関東も雲がやや多いですが、東海北陸から北日本は、晴れる所が多いでしょう。
黒船でアメリカに密航しようとした寅次郎は萩の野山獄に投獄される事になった。
(重輔)先生!
(寅次郎)金子君!身分の低い金子重輔は道を隔てた岩倉獄へと投ぜられ重い病に苦しんでいた。
(ツル)重輔!重輔!下がれ!
(文)うちが兄上の手足になります。
学ばんと。
兄上と同じくらい。
(寅次郎)吉田寅次郎と申す。
お見知りおきを。
・
(富永有隣)早う眠れ。
目をつむるんじゃ。
どなたです?・
(富永)ここはただの牢獄ではない。
入った者は生きて再び外の景色を見る事はない。
生きては…出られない?・
(富永)だから眠れ。
ここで見るものは眠りの中の夢しかない。
・
(重輔)先生…。
金子君…。
金子君。
金子君!お頼み申す!どなたか金子をここへ!ここで終わる訳にゃいかん。
(福川犀之助)読みたい本だそうじゃ。
差し入れてやれ。
それから囚人の食事代は家族が払うよう。
はい。
それであの…会う事はかないませんか?ならん。
ならん!
(ツル)お願いでございます!一目息子に…。
(獄吏)何度言うたら分かるんじゃ。
ならん!
(ツル)お願い致します!金子重輔の母親じゃ。
母上様…。
(ツル)このとおりでございます!金子も吉田寅次郎の弟子になったばっかりにとんだ事になってしもうて…。
あの…お願いします。
しつこいんじゃ!帰れ!こら。
おけがはございませんか?あなた…。
あなたもこちらの?うち…。
うちは…。
ええんですよ名乗らなくて。
お身内が獄におられるんですね。
うちも罪人の母親です。
(テーマ音楽)・「愚かなる吾れのことをも」・「友とめづ人はわがとも友と」・「吾れをも友とめづ人は」・「わがとも友とめでよ人々」・「吾れをも友とめづ人は」・「わがとも友とめでよ人々」・「燃ゆ」「蒙求」。
(梅太郎)「蒙求」。
「延喜式」。
「延喜式」。
(亀)油紙はこんぐらいでええですか?おお。
ああ。
湿払いじゃ。
牢の中は湿気がひどい。
せっかく死罪を逃れたのに病で死んでは元も子もないからな。
(滝)病…。
金子様の具合はいかがなんでしょう?母上様も会えずおつらそうでした…。
会うたのか?金子殿の母御に。
はい。
うん…そうか。
(百合之助)「海國圖志」以外のもんはおおかたそろうた。
「海國圖志」?おお。
清国の学者が記したあらゆる国の地理書じゃ。
60冊にも及ぶというがわしもまだ見た事がない。
江戸にならありますか?う〜ん…江戸か。
あっ江戸の伊之助様に文を出します!寅次郎が入獄後僅か2か月の間に読んだ本の数は実に100冊を超える。
寅次郎の望む本を手に入れると文は父や兄に託され野山獄へと届けた。
お世話になります。
母上様。
そちらもお目通りは?なりませんでした。
ご一緒にいかがですか?握り飯です。
私に?食べて力をつけてつかぁさい。
母上様も。
必ず会える日が来ます。
あなた…。
まあ。
どうぞ。
頂きます。
お指の先がきれいな青!藍で染まっとるんです。
うちは染め物屋なんですよ。
染め物。
では息子様も?江戸へ行く前はよう手伝うてくれました。
回想おっ母様それどうしましょう?井戸端のさおにかけちょって。
(2人)はい。
(金子善兵衛)重兄こりゃわしがやる!
(重輔)お前せわしいんじゃ!
(善兵衛)そりゃ重兄じゃ。
やけど「もっと学問がしたい。
武士になるんじゃ」と言いだして。
もしあの時止めとったら今頃は…。
(滝)どうしたんですか?もしうちが獄につながれたとしたらそれでも母上は会いに来てくれますか?うちが戻るんを待っとってくれますか?文。
あなたがどんな姿になっても人様からどんなひどい事を言われても母は必ずあなたを待ってますよ。
そして「お帰り」と言うてあげます。
母上…。
待っとるだけならお金はかからんしね。
(笑い声)
(福川)表へ出よ。
体を動かし気を入れ替えるんじゃ。
はあ…。
(吉村善作)「山眠る」か。
どなたもおいでにならないんかと。
(吉村)おるわ。
在獄47年のつわものから嫌われ居士の富永殿まで11人の捨てられ人がな。
47年…。
(吉村)眠っとる間に時は過ぎゆく。
俳句をたしなまれるんですか?先ほど「山眠る」と。
ああ。
手ほどき願えませんか?はあ?そうじゃ。
皆さんもいかがです?共に学びませんか?ぜひ。
ぜひ。
(たたく音)
(吉村)あれが富永有隣じゃ。
あれでもかつては明倫館の秀才とうたわれた男じゃそうじゃが。
ハハハハ!富永…。
俳句だと?町人の遊芸ごときに気をようしおって!あぶれ者のたわ言なんぞ聞く耳持たんわ。
ええ!何じゃと?何じゃ!静かにせろ!大きい声出すな。
すばらしい。
ん?
(寅次郎)獄の中にあってなお周りを罵倒してやまんとは。
近々ぜひ。
そして江戸では…。
(桂小五郎)小田村さんこちらです。
桂殿。
お待たせした。
どうされました?無頼の者にちいとな。
桂小五郎後の木戸孝允。
西郷隆盛大久保利通と共に維新の三傑と称されるこの男もかつて明倫館で寅次郎から兵学を学んだ一人である。
(桂)「海國圖志」持ってる者が練兵館におりました。
ありがとう。
寅次郎が喜ぶ。
獄にあってなお学問やまずとは先生らしい。
この男だ。
捜したぞ。
何です?先ほど通りでこの男と少々議論になってな。
少々だと?我が主君ご老中阿部伊勢守様を弱腰とののしった!ペルリの船に乗り込んだ吉田寅次郎をご公儀に盾つく愚かな跳ね者と断じたおんしらの声が聞こえたんでの。
そのとおりじゃ。
大バカ者じゃ。
時流を読めん大バカ者はどっちじゃ!何だと!?これはこれは阿部伊勢守様のご家中でござったか。
まずは一献。
出ろ。
桂。
お前は関わりない。
行け。
母上様?どうされたんですか?獄に入ってよいと言われました。
本当ですか?病がひどいんで看病せよと…。
病…。
でもようやく息子様に会えるんですね。
一緒に来て下さいませんか?えっ?うちが?怖いんです。
あの子に何と声をかけたらええか。
大丈夫。
息子様はお母上を待っております。
喜んで下さいますよきっと。
お願いです。
入れ。
あそこじゃ。
重輔!重輔…。
帰ろう。
ここから逃げよう。
わしは逃げん。
(ツル)重輔!
(重輔)下田の奉行所で先生がこう言われたんじゃ。
「我らは逃げも隠れもせん。
罪を恐れ逃げるような武士は長州には一人もおらん。
私も金子も長州の武士にござる」。
回想お頼み申す!ペリー提督!わしをメリケンに連れていけ!ホープ!金子君。
うっ…ああ!ああ〜!金子君。
うっ…ああ〜!ああ〜!金子君!
(寅次郎)ボタオじゃ。
ボタオ?西洋の着物に使う飾りじゃ。
これを使うてバラバラの布と布をつなぎ止める。
我々のようですね。
(寅次郎)もし君がいなかったら今の私はここにはおらん。
これは取って置きなさい。
この先どんな苦難に襲われようと今夜の我々の絆があれば志は必ず果たせます。
その証しに。
これはわしの宝じゃ…。
何度でも何度でも…先生とまた海を渡るんじゃ…。
もうそねな事せんでええ!
(ツルの泣き声)家に帰ろう。
母と一緒に静かに暮らそう。
なっ?次の船はいつ来るんかのう…。
今度こそ海の向こうへ渡りたいもんじゃのう…。
先生…。
先生…。
お前をこねぇにしたんは誰?
(ツルの泣き声)
(富永)何じゃそれは。
ご意見を伺いたいんです。
富永様の。
ぜひ。
嫌じゃ。
富永様はわざわざご自分を卑下するように振る舞い垣根を作っておられる。
そのような構えはご無用でござる。
どうぞご教授を。
ならば教えて進ぜよう。
わしの学の神髄を。
はい。
生きて腐って呪え。
ここで語る学問など何の意味もない。
いいえ。
こんな所だからこそ功利を排した真の学問ができるはず。
ならば聞く。
お前には共に海を渡ろうとした弟子がいるそうだな。
金子は弟子ではない。
友です。
友!いいか?その友とやらはお前がここで真の学問とやらを語っている間に向かいの獄でたった一人虫けらのように死んでいくんじゃ。
お前がどんなに学ぼうともここにおる限りお前は友一人の命も救えん。
それがお前にとってまずは学ぶべきまこと。
まごう事なき現!お前の学問とは所詮紙の上の幻じゃ。
(富永)ええぞええぞ!
(福川)吉田!ええぞ!腹の立つ事を言われりゃ殺しとうなる。
殴りとうなる。
人とはそういう生き物なんじゃ。
違う!人とは…人の本性は善じゃ!明日の己を己で切り開く事ができる唯一のものじゃ!人とは悪じゃ!その証拠にたった今お前はわしを殴ろうとしたではないか。
恥じる事はない!心のままに生きればよい!生きて腐って呪え。
生きて腐って呪え。
(金子)先生…。
金子君…。
(金子)先生!金子君…どこじゃ?金子君…。
生きて…。
わしはここじゃ。
(金子)先生!腐って…。
吉田落ち着け。
金子君…。
金子に医者を!
(金子)先生!呪え!
(寅次郎)着物を食べ物を与えてやってつかぁさい!
(福川)落ち着け。
金子が死んじまう!誰か!金子を助けてつかぁさい!吉田寅次郎殿は長州藩の誉れでござる。
いや…他藩の方々にそれほどまでお褒め頂くとは。
あいつの目ぇはいつもさまつな政や狭い世界を超えもっと遠くをにらんどるんじゃ。
(西郷吉之助)なるほど。
まっこて肝がふっとか男ごわんどなそん吉田さあは。
こいはつい。
人を待つ間に剛毅なお方の話が耳に入り黙っちゃおられんかったもんで。
ご無礼様なこつを。
薩摩の西郷吉之助ち申しもす。
薩摩の。
長州藩小田村伊之助と申す。
同じく桂小五郎と申します。
まずは一献。
ハハハハハ!よかよか。
どっちにしてんおいは下戸でごわす。
じゃっどん異国を知りたかちゅうそんお人の志にがっつい酔い申した。
吉田…?寅次郎。
しっかいと覚え申した。
吉之助どん!寅次郎の密航の企ては日本中の志ある若者たちの心を動かし始めていた。
そしていまひとり寅次郎の名を記憶にとどめた者が江戸にもいた。
吉田寅次郎?
(長野主膳)はい。
長州の山鹿流兵学師範だそうでございます。
山鹿流。
異国から学ぼうというのはよい。
が…牢で朽ち果てるか。
もったいない事をした。
(滝)寅のおらんさみしいお正月でしたね。
差し入れたお餅あの子も食べたやろうか。
あら〜。
篤。
何です?また仏頂面して。
(寿)うちの人が寅兄から頼まれたそうです。
薬です。
(滝)薬?寅兄のお弟子が…何というたかしら?いよいよ危ないんですって。
金子様が?今更こんな事しても遅いわ。
金子様をそんな姿にしたのは寅兄じゃないの。
届けてあげんさい。
金子様に。
母上…。
お世話をすると決めたんなら最後まで全うしんさい。
およしなさい。
お前が行って何になるの?ボロボロになった金子様やそのお身内がそんな事を望むと思いますか?お前は吉田寅次郎の妹なんよ!金子様はボロボロなんかじゃありません。
ただ兄上と共に海を渡ろうとして…それが幸せやったんです。
金子様は…。
それを聞いてあげんさい。
金子様はただつらかっただけじゃない。
うれしかった事幸せだった事聞いてあげられるんはお前しかおらんじゃありませんか。
吉田寅次郎の妹のお前しか。
お待ち下さい。
お願いがございます。
金子様が持っていたボタオを私に頂けませんか?ボタオを私にお預け頂きたいんです。
兄に託したく存じます。
兄?吉田寅次郎と申します。
私は妹の文と申します。
(善兵衛)あんた…あの男の。
金子様の思いは私が必ず兄寅次郎に伝えます!金子様がこれからも立派な武士として兄上と共にずっと生きていかれるよう。
ですからボタオを。
このとおりでございます!あれは…捨てました。
この骸は染め物屋の息子でございます。
ええか?これは特別じゃ。
(寅次郎)文か。
はい。
金子様が亡くなりました。
金子様は最後の最後まで兄上と共に海を渡る夢をみておられました。
何度でも挑んでみせると。
教えてつかぁさい。
何で金子様は死ななくてはならなかったんですか?何で国禁を犯してまで兄上は海を渡ろうとしたんですか?あの夜俺たちは光を見たんじゃ。
目指す船の先に新しい日本があると。
見えたんは異国の光だけですか?うちには大切な方たちがいます。
兄上が国禁を犯したあと梅兄様はお役を免じられました。
寿姉様もご城下での暮らし向きが立ち行かず私たちを助けてくれるもんは誰もなく父上がお腹を召してわびようとなされました。
私たちを守るために。
兄上の見たもんが新しい国の光だというんなら何でそれは私たちを照らしてはくれんかったんでしょう。
それは…。
金子様は寅兄様が殺したんです。
己の欲に己を慕う者を巻き込んだ。
違う!俺は金子と生きたんじゃ。
夜の海を2人大義のために大義に生きようとひたすらに…。
ならば証しを見せてつかぁさい!証し?あの夜兄上の目指した光がただの私事ではないもっともっとふとい大義の果ての志やったというんなら志は死なない!たとえ一生牢の中にあろうとも絶望はない!金子様は生きて幸せやったんやと…。
暗い獄の中で…金子様はずっとボタオを握りしめていました。
兄上との大切な思い出を。
・
(寅次郎)ああ〜!ああ〜!ああ〜…。
お帰り。
(泣き声)せわぁない!
(泣き声)ボタオ…。
金子様!ありがとうございます!兄上に託します。
(高須久子)高須久です。
お願いがございます。
この者は母ではありません!話をしてあげてつかぁさい。
母上様と。
あなたを憎みます。
(寅次郎)目を背けてはいけん。
萩の城下を流れる…
藍染めの染料の製造場所が置かれた事から名付けられたといいます。
染め物商の長男として生まれた金子重輔は寅次郎と密航を試みた後岩倉獄へ投獄されました。
そして安政2年1855年病が悪化し25歳の若さでこの世を去ります。
寅次郎が贈った詩には「重輔のために何もできなかった」という痛恨の思いがつづられています。
寅次郎は自分の食事を切り詰めて積み立てた金を遺族に贈りました。
重輔の墓にある花立てはその金で立てられたものです
寅次郎の同志金子重輔。
その熱き志は後の松下村塾の塾生たちに引き継がれていく事になるのです
2015/02/07(土) 13:05〜13:50
NHK総合1・神戸
花燃ゆ(5)「志の果て」[解][字][デ][再]
密航に失敗した寅次郎(伊勢谷友介)はろう獄に入れられた。文(井上真央)は訪ねるうち、寅次郎と共に捕まった金子重輔(泉澤祐希)の母ツル(麻生祐未)と出会うのだが…
詳細情報
番組内容
密航に失敗した寅次郎(伊勢谷友介)は野山獄というろう獄に入れられる。文(井上真央)は会うことのできない兄に差し入れを持って獄に通う。そこで金子ツル(麻生祐未)と出会う。ツルは、寅次郎と共に海を渡ろうとした弟子、金子重輔(泉澤祐希)の母だった。重輔は身分が低いため別の獄に入れられ、病に苦しんでいた。文は寅次郎の妹だと打ち明けられないままツルと親しくなっていく。ツルはようやく重輔との面会を許されるが…
出演者
【出演】井上真央,大沢たかお,伊勢谷友介,原田泰造,優香,久保田磨希,檀ふみ,長塚京三,宅間孝行,井川遥,本田博太郎,田中要次,麻生祐未,東山紀之,宅間孝行,高橋英樹,【語り】池田秀一
原作・脚本
【脚本】宮村優子
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
ドラマ – 時代劇
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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