはお答え出来ます。
じゃあ聞きます。
はい。
2012年の5月18日に中原由紀子の遺体が発見されて21日に岩崎を訪ねたんですよね?
(湯浅)5月13日この車に乗ってどこに行った?
(岩崎)なんですか?なんかしたって言うんですか?
(湯浅)中を見せろ。
(解錠音)この車です。
被害者の髪の毛や血を拭き取ったんです。
それで岩崎を別件で逮捕しました。
相当きつい取り調べを?そりゃそうです。
ああいう悪党は一筋縄で落ちるもんじゃありません。
それに岩崎には強姦未遂の前歴もあったんです。
強姦未遂!?ええ。
2009年の夏に公園でジョギング中の主婦を車に乗せようとして騒がれて逃げたんです。
眠いか?早く自白して寝ろ!
(木村)おい!
(岩崎)痛っ…!
(湯浅)おいほら立て!
(湯浅)「証拠があるんだ」「被害者の体にお前の車の繊維が付着していたんだ」
(岩崎)「違う!でっち上げだ!」
(湯浅)「何言ってやがる」被害者の首にお前の指紋があった。
まーた嘘だよ。
指紋なんてつくわけがない!なぜ指紋なんてつくはずないんだ?なぜ由紀子さんの首に指紋がつかない事をお前が知ってるんだ!?岩崎!腕で首を圧して殺した。
腕で首を圧して殺した…。
本当だな!?
(種田刑事)岩崎嘘をついても必ず真相は明らかになる。
自分から話すんだ。
(泣き声)被害者の所持品をどうしたんだ?捨てた。
(湯浅)5月13日岩崎はレイプ目的でワゴン車に乗り女を探し回ったが見つからず川崎の麻生区まで来たそうです。
その時テラスハウスから由紀子さんが出てきたので「何処へ行くのか?」と声をかけた。
「駅の近くの本屋に行く」と言ったので「送ってあげますよ」と言うと「ありがとう」と言って車に乗った。
そんな娘ではありませんよ。
知らない男の車に乗るようなそんな軽率な娘ではありませんよ。
嘘をついているんです。
拉致したんですよ。
その上…暴行してレイプして…殺したんです。
最後に1つだけ!なんです?中原由紀子さんはバージンでしたか?違います。
バージンではなかったんですね?
(湯浅)ええ。
父親の中原誠司にはその事を伝えましたか?もちろん。
恋人がいたかどうか聞きました。
答えは?「いない」と言いました。
そうですか…。
ここが中原さん宅です。
(湯浅)あの男性「仲」と言います。
(湯浅)中原が犯行で使った猟銃はあの人のものでした。
そばにいるのが中原の妹です。
ありがとうございます。
先輩ちょっと喋りすぎましたね。
悪いか?岩崎は殺人犯なんだ。
悔しいんだ俺は。
ごめんください。
(栄子)どなた?わたくし中原さんの弁護をします緒方と申します。
兄は弁護士を望んでいません。
お帰りください。
あっ…。
名刺だけでも頂いておきましょうか。
お願いします。
はい。
仲さん?猟銃の事では…警察に随分絞られました。
ですから何もお話しする事はありません。
もうこれ以上うかつな事を言って先生に迷惑をかけるわけにはいきませんので。
違います。
柿を1つ頂けません?中原さんの家の庭の柿です。
あんまりきれいだから見て頂こうと思って。
無駄な事を。
へっ?私は由紀子と明子のいないあの家に戻る事を考えた事はありません。
岩崎を撃った時私は心の底から死ねと思ったんですよ。
私には殺意があったんです。
だから弁護をしてもらいたくないんです。
岩崎が由紀子さん殺害の真犯人だから殺した。
だから自分は有罪なんです。
そういうストーリーで裁判を進めたいんですね?でもこういうストーリーもありますよ。
岩崎が由紀子さんを殺害した犯人だから私は彼を殺したんです。
だから私には十分に同情の余地があります。
特殊な事情がありますのでどうにか無罪に出来ないかって。
私は無罪を望んでいません。
わかります…。
私のした事の意味…それは十分にわかっています。
(ため息)困ったな。
フフフ…。
はい?ちょっとフフフ…娘に似てる。
私があなたの弁護をしますから。
嫌だって言ってもあなたは弁護される事になりますよこの私に。
そう。
甘いかな?その柿は。
ん〜?いつも秋の今頃由紀子と2人で柿をもいだんです。
それとろう。
あっこれ?そうそう。
ありがとう。
気をつけてよ。
あっ食べていい?えー。
もうお行儀悪い…。
いただきまーす。
うん!美味しい…。
柿甘いです。
(岡田)「お前はいつから岩崎健二に殺意を抱いていたのか?」「岩崎が無罪になった時です」「小田判事さえも納得出来ないと怒り…」
(岡田)「小田判事の事は聞いてない」「小田さんは判事を辞めたんですよ」
(岡田)「聞いてないと言ってる」「明確な殺意を抱いたのは由紀子さんの事件の公判のあとだと言うんだな?」「そうです」「しかし殺意という事とは少し違う…」「どう違う?」「怒りです」「怒り?」「司法への怒りです」「検察や裁判官への怒りだと言うのか?」「真面目に何一つ悪い事をせずに生きてきました」「妻も娘も…」「それなのにこの国は人殺しを罰する事が出来ないのです」「これは…これは不条理です」「不条理か」「しかしお前が娘の復讐のために1人の男を猟銃で撃ち殺すという事はどうなんだ?」「私は有罪です。
極刑を望みます」「しかし私は日本国民として問いたい」「果たして岩崎は本当に無実なのか?」この事件をどうしても担当したいって仰ったそうですけど理由は?理由か。
君をけちょんけちょんにしてやりたくてな。
嘘ばっかり〜。
僕がこの事件を担当させてくれと願い出たのは重要な法律上の問題があると思ったからで人間は自分の手で人を裁く権利があるのか?…という事だ。
そうですか。
被告人が自白した時の精神状態を証言してって頼んだら正直に答えて頂けますか?わかります。
心神耗弱で中原を弁護しようという事だね。
ビデオでもわかるように中原は全く正常でしっかりしていた。
落ち着いていて取り乱すような事はなかった。
やあやあやあ大変だねえ。
何が大変なんでしょうか?篠崎検事正。
検察や裁判所相手にケンカしなきゃいけないんだよ。
ねえ?大変だあ。
セクハラです。
励ましたんだ。
激励だよ。
信子は殺された由紀子についての手がかりを求めて中原の家を訪ねた
あの…これでいいですか?はい。
裁判員の印象をよくしたいので。
よろしくお願いします。
由紀子さんのお部屋を見せて頂きたいんですが…。
お邪魔します。
あなただけです。
由紀子の部屋を見たいと言った弁護士は。
机や化粧台は引っ越しの時に持って行きました。
白や黒…。
地味なお洋服ばかりですね。
真面目な子でした。
お付き合いしていた人は?とんでもない!今の時代には珍しいくらい奥手な子で。
ここから川崎のテラスハウスに越したのはなぜですか?兄がうるさいので一人暮らしがしたいと言ってました。
川崎の前にここ所沢市内のアパートに越したんです。
この市内のアパートですか?
(栄子)はい。
信子は由紀子が家を出て最初に住んだ所沢のアパートを訪ねた
あの…由紀子さんは平成23年の7月から8月20日までここにいたんですよね?
(田中)ええそうです。
男性が訪ねて来た事は?
(田中)いえ!一度もありませんでした。
確かですか?はい。
前に刑事さんにお話ししたとおり真面目で礼儀正しい方でした。
なぜそんなに短い間しかここに住まなかったんでしょうか?理由はわかりません。
8月の20日に突然引っ越すと言って…。
(由紀子)急にごめんなさい…。
お家賃は今月末まで払わせて頂きますから。
(田中)どこへ越すんです?あっええ…ちょっと神奈川県のほうへ。
(田中)引っ越し先を隠しているような感じでした。
(池田)どうぞ。
どうも。
所沢のアパートからこちらに越してくる理由を聞きましたか?
(池田)いいえ。
8月の19日に見に来てすぐに入居するからと言って20日に引っ越してこられました。
そうですか。
ええ。
男性のお友達が訪ねて来た事がありますか?
(池田)いやあ…一度もありませんね。
真面目な方でテラスハウスの男性たちとも話しをしているのを見た事がありません。
はあ…。
ブラウンのスーツも持ってきましたけどなんだか似合いすぎて嫌みだなと思って。
こっちの組み合わせのほうが上品だし裁判員が好感を抱くと思います。
作戦を変えたんですか?作戦?心神耗弱で精神鑑定にかけて私を無罪にしようというシナリオを作った。
ええ。
でも…どう見てもあなたの精神は健康で普通です。
あなたの自白ビデオを見ました。
あれでは完全に有罪になります。
私は有罪を望んでいますよ。
中原さんのような方が刑務所で過ごす事にどんな意味があるのか説明してください。
殺せば罰せられる。
そういう教訓になるでしょう。
私は中原さんにあの家に帰ってもらいたいんです。
この世の全てに絶望しているわけではないでしょう?許されたら何かやりたい事があるでしょう?そうですね…。
空しい事を聞きますね私のような人間に。
そうだなあ…ステレオでドビュッシーの『夢』を聴こうかな。
最高のスピーカーなんですよ。
ああ…由紀子の魂も聴きに来るだろう。
お二人でよく音楽を聴いたんですか?ええ聞きました。
由紀子さんが所沢のアパートに引っ越したのは特別な理由があったからですか?一人暮らしがしたいと言ったんです。
好きな人がいたとか!いないよそんなものは。
すみません…。
私は新米なので疑問点は一つ一つ潰していかないとちゃんとした仕事が出来ないと思って…。
ノンちゃん。
へっ?私を助けようと思わなくていいんだから。
助けますよ!
(ため息)ノンちゃん…。
検察との公判前の打ち合わせのため緒方信子は検察庁に向かった
(平本暁子)あなたは一事不再理という法律をご存じですよね?はい。
一度判決が確定した場合同一の事件について再び公訴の提起を許さないという刑事訴訟法の原則。
つまり中原由紀子強姦殺人事件では岩崎健二は無罪これで終了したんです。
その件について再び審理する事は許されません。
いえそういうわけではありません。
被告人の犯行の動機を解明するためにあの事件の詳細を明らかにする必要があると申し上げてるんです。
要するに被告人は日本国の裁判制度を批判したいんですね。
そのとおりです。
被告人は日本国とケンカをしたいんです。
中原由紀子の無念を晴らせなかったのはこの国の司法の問題ですからね。
徹底的にやるつもりです。
それは無理ですよ。
絶対に不可能です。
あなた1人で司法と闘うんですか?
(ノック)ご苦労さま。
緒方先生は1人ですか?はい。
1人じゃあ…。
事務所には他に先生はいないんですか?被告人に新しい弁護人を信頼してもらうまでは時間がかかりますので。
君は中原に信頼されたのかね?ええ。
私の事はノンちゃんと呼んでます。
ノンちゃん…。
そりゃあ困ったな。
(電話)
(芳江)はいスター法律事務所です。
あっはい。
(ノック)はい。
(芳江)緒方先生拘置所からお電話です。
はい。
はい緒方です。
会いたい?被告人に何かありましたか?えっ陳述書を?共和弁護士会に弁護を頼みたいって言ってるんですか?あっ…そうですかわかりました。
はい失礼します。
あなた個人の力に頼れないから団体の力を借りようという事かな?ええ。
共和弁護士会の富田哲也弁護士は死刑廃止論者で人権問題にも熱心な方です。
連絡して頂いたんですか?引き受けられないと言われました。
私1人に負担をかけられないと思った。
そうなんですよね?私はね…。
あなたは正しい事をした。
いいんです!自分を責めないで。
一昨日裁判員が決まりました。
6名です。
この6名の裁判員が中原さんがした事をどのように判断するのかそれによって裁判官が判決を下します。
裁判員の心に届くように私しっかり頑張りますから。
ありがとう。
はい。
中原は有罪ですよ。
(麻生)そうだろうなあ。
江戸時代じゃないんですもの仇討ちなんて…ねえ?歴史物の小説ですと中原はヒーローなんですがね。
鳥羽さんはどういうご意見ですか?
(紫)私は彼は死刑になるべきだと思うんですよ。
中原は最初から岩崎を殺しても死刑にならないと思ってたのよ。
何かずるい計算があったんじゃないかしら?ずるい計算ねえ…。
(紫)水口さんは作家だから中原の行為に何かお考えがあるんじゃありません?いやあ…気味が悪い。
犯人…いや法律的には犯人ではないとされた人を射殺するなんて…。
そう思っても出来ないのが普通の人間です。
(足音)
(吉永)まだ起床時間前だぞ。
はい。
今日は第一回公判なんで。
(吉永)そうか。
由紀子明子…。
私がお前たちの死と悲しみ無念を怖めず臆せず法廷で話す事が出来るように私を守ってください。
中原さんいよいよ始まります。
公判中に何か役に立ちそうな事を思いついたら私の袖を引っ張ってください。
それについて話し合う時間を作ります。
どんな事でもいいんです!例えば検察側の証人があなたの犯行時の服装について証言した時にコートの色が違っていたとしたら知らせてください。
検察に反論出来るような事実が欲しいんです。
細かい事でもいいので検察側をこう揺さぶる必要があります。
わかりました。
はあ…。
もう夢を見ちゃって。
検事に反論されて真っ白になって言葉が出ない夢でした。
フフフ…。
フフフ…。
ふう…。
(清水真理)おじ様頑張って!由紀子とおば様の魂もこの法廷に来ています。
おじ様有罪なんて仰らないで無罪だって主張してください。
(吉岡)傍聴人は静かにしてください。
ごめんなさい。
静かにします。
あの女性は?由紀子の…由紀子の中学時代からの親友です。
清水真理さんです。
(岡田)「10月17日午後11時5分頃東京都新宿区のバートーマスに赴き岩崎健二31歳を店外に呼び出し猟銃で至近距離から2発発砲し胸部と腹部を貫通させよって同人を死亡させたものである」「罪名殺人罪」「罰状刑法第199条」
(吉岡)被告人は今検察官が述べた起訴状の内容について何か言いたい事がありますか?ありません。
私が岩崎を撃った事は事実です。
しかし…。
しかし?つまり被告人は有罪だと思っているのかいないのかそれを聞いているんです。
変な事言いましたよ。
無罪だって言わせるつもりでしょうか?裁判できちんと裁いていたら岩崎は死刑になっていたはずです。
私は死刑になるべき人間を射殺したのであって起訴状の内容については異論があります。
わかりました。
被告人は無罪を主張した。
裁判長!
(吉岡)被告人は元の席に戻って。
検察官と弁護人はこちらに来てください。
被告人は有罪を認めてました。
少なくともこの公判までは。
いやつい5〜6分前までは。
なぜ無罪だと言わせるんです?
(吉岡)無罪だと言わせた?この私が無罪だと言うように誘導したというのかね?中原由紀子の事件を審理させようという意図がうかがえます。
不快です。
中原由紀子の事件を審理するのは当然の事だろう君。
被告人の犯行の動機だよ。
それに触れないでどうやってこの審理を進めようというのかね?検察官はただの逆恨み殺人だとしてさっさと判決に持ち込めとこの私に強要するのですか?
(岡田)緒方さん。
はい。
被告人は最初から無罪だと言うつもりだったんでしょう。
そのほうがショッキングで大きく話題になると考えていたんじゃありませんか?
(吉岡)私は殺害の動機究明のためには中原由紀子の事件を切り離して審理するのは困難だと思う。
最初から由紀子さんの事件の事も争うおつもりだったんですか!?はあ…。
私には何もかも正直に言って頂かないと!ごめんノンちゃん。
(真理)おじ様頑張って!これ由紀がよく作ってた卵サンド。
おじ様大好きでしょう。
(吉岡)傍聴人。
(吉岡)傍聴人退廷してください。
お弁当を…!ありがとう。
でも被告人に食べ物の差し入れは出来ません。
(平本)被告人の人柄についてお話を聞かせて頂けますか?まあいつも穏やかで深い教養もお持ちになり決して人の悪口を言う事のない立派なお方です。
そういう立派な方があなたの猟銃を無断で持っていったというのですか?…はい。
証人は由紀子さんが亡くなった時の被告人の態度を覚えてますか?…はい。
どんな様子でしたか?様子は…それは普通ではございませんでした。
普通じゃない…。
変な様子でしたか?異議あり!検察官は証人に同意を求めています。
被告人の動機についての質問です。
検察官は質問を続けてください。
(平本)普通じゃなかったと証人は言いましたがどのように普通ではなかったんですか?
(仲)はいまあひと言もおしゃべりにならずじっと何かを考え込んでらっしゃるようでした。
(平本)証人は被告人が由紀子さんの死体を見た時に犯人を殺してやると言ったのを知っていましたか?異議あり!被告人が計画的に殺人を実行したように聞こえます。
記録から削除してください。
異議を認めます。
検事さんあのいつも優しい争い事の大嫌いな先生が人を殺めるわけがありません。
もしそんな事があったとしたらそれは何か必ず深いわけがあるはずなんです!
(仲)申し訳ございません。
私はその事だけを言いたくてここに出て参りました。
(岡田)被告人が被害者岩崎健二を猟銃で撃ったと知ったのはいつですか?10月17日の夜署長から電話がありました。
岩崎健二…被害者が被告人に殺されたと知ってあなたはどう思いました?やってしまった…と思いました。
やってしまった?どういう事ですか?最初に由紀子さんの死体を見た時から犯人を殺してやると口走って我々は被告人の動静を気にしておりました。
(湯浅)被害者が無実になった時も真っ白い異常な顔をしておりましたので何かやらなければいいと願っていたのですが…。
あなたは被告人に同情しているんですか?
(湯浅)いえ。
残念です。
被告人は無罪になった被害者を殺害しました。
これは裁判制度を批判するものです。
被告人は誤った殺人を犯してしまったんです。
(岡田)終わります。
(吉岡)弁護人反対尋問はありますか?証人に1つだけ質問をします。
あなたは仕事にプライドをお持ちですね?
(湯浅)もちろんです。
それではご自身が捜査した中原由紀子さんの強姦殺人事件の結末についてはものすごくプライドが傷ついたのではありませんか?裁判長。
弁護人は証人を故意に傷つけています。
(吉岡)異議を認めます。
弁護人は質問を変えなさい。
では聞きます。
証人は岩崎健二が中原由紀子さんへの暴行強姦殺害及び死体遺棄の真犯人だと思っていますか?いませんか?
(吉岡)証人その質問に答える必要はありません。
なぜですか?証人は自白調書を取った当人です。
岩崎は自供してるんです。
その事について…。
それ以上言ったら法廷指揮権に基づいてあなたを処罰しますよ。
わかりました。
以上です。
証人は退席してください。
はい?何か思いついたら袖を引っ張れって言ったよね。
ええ。
何か?それの確認。
忘れちゃうといけないので。
なんだ…。
(陽一)間繋いどいた。
じゃあ俺仕事の電話してくる。
じゃあ失礼します。
ありがとう。
大丈夫ですか?ええ…すみません。
フィアンセの方にもご迷惑おかけしちゃって…。
フィアンセ?あいつが言ったんですか?指輪を買ったんですって。
サイズがわからないから店員の人の指と同じくらいの指輪を買ったって。
優しい方ですね。
もう余計な事ばっかり言って…。
ごめんなさい。
いえ。
私どうしても由紀子さんの事で知りたい事があるんです。
由紀の事なら私が全部知っています。
中学からずっと一緒でした。
恋人の事は?
(真理)恋人ですか?いいえいませんでした。
いない?ええ。
初恋は高校の時でした。
奥手だったんです。
大学の時も好きな人はいましたけどみんな片思いです。
ちゃんとお付き合いした人はいません。
そうですか…。
由紀子さんはバージンではありませんでした。
遺体の解剖をしていてその事がわかったんです。
恋人がいたはずなんです。
軽率にセックスをする方とは思えません。
おじ様には?聞きましたが恋人はいないと言いました。
あっ飲んでないから…。
お金もったいないし。
恋人がいたかもしれません。
(真理)その人の事は名前教えてくれなかったんですけど…。
引っ越すの?どこへ?
(由紀子)市内のアパート。
おじ様がよく許したわね。
(由紀子)だって原因は父が作ったんだもの。
父と母が旅行に行った時私男の人を家に呼んで手料理をご馳走したのね。
そしたらその方を父が強く叱って…。
失礼でしょ?だから私父とケンカをしたのよ。
束縛しすぎよって。
その人って誰?言えない。
ただの友達だし。
何?別れちゃったの?別れさせられたの。
父がその人に私に二度と会ってはいけないって…。
うわっ横暴。
信じられないわ。
私父の呪縛から逃れるの。
1人で生きていくの。
あなたこの事をどう思う?「テラスハウスの前にワゴンを止めて女がいないかと探していたら玄関から女の人が出てきた」「何処に行くのかと訊くと駅のそばの本屋に行くというので送ってあげると言うとありがとうと言って車に乗った」そんな子じゃありません!由紀は絶対に知らない男性の車に乗ったりしません。
でも目撃者がいるの。
テラスハウスの人たちは誰も由紀子さんの叫び声を聞いてないのよ。
犯人が由紀子さんの口を塞いで拉致したんだろ。
塞いでないの。
素直に車に乗ったのよ。
痛い痛い痛い痛い!イタッ!きついわよ!いやこれさサイズ直し頼むとクリスマス間に合わないんだよ。
いらない。
結婚もしない。
大丈夫痩せるよ。
ジム行ってるんだから。
痛い痛い…。
今はそれどころじゃないって…。
あっ!ああっ!もう…!フレンチ行って婚約だ!嫌よもう…。
痛い!えっ?抜けなくなってしまって…。
そう。
恋人がいるんだね。
勝手に指輪を買ってきて無理に…。
私は今は中原さんの事で頭がいっぱいなのに。
ごめんなさい。
フフフ…ちょっと見せて。
おお〜似合うじゃないか。
いいよ。
フフフ…。
昨日清水真理さんに由紀子さんがアパートで一人暮らしを始めた理由を聞きました。
そう…。
相手の方のお名前と連絡先を教えてください。
その方に聞きたい事があるんです。
私が何を聞きたいかおわかりでしょ?中原さんもずっと心のどこかでおかしいと気にかけているはずです。
由紀子さんの体の事です。
遺体を解剖した後にバージンではなかったと知らされた時にビックリしたんじゃありませんか?由紀子がバージンではなかったなんて公判で言う必要はないよ。
事件には関係ない事じゃないか。
公判で由紀子さんの尊厳を汚すような事は絶対に言いません。
ただ私は弁護人としてどうしても知りたい事があるんです。
なぜ突然所沢のアパートから川崎のテラスハウスに移ったのか。
なぜ岩崎のワゴンに自分から乗ったのか。
なぜ男性の体験があったのか。
原田龍一という人です。
原田龍一さんですか。
私は原田君の事で由紀子を責めた。
それで由紀子は家を出ていった。
私が責めなければあの子は今頃…エンゲージリングをして笑っていたろう…。
後悔しています…。
(原田龍一)どうも。
どうも。
そちらで。
はい。
これよければ。
ああすいません。
いただきます。
由紀子さんとはただの友人です。
教授の助手をしていたので時々家で顔を合わせるくらいで…。
教授って中原さん?ええ。
先生お元気ですか?ええ大丈夫です。
絵画における日本的な表現方法とかなり近い点があるように思えるんだ。
だからその辺じゃないかな。
(原田)確かにヴィーナスの体も量感の表現よりもむしろ線による構成が目立ちます。
そうだよね。
はい。
少し休もうか?ああはい。
コーヒーでも淹れよう。
ああいや先生僕が…。
僕が淹れる。
由紀子が作ったビーフシチューうまかったかい?僕の大事なウイスキーも飲んだろう。
え?はい…。
申し訳ありません。
いやいいんだいいんだ。
由紀子がね君が留守中に遊びに来たと言ったので明子も僕も喜んだんだから。
はいどうぞ。
ありがとうございます。
教授。
ん?由紀子さんとはこれ以上お付き合い出来ません。
付き合えない?好きな人が…。
好きな人?君由紀子に何かしたのかい?えっ…あの…最後までは…。
申し訳ありません!その人と別れる事は出来ないのかい?はい。
そうか…。
由紀子とは二度と会わないようにしてくれ。
(原田)はい…。
君の恋人の事も黙っていてくれないか。
由紀子がショックを受ける。
(原田)それで二度と由紀子さんには会いませんでした。
電話は?一度ありました。
由紀子さんは私にごめんなさい自分のせいで大学の助手も辞めるような事になって…と。
私はそのあとアメリカに留学したのでそれっきりでした。
それ以後一度も会ってないんですよね?ええ。
失礼ですけど男女の関係ではなかったんですよね?はい。
それは誓って。
わかりました。
ありがとうございました。
(原田)あの…。
はい?名刺頂けませんか?あっ…ええ。
バッカじゃねえの?バカはどっちなのよ!違うって。
今ネットでさ中原は死刑にすべきだって頭悪い評論家が偉そうに言ってるからさ…。
えっ!?あっ抜けた!よかったね。
それサイズ直ししておくから。
いいってば。
検察は何年ぐらい求刑しそうなの?15年ぐらいかな。
15年も!?娘を殺されたのに?復讐殺人を認めるわけにいかないから。
でもそれじゃ勝てないじゃないかよ。
岩崎が由紀子さん殺しの真犯人だって事が立証出来れば執行猶予がつくかも。
あっ!私のケーキ食べた!?美味しかった。
せっかく楽しみに半分残しておいたのに…!あの…買って参ります。
買ってきます。
似たようなの買ってきます。
何?お金?原田さんと由紀子さんが何もなかったとしたら由紀子さんの体奪ったのって岩崎なんじゃないかなって。
ええっ?変な想像だけどねふと思ったんだよ。
岩崎は所沢辺りでレイプ騒ぎを繰り返してた。
ええ。
泣き寝入りしてる女性も大勢いたわけだ。
男性経験のない由紀子さんがもし岩崎に乱暴されていたとしたら…。
所沢に引っ越してすぐに川崎のテラスハウスに引っ越したのもそのせいなんじゃないかって。
だからさテラスハウスから出て岩崎にワゴン車に乗れって言われた時も怖くて声出なかったんじゃないの?乗れよ。
いいから乗れって。
所沢でレイプされた。
それで川崎に逃げた。
それでも岩崎は由紀子さんを捜して…。
そうだわ!きっとそうだわ。
それを証明すればいいんだよ。
そしたら岩崎が由紀子さんを殺した事がはっきりする。
(ため息)でも誰もいない。
それを証明出来る人?岩崎も由紀子さんも死んでしまったから誰も証明出来ない。
ああ…。
(ため息)
(ノック)失礼します。
ちょっと教えてほしい事があって来ました。
2011年の8月に中原由紀子さんは岩崎から強姦されていた可能性があります。
その事についてこちらに相談がなかったか調べて頂きたいんです。
先生。
はい。
もしそんな事があれば岩崎を逮捕した時にうちの捜査員が黙っていませんよ。
相談は受けた。
でもなんらかの事で中原由紀子さんは被害届を出さなかった可能性が…。
だからそんな事実があるなら岩崎の裁判の時に証拠として提出してますよ。
見落としたという事も。
そんな事はない!警察をバカにするな!
重大な疑問が解けないまま緒方信子は中原の妹栄子を証人に呼んだ
被告人が被害者に対して行った行為について妹のあなたはどう思いますか?兄は間違ってると思います。
どんな理由があっても人が人を殺すのは許されません。
由紀子や明子さんだって兄がした事を絶対認めないと思います。
でも私は岩崎を憎くてたまらない。
兄は虫一匹殺した事がない。
子供の時に私が森から鳥の卵を取ってきたらそんな事をして親鳥がどれほど悲しむのか…。
かわいそうにと言って森へ卵を返しに行った。
そのように哀れみ深い兄が鬼になったのは岩崎のせいです。
由紀子が殺されてそのせいで義姉さんも病気で亡くなって…。
(栄子)あの家に明かりもつけずに真っ暗な部屋の中で声を上げて泣いている兄の姿を幾度見たかわからない。
かわいそうでかわいそうで私…。
質問を終わります。
証人は退席してください。
小田判事です。
由紀子さんの事件の裁判で岩崎が無罪になってその事が不服で裁判官を辞めて弁護士になった小田さんですか?そうです。
証人になるのは無理です。
仁義にもとると言うと変な言い方になりますが裁判所には恩義があります。
何もしゃべれません。
でもあなたは岩崎が犯人だという真実をご存じです。
証言をしてください。
無理です。
岩崎は無罪。
日本国の法において無罪なんです。
でもあなたはあの判決に怒って判事を辞められたんですよね?失礼。
お役に立てません。
私諦めませんから。
(遼)「どうか父を宜しくお願いします」「父の手紙に弁護士さんが死んだ由紀子にちょっと似ていると書いてありました」「よい新年をお迎え下さい中原遼」表参道の高級フレンチ予約した。
携帯貸して。
えっ?いや…。
あなたの。
はい。
えっペルーに国際電話!?だってお金ないんだもん。
…どうぞどうぞ。
(呼び出し音)中原さんですか?わたくし弁護士の緒方です。
妹が岩崎に所沢のアパートにいた時にレイプ?そんな事があったんですか?いえ私は何も聞いてません。
わかりました。
クリスマスカードありがとうございました。
はい失礼します。
はい。
コーヒー飲む?淹れてあげる。
高い国際電話かけたから。
君さレイプされたら僕に話す?あなたに?うん。
まあ話すかもしれないなぁ。
どうしてよ?由紀子さんはさ原田さんって人に話さなかったのかな?すごく好きだったんでしょ?改めまして緒方と申します。
原田と申します。
名刺をくださいって事は何か話したい事があるって事?あっ…。
2011年の8月の終わりに届きました。
2011年の8月?ここで殺されたのが2012年の5月13日ですから前年の夏ですね。
そうです。
私がアメリカに行っている間に届いた手紙です。
私は…読みませんでした。
捨てようかとも思ったんですが駄目でした。
あなたに読んでもらうのは由紀子さんは嫌だとは言わないでしょう。
原田さん。
妻と待ち合わせてるんです。
クリスマスなので。
あっ…ご結婚されたんですか。
ええ。
それじゃあ。
これだ!これで中原さんを救える!「岩崎の弁護士が自白は刑事に暴行を受けて強制されたものだから証拠として認められないと言った時小田判事は顔色を変えて怒りましたよ」裁判長。
小田判事…今は辞職していますが小田氏を証人として呼んでください。
(吉岡)小田氏を証人に?なぜ?なぜ?小田氏が被害者を有罪と確信してるのは明らかではありませんか。
裁判長。
被告人の行為について正しく審理を進めるためにも小田氏の証言を聞くべきです。
弁護人。
判事に自分が担当した事件についていちいち出頭させて証言してくれと頼むのは不可能です。
判事にではなく判事だった人です。
裁判に影響を及ぼす事を期待してるのではありません。
中原由紀子殺害事件の判決はすでに下されています。
ただ何があったのかを裁判員に説明して頂いて私の依頼人が自白の中でなぜあのような事を述べるに至ったのかその事情を理解して頂きたいんです!裁判長これはいたずらに裁判を長引かせ弁護人がなんら有効な弁護の方策を持たない事を隠蔽するための引き延ばし戦術です。
検察側は小田氏が来たら困る事があり検察の不名誉になると思ってるんでしょう。
わたくしも小田さんのお話をお伺いしたいです。
ええ!検察官こちらに。
先生。
先生って…私の事ですか?由紀子の事で何か掴みましたね?いいえ何も。
自信満々のように見えますよ。
そうですか?弁護人ちょっと…。
小田氏を証人喚問して何がわかるのかね?何がとは?中原由紀子の事件について話を聞いてもそれは新味のない誰でも知っている話です。
君何か新しい事実でも掴んだのかね?いいえ。
怪しいな。
(平本)何か企んでません?怖がってるんですか?
小田元判事が出廷した
判事を辞めた人間が証人喚問に応じるのは異例な事でありこれまで中原の事件に無関心だったマスコミは小田が中原を擁護する証言をするだろうと騒然となった
中原はこの日緊張していた
弁護士の緒方信子が何か重大な事を隠している
それは由紀子の事だと胸が騒いだ
証人は東京地裁の裁判官でしたね?そうです。
退職した理由を教えてください。
健康上の理由です。
糖尿病高血圧胃潰瘍などです。
あなたは中原由紀子さんの裁判でひどいストレスを感じて健康を損ねたのではありませんか?異議あり。
弁護人は憶測による質問をしています。
(吉岡)異議を認めます。
小田さん。
(吉岡)被告人!
(陽一)止めるな!あなたは岩崎が無罪になった事を怒って辞表を出したんでしょう。
なぜ嘘を言うんですか?弁護人止めなさい!失礼しました。
やめましょう。
やめましょう。
裁判長これは被告人の娘の中原由紀子が2011年の8月25日に被告人の大学で助手をしていた原田龍一に出した手紙です。
その手紙と私への質問と一体どういう関係があるのかよくわからない!非常に重大な関係があります。
弁護人こちらに来てください。
お願いします。
一体君は何をするつもりなのかね?真実を明らかにしたいだけです。
この法廷は被告人の事件を審理するための法廷ですよ。
私は有罪です!無罪ではありません。
私は有罪です!だからその手紙を…読まないでください。
被告人この手紙はあなたに読んでもらいます。
おじ様由紀の手紙を読んで!おじ様!
(吉岡)傍聴人は発言しないように。
裁判長これは重大な手紙です。
筆跡鑑定の必要があります。
検察は手紙の朗読を拒否します。
そうですか。
ぜひ私はその手紙の内容が知りたいのですが。
手紙を読む事を許します。
ありがとうございます。
原田龍一さんは大学であなたの助手をしていた方ですね?そうです。
2011年の春にあなたの友人のフランス人が来日してあなたと奥様はその人と京都へ行きましたね。
その留守に何が起こりましたか?由紀子が原田君を家に呼んで手料理をご馳走しました。
ええそれで?帰ってその事を知り…私は原田君から別に付き合っている人がいる事を聞きその人と別れる事は出来ないかと聞きました。
原田さんは別れられないと言った。
由紀子の事も好きだが長年付き合ってる女性と別れる事は出来ないと。
私は…由紀子の原田君への気持ちがわかっていたので出来るなら交際を続けさせたかったんですが無理でした。
その結果原田さんは由紀子さんの前から去った。
由紀子さんはあなたに何か言いましたか?怒りました。
怒りました…初めて。
二度と私に会ってはいけないなんてなぜ?なぜあなたが私の恋に干渉するんですか!好きなら由紀子のほうから連絡を取って…。
ね?自由なんだから。
もういいです。
(中原の声)原田君には別の恋人がいる…。
そんな事は言えなかった。
かわいそうで…。
純粋で傷つきやすい一途な子でした。
それで?家を出る1人で暮らすと。
由紀子さんは家を出たんですね?はいアパートに。
アパートに転居した。
いつですか?2011年7月の10日でした。
寂しかったですか?…ええ。
あなたはそのアパートに行きましたか?何度か行きました。
外からだけ…。
由紀子が心配で。
由紀子さんに会った事は?はい駅の前で…。
嫌いです。
(踏切の警報音)
(中原の声)それが最後でした。
その2日前に由紀子さんに重大な事が起こりました。
8月17日の夜由紀子さんは岩崎健二にレイプされたんです!翌年の5月13日に暴行を受け殺されるその9か月前にすでに最初のレイプ事件は起こっていたんです!この手紙にその事が記されています。
被告人はこの手紙を読んでください。
父なら読まなくてはいけません。
父なら!被告人はこの手紙を読んでください。
父なら読まなくてはいけません。
父なら!「君は処女じゃないんだからそれぐらいいいじゃないか」「警察官にそう言われました」「違います。
私はまだ男の人を知りません」「そう言いかけましたが言葉が出ませんでした」「あの夜原田さんに許しておけばよかったと心の底から思いました」「あなたの腕がのびて私を抱き寄せた時幸せでめまいがしました」「でも原田さんは先生の信頼を失いたくないそう言いました」「原田さん私レイプされました」「8月17日の夜渋谷で真理と食事をして駅に着いて踏切を渡ると男がニヤニヤ笑ってこちらを見ていました」「怖くて逃げました」「橋を渡ると追ってきて私の腕を掴んで傍の駐輪場に引きずり込みました」「男は静かにしないと殺すと言いました」「それでレイプされました」「私の財布の身分証を見て中原由紀子っていうのか警察に行ったら何をするかわからないと脅しました」「これからも時々会おうぜ。
俺は岩崎っていうんだ」「ニヤニヤ笑いました」これからも時々会おうぜ…。
俺は岩崎って…。
(吉岡)被告人は続けてください。
「私は体を洗いました」「何度も何度も洗いました」「駅で父に会いました」「父は私の帰りを待っていたようでした」「何も言えず“嫌いです”とたった一言しか言えませんでした」「その翌日警察に行きました」「犯人は岩崎という人ですと言うと告訴するの?と警官に言われました」「告訴するなら詳しく話を聞く」「どういう格好で犯されたとかそんな事を根掘り葉掘り聞かれるけど覚悟はあるの?とニヤニヤ笑って言われてその上処女じゃないんだからいいじゃないかって」「私はもう話す気力がなくなってしまいました」「ごめんなさいこんな事を書いて」「燃やしてください。
さようなら。
由紀子」「追伸この事を父には話さないで。
かわいそうだから」岩崎が犯人だと立証された。
あの裁判は大間違いだった!その由紀子さんに話を聞いた警察官を徹底的に捜します!申し訳ありませんでした!
(吉岡)弁護人その手紙をあとで正式に証拠として提出してください。
はい。
被告人は何か言いたい事があれば言っても構いません。
この手紙で娘由紀子の不名誉が晴れた事を嬉しく思います。
由紀子は知らない男性の車に乗るような娘ではありません。
真実は…。
(岩崎)捜したよ。
乗れよ。
いいから乗れって。
そうしないとレイプした時の事家族にも周りにもバラすぜ?
(笑い声)…去年警察に行きました。
警官に岩崎っていう人にレイプされたって言いました。
黙ってさ乗りなって。
(中原の声)そして森で娘はレイプされて殺されたんです。
(中原の声)しかし事件後心ない報道で「だらしのない女だ」などと言われました。
由紀子はどんなに無念で悔しかっただろうかと…。
わたくしたちは由紀子が素晴らしい男性と恋をして結婚をし幸せな妻になるように厳しく育ててきました。
わたくしたちから見ても誇れるような女性になったと思っていたのです。
本日この手紙で娘由紀子の名誉が回復しました。
それが一番嬉しい事です。
私は死刑を望みます。
死刑を覚悟しなければ私は岩崎の命を奪えませんでした。
どうか罰して頂きたい。
人間が人間の命を奪う権利など絶対にないのですから。
今の言葉は被告人の本心ではありません!
(吉岡)今日の審理を終了します。
ドビュッシーの『夢』なんか聴きたくないって事ですか?1人で監獄で死にたいって事!?私みたいな未熟な弁護士の事なんてどうでもいいんですか?中原さん!ノンちゃん…。
さあ。
かわいそうに。
途中まで勝ってたのにオウンゴールされちゃったわね。
まだロスタイムはあります。
裁判員たち?そうです。
裁判員の評議が残ってます。
私泣きました被告人の陳述に。
私も泣きました。
あなたもあなたも泣いていましたね。
情と法律は違うと思うんですよ。
そうですね。
復讐殺人を認めたら日本の法が成り立ちません。
でも岩崎を無罪にしたのは日本の司法の大問題なのよ?有罪にするべきだったんです。
そうしたら中原の猟銃事件は起きていなかったんです。
(紫)中原は岩崎を撃ったのではなく日本の司法を撃ったんです。
(水口)中原を無罪をすると日本の司法に対する一撃という事になるんだなあ。
もう議論は尽くしましたよ。
もういいと思いますよ私も。
殺したら罰せられるのは当たり前ですから。
では最後の結論を。
判決を言い渡します。
主文被告人を懲役3年に処する。
ただしこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
ナイスゴール!
(吉岡)続いて判決の理由を述べます。
まず…。
吉岡裁判長は中原誠司に懲役3年執行猶予5年を言い渡した
長い評議の末の異例の判決であった
中原は判決が出たその日に釈放された
どうもありがとう。
私中原さんにあの家に帰ってもらいたいって言いましたけど本当にお役に立てたのかどうか…。
(鳥のさえずり)ああ春だね…。
ええもうすっかり。
『夢』夢か…。
2015/02/07(土) 21:00〜23:06
ABCテレビ1
ドラマスペシャル「復讐法廷」[字]
緊迫の法廷サスペンス!娘を殺された復讐で犯人を射殺した父親。100%有罪確定の状況で無罪を勝ち取れるのか?人間が人間を裁くことの意味、正義とは何か…
詳細情報
◇番組内容
最愛の娘を殺した犯人が無罪になる…。
被害者の父親・中原(田村正和)は、犯人を自らの手で射殺し復讐を遂げる。自首はするも彼に有罪判決が下ることは確実——。弁護士の緒方(竹内結子)に、なかなか心を開かない中原。そして中原が罪を認めているという100%有罪確定の状況で、果たして無罪を勝ち取れるのか?
事件の裏に隠された誰も知らなかった真実とは!?裁かれるは、復讐か、それとも…
◇出演者
田村正和、竹内結子/柳生みゆ、市毛良枝、渡辺大、手塚理美/長谷川朝晴、中尾明慶、水橋研二、高橋光臣/田中哲司、小野武彦、森本レオ、平泉成、岸部一徳
◇脚本
竹山洋
◇音楽
吉川清之
◇監督
藤田明二
◇スタッフ
【チーフプロデューサー】五十嵐文郎(テレビ朝日)
【ゼネラルプロデューサー】内山聖子(テレビ朝日)
【プロデューサー】河瀬光(東映)、榎本美華(東映)、江平光男
◇おしらせ
☆番組HP
http://www.tv-asahi.co.jp/houtei/
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
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日本語
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