地球ドラマチック「生きものに学べ!〜ゾウの鼻から新技術〜」 2015.02.07


我々の文明社会はさまざまな発明によって築かれてきました。
発明を可能にしたものは各時代の象徴的な物質木材や石金属など自然のものでした。
我々は今暮らしを更に向上させる技術を生み出そうとしています。
そのためには何が必要なのでしょうか?それは「自然」。
特に「生きもの」から学ぶ事です。
今科学者は生きものの特性に注目する事で技術を進歩させようとしています。
そのうち自分の意志で動きそうだなあ。
注目されている生きものはさまざま。
虫を食べる植物。
人は食べないよね?ゾウの鼻。
鼻水をかけられた。
生きものに学ぶ事で新しい素材も開発されています。
これ何の妖怪?生きもののようなロボットも。
「立て」。
こりゃあいい!ウイルスを利用して電池を作る試みもあります。
数十億年かけて進化してきた生きものに学ぶ新技術開発の最前線を追います。
自然の世界には驚くようなデザインとアイデアがあふれています。
長い年月をかけて進化を重ねてきた生物には美しさと機能性の両方があります。
今そのすぐれた性質に多くの科学者が注目しています。
生物から学ぶ事でさまざまな問題を解決する糸口を見つけようとしているのです。
新しい技術が次々と生み出されています。
動物のように敏しょうな動きをするロボット。
食虫植物からヒントを得た画期的な素材。
生物の遺伝情報を操作して作り出される燃料や電池。
案内役は科学ジャーナリストのデビッド・ポーグです。
カナダのグエルフ大学では材料科学者のアツコ・ネギシと生物学者のジュリア・ヘアが「ヌタウナギ」の仲間から画期的な新素材を開発しようとしています。
ヌタウナギの仲間には変わった防衛能力があります。
確認するにはどうすれば?棒でつつくとか?手でつかむ方が分かりやすいと思います。
うわっ何だこれ?気持ち悪っ!なんだこりゃあ〜。
ぬるぬるだ〜。
何かの妖怪みたいだ。
見て下さいこのぬるぬるの量。
魚そのものの3倍くらいありますよ。
どうしてこんなものが出るんですか?このぬるぬるした粘液は身を守るのにとても役立ちます。
別の魚がヌタウナギにかみつくと粘液が吹き出しかみついた魚はエラを塞がれて窒息状態になってしまうのです。
ヌタウナギはどのようにして粘液を出すのでしょうか?粘液の主な成分は「ムチン」というたんぱく質の一種で私たちの体内にも存在しています。
ムチンは特殊な分子構造をしていてブラシの毛のように伸びた部分が水の分子を引き寄せます。
つまり水にムチンを加えると水を吸い取ってしまうという事です。
実験をします。
ヌタウナギの粘液からできた粉です。
もやっとしますね。
ちょっとかき混ぜます。
持ち上げて。
何だこりゃあ気持ち悪〜。
ほんのひとつまみの粉を入れただけなのに水がほとんど吸い取られています。
代わりにこんなものが。
見て下さい。
ビーカーに水はほとんど残っていません。
ヌタウナギの粘液にはムチンのほかに吸い込んだ水をまとめ上げるたんぱく質でできた細い繊維が含まれています。
ムチンと繊維はそれぞれ違う細胞の中に含まれています。
水を吸い寄せる性質があるムチンと吸い寄せた水をまとめる繊維。
攻撃を受けるとヌタウナギの細胞から2つの成分が噴出します。
ムチンが水を集め1本の長さが15センチほどの繊維が周りを覆いぬるぬるした物質を作り出すのです。
研究者が注目しているのはこの繊維です。
細くて丈夫なため新しい素材としての可能性を秘めています。
ヌタウナギの繊維はナイロンに比べて10倍の強度があります。
ナイロンの原料である石油の消費も減らす事ができます。
ヌタウナギの繊維を実用化するのに必要な事は?まずこの繊維を人工的に作り出さなくてはなりません。
アツコ・ネギシはヌタウナギの繊維のたんぱく質に注目し同様のたんぱく質を加工する事で新しい化学繊維を作り出そうとしています。
本物のヌタウナギの繊維に比べるとまだ強度が不足していますがより質の高いものを作り出すために研究中です。
ヌタウナギの繊維を加工して粉にしたものを海水に浸すとまた繊維に戻る訳ですね?でもそれだったら最初からヌタウナギの繊維を使った方が早いんじゃないんですか?ヌタウナギは養殖ができないんです。
養殖できない?ですからヌタウナギから大量の繊維を取る事は難しいんです。
なるほど。
ヌタウナギの繊維を人工的に作り出す研究は着実に進んでいます。
見て下さい。
ヌタウナギの粘液を基に人工的に作られた繊維です。
「ヌタウナギ繊維」の夜明け。
これです。
環境に適応して進化してきた生物の体は機能やデザイン性にすぐれ人類の発明に多くのヒントを与えてきました。
例えば鳥からヒントを得た飛行機の翼。
魚の形をまねたボート。
動物の形からどんなアイデアが得られるのかを見ていきましょう。
動物園には未来の技術のアイデアがあふれていると語るのはドイツの技術者ハインリヒ・フロンツェクです。
技術者は動物園に来るとほかのお客さんとは違う見方をする訳ですね?私たちは自然から何らかのヒントを得たいと常に思っています。
動物園には多くの種類の動物がいますから目的にぴったりです。
技術者にとっては楽園のような場所ですよ。
フロンツェクは産業用ロボットの会社でロボットアームの改良に取り組んでいます。
1960年代初めに自動車工場で使われるようになったロボットアーム。
画期的な技術ですが欠点もあります。
人間の腕と同じように固定された部分がいくつかあるため動きに限界があるのです。
また危険性も高く人間はうかつに近づけません。
そのためロボットアームは柵で囲われています。
フロンツェクはこれまでよりも柔軟で安全性の高いロボットアームを開発しようとしています。
彼がそのために最も参考にしたものはゾウの鼻でした。
どうしてまたゾウの鼻に注目したんですか?ゾウの鼻は非常に柔軟で重いものを持ち上げられ繊細な動きもできます。
産業用ロボットの理想型です。
自然を見つめ自然から新しい技術のアイデアを得る。
ゾウの鼻は自然が与えてくれた最高のヒントです。
ゾウを間近で観察する事にしました。
鼻水をかけられた。
ゾウの鼻にはさまざまな機能があります。
(飼育員)鼻で水を集めて口に入れるんです。
朝御飯だよ。
掃除機のように餌を吸い込み物を巧みに扱い重さ180キロの物を持ち上げる事ができます。
それは僕の手だよ。
すごい力ですね。
そうなんですよ。
はいピーナツ。
ゾウの鼻には柔軟性があります。
鼻の内部には骨がなくおよそ4万の筋肉組織から成り立っています。
骨も関節もない構造は従来のロボットアームとは対極にあります。
フロンツェクたちが開発したゾウの鼻型ロボットアームとはどのようなものなのでしょうか?ロボットアームはプラスチック製で内部の空気室に圧縮空気を送り込む事で曲がります。
反対側に曲げたい時は?こちらのチューブに圧縮空気を入れるとこちら側が伸びます。
すると反対側に曲がる仕掛けです。
ここが膨らむ訳ですね?製品を箱に入れる作業の実験です。
あ〜ずいぶん器用に作業しますね。
お見事。
従来のロボットアームよりも柔軟性があり安全です。
電気は通っていないし鋼鉄など人にけがをさせるような素材も使っていません。
重さは2.3キロ。
いくつかのバルブと小さな制御システムだけです。
つまりプラスチックのチューブと空気だけ?はい。
魚の尾びれにヒントを得た「フィングリッパー」という装置も開発中です。
魚の尾びれをつつくと向こう側ではなく手前に曲がります。
その方が水を効率的にとらえる事ができるからです。
魚の尾びれをまねてつかむ物の形に合わせて曲がるグリッパーが考案されました。
新しい機能を見せて下さい。
2つの装置を比較しましょう。
一つはフィングリッパー。
もう一つは従来型です。
挟む力は?全て同じ条件です。
さてこちらが従来型。
こちらがフィングリッパーです。
では勝負を始めましょう。
(ドラムロール)
(ブザー音)ゾウの鼻の先にフィングリッパーを取り付ければ柔軟で軽く安全なロボットアームを作り出せるかもしれません。
生物からヒントをもらいデザインや機能をまねする事は今や当たり前になっています。
自然から得たひらめきが産業に利用されているんです。
頂戴。
ありがとう。
生物の姿からヒントを得た工業デザインは世界中で見る事ができます。
「カワセミ」のくちばしは水の抵抗をほとんど受けずに水面を切り裂きます。
それをヒントにデザインされたのが日本の新幹線です。
「ミナミハコフグ」の体は頑丈でありながら水の抵抗をあまり受けない形です。
それをモデルにした自動車が開発されています。
自動車は車輪で動きますが道路のない場所では立ち往生してしまう事があります。
一方動物は脚を使って自由に動き回る事ができます。
機械に動物のような脚を付けてより自由な動きを実現する事はできるのでしょうか?歩くロボットの初歩的なものは1960年代に作られました。
しかしでこぼこした場所ではどこに足をつくかを人間がいちいち決めなければなりませんでした。
1970年代になるとコンピューター制御でのそのそ歩くロボットが世界中で作られましたがまだ人間による操縦が必要でした。
これらのロボットは常に3つ以上の脚を地面につけてバランスを保つ必要がありました。
動きも非常にゆっくりしたものでまるで「歩くテーブル」です。
しかし1980年代に入ると新たな技術が開発されました。
アメリカのある会社では歩行ロボットを製作しています。
会社の創設者マーク・レイバートは30年以上にわたり歩くロボットを開発してきました。
動物の動きについて説明するためレイバートはある物を持ち出してきました。
飛び跳ねるためのおもちゃです。
なぜこんな不安定なものに乗りながら倒れずにいられるのでしょうか?この振り子は下が重いでしょう。
安定していますね。
逆に上が重くなると倒れてしまいます。
でもうまく重心を動かすとバランスを保ちます。
頭の部分が重い物体はそのままでは倒れてしまいます。
しかし倒れそうになったら重い部分の位置を変えると安定します。
飛び跳ねるためのおもちゃも同じ原理です。
実は人間が立っている時もほぼ同じ事を自然に行っているのです。
人間の脳は体のバランスを保つために絶え間なく情報を集めています。
「内耳」には液体の詰まった管があり頭の位置や動きを感知します。
目は自分の体と周囲の物との位置関係をとらえます。
体内には体の各部位がどのような状態にあるのかを感知する機能があります。
また体を支えるのに適した位置を見つける機能もあります。
そのおかげででこぼこの地面を歩く事ができます。
こうした情報を基に頭の重い人間が倒れないよう脳が体のバランスを常に調整しているのです。
情報が途絶えれば人間はたちまち倒れてしまいます。
人間と同様の動きを再現するためレイバートはバネのような1本脚で動くロボットを作りました。
まっすぐ立つために重心をどこに移すべきかを絶えず計算しています。
脚の数が増えても飛び跳ねるような動きと自分でバランスを保つ仕組みは受け継がれました。
30年以上にわたる研究の末生み出されたロボットがこの「LS3」です。
起伏の激しい場所で荷物を運ぶ目的で作られました。
重さ180キロの荷物と30キロメートル以上の距離を進むための燃料を積み込む事ができます。
現在のプログラムでは人間のあとをついていくようになっています。
リュックサックのしま模様をロボットの視覚システムがとらえそのあとをついていくんです。
スイッチを切って構造を説明してもらいました。
これが脚です。
ノートパソコン程度のコンピューターがバランスをとる計算を行っています。
スピードの制御や方向転換もです。
レーザー光線を出して距離を測定しこちらにある2つのカメラで前方の地形を把握します。
足を置くのに適した場所を選ぶんです。
脚にどれくらいの力がかかっているかも測る事ができます。
落ち葉で足を滑らせる事はないんですか?滑らせますよ。
でも足が滑った状況を制御システムが把握しすぐにほかの足で体を支えられるように設計しています。
LS3は音声でコントロールする事ができます。
「スイッチオン」。
「座れ」。
「立て」。
「ビールを持ってこい」はないの?「立て」。
こりゃあいい!「あとについてこい」。
いい子だ〜。
「座れ」。
「スイッチオフ」。
最高だね。
よ〜し。
人間のあとをついて上り坂を進む実験も行われました。
LS3が自分で状況を判断してバランスをとっている様子がよく分かります。
昔のロボットとは大違いです。
動物ではなくより人間に近いロボットも作られています。
2009年に誕生した「ペットマン」は自分でバランスをとり歩き体操までしました。
数年後更に進化した「アトラス」が誕生しました。
動き方が更に進歩していてLS3と同じように常に自分でバランスをとっています。
自分の判断で両腕を使い床に空いた穴を器用にまたぎます。
片足でバランスをとるための調整が行われます。
参考にしたのは器械体操の選手です。
彼らは落ちそうになると腕や足を振ってバランスを整えます。
それをロボットに応用できるのではないかと考えたんです。
まずロボットが片足で立ちます。
そこに20キロある柔らかいボールをぶつけます。
ボールがぶつかると腕と脚を大きく広げてバランスをとるでしょう。
こうして体を安定させているんです。
体操の選手がやっている事と少し似ています。
お〜。
アトラスは災害時の人命救助を主な目的として開発されました。
実用化されれば人が近づけない現場で活躍する事になるでしょう。
一方アトラスとは全く違うロボットを使った人命救助のアイデアもあります。
アメリカで開発されている「ロボビー」はアトラスよりもはるかに小さく軽く単純な構造です。
このおもちゃのようなロボットは群れで動くと大きな力を発揮します。
将来的には高層ビルの建築も可能になるかもしれません。
人が行きにくい場所の地図を作ったり災害時の人命救助にも活躍が期待されています。
そのためには多くのロボットを群れとして一つにまとめ一緒に働かせるシステムを作る必要があります。
生物の世界では群れは全体で一つの知能を持つかのように行動します。
特定の個体が指揮をとっている訳ではないと考えられています。
こうした群れとしての知能をロボットに持たせる研究が進んでいます。
次は群れの行動の秘密に迫ります。
アメリカのペンシルベニア大学ではヴィジェイ・クマールの研究チームが小さなロボットに群れとしての知能を持たせる研究をしています。
ロボットチームは音楽を演奏し…。
光のショーも披露。
行動は中央コンピューターで制御されています。
しかしそれぞれのロボットも小さなコンピューターを備え自らの判断で放り投げられた輪をくぐる事ができます。
クマールは次の段階としてロボットが群れになって動くシステムを開発中です。
小さなロボットが単独で飛ぶよりもチームになって飛ぶ方がより多くの事ができるからです。
群れになって飛び上がるようプログラムされたロボットです。
いくつかのパターンを作るようになっていますがいつどのようにお互いの動きを調整するかはロボットが自ら判断します。
中央コンピューターが具体的な指示を出すのではなくロボットが自力で特定の形を作るんですね?はい。
ロボットの数が少なければ中央コンピューターが個別に指示を出す事ができますが数が多くなるとコントロールしきれません。
(爆発音)そこでクマールは生物の群れに学び3つの原則を立てました。
第1に「それぞれのロボットが自力で考える事」。
第2に「周囲から得られる情報を基に行動する事」。
群れで飛ぶ鳥が近くの仲間の動きに合わせて飛ぶ方向を判断するのと同じです。
第3に「指揮を取るロボットがいない事」。
どれかが壊れても群れは存続します。
3つの原則を試す実験が行われました。
この群れには「円を作れ」という指示が与えられていて1機ずつ加えていくと円形を作ります。
その中からどれか1機を取り除いたり別の場所に入れたりしても状況に応じて常に円を作ります。
このシステムを応用すれば災害現場での捜索や救助に大きな力を発揮するかもしれません。
携帯電話から出ている信号で行方不明者の居場所を突き止める実験を車型ロボットでやってみましょう。
「捜索を開始せよ」。
(チャロー)指示を出しました。
(ポーグ)全部で4台?
(チャロー)一斉に動き出しました。
(ポーグ)それぞれ独自のルートをとっているね。
4台のロボットが別々のルートをとるのは行方不明者の携帯電話が発する信号をそれぞれに読み取り電波の強弱によって行方不明者がいる位置を割り出すためです。
単独で探すよりも短い時間で発見する事ができます。
まだ研究段階ですがこれが私たちの目指しているものです。
単純なセンサーを搭載した割安なロボットを複数使い互いに協力させれば高性能な1台のロボットではできない事が可能になります。
生物に学ぶ事ですぐれた形や動き群れとしての行動などをロボットに取り入れる事ができます。
生物は更に基本的な面でもヒントを与えてくれます。
物作りの基本となる「素材」です。
現代の素材の多くは自然からヒントを得ています。
例えば蚕が作る絹を参考にしてナイロン繊維が生まれました。
ゴムに代わるものとして発明されたのがポリスチレン。
発泡スチロールなどの形で使われています。
肉眼では見えない小さな構造の中にある魔法のような力を取り入れる事もあります。
例えば壁を這い上がるヤモリ。
足に生えている細かい毛を参考にして壁のぼりロボットが生み出されました。
生物がヒントを与えてくれた「素材」を見ていきましょう。
アメリカハーバード大学のジョアンナ・アイゼンバーグは材料科学者です。
ある珍しい植物にヒントを得て新しい素材を開発しました。
うわっこりゃまた不気味な姿をした植物ですね。
「ウツボカズラ」です。
食虫植物の一種で虫を食べます。
乾燥している時にはアリは粘着性のある脂っぽい足のおかげで袋の縁を歩けます。
ところが湿気が多くなるとアリは足を滑らせて袋の中に落ちていきます。
乾燥している時にはウツボカズラの表面はでこぼこしているため滑る事なく歩けます。
しかし湿度が高くなると水分が表面を膜のように覆い滑りやすくなるのです。
アイゼンバーグはこうしたウツボカズラの表面の構造に注目しました。
ウツボカズラは獲物を取るために進化を遂げました。
材料科学者として何かこれに似たものを作りたいと思いました。
滑りやすい物質を金属やプラスチックやガラスに塗る事ができれば便利な使い道があるからです。
ウツボカズラをヒントにして生み出されたものは汚れやこびりつきを防止する新しい方法でした。
アイゼンバーグたちはこの方法を「スリップス」と呼んでいます。
右側は通常のアルミ。
左側はスリップス加工されています。
両方にチョコレートソースを垂らしてみました。
汚れが残るね。
スリップス加工だと…。
おっと全部流れ落ちていきます。
驚いたなあ。
洗い流す時もスリップスの方が簡単です。
水なんかかけなくてもすぐ流れていくじゃない。
次は更に落ちにくい潤滑油です。
おいおいアルミ板が台なしだよそんなもの絶対に…。
えっ!信じられない。
通常のアルミは汚れがこびりついていて洗っても落ちません。
かえって広がりました。
スリップスとの差は歴然です。
潤滑油よりひどい汚れはないだろうね。
「液状アスファルト」の登場です。
見ている人の悲鳴が聞こえるよ…。
次はスリップス。
うそ!液状アスファルトも寄せつけないなんてすごいな。
スリップスは現在フライパンなどに使われている表面処理の方法とは全く違うものです。
これまでの方法は「合成高分子」と呼ばれる鎖状の物質を使うもので軸となる炭素の周りにフッ素が堅く結合しています。
このフッ素が盾のような役割を果たしほかの物質が炭素と結合する事を防ぐのです。
ウツボカズラからヒントを得たスリップスは全く違う原理です。
まず保護したい物質の表面に0.1ミリ以下の厚さでスリップスを塗るかスプレーします。
次に油などをかけてスリップスに浸透させるとそのままとどまり表面からでこぼこが消えます。
これによって水分で覆われたウツボカズラのように物がくっつかない滑らかな表面になります。
さまざまな分野で応用が可能だと期待されています。
「落書き知らずのスリップス」。
自然からヒントを得てもデザインなど有効な部分は残しながら自然界とは違う方法で利用する場合がほとんどです。
「スリップスもその一例」という訳ですね?はい。
人間は自然が作り上げたものをさまざまな形で応用してきました。
更に自然がものを作る方法自体を応用しようとする人たちもいます。
現代の産業はばく大な天然資源を消費し有害物質を含む大量の廃棄物を生み出しています。
例えば紙を作る時にはその倍の量の木材を使い多くの廃棄物を出します。
革製品を作る時には材料に5倍以上の革が必要です。
自然はそのような無駄な事はしません。
植物も動物も生育に必要なものだけを消費し排泄物もリサイクルされます。
人間も自然界と同じように必要なものを無駄なく生産できないのでしょうか?アメリカマサチューセッツ工科大学のアンジェラ・ベルチャーです。
海の生物が周りにある成分を使って必要なものを作り出す過程に興味があります。
例えばこのアワビの貝殻です。
アワビは生涯を通じて海水からカルシウムを吸収しゆっくりと硬い殻を作っていきます。
「生物がカルシウムで貝殻を作れるならほかの成分を使って科学技術に役立つものも作れるのではないか?」。
ベルチャーはそう考えました。
例えば「電池」。
電池は3つの要素から成り立っています。
マイナス極プラス極そして電解液です。
ベルチャーは生物を使ってマイナス極を育ててみる事にしました。
その生物は「波打ち際で簡単に捕まえられる」という事ですがどんな生物なのでしょうか?取れた。
ああ…。
海水しかないように見えますけど?この中にたくさんのウイルスが含まれています。
ウイルス?何か伝染病でも?どんな海の水にもウイルスは必ず生息しています。
スプーン1杯の海水の中には1,000万のウイルスが含まれています。
形はさまざまですがどのウイルスも「外膜」で遺伝物質を覆った構造をしています。
研究によって数種類のウイルスの遺伝物質を変える方法が見つかりました。
これによって安全に実験ができるようになりました。
ベルチャーは鉛筆のような形をしたウイルスを自分の実験に利用する事にしました。
この鉛筆型のウイルスは細菌に取り付いて遺伝物質の中核であるDNAを注入し自分のコピーを大量に作り出す習性があります。
こんな形のウイルスですよね?こっちの方が分かりやすいですよ。
テレビ向きですね。
これが細菌に突き刺さるんですか?そのとおりです。
どう利用するんですか?細菌に突き刺さるのではなく電極の材料の中で育つように教えるんです。
そんな…ウサギに外科手術を教えるようなものでしょう。
通常鉛筆型のウイルスは細菌の表面に突き刺さります。
そのウイルスの表面に多くの金属微粒子をくっつけなくてはなりません。
これが電極の材料の金属微粒子だと思って下さい。
ウイルスに何も手を加えていない状態ではもちろん金属微粒子とウイルスがくっつく事はありません。
金属微粒子がくっつくようにするにはウイルスの表面部分外膜を変化させる必要があります。
そこでウイルスのDNAの配列を組み替えて外膜の性質を変化させ金属微粒子がくっつくようにしたのです。
ウイルスのDNAを作り替えたんですね?でもどんな配列にすればいいかは分からないのでさまざまなパターンを試しました。
ベルチャーはまずDNAを構成する4つの要素「A」「C」「G」「T」を無作為に混ぜました。
次にそれをウイルスに注入し何十億ものバリエーションを作ります。
それを次々と試していき最も金属微粒子とくっつきやすいウイルスを発見したのです。
このように金属微粒子で覆われたウイルスを電極の材料に使いました。
アワビがカルシウムで殻を作ったようにウイルスは金属微粒子をくっつけて電極を作りだしました。
そのようなウイルスを何百万も詰め込む事で電池として使えるマイナス極が出来上がりました。
同じようにしてプラス極も作りそこに市販の電解液を加えて「ウイルス電池」を完成させたのです。
この研究は電池を作る事が最終的な目標なんですか?もっと大きな事に応用できると思います。
生物を利用した全く新しい生産方法です。
新旧の電池の製造方法を比べてみましょう。
古い方は熱を発したくさんの廃棄物を出します。
新しい方は室温で製造可能で廃棄物もごくわずかしか出しません。
アンジェラ・ベルチャーの研究が実用化され広い分野で応用されれば廃棄物や有毒な物質をほとんど出さない生産方法が誕生するかもしれません。
「形」。
「動き」。
「群れの行動」。
「素材」。
「生産」。
驚くべき能力を備えた生物。
そうした生物に学ぶ事で人間は新たな技術を生み出しています。
人間の暮らしは自然からヒントを得る事でより良いものになります。
それを可能にするのは私たち一人一人の想像力と自然に対する敬意なのです。
2015/02/07(土) 19:00〜19:45
NHKEテレ1大阪
地球ドラマチック「生きものに学べ!〜ゾウの鼻から新技術〜」[二][字]

ゾウ、鳥、ホタテ…身近な生きものの体や習性からヒントを得た新たな技術が続々と誕生している。進化によって研ぎ澄まされた生きものの知恵。技術開発の最前線を伝える。

詳細情報
番組内容
長い年月をかけて進化してきた生きものには、技術開発のアイデアがいっぱい!我々人間の暮らしに役立てようという研究が進められている。ゾウの鼻は丈夫で柔軟性があり、細かい動作も自在にできる。この特性をヒントに生みだされた技術とは? また、ヌタウナギが身を守るために体から発する“あるもの”からは新素材が生まれようとしている。自然が生み出した“究極の形”が身近な技術に応用される過程を追う。(2013年米国)
出演者
【語り】渡辺徹

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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英語
サンプリングレート : 48kHz

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