一方、被害者の背中を蹴った暴行罪は認定し、罰金30万円を言い渡しました。
(日下)下り最終電車705Eを乗っ取った。
我々が人質の命と引き替えに要求する額は1,000万だ。
(古畑)しかし小銭の身代金なんて聞いたことないなぁ。
何か訳があるんですよ。
小銭でなければならない訳。
(大和田)4つの鞄を指定された4つの場所に運んでもらいます。
(西園寺)乗っ取られたのは電車じゃない。
僕らのほうだったんだ。
(古畑)気になるねえこの音。
(ボールペンをノックする音)
(古畑)えーこれまでわたしがかかわってきた多くの犯罪者たち。
彼らに共通しているのはだれひとり逮捕の瞬間悪あがきをしなかったということ。
彼らは犯行を認めた後進んで自供してくれました。
誇り高き殺人者。
そしてそれがわたしの自慢でもあるのです。
(テーマ音楽)
(日下)4か所で金を受け取るということはかなり組織的な犯行と見てよいでしょう。
(武藤田)「犯人は何人もいる」ということですか?
(日下)そういうことです。
本部と連絡を取ってそれぞれの場所に警官隊を出動させました。
ただし犯人が要求してきた時間内に間に合うかどうかは保証できません。
(武藤田)この際金のことはいい。
人質の命を優先してください。
責任はわたしが取る。
助かります。
今からそれぞれの場所に我々公安の人間が鞄を運びます。
(武藤田)警察が出て行っても平気ですか?といいますと?犯人たちを刺激するんじゃないかな。
むしろ我々職員が運んだほうが。
今回のケースは事件発生以前に予告電話が入っています。
公安が乗り出したことは犯人たちも承知のはずです。
僕らが鞄を運びます。
(武藤田)なるほど。
皆さんはこちらで待機を。
(古畑)あの?
(武藤田)なんです?どうして4か所にしたんでしょうかねえ。
(武藤田)車は。
車はまだ用意できんのか。
(神保)確認して来ます。
どうして犯人は身代金を分割させたんでしょうか。
捜査をかく乱するために決まってるじゃないか!どう思われますか?一度に運ぶより分割したほうが成功する確率が高くなるからじゃないですか。
どれかひとつ失敗してもほかの三つが成功すれば御の字だと考えたはずです。
しかし普通逆のような気がするんですけどもね。
分割すればするほど危険が大きくなるんじゃないでしょうか。
犯人側にとって金を受け取る瞬間っていうのはいちばん捕まる可能性が高いんですよね。
どうして一度で済ませようとしないのか…。
何かほかに訳があるんですよ。
絶対に。
(浅香)急ごう。
(江田)ああ。
何してるんだ。
(山本)一服。
正念場はこれからだ。
気を抜くな!・
(西園寺)ううっ…。
(今泉)どうしたの?西園寺君。
(西園寺)むむむむむむむ…!どうしたの?むむむむむむむ…!今助けてあげるからね。
(日下)ここが第3小学校の校門前。
八幡様の境内。
近代美術館のモニュメント前。
そしてここが市民球場のグラウンド。
(武藤田)どれもこの時間には人気のない場所ばかりだ。
ここからいちばん遠い球場のグラウンドは僕が受け持つ。
あとは君らで分担してほしい。
(神保)車…用意できました。
こちらコントロールルーム。
705E応答しなさい。
(大和田)こちら705E。
どうした?これから身代金を持って指定された地点へ向かう。
(大和田)時間がないぞ。
急げ!言われなくても分かってる。
(大和田)よっしゃーっ!行こう。
(武藤田)わたしも同行してよろしいですか?あなたはここに残って指示を待ってください。
しかしいても立ってもいられないんだ。
では終着駅のほうに向かってください。
(武藤田)到着まであと何分だ?
(神保)13分です。
(武藤田)今から行っても間に合わない。
何かお手伝いを。
あなたが来たところでどうなるものでもないですから。
しかし…。
あのーこちらの言うとおりにされたほうが。
ね。
(西園寺)早く!早く!
(今泉)固結びだからうまく指が…。
うっ。
(日下)ではよろしく。
(浅香)気を付けて。
きっとうまくやってくれますよ。
(日下)あっちょっと。
(古畑)はい?あなたもですか?はい。
できればここにいてもらいたい。
ご同行します。
あなたの事件じゃない。
いや乗りかかった船ですから。
さぁ急ぎましょう。
あっそうだ。
あのーすいません。
わたしの部下が戻ってきたらよろしく言っといてください。
お願いします。
大丈夫か?彼に任せるしかないだろ。
(神保)ご苦労さまです!
(古畑)あっ。
ちょ…ちょっと待ってくださいよ。
なんだ?はい?やっぱりわたしも。
それは困ります。
迷惑は掛けない。
うーん。
お気持ち分かります。
乗ってください。
どうぞ。
古畑さん。
急いで。
失礼します。
(古畑)乗りました?はい。
(古畑)さぁ出ましょう。
急いで。
(武藤田)あと10分しかない。
間に合いますか?間に合わせるしかないでしょう。
(武藤田)しかし分からんな。
時間どおりに金が着いたかどうかどうやって連中は電車の中から確認するんだろう。
それはねほかにも仲間がいるんですよ。
でお金が届いたか見届ける係がいてそっから連絡行くんです。
ねえ?ねえ?ええ。
おそらくは。
だそうです。
なるほど。
考えたな。
あっそうだ。
局長。
これやっぱりお返しします。
あんたもしつこいな。
いや頂けませんよ。
あとにしてくれ。
置いときます。
ここに。
なんですかそれは?これですか。
サブレーなんですよ。
「サブレー」はい。
まぁ話すと長くなるんで今度。
じゃあ確かにお返しします。
あぁ。
まずいじゃん。
なんか嫌な予感がする。
なんでよりによってあの人の車に刑事が乗ってるわけ。
どうしたんです?道に迷った。
お願いしますよ。
・はい。
どういう状況?刑事はいる?ああ。
そちらの状況は?・
(大和田)浅香さんと江田ちゃんは戻って来たよ。
今山本さんがねお宅の後追いかけてるから彼が何とかしてくれると思うよ。
じゃあ。
(古畑)何か?いい報せです。
残りの3台は無事指定された場所に金を届けたそうです。
そりゃ良かった。
おめでとうございます。
あっ我々も急ぎましょう。
そうですね。
(今泉)固い!
(西園寺)早く…。
痛い痛い…。
(古畑)これ…変わったマークですね。
「S・A・Z」「SA…」なんでしたっけ?どっかで聞いたことあるな。
「SA…」ご存じないですか?いいえ。
そうですか。
「S・A・Z」「S・A・Z」なんでしたっけね。
「SA…」「SAZ」です。
えっ?「SAZ」って読むんですか?これ。
はい。
はあー。
“SAVEANIMALSOFZOO”動物愛護団体のひとつです。
ああー!思い出しました。
動物園の廃止を訴えている。
そうです。
ふうーん。
愛護団体にしてはかなり過激なことをしてるところですよね。
まあ一部の狂信的なグループが勝手にやってることです。
建物を爆破したり。
うーん。
うーん。
まあ彼らなりの主張があるんでしょう。
そうですか。
聞いてました?なんですって?ウフフフ。
もう一度お願いします。
ウフフフ。
“SAVEANIMALSOFZOO”「動物園の動物たちを守れ」という意味です。
よく覚えてましたね?僕は公安の人間です。
テロ関係の団体はだいたい頭に入っていますよ。
たいしたお方だ。
(古畑)アクチノバシラスアクチノミセテムコミタンス。
ん?んー。
なんですって?フフフフフフ。
あの歯周病の原因となる細菌の名前です。
ご存じでした?知りませんでした。
(古畑)これは覚えておかれた方がいいですよ。
メモに書いといてください。
(古畑)ハハハハハハ。
道は合ってるんですか?大丈夫です。
しかし不思議だな。
どうも引っかかるなあ。
何がですか?えー「SAZ」でしたっけ?どうしてそんな団体の鞄があんな所にあったんでしょうか?遺失物保管所?まあどんな思想を持った人間でも忘れ物はするんじゃないですか?なるほどねえ。
何かその団体がこの事件と関係あるんですか?ないと思いますよ。
(銃声)ああ!どうしたんだ?パンクだ。
よりによってこんなときに!?畜生!
(武藤田)なんてこった!くそっ!間に合わん!
(日下)とりあえず犯人と連絡を取ってみます。
(武藤田)なんとか10分延長してもらってください。
どうするんですか?
(武藤田)タイヤを交換するしかない。
工具は揃ってる。
この車は?
(武藤田)うちの会社のです。
ここはわたしに任せて。
手伝います。
これでも現場にいたときは新幹線の車輪だって直したことがあるんだ。
5分で換えてみせますよ。
中で待っていてください。
あの…パンクですか?あの人は修理の名人らしいです。
あーなんか苦労人みたいですからね。
しばらくここで待機を。
そうですか。
なーんか小腹空いちゃって。
とうとうサブレー食べちゃいました。
フフフフ。
いかがですか?
(日下)いや。
僕は結構です。
(古畑)いやなかなかいけますよ。
いや結構です。
(古畑)よろしいですか?ふーん。
あ〜あ!なんか間に合いそうもないなぁ。
えー電車到着まであと3分だ。
ダメだこりゃ。
完璧に間に合わない。
ど…。
落ち着いてらっしゃいますね。
慌てても仕方ないですから。
冷静な方だ。
感心しちゃう。
ハハハ。
フフフフ。
あなただってそうじゃないですか。
いや。
わたしそんなことないですよ。
えーあのこの仕事に就かれて長いんですか?ええ。
まあ…。
そうですか。
古畑さんは?わたしどのくらいになるかなあ。
うーん。
そうそうそういえば先月のほら副総監のあのお嬢さんの結婚パーティー盛大でしたねえ。
あの副総監のあの手品初めて見ましたよ。
素人とは思えなかったなあ。
特にほらシルクハットからあれ出したときビックリしましたねえ。
覚えてます?あのもちろんいらっしゃいましたよね?副総監といえば公安部のOBですよね?公安の皆さんほとんどいらっしゃってたみたいですけども…。
あのあなたは?僕は出てない。
「出てない」?あのころはあいにく海外出張だったもんですから。
なるほど。
そうですか。
なるほど。
盛大でしたか。
うーん…。
ところで何出したんですか?そのシルクハットの中から。
実はわたしも行ってないんです。
フフフフ。
すいません。
フハハハ。
犯人と連絡取れましたか?すでに列車は終着駅に到着したそうです。
それで?まあこちらの状況を話したら1時までは待ってくれるとのことです。
今何時ですか?0時49分です。
あーぎりぎりだな。
局長。
お一人で大丈夫ですか?こちらの方は新幹線の車輪も付け替えた事があるそうですよ。
(古畑)あーっ!やめてください。
アハハハハ。
んーあのいつの間に犯人と連絡を?先ほど外で携帯電話で。
そうですか。
警察手帳よろしいですか?えっ?
(古畑)警察手帳。
なぜ?
(日下)悪いが僕は持ってない。
「持ってない」おや?どうして?個人的な理由です。
「個人的な理由」と申しますと?内ポケットにものを入れるの好きじゃないんです。
ジャケットの形が崩れるもんですから。
(古畑)なるほど。
そうですか。
ではわたしの出しましょう。
うーん確かに「警察手帳」かさばりますからね。
気持ち分かります。
「ジャケットの形が崩れる」…おしゃれな方だ。
フフフフ。
いよっ。
はい。
「アクチノバシラス」…。
ほらさっき言ってた歯周病の。
(古畑)フフフフフ。
(西園寺)それはいいって…!
(今泉)あっそっか。
ハサミ持って来て!持ってない。
借りて来て!はい!
(西園寺)早く!705E応答してください!705E!つながってんだよな?
(坂倉)はい。
あっ。
どこ行ってたんですか?今はどういう状況ですか?もうとっくに終点に着いてるはずなのに応答がないんです。
古畑さんは?身代金届けに公安の方と出て行きました。
まずい…。
(神保)705E応答してください!
(神保)705E!応答してください!そろそろ撤収する?ああ。
(日下)古畑さんは今回の事件どう思われます?んー巧妙に考え抜かれた計画だと思います。
(日下)んー同感ですね。
バカにしないで聞いてくださいね。
どうぞ。
ひょっとしたらですね今回の乗っ取りはフェイクだったんじゃないかとそんな気がするんですよねえ。
どういうことです?
(古畑)んーそもそも乗っ取り事件なんか存在しなかった。
コントロールルームにいた我々だけがそう信じ込んでいた。
どうしてそうお思いに?大体ですね我々はですね乗っ取られた電車を一度も見てませんよね?この目で。
見ていたのは運行盤のランプだけですよねえ。
んーそう考えるとですね犯人が運転手を絶対に電話に出さなかった理由も分かるんです。
端っから彼らは電車に乗ってなかったんですからね。
面白いな。
そして予告電話。
これも納得いきますね。
もし事件が起こったとき現場に犯人の仲間がいたほうが彼らにとって都合がよかった。
公安の人間としてね。
ただこの推理にはひとつだけ穴が…。
そう。
穴があります。
はい。
もし最初からいたあの公安の人が…。
浅香君ねえ。
はい。
犯人の一人だったとしたらんー実に困ったことになります。
なりますね。
彼の上司も必然的に犯人の一味ということになる。
(古畑)フフフフフ。
アハハハハハ。
(日下)フフフフ。
あ〜フフフ。
アハハハ。
フフフフフフ。
(神保)ちょっと待ってください。
(坂倉)だけどそんなことって。
(今泉)何の話?犯人たちはここのコンピューターを誤作動させていかにも電車が乗っ取られたように見せ掛けたんです。
そんなことが…できるのか?どこかこの近くから直接端末をつないでメーンコンピューターに侵入すればできないことは…。
ここの近辺に妨害用のコンピューターを設置できるような場所ありませんか?この周囲にそんな建物はない。
裏のお寺!それだ!そこがおそらく彼らの拠点です。
信じられん。
はあー。
ねえ。
どういうこと?とにかく古畑さんと連絡を取らないと。
携帯かかりませんよ。
えっ?なぜか携帯つながんないんですよ。
妨害されてるんだ。
ええっ!?電話お借りします。
ああ…。
これも傍受されてる恐れがある。
表でかけて来ます。
失礼。
妙だなぁ。
はい?いやあの車。
さっきからずっとあそこに止まってる。
(古畑)そうですか?ちょっと見て来ます。
(古畑)あっお気を付けて。
・なんだあいつか。
(メッセージ)「留守番電話サービスセンターに接続します」留守電サービスだ。
僕がかけてみましょう。
(呼び出し音)
(古畑)はい。
あっ古畑さん。
かかりました。
どうかした?
(西園寺)今どちらですか?んー野球場に向かってるところだよ。
(西園寺)公安の日下さんは?一緒だよ。
気を付けてください。
彼は公安なんかじゃない!事件の首謀者です!
(古畑)知ってるよ。
(西園寺)ご存じだったんですか!?わたしをだれだと思ってるんだ!?いいから早く君たちもこっちいらっしゃい。
先行って待ってるからね。
(山本)何してるんだ?せっかく逃げるタイミングを作ってやったのに。
先に戻っててくんないか。
何かあったのか?おれのことは気にすんな。
気にしてるのは鞄のほうだ。
とにかくここはいいから。
鞄は?それは心配ない。
えーさて今日のポイントはわたしはなぜ彼がニセの警察官だと見破ったのか?そしてどの段階で確信を持ったのか?古畑任三郎でした。
何でした?前の車は。
ただの路上駐車です。
中で若い男女がいちゃついてました。
フッフッフッフッ…。
(武藤田)お待たせしました。
出発しましょう。
どうもご苦労さまでした。
時間は?あと5分です。
急ごう。
ねえ。
何がどうなってんの?道々ゆっくり説明します。
しまった。
何?やつらに捕まったときポケットの中身全部持って行かれちゃったんです。
車の鍵ないの?
(西園寺)すいません。
市営野球場までお願いします。
あっ。
あなたは?
(花田)おう。
縁があるね。
(古畑)いやーすてきな球場ですねえ。
野球小僧だったころを思い出します。
(古畑)へえー。
あした朝6時少年野球が入ってんだ。
ふーん。
入り口は向こうだ。
鞄を。
早く!
(武藤田)あそこならどうだ?どこからでも見える。
素晴らしいです。
犯人は取りに来るだろうか?必ず来ます。
ねえ?ええ。
フッフッフッ…来るそうですよ。
あの鞄に金が入っているのを確認して電車の仲間に連絡。
そして人質の解放という手順でしょう。
あのー何されてるんですか?犯人たちに見られるかもしれない。
大丈夫だと思いますよ。
なぜ?「なぜ」って…。
どうぞ。
見られても平気なんですか?おそらく向こうも計算済みでしょう。
まだ来てませんねー。
遅れてるみたいですね。
(武藤田)ちょっと向こうの様子を見て来ます。
少し休まれたらいかがですか?乗客たちの命がかかってるんだ。
あのーお体に障りますよ。
薬を飲んでらっしゃったみたいですけど。
(古畑)おうおうおう。
エネルギッシュな方だ。
フッフッフッ…。
古畑さん。
はい?さっきの話ですが。
んーなんでしたっけ?あなたのおっしゃるとおりだとしましょう。
はい?この事件がすべて架空の話だとしたらです。
はい。
犯罪としてはかなり計算されたものだと思いますね。
そのとおりです。
しかもだれ一人傷つけずだれ一人殺さず人質すら取らずに目的を達成する。
実に見事なやり方だとは思いませんか?僕はこんなことを考えた犯人を尊敬するな。
「尊敬」?古畑さんはどう思われます?頭はいいと思いますけど尊敬はできませんねえ。
なぜです?
(古畑)あなた今「だれも傷つけず」とおっしゃった。
本当にそうでしょうか?この事件に被害者はいない。
(古畑)一日の売り上げを根こそぎ持って行かれた鉄道会社の皆さんどうなります?彼らは保険に入ってる。
損はしないはずだ。
なるほど。
じゃああの方はどうですか?もし何もなかったらばあと何年かで退職だったんです。
それが今回の事件の責任を取らされておそらく定年を前に職を追われます。
彼は立派な被害者です。
売り上げ金を担当していた出納係の方お会いになったことは?あるわけないでしょう。
もし彼が非常に打たれ弱い人物だったとしたら?そしてこの事件の責任を感じて自殺したとしたら?まさか。
「そんなことあり得ない」ってどうして言い切れるんですか?あなたそんなふうに考えたことなかったんじゃないですか?確かに。
わたしはね自分の犯した罪を罪と思わない人間…もっとも憎みます。
(武藤田)ハァハァどうしたんだろう?まるで動きがない。
どうして犯人は現れないんだ?
(古畑)どうぞ。
お掛けになったほうが。
ねっ?今に動き出しますよ。
犯人は策を練ってんですきっと。
以前は新幹線に乗っていらっしゃったんですか?30年間運転士をしてました。
一度も事故を起こさなかったのが誇りです。
乗客はわたしの命だ。
どんなことがあっても守ってみせる。
様子を見て来ます。
(古畑)実に職務熱心なお人だ。
(日下)ええ。
(古畑)完全に空回りしてる。
どうするおつもりですか?何が?もうすぐわたしの部下がここに到着します。
だから?「どうされるのかな」と思って。
どういう意味です?さあ。
この事件は意外に早く解決するかもしれませんねえ。
結構なことじゃないですか。
犯人の声がテープに残ってる。
声紋を調べれば一発ということもある。
「職務熱心」といえばこんな笑い話を聞いたことがある。
んー伺いましょう。
「道を歩いていると向こうから一人の男が頭に赤い洗面器を乗せて歩いて来た」この話ご存じですか?先を。
(日下)「洗面器には水が入っていて男はそれをこぼれないようにそーっと歩いて来る。
そこで聞いたんです。
失礼ですがどうして頭に洗面器を乗せているんですか?すると…」「すると」?「すると」なん…!?大丈夫ですか!?ううっ!!早く救急車を!病院に連れて行かないと!早く!ここを離れて平気なんですか?犯人たちは?何を言ってんだ!犯人なんか来ないことはあんただって知ってるだろ!早く救急車を!
(古畑)じゃあ待ってます。
部下たちが2、3分で来るそうです。
近くまで来ていたらしい。
いつから僕に目を?フフフフフフ。
えー…。
ボールペンのカチャカチャいう音。
(ボールペンのノック音)これが?フフフフ…。
そうです。
えー犯人の声を録音したテープにかすかにその音が。
そしてあなたも同じことをされた癖なんですね。
あなたが現れてから聞こえてくる犯人の声が別人になった。
もしですねあなたが犯人の一味だったとしたらどうやって走行中の電車から抜け出すことができたのか。
それで真相が分かりました。
あなたが公安の人間でないと確信したのは…これです。
僕が警察手帳を持ってなかったから?いいえ。
これを見て不審に思わなかったからです。
これは本物ではないんです。
フフフフ…。
えーSMAPの事件を扱ったときにえー刑事ドラマの現場にお邪魔したんですよ。
そのときに記念に小道具を頂いたんです。
実は本物なくしちゃってね。
それは小道具ですか?そうですよ。
えー本物こんな小さくないんですよ。
えー色もちょっと違うんです。
ここ見てください。
ちゃんと書いてあります。
はい。
「高津小道具店」と。
フフフフ…。
これはよいしょ!お預かりしておきます。
本当の目的は鞄だったんですね?ええ。
うーん。
落とし物の鞄を引っ張り出すには身代金が小銭のほうが都合がよかった。
見事な計画です。
それじゃ古畑さん。
はい。
どうして身代金の受け取り場所を1か所にしなかったか分かります?鞄が4つあったから?それもあるけど場所が1か所だと身代金を4つに分ける必要がなくなるじゃないですか。
そうか。
場所が4か所なら鞄は4個必要になる。
しかし鞄は3つ。
僕らにとっていちばん大事なのは?んー地下の鞄を持って来させること。
そう。
4つあったときは?最初から鞄が。
そのときは5か所にするつもりでした。
考えましたねー。
それから予告電話。
「予告電話」?予告電話は「浅香を公安として送り込むため」とおっしゃいましたが実はあともうひとつ重要な意味があったんです。
分かりますか?うーん…。
伺いましょう。
だって普通運行盤のランプが止まってもだれもハイジャックだとは思いませんよ。
それが前もって予告しておけばそれだけ信じやすくなる。
なるほど。
「すり込み」というやつです。
お見事。
フフフフ…。
ありがとうございます。
あの全部あなたがお考えに?僕はね古畑さん。
はい。
「SAZ」のメンバーですが動物愛護には何の興味もない。
僕は彼らに雇われているに過ぎないんです。
僕の興味は能率的かつ経済的なテロ活動を行うことです。
僕が入るまではずいぶん過激な活動はしていたようですが僕のやり方は違う。
いかに人に迷惑をかけずに紳士的にテロを行うか。
「迷惑をかけずに」?まだそんなことをおっしゃってんですか!?武藤田さんは心筋梗塞で倒れたんですよ!医者は「命には別状はない」と言っていた。
よろしいですか!?紳士的なテロなんてこの世にはないんです!あなたご自分に責任がないとお思いですか!?そんなはずありませんよ!だからこそあなた武藤田さんを助けに行った!急いで!走って!古畑さん。
これは僕にとってゲームなんです。
「ゲーム」?そう。
ゲーム。
ゲームにはルールがある。
あの男を救ったのは責任を感じたからじゃない。
人が死ぬのはルール違反だからです。
それだけのことです。
そしてゲームには勝たなくては意味がない。
あなたはゲームに勝ったとお思いですか?僕がこんなに余裕を持って話しているのを不思議には思わなかったんですか?このゲームはドローだ。
引き分けです。
僕らの目的は鞄を取り返すことでした。
そして目的は達せられた。
いいことを教えてあげましょう。
あなたは気付かなかったかもしれませんが実はこれ違う鞄なんですよ。
驚きました?キーホルダーを付け替えておいたんです。
あなたの目を盗んでね。
僕はあなたが僕を疑がっていることを知っていた。
だからあえて囮になったんです。
本当の鞄は今ごろ仲間がアジトに持って帰っています。
僕は負けちゃいない。
あの鞄にはどんな重要な意味があったんですか?鞄自体にはなんの意味もありません。
鞄の底に隠してあった手帳が問題だったんです。
「手帳」…。
死んだ牟田は僕らの秘密のアドレスを書いた手帳を公安に売り渡そうとしていました。
あれが公になったら僕らは終わりです。
ふーん。
どんな手帳ですか?「どんな」?はい。
「どんな」と言われても。
青い?ポケットサイズの?表紙にグループの名前の入った?
(古畑)わたしはねわたしがあなたを疑ってるのをあなたが気づいてることに気づいてました。
キーホルダーをすり替えたのもちゃんと知ってますよ。
だからこっそりと探ってみたんです。
鞄の中を。
すると隠しポケットがあって…これが見つかりました。
あなたの負けです。
わたしもねこのゲームにかけちゃプロなんです。
フフフフ…。
・
(今泉)古畑さーん!ん?会いたかった!なんだなんだなんだなんだ。
ご無事で何よりです。
ええ?ケガは?ケガなんかしてないよ。
テロリストたちと一緒で怖くなかったですか?いや紳士的なテロリストだっ…。
暑苦しいから離れなさい。
古畑さん!えっ?大丈夫ですか?
(おばさん)あは…あは…。
(浅香)もうあきらめようよ。
どうせあの手帳が向こうに渡ったからには打つ手はないんだ。
自首するの?だって逮捕されるの時間の問題だろ。
(山本)おれは逃げる。
(大和田)そうだよ。
あんた1人殺してるんだからさ。
逃げたほうがいいよ。
(江田)どこへ?
(山本)知るか。
(浅香)でもこれだけは聞いてほしいんだ。
たとえどんな逆境にあろうともこれだけは忘れないでほしい。
「もっと辛い目に遭っている動物たちがいる」ということを。
自首することはないんじゃない?とりあえずこれだけ小銭があるんだからさ。
電車で行ける所まで行こうよ。
すごい数。
10円玉には一生困らないよ。
だれかたばこ買って来てよ。
ダメだ。
なんだよ。
その金には触るな。
(山本)どういうことだ?金は返す。
ちょっと待ってよ。
おれたちは金が目的だったのか。
金が目当てだったのか。
(浅香)それは違う。
だったらこれは返すのが筋だ。
それはそうだけどこれ以上危険を冒す必要があるのか?みんなは逃げろ。
おれが返して来る。
(山本)捕まるぞ。
そんなヘマはしない。
お見えになると思ってました。
あなたならきっとそのお金を返しに来ると。
どうしてここだと?
(古畑)駅は警察が張り込んでる可能性がある。
小銭ですから道端に置いといたらだれが持って行くか分からない。
ここならばあしたの朝最初に発見するのは少年野球の子供たちです。
あなたにはかなわないな。
フッフッフ…。
(古畑)お願いします。
お金返していただいてありがとうございました。
ひとつお知らせがあります。
武藤田局長は2、3日で退院できるそうです。
何よりです。
何よりです。
古畑さん。
今度は負けないよ。
君。
(東国原)はい!君。
今名前なんていうの?東国原です。
ああそう。
あれ片付けといてくれる?はい!ふふん。
彼名前また戻ったんだね。
そうなんですよ。
ふ〜ん。
奥さんと別れて一度復縁してからまた別れたみたいです。
(古畑)ふ〜ん。
まっどうでもいいや。
あーあ。
君たちね先帰っていい。
古畑さんは?散歩してくる。
(今泉)僕もつきあいますよ。
行きますよ!来なくていい。
どちらへ?え?散歩だって。
変わった人だよ。
(西園寺)古畑さん!すぐに戻って来てくれますよね?
(麻生時男)僕と一緒に働いてほしいんだよ。
これはプロポーズだよ。
山手英介君。
2015/02/06(金) 14:57〜15:53
関西テレビ1
[終]古畑任三郎 #11[再][字]
「最も危険なゲーム・後編」
詳細情報
番組内容
仲間が電車内に置き忘れたボストンバッグを取り戻そうと、駅の電車運行表示システムを混乱させ、架空の電車ジャックを起こしたグループ「SAZ」。警視庁の公安部を装うリーダー日下(江口洋介)らは、まんまとそのバッグを取り戻すかに見えた。が、古畑任三郎(田村正和)は、ほんの小さな彼らの不審な動きを見逃さず、身代金受け渡し場所まで同行する。
番組内容2
なぜ、SAZメンバーはこうまで大掛かりな計画を組み立てたのか?古畑が巧妙に仕組まれた「犯罪ゲーム」の謎に挑む。
出演者
田村正和
江口洋介
西村雅彦
石井正則
小林隆
山崎一
斎藤洋介
水道橋博士
杉崎浩一
小原雅人
八嶋智人
佐々木功ほか
原作・脚本
【脚本】
三谷幸喜
監督・演出
【企画】
石原隆
【プロデューサー】
関口静夫
【演出】
河野圭太
音楽
本間勇輔
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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