注意しておかなきゃいけませんね。
どうもありがとうございました。
ありがとうございました。
(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(三遊亭歌司)ようこそ。
(拍手)
(ため息)
(笑い)お運びの皆様方だけのご健康をお祈り申し上げる次第でございます。
ありがとうございます。
久々東京落語会でございます。
86になりましたよ。
え〜ウエストがね。
(笑い)太るとちょっと動くのにも考えたりなんかしなきゃいけませんね。
お楽しみという…ねいろいろお楽しみがありますがね。
私は釣りが好きでございます。
ヘラブナ釣りとアユ釣りでございます。
川専門でございますがね。
協会の方で釣り好きの人間がこうずっと集まってねで一緒に釣りをしたり一杯飲んだりなんかしている。
まあ昔は釣りも道楽と言ったんだそうですがねそのあとが趣味今はスポーツと言うんだそうですね。
ええ。
え〜楽屋でもいろんな趣味の人が話をしてましたよ。
飲む打つ買う3つ遊ぶから「三遊亭」だそうであんまり当てになった話じゃありませんが。
まあ飲むっつったってね具合悪くなりゃ飲めなくなるんだし…。
打つってえたってまあどういう遊びでもこりゃ額が張るのと張らないのがいろいろありますよ。
それ相応の人の器でございますからね。
でまあそれにまして高級な遊びなんというのはもう昔はねいっぱいあったんだそうですよ。
まあ私どもが知ってるというのはもう晩年でございますがね昭和の晩年。
あるお相撲さんね。
こりゃもちろん横綱でございますね。
でま有名な…まあ歌い手ですね。
そういった者を船宿に屋形をこさえて遊んでった人がいますけども。
それ以上にもっとすごかったんですね昔はね。
屋形を動かすにも3人も4人もで一緒に動かしてそこに芸者も幇間も乗せてドンチャンドンチャン騒ぎながら向島に行くなんという…。
あっちにこっちへ行くから吉原に行くなんというのはその昔はすごかったそうですよ。
どのぐらいお金使ったんでしょうね。
こないだ歌麿という方のあれをテレビで見ましたけどね。
こんなもんかと思ったら随分大きいの描いてたんですね。
大作を。
「雪月花」。
ねえ。
「品川の月」ですか。
そして「吉原の花」という。
まあそこには50人近くの遊女が描いてあった。
最後は…今日本にあるのは「深川の雪」というそういう絵だけだそうでございますね。
それで着ている着物や襟や長襦袢の柄まで全部違う遊女が描いてあったそうですね。
それを見てね感心したんですね。
私はどちらかというとこれだけ揚げるといくらぐらいかかんのかなというあんまり大した考えじゃございません。
まあその当時ね大したもんですよ。
船遊びという…遊びはそりゃ豪華なんですけども今までで一番船で遊んだ方誰だっつったら紀伊国屋文左衛門じゃねえかっつった人がいるんですね。
うちの近くに紀文会というお墓があります。
でそこにはいろんな方のあれがあるんですけども。
まあちょっと時代でございますがね。
そりゃ紀伊国屋文左衛門はねあれだけの仕事をしてで吉原を借り切って何度も占めたというそういうふうになりたいですね。
これが遊びのうちの一番なんでございますでしょう。
なかなかそういうのはできませんがね。
「おいおい!誰かいないかい?」。
「は〜い。
お呼びでございますか?」。
「あのね番頭さんをひとつ…忙しければいいんだよ。
手が空いたらちょっと奥の方に顔を出してもらいたいとひとつお願い」。
「ええ分かりました」。
「あの繁蔵でございますが旦那様お呼び…」。
「ああ構わない。
どうぞこちらへ」。
「そうっすか。
どうも失礼致します。
どうも。
お呼びでございますか?」。
「あ〜あのねだいぶ陽気がよくなったんでね旅に行こうと思ってね」。
「ほう〜結構ですね。
どちらの方へ?」。
「京都の…」。
「あ〜京の方に。
よろしゅうございますね。
でどのように…。
それだったらいつものお手紙を…為替と。
あ〜もう全部…」。
「10日もあれば支度は…」。
「いやいやいや。
松どんがね一生懸命やってくれますんで何にも…。
仕事覚えましたんでね。
大丈夫です。
5日もあれば支度が出来ますんで」。
「ああそうかい。
じゃお前さんも一緒に」。
「ああそうですか。
へえどうもありがとうございます。
お供致しますが」。
「それからなあの〜一八を…一八を呼んどいとくれ。
いやいやだいぶ前に嫌み言われたんだ。
まお座敷にはいろんな子があったけどね。
『旦那様にちょっと旅ご一緒したい』なんというそんな事言ってたからさ声かけてやんな。
どうせ暇だろうからな。
ひとつ頼みますよ」。
「へいへい分かりました」。
急ぐ旅ではございません。
支度を致しまして旅にたつ。
まあちらのお湯行って楽しんでこちらの神社仏閣という具合に止まり止まりという旅籠。
やって参りました京都の同じ宿に入りましてさあその晩はゆっくり致しますが翌日は料理茶屋の方に…。
「おおきにどうも」。
「あどうもどうもしばらくで。
番頭…うちの番頭は…。
ああそう…。
それからねあれがね一八って幇間なんで。
ひとつ今日はよろしく頼みますよ」。
「へいよろしく」。
という…。
どっと騒ぐ。
それはよろしいんですけどもねそりゃ3日も4日もやる訳にはいきません。
そりゃやはり不粋でございますが違う遊びもしなきゃならない。
カラッと晴れたお天気の日でございます。
「おおっこりゃまた大将!どうも!あ〜どうもどうも。
結構でした?京は。
どうすんですか?今日は。
今日どういうお遊びで?」。
「う〜んお前ね天気がいいからね。
この春だ。
な!うん。
山遊びと」。
「山遊び!あ〜いいですね。
春。
あ〜そうですか。
そうですね。
こういう天気は。
あっありましたね何ですか…早蕨の…早蕨…『早蕨の握りこぶしを振り上げて山の頬面春風ぞ吹く』というあれですね」。
「ホホッなかなかやるね。
え?そりゃ…な…何だ?」。
「え…え?」。
「だから早蕨というのは何だ?」。
「あっ早蕨…早蕨はねあの〜早蕨なんですよ。
ですからね早蕨なんだからもうしょうがない」。
「何がしょうがない。
お前盗み…」。
「いやいや腹から」。
「腹から?え?早蕨というのは蕨の出始めだ。
握りこぶしを振り上げてるように見る。
そうして大きな山の…これをたたいたように見えるからそういう歌がある」。
「あそうなんですよ!ええ。
ですからね早蕨というのはね蕨の出始め…」。
「それ私が言ったんだ」。
「ですから誰の気持ちも変わらない」。
「何をばかな事言ってんだ」。
「でどの山なんですか?」。
「愛宕山だ。
愛宕山。
あそこだ」。
「え?何ですか?あ〜ちょっと地べたがこう腫れてますが」。
「何だその腫れてるってえのは」。
「行ってどうするんです?」。
「『行ってどうする』って行って遊ぶんだよ」。
「えっ?」。
「だから今な番頭が酒肴を用意してある。
それでもってあそこへ行ってで遊ぶんだよ」。
「で遊んでどうするんです?」。
「『遊んでどうする』…遊んで帰ってくんだよ」。
「帰ってくんなら行ったってしょうがないでしょ」。
(笑い)「お前どうしてそういう…。
あ〜貴様何だな。
あんまり足に自信がないな」。
「いやいやだ…大丈夫…。
あんなもの別にどうって事ありませんよそんな…。
朝飯前」。
「お前にいっぺんな注意しようと思ってたんだ。
その朝飯前という言葉はあまりいい言葉ではないぞ。
ええ?ばかにしよって。
分かったよ。
うん?分かった…お前はいい。
ああおい繁蔵。
ちょっと」。
「あっどうも旦那さん。
お待ち遠さまでございます。
全部用意してまいりました」。
「おおご苦労さんご苦労さん。
おい繁蔵。
ちょっとこっち来い。
ええ?あのな。
一八がな逃げるから。
嫌がってるから。
ねえ?お前がそばにいて私は先に行くけどいいかい?必ず連れてくんだ」。
「へいへい分かりました。
どうもすみません」。
「女どもはどうした?」。
「えっ?女ども…。
アハハ旦那あんなとこで花摘んでますよ。
ちょいと!おねえさん方!ええ?出かけますよ」。
「は〜いは〜い」。
「さあさあどうぞどうぞお先へどうぞ」。
「おいちょっと。
一八つぁん。
一八つぁん駄目だよ。
どうぞお先へ」。
「お前上がれよ」。
「うん?『お前が上がれよ』たって私だって行きますよ。
だから早くどうぞ。
行って下さいよ。
私は荷物あるんですから。
早く…」。
「いやお前上が…」。
「あ〜アハハハハ。
一八つぁん。
大将知ってますよ。
あなた逃げるって。
分かってんですよ。
一八が逃げるから私がついて連れてこいという。
そういう事なんですから。
ちょっとあんた行って一緒に」。
「分かったよ!行きゃいいんだろ行きゃあ。
本当にもう。
ええ?冗談じゃないよ。
何でえこんな坂。
ええ?別にどうってこたあないよ本当にね。
あらあら…まああの女どもはまあ!随分ええ!なるほど慣れてやんだねえ。
ええ?着物の裾を腰巻きガッ。
ええ?腰でもって結んで。
赤いものをちらちらさして。
ひょいひょいひょいひょい…ヘエ〜ッどうも。
こら恐れ入ったねえ。
ええ?負けてらんないねえ。
分かったっていうの行きゃあいいんだろ行きゃあ。
ええ?本当にもう。
こんなん鼻歌歌って上がってやらあ。
なあ。
・『お前待ち待ち蚊帳の外』・『蚊に食われ』あ〜こりゃこりゃとね」。
(せき込み)「・『七つの鐘が鳴るまでも』・『七つの鐘の鳴るまでも』はあはあ…。
・『コチャエ』・『コチャエ』とね。
・『お前は浜のお奉行様』・『潮風に吹かれて顔が真っ黒けのけ』・『白でも黒でもコチャコチャ』はあ。
・『かまやせぬコチャエコチャエ』はあはあ…」。
「ホホッ。
どうしました?歌」。
「引っ込んでろい。
ええ?まだ先あんのかい?」。
「えっ?とば口だよ」。
「えっとば口?これ。
冗談じゃないよ。
俺ちょっと宿に忘れ物してきた」。
「駄目だっつうの。
本当にしょうがないね〜。
あんたじゃあ先行って上行って。
私がね後ろ押しますよ本当に。
しょうがないいいですか?いやいいです私…。
あんたも楽に上がれるし私も早く上がれる。
いや旦那しくじりますから。
いいですか?いやちょっと…おわ〜っちょっと!あんたねえ腰掛けちゃいけないよあんたずうずうしい。
何を…だから押すだけなんですから腰をいいですか?左から左から。
はいいいですか?ひょい。
そうそう…右。
右。
はい左はい…」。
「ハッハッハ…ありがとうありがとう。
こりゃありがたいよこりゃいいよ。
うんすまないねえ。
お前さんには随分お世話になって。
ありがたいよね。
いや〜ひとつね。
これからもひとつよろしくお願いしますよ。
番頭さ…あ痛たたた痛い!痛い!痛い!痛いこのくそ…本当にもう何をしてんだよ!」。
「どうしたんです?」「どうしたんじゃ…」いや股ぐらんとこちょっとけががあるんだよ。
だいぶ前だよ。
向島の2階の座敷でもって大座敷でやったでしょ?はばかり行くっつうんで私はね階段の所の手すりのとこでずっとまたがってす〜っと下りて…」。
「安い遊びしないで下さいよ」。
「そうしたらささくれがあったんだよ。
それでもって傷つけて…本当にもう痛い。
そこんとこやっと治りかけてるとこ押したから。
ええ?本当にもう。
どうして分かんない?」。
「分かんないからあんた。
着物の上から見えませんよ!」。
「見えないったって大概想像つく!」。
(笑い)「何をしてんだあの2人あんなとこでけんかして。
おいおい何をしてんだよ。
ええ?早くこっちへ来い」。
「ハハッどうも!は〜っ旦那!随分てっぺんまであるんですね」。
「てっぺん?てっぺんだったら…何を言ってんだ昼食だ。
てっぺんはまだ上だ」。
「えっ。
あれっ?あれっこっちは愛宕山であっちはお隣さんじゃないんですか?」。
「何をばかな事言って。
そうじゃない」。
「あっつながってんのこれ?何だよ弱ったね。
いや〜どうもすみませんねありがとうございます。
ここでみんなでおねえさん方とお茶を飲んで…。
それで汗引いて…。
ああそうですか。
いやどうも。
ええ?結構ですね。
こないだ飲んだ?あああそこが。
あ〜…ああそうえ〜っと…。
うん。
で?脇の方。
竹茂楼。
おお〜。
鶴屋さん?鶴屋ここは見えない。
ああそうですかへえ〜。
じゃああの…伊勢長さん。
ああそう!」。
「おいおいおいおい…お前は料理茶屋の話ばっかりして。
ほかには何か見るもんがない?」。
「見るもんねえ。
見るものあるんですよ。
ええ?何ですか?八坂神社。
ああ八坂さんね。
清水さん。
ああそう。
でもね神社とかお寺あんまりねえお座敷かかりませんからねえ」。
(笑い)「ええ?鴨川。
桂川向こう?ああそう。
いや〜随分ある。
あれ?大将何です?あれ。
あそこに何かスウ〜ッと出てて何か輪っかがぶら下がってる。
あれ何です?」。
「ハハハ。
やっと気が付いたか。
あれは土器投げだ」。
「えっ何です?それ」。
「貴様は分からんか。
そうかよしよし。
俺が今見せてやるから。
おばあさんすいません。
ちょっと…。
はいはいどうもありがとう。
ええ?いいか?これをなこれを投げてなあの輪に通す。
これはなかなかオツなもんで…いいか見てろ。
いいか?見てろ。
よいしょっ!ほら。
なっ?スウ〜ッと…。
あっちょっと違ったな。
いいか?今度は大丈夫。
よしっよいしょっ!いやっと〜…っと。
ああ。
あっちょっと駄目だな。
よしよし。
いいか?見てろ。
よいしょっ!スウ〜ッと…。
ほら!ほら!スウ〜ッ…。
あれがな輪の中にスウ〜ッと通ると気持ちがいいもんなんだ。
ええ?どうだええ?貴様にできるか?」「ハハハハハ。
そんなの朝飯前」。
「また始まった。
やってみろ」。
「あなたにできて私にできないなんという事はない。
ええ?ああ何でもいいんですか?いいですかええ?見ててごらんなさいよ。
いいですかほら。
ひゃっとね。
あれ?あれあれ…。
何かひらひらひらって木の葉みたいに向こう行っちゃ…ええ?ああおかしいなあ。
よし今度は大丈夫今度はな。
よいしょっと!ほら!スウ〜ッ…。
あらあら…。
全然違うとこ行っちゃった。
難しいもんですねこりゃ。
どうして私のはああやって…」。
「お前のは端を欠いてないからだ」。
「早く言って下さいよ早く。
ええ?まずいもんですねこりゃ。
あんまりうまくない。
いいですか?よいしょっ。
よいしょっ!ほら!やっとスウ〜ッと…ああ惜しい」。
「何が惜しいええ?おい繁蔵。
江戸から…。
ああはいはい用意してきたありがとう。
よし。
見てろ」。
「何ですか?えっ?。
それ何です?小判?小判小判…どうなさる?」。
「ええ?どうなさるじゃない。
土器投げの名人という人がな軽〜い塩せんべいをあそこに通すという。
それを聞いたもんでな私は今度は逆に重い物。
小判をあそこに投げてか〜って…通ると思う」。
「いやあんた…そりゃそんなもんやめた方がいいですよ。
いやちょっと待っ…」。
「何を言ってんだええ?いいか見てろ。
こうなったら意地だ。
よいしょっと〜!あら〜…ああそうか。
ああいう…あああの辺になるのか。
よし!分かったこれで分かった。
よいしょっと!タ〜ッと…。
ああ惜しいなよし今度はこっちから。
こっちからよいしょっと…あ〜っと…なかなか難しいなこりゃ」。
「おいちょっと…。
な何枚?ええ?30枚!?30両!?30それを投げて…しょうがないね。
番頭さん何をやってんだ。
女の子もみんな何か言いなさいよあんた。
ちょっとねえ!大将!ちょっともったいないですよ。
それあの…あっこっちへ投げてこっちへ。
私がこう輪になっちゃう。
ええ?いやいやそうじゃなくてどんどんどんどん…。
あなたねえそれは無駄ですよ」。
「何を言ってんだ。
うん?無駄だ?お前に言われたくはない。
本来だったらお前と一緒にこんなとこにいる事がその方が無駄なんだい。
人はな無駄がしたいがために一生懸命働くんだ。
えっいいか見てろ。
よいしょっと。
ほれっと。
おお!おっ惜しいなあ。
いやどうもおかしいな。
よいしょっと。
か〜悔しいねどうもね。
そばまで行くんだけどね。
よいしょっと。
う〜んよいしょ!ああ…。
よいしょ!」。
(手をたたく音)「ああ終わった」。
「終わったじゃありませんよ。
あなた…みんな投げちゃったんですか?どうするんですよ」。
「どうするもこうするもないよ。
しょうがないよ投げちゃった」。
「あのねじゃあ誰かに拾われたらどうする…」。
「それは拾った人のもんだ」。
「えっえっ?そしたら何すかあたしが拾ったら…」。
「それはお前のもんだ」。
「あたしの?ハハハッ。
それを先に言って下さいよ。
あ〜そうすか。
よかった分かりました。
え〜っとねえ〜っとねえっと…あっ茶店のおばあさんあのすいませんこれどっか下りるとこない?うん脇…上ってきたとこうん下に。
ああ茶屋あったよ。
あれの裏?裏をずっと行って。
うん。
本当?そんなにあんの?えっ!そんなにあったら今から行ったんじゃね夜になっちゃいますよ夜。
えっ?夜狼が出る?えっ狼?狼はいけませんよ。
狼はね洒落がききませんあれは。
弱ったなこれ。
何かね…何かあんでしょ?こんなに…えっ弱ったなこれ。
何か…。
あっおばあさん大きなこの傘…そんな事言いなさんな。
お金儲けお金儲けですよあなた。
えっこれでもってねスッて…。
いや大丈夫ですよ。
えっ?帰り下の茶屋に…。
はい分かりました。
ええ大丈夫。
よいしょ。
よっよいしょ。
うんよいしょ。
よっ。
よしよし…。
これだけの傘あれば…。
あっと。
うんあ〜よしよし。
大丈夫だうん。
はいここで…。
じゃあはいよいしょ。
どうもじゃあすいません。
大将どうも」。
「どうすんだ?」。
「いやだからどうするって…。
商売ですよ。
スッと行くとねスッと…。
さあ行くかな。
うん。
行くぞうん。
よいしょ…。
さて一の二の三と…。
ああ…。
目つぶろうかな。
よし目つぶろう。
さてね一の二の三と…。
目が開くねおい。
そりゃあ開くよ人情だもんな。
これ弱ったな。
どうしようかなえっ?悔しいね〜。
何かふんぎりがつかないねふんぎりが」。
「おい繁蔵。
ちょっとこっちに」。
「へい?」「ふんぎりつかねえつかねえっつってっからふんぎりつけてやんな」。
「えっ?『つけてやんな』ってどう…」。
「いやだからちょっとウワッてやって…。
そうするとウワッなんつって。
面白いよ」。
「面白いってあなた…。
やりますよ」。
ひどいやつがあるもんで。
ウ〜ウ〜うなってるところにウワッてやったもんですからハッ!スッと上がったんですね。
1尺ばかり飛び上がったとこに下から風がス〜ッと来たからフワッと行った途端にザザザザザザザザザ〜ッと竹林の中をダ〜ッ。
「大将一八つぁん行っちゃいました。
「いや行ったよ。
しょうがないよ。
見てたよ。
しょうがないじゃないか行っちゃったんだから。
大丈夫だよ。
あんなもん生きてたって別にどうって事は…」。
「いやあなたそういうあれじゃなくて…。
えっ?弱った…。
行っちゃ…。
ちょっとみんな呼んでやって」。
「一八にいさ〜ん!」。
「一八にいさん!」「一八つぁ〜ん!」。
「一八〜!」。
「一八〜!どうした〜一八!」。
「カハッ。
ひでえ事しやがって。
アイテテテ腰打っちゃった。
あ〜どうした…。
あっ!ありがてえ。
あ〜下りた。
あ〜下りられた!ハハハハッ…。
あっ下りましたよ〜!」。
「おっ下りたそうですよ。
いや…。
おいよかったな〜!えっ金はあるか?」。
「そうだ金だ。
ハハハッ。
それだそれ。
え〜っとねえ〜っとねここ薄暗い…。
あっ何だこりゃ。
薄暗い中でもいや〜山吹色ってねこうやって光ってるんだね。
こりゃありがてえ。
どうもありがたい。
えっありがたいありがたい。
えっあっこっちからこう投げたからだいぶ…。
うまいねえ。
えっこれあったよあったよありがたいね。
30枚30両30両…あったあったこんなとこにあった。
ありがてえありがてえ。
さあさあ…え〜っとあったあった。
ここにもあった。
ちょっちょっ…ちゅうちゅうたこかいなまだまだ…まだ足りない!まだありませんよ。
え〜っとどっかありませんか?」。
さあ一生懸命探します。
すると全部…。
「やった!30両。
大将30両ありましたよ〜!」。
「貴様にやるぞ〜!」。
「ありがとうございます〜!」。
「どうして帰る〜?」。
「はあ〜」。
「欲張り〜!狼に食われて死んじまえ〜!先帰るぞ」。
「いやいや。
江戸を出てくる時一緒だったんですよあなた。
えっそんな…。
ちょっと番頭さん大将どうにかして。
いや大丈夫ですよ。
え〜っとね何か何か方法があるんだよ方法が。
あっそうだ!」。
羽織を脱ぎます。
帯をほどきます。
着物を脱いで長襦袢も脱いで。
さらしとふんどしだけでございます。
はあ〜これでもって…。
着ているものはと申しますと安物ではございますが芸人でございます。
ピエ〜ッピエ〜ッと細く裂いた。
「狼が出るって事はもうしょうがないよこれはな。
何とかしなきゃ」。
「旦那。
一八つぁん紐編んでますよ」。
「あ〜いろんな芸のあるやつだなあいつは。
お〜い一八!いろんな芸があっていいな〜。
内職が始まりました」。
「余計なお世話だこんちくしょうめ。
こっちはね命懸けなんだい命懸け。
これでもってなんとかしなきゃしょうがねえ」。
さあ一生懸命長〜い紐を用意致します。
脇を見ると真ん中の細いいい石を見つけましてその方にカ〜ッと結びました。
嵯峨竹と申します。
カ〜ッといっぱいいます。
その中でも一番大きな太いツ〜ッとした竹を目がけて…。
「よいしょ。
うんよいしょ。
よいしょ。
よいしょ。
う〜んよいしょ…ヤ〜ッ!」。
カ〜ンと当たったかと思いますとクルクルクルクル…。
「おっとハハハッ。
しめた!あ〜やった。
これはね…これはありがたい。
これはねこれはありがたいよありがたいありがたいね。
これでもってなんとかしなきゃ。
俺はね狼ときて命懸けにこうなるとは思わなかったよ。
ここへ縛ってね後ろにこうする…後ろへ下がって後ろへ下がってよいしょよいしょ…」。
ザ〜ッと下がっといて脇の方を見ますと段のある岩が…。
「あ〜これはありがたい。
よしこれだ!よし!」。
タ〜ッと脇の方に行きましてその…トントントントンと上がってビュ〜ンと行きます。
満月のようにしなった竹がシュッと戻る。
フワッと上がった途端でございます。
「あ〜ありがたいな。
これはこれは。
いや〜っとと…。
大将!戻りました」。
「偉いね帰ってきたよこいつ。
いや〜おい一八生涯贔屓にするぞ」。
「ありがとうございます!」。
「金は?」。
「ああっ!」。
(拍手)2015/02/07(土) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
日本の話芸 落語「愛宕山」[解][字][再]
落語「愛宕山」▽三遊亭歌司▽第665回東京落語会
詳細情報
番組内容
落語「愛宕山」▽三遊亭歌司▽第665回東京落語会
出演者
【出演】三遊亭歌司
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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