2015/02/14
ぼくの住んでいる街の駅前広場には小さな時計台があって、それはもちろんポータルとして登録されている。
学校の行き帰りにスキャナー画面を起動して、ポータルレベル8の時計台がひときわ強い青い光を放ち、周囲のポータルと密接にリンクされ、まるで蜘蛛の巣のように複雑な幾何学模様を描き出していることを確認する。
スマートフォンの小さな画面を通して見える青い世界に、名状しがたい安堵をおぼえる。
*
実際の地図と位置情報を利用した世界規模の陣取りゲーム「Ingress<イングレス>」
青と緑の両陣営が、日本中……いや世界中いたるところに点在するポータルを巡って熾烈な領土争いを繰り広げている。
ぼくは、その青の陣営――通称「レジスタンス」――に属するエージェントだ。
世界を青で覆い尽くす。
それがぼくの使命だ。
誇り高きレジスタンスのエージェントたるぼくの使命。
自宅から駅、そして学校の周辺はぼくのテリトリーだ。
ぼくは日夜ポータルにレゾネーターを挿し、空きスロットにシールドやらタレットやらのMODsをインストールしたりと青い領土の強化と拡大に余念がない。
ポータルとポータルをリンクする。三つのポータルをリンクで結ぶとコントロールフィールドが完成し、囲まれたところが青く染まる。そうして領土を広げていく。
だが敵対する緑の陣営にもぼくと同じようなエージェントがいて、やはり同じようなことをする。Xmpバースターでレゾネーターを破壊し、ポータルを奪取する。奪取される。その繰り返しだ。果てしないシーソーゲーム。
ぼくは緑色が憎い。
ぼくの綺麗な青い世界を、目障りな緑色で侵食してくるあの連中が心から憎い。
緑の陣営は「エンライテンド(覚醒者)」と名乗り、新人類への進化だか革新だかを標榜しているうさんくさいやつらだ。
なにが新人類だ。
古来、新人類といえばリキラリアットを放って恐竜を倒す原始人と相場が決まっている。
そんな恥知らずなやつらにこの青い地球を明け渡しはしない。
ぼくら「青」は抵抗する。
MAKE-UPだって「永遠ブルー」という曲で歌っている。
ああ、心にしみるブルー。
永遠の輝き。
放課後の夕方、自宅から少し離れたところにある小さな児童公園(もちろんポータルだ)で、不審者さながらに錆の浮くブランコの前をうろうろしながら緑のレゾネーターを破壊し、ぼくはその歌を口ずさむ。
冬の公園で吐く息は白い霧のように口元から広がり、やがて溶けていく。そのつかの間の白さは、周囲のレゾネーターをすべて破壊して中立化したポータルの無垢な白さに似ている。
*
「おはよ、青野くん」
登校中、駅を出たところで後ろから声をかけられた。その控えめだが耳に心地いい声は聞き間違えようもない翠子(みどりこ)さんのものだ。
ぼくは浮き立つ気持ちをなるべく顔に出さぬよう抑えようとしつつも失敗していることを自覚しながら彼女に挨拶を返す。
「今日も寒いねえ」
にこにこ笑いながらいつものように天気の話をする翠子さんは、さながら小柄な太陽だ。派手でまぶしすぎるということはない、ちょうど良い小春日のような日差しの笑顔。
しばらく並んで歩いたあと、不意に翠子さんはまわりをきょろきょろと見回し、おもむろにぼくの手を握る。柔らかな感触につつまれたぼくの右手。それを通してぼくの心臓にものすごい量の血液が運ばれてくるのを感じる。ありていにいえばどきどきしている。
「あ、やっぱり青野くんの手はあったかいね。思ったとおり」
そういって、照れたように彼女は笑う。
思ったとおりってなに、と尋ねるぼくに彼女は言う。
「ほら、よくいうでしょ。心の冷たい人は手が……って、あ、うそうそ。冗談だよー」
空いているほうの手をぱたぱたと振り、また宝石のような笑みがこぼれる。
*
翠子さんはぼくのクラスメイトで、そしてぼくの彼女だ。
生まれて初めてできた、ぼくの彼女。
きっかけは半年前。
イングレスのために休日に街を巡るのが日課となっているぼくは、駅前の時計塔を起点にして移動することにしていた。
長らく青に染まり、高レベルポータルに囲まれたファームとなっている駅周辺をハックしてレゾネーターやバースターを補充し、まだ見ぬポータルを求めて訪れたことのない街に繰り出すのだ。
「あれ、青野くん」
ある夏の日、孤独なエージェント行為に勤しんでいたぼくを呼ぶ声がした。駅前の時計台のまわりは広場になっていて、天気のいい日は多くの人でにぎわっている。
通行のじゃまにならないように広場の隅でスマートフォンを操作していたぼくは、顔をあげて、そこにクラスメイトの緑山翠子が立っていることを確認した。
「偶然だねえ」
同じクラスであってもあまり話したことがないぼくに、翠子さんは屈託のない笑顔を向ける。ぼくはおそらくぎこちない表情で、なにか当たり障りのないことを話した、と思う。実のところ話の詳細はあんまり記憶にないけれども、たぶん一分もしゃべってはいなかったはずだ。
それから毎週の休日、その場所でぼくらは顔を合わせるようになった。
時計台の前での邂逅が、何回目まで偶然だったのかはわからない。
会うたびに少しずつ会話が多くなっていき、ちょっとしたはずみで一緒に映画を見ることになり、ご飯を食べることになった。
その帰りにぼくは思い余って告白した。
夕暮れ、示し合わせたように人通りが途絶えた時計台の前で。
もちろん生まれて初めての告白だ。
翠子さんにもはや抑えきれなくなった己の好意を告げ、正式な交際を申し込んだ。
ほんのちょっと前までは、自分がこんなにも誰かを好きになるなんて想像すらできなかったのに、本当にびっくりだ。夏の終わりの日に、みっともなく全身に汗をかき、目の前で恥ずかしげにうつむく翠子さんに向かってたどたどしく拙い言葉をつむいでいる。この状況が信じられない。
だが本当に信じがたかったのは、彼女がぼくの好意を受け入れてくれたことだ。
そのときに翠子さんが見せた笑顔を、ぼくは生涯忘れることはないだろう。なにがあっても忘れられない。
生命よりも大切な大事な宝物のように、ぼくは自分の心の奥にある引き出しに、それをそっとしまい込む。
*
それから翠子さんはぼくにとっての太陽になった。
太陽がなければぼくは生きてはいけない。
彼女がいるだけでこの世界はあざやかに彩られ、輝いて見えるのだ。
照れくさいから言えないけれど、ぼくは翠子さんに会うたびに感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。
ありがとう、と言いたくなる。
ありがとう、ぼくと出会ってくれて。ぼくの彼女になってくれて。
その思いは、彼女との交際のきっかけとなったイングレスにも向けられる。
イングレスがぼくと彼女を引きあわせてくれた。
だからぼくは彼女と付き合いながらも、よりいっそうレジスタンスとしての活動に力を入れていく。
ちなみにぼくがイングレスのプレイヤーであることは、翠子さんを含めて誰も知らない。世の中には同じ地域のエージェント同士が徒党を組んでプレイする風潮もあるようだが、ぼくはそれにすら反抗していた。根っからのレジスタンスと言える。
もともと人付き合いが得意でもないし、ソロでのエージェント活動が性に合っていた。
イングレスではソロだけれども、今やぼくの隣には翠子さんがいる。
翠子さんと一緒に世界を青く染める……そんな楽しげな夢想を抱くこともあったけれど、ぼくはなぜかイングレスのことを彼女に語ることはしなかった。
この、はたから見れば無益きわまりない仮想現実での争いに彼女を巻き込みたくない。そんなお為ごかした理由を無理にこじつけて、ぼくは翠子さんに知られないよう慎重に、しかしより深くイングレスの世界に埋没していく。
毎日毎日、潰しても潰しても湧いてくる緑色のポータルを奪い、青く塗り替えていく。
誰にも冒されることのない完全なる青を夢見て。
そこに、永遠につづくであろうぼくと翠子さんの素晴らしい未来を重ねる。
それが文字通りの幻想に過ぎなかったことをぼくが知るのは、夏が終わり、秋と冬がつづけて訪れ、やがて年が明けて一月も半ばに至ったころ。
緑山翠子がイングレスのプレイヤー、しかも緑……エンライテンド側のエージェントであることを知ったあの日から、バラ色ならぬ青色だったぼくの人生は一変する。
*
その日の朝。
駅前周辺のポータルが軒並み緑色に染められていて、ぼくは舌打ちしたい気持ちになった。
前日まで青のファームだったはずが、すっかり緑のレベル8ポータルとフィールドに埋め尽くされている。エンライテンド側でなにか組織的な動きがあったのだろう。各ポータルには軒並みレアシールドが装備されており、とても登校前のわずかな時間でどうにかできる状態ではなかった。
あの時計台も緑色に染まっている。すぐにでも周囲のポータルごと取り返したかったが、手持ちのバースターやレゾネーターの数が心もとなく、しばらくはアイテム稼ぎに徹するしかない……そんなことを考えていると「青野くーん」と翠子さんが駆け寄ってくるのが見えた。
冬休み明けの登校初日だった。
同じ街に住むぼくたちは、付き合いはじめてからは駅で待ち合わせて学校へ行くようになっていた。ちなみに彼女といるときにあまり頻繁にスマートフォンをいじるわけにもいかないので、待ち合わせの時間よりも三十分は早く家を出て近所のポータルを巡り、ハックがてら弱ったレゾネーターの保守を行うのが日課となっている。
それにしても今日のエンライテンドの活動ぶりは、とてもソロ活動で「草刈り」できるような規模のものじゃない……そんな暗澹たる思いが顔に出ていたのか「どうしたの」と翠子さんに心配されてしまった。
あわててなんでもないよとごまかし、いつものように他愛のない……それでいてかけがえのない彼女との時間を過ごすことに専念する。
「あ、ごめん。ちょっとまってね」
駅に向かって歩こうとした足を止め、彼女は鞄から携帯電話を取り出した。スマートフォン。今どきの女の子にしては珍しい、少し無骨なアンドロイド端末だ。
後々になってからぼくは後悔した。
なぜ、あのとき、なにげなく彼女の手元を覗きこんでしまったのだろう。彼女がスマートフォンで操作している画面が、ぼくにとって馴染み深いスキャナー画面……イングレスの画面だと……気づいてしまったのだろう。
「あ、これね。なんていうか、陣取りゲームのアプリ。最近ちょっとハマってるんだ」
へえ、そうなんだ……と相槌を打つ。その声が震えていないことを祈りながら。
ぼくは必死に自分に言い聞かせている。
まだだ。まだ可能性はある。
彼女はイングレスのプレイヤーだった。
エージェントだった。
……でも、まだ決まったわけじゃない。
まだ……。
まだ彼女が「緑」の……ぼくと敵対するエンライテンドのエージェントだと……決まったわけでは……。
「けっこうおもしろいんだよー。昨日の夜ね、他の人たちと協力して駅前をぜんぶ占領したんだよ」
嬉々として翠子さんは語る。ぼくはそれを耳にした瞬間、視界がぐにゃりと歪んだような錯覚にとらわれる。どうにも例えようのない気分。あえて例えるのならば、超至近距離からレベル8のウルトラストライクをぶち込まれたレベル1のレゾネーターになった気分だった。
「あっ、そうだ。青野くんもいっしょにやろうよ。楽しいよ!」
この世にこれほど残酷な言葉が存在することを、ぼくは知らなかった。
ぼくは激しく打ちのめされながらも平静を装って、なんか難しそうだし、とりあえず今度インストールだけしておくよ、などと虚ろな言葉を連ねる。
「ぜったいおもしろいよ。レベルが上がるまでがちょっとたいへんだけど……ちょっとがんばればすぐだよ」
かろうじて話を合わせて、へえ、翠子さんのレベルはいくつぐらいなの、とぼくは尋ねる。
「んーとね、この前やっと14になったところ」
ぼくは驚愕の声が喉からほとばしるところをすんでのところで飲み込んだ。世間一般的なゲームにおけるレベル14と、イングレスにおけるレベル14はその重みがまったく異なる。
ぼくのエージェントレベルは12。昼夜時間を惜しまず、普段の生活の大部分をイングレスに割いていてもなおレベル12なのである。
そんなぼくのおおよそ倍以上……APと呼ばれる経験値を1400万ポイントも稼ぎ、さらに途方もない数のエージェント活動をこなして得られるプラチナメダルを2つ取得してようやく到達できるのが、レベル14という位階なのだ。
そのすごみは、同じエージェントにしかわからない。
ゆえにぼくは、その驚嘆を必死に噛み殺す。
「やってみたくなったら言ってね。いろいろ教えてあげる」
駅のホームで学校へと向かう電車を待ちながら。そう言って翠子さんは、また冬の木漏れ日のような暖かさでぼくに笑いかける。
そうだね、とあいまいに頷きながら、ぼくは彼女から目をそらす。
ちょっとハマってる……などと彼女は言ったが、そんな生やさしい形容でレベル14到達はありえない。
突然、目の前の少女が……大好きなはずの女の子が、得体の知れない何者かになってしまったような気がして、ぼくはめまいをおぼえる。心なしか吐き気すらする。
「青野くん、少し顔色悪いけどだいじょうぶ? もしかして風邪?」
彼女の眉が心配そうにひそめられる。
だいじょうぶだよ、とぼくは身体中の力を振り絞って笑みを返す。
ぜんぜん大丈夫。
なにも問題はない。ないはずだ。
それからぼくは、メールをチェックするふりをしてスキャナーを起動し、駅前の時計台のポータル情報を開く。
その緑色のポータルのオーナーは「midorikko0214」と表示されている。
この地域一帯で活動するエンライテンドのエージェントとして、今までにたびたび目にしたことのあるアカウントだった。 ぼくがキャプチャーしていたポータルを奪われたり、あるいは逆にこちらが奪ってやったことも一度や二度ではない。
midorikkko……みどりっこ……翠子。
そしてぼくは、0214……二月十四日が彼女の誕生日であることを知っていた。
世界がひび割れ、崩れていく。
どこを探しても青く美しい地平は見つからず、青と緑が混沌として入り混じり、絡み合い、ねじれて歪んでいた。それは醜くもあり、同時に美しくもあった。
なぜならそのまだら模様の中心には、翠子さんがいるからだ。
いまや翠子さんがぼくという存在の大半を占めてしまっているからだ。
ぼくは翠子さんに出会い、どうしようもなく惹かれてしまった。
どうしようもなく惹かれ、彼女のことをなにより大事に思いながらも、それでもぼくはレジスタンスのエージェントだった。
緑の陣営であるエンライテンドに反抗する、孤高の青きエージェント。
エンライテンドとは、決して互いに相容れることはない。
*
それからぼくは懊悩した。
ただひたすらに葛藤し、苦悶した。
ふらつく頭で授業を受け、下校し、彼女と別れて家に帰ってから、布団に潜り込んでうなりつづける。
どうして、どうしてこうなった。
なぜ彼女がエンライテンドなんだ。
なぜ。
どうして。
いや、逆か。
レベル14の翠子さんは、ぼくよりもずっと前からイングレスをプレイしていた可能性が高い。だとすれば、わざわざ彼女の反対の陣営を選んだのはぼくだ。ぼくの責任。ぼくの間違いだったのだ。
ならば、間違いを正すべきなのか。
たしかイングレスは、一度だけ陣営を変えることができたはずだ。ただし、それを行うと今まで得た経験は全てリセットされる。
そうすべきなのだろうか。
いや、いっそイングレスをやめるべきか。
エージェントとしての一切合財を捨てて、忘れて、翠子さんとこれまでどおりに付き合っていく……。
あるいはレジスタンスからエンライテンドへと鞍替えして、翠子さんと愉快なイングレスライフを送る……。
それは甘美な想像だった。
一つだけのポータルを二人で仲良く分け合い、交互にレゾネーターを設置する。そうして仲を深めたぼくたちは、やがて性的なレゾネーターを挿したり挿されたりするのだ。
えっ、挿されちゃうのか。
いいのか、それ。
さすがにそれはまずくないか……いや、いやいや……まあ、それはその、ね。
なんせ今どきの若者だから、ぼくたちは。うん。冒険してもいい頃だから。
もはやとめどない妄想の沼に、ぼくはどっぷりと浸かる。
そうしてぼくは、とうとう決断――
……決断は、できなかった。
できない。
ぼくはイングレスをやめることができないし、陣営を変えて今までの経験を捨てることもできない。
もはやイングレスにおける経験はぼくの人生と言っても過言ではなかった。
暑い日も寒い日も。晴れの日も雨の日も。
足しげくいろんな土地に行き、手当たり次第ポータルを巡った。まるで自分の身体の一部のごとく占領したポータルに心を砕き、争奪を繰り返してきた。英単語などよりもよほど必死にグリフを憶えた。ソロプレイを貫いてはいたが、ときおり無言でぼくのポータルを強化してくれる他の青エージェントとの間に緩やかな連帯感を感じることも多かった。
それらをすべてなかったことにすることは、絶対にできなかった。
そもそもイングレスを否定することは、翠子さんとその交際を否定することにもつながるような気がした。
翠子さんとイングレスに捧げてきた感謝の念が、緑色のコントロールフィールドに覆われていく。
広大で優しげな緑色の空間のただなかにおいて、痛々しいまでにぼくだけが青色だった。
ちっぽけな水たまりのように弱々しい青をたたえていた。
*
「今日も寒いね」
学校からの帰り道。
はあ、と吐息を手にかけながら翠子さんはいつもの言葉を口にした。
寝不足のぼくは、霞のかかったような視界に翠子さんの明るい表情をおさめながら、努めて明るく応じる。意識して楽しげな週末の予定を語る。
そう言えば今週末の二月十四日は、翠子さんの誕生日じゃないか……。
「わ、おぼえててくれたんだ……うれしいな」
少し照れた口調で、かけがえのない笑顔を浮かべる翠子さん。彼女を失うことなど、考えることはできなかった。
上機嫌になると翠子さんは歩きながら歌をハミングする。ぼくが愛してやまない、彼女の可愛らしい癖だ。耳をすませて聴くと、それは誰もが小学校で歌ったことのある童謡だった。
今まで彼女の口ずさむ歌がなにかなんて、気にしたこともなかったのに。
なぜぼくは、こんなことにばかり気が付いてしまうんだろう。
それは「グリーングリーン」だった。
ぼくは思わず笑ってしまう。そしてなぜか涙があふれ出そうになっていることに気づき、そっと目尻を指でぬぐった。ぼくのすぐ横にいる彼女に気が付かれないように。
ねえ翠子さん、誕生日になにか欲しいものはあるかい。
ぼくの問いに、彼女はきょとんと首をかしげる。
「えー、そんなのいいよ。ていうか逆に私が青野くんにバレンタインのチョコレートをあげるつもりだし……あ、しまった、これ秘密だったのに!」
ぼくの太陽。
このぬくもりを失いたくない。
「あ……でもね、誕生日だからってわけじゃなくて、十四日はすっごく楽しみなんだ」
どうして。
「ええとね、イングレス……あ、このまえ言ってた陣取りゲームなんだけどね。十四日まで駅前時計台ポータルを守りきればガーディアンのゴールドメダルが……ってごめん、そんなこと言ってもわかんないよね」
もちろんエージェントであるぼくは知っている。
ガーディアンメダル。自分がオーナーとなっているポータルを一定期間、敵陣営に奪取されずにいることで入手できる実績メダル。日々めまぐるしく両陣営でポータルを奪い合うイングレスの世界において、手にするのが非常に困難なメダルの一つだ。
その絶大な価値をぼくは知っている。
彼女の誕生日にふさわしい、それは素晴らしいプレゼントになることだろう。
*
それから幾度かの昼と夜が繰り返されて、金曜日になった。二月十三日。
そして明日は二月十四日。
翠子さんの誕生日であり、恋人たちにとっては一大イベントであるバレンタインデーであり、駅前にある時計台ポータルのオーナーmidorikko0214が二十日の保持期間を経てガーディアンのゴールドメダルを手に入れる日だ。
十四日は、お昼すぎに駅前の広場で待ち合わせて一緒に郊外の遊園地へ遊びに行くことになっている。
放課後。駅前で明日の約束を交わして、ぼくらは別れる。
歩み去ろうとする彼女の細い背中に、ぼくは翠子さん、と呼びかける。
「ん、なあに」
振り返る彼女の顔を見て、思わず言葉に詰まる。もとよりなにか用があって声をかけたわけではない。もごもごと口元を動かした末に出てきたのは、ぼくの素直な気持ちだった。恥ずかしくて普段ならけっして口にできない想い。
ぼくは、翠子さんのことが好きだ。
しばしの間のあと、翠子さんはみるみる頬を赤く染める。
「な……なにいってるの、いきなり……」
困らせてしまったらしい。
ぼくは、ごめん、と思わず謝る。
そうして頭を下げると、不意にもっと彼女に謝罪しなければならないことがあるような気がして、ぼくは軽いパニックに襲われそうになる。動悸が早くなり、喉がからからに乾いていく。
ぼくは……ぼくは……。
そのとき、とても小さな、けれどたしかな口調で翠子さんの言葉がぼくの耳に届く。
「私も、青野くんのことが好き」
ぼくは、えっ、と小さく驚きの声を漏らし、彼女の顔をまじまじと見つめる。いちおう彼氏彼女の関係であるわけだから、普通に考えれば彼女の気持ちはなんら不思議なことではないはずなのだけれど……ぼくは今の今までそのことにまったく考えが至らなかった。
つい、どうして、と尋ねてしまう。
どうして翠子さんは、こんなぼくのことなんかを……。
「どうしてって……そんなの私にもわからないよ。だって青野くんは……青野くんだもん」
ぼくは……ぼく……。
呆けたように立ち尽くすぼくの前で、彼女は恥ずかしくなったのか次第にうつむき、目線を左右に泳がせる。
「じゃ、じゃあ、また明日ねっ。バイバイ、青野くん」
翠子さんは手を振り、早足に去っていく。
ぼくはその場を動けずにいる。
彼女から告げられた言葉がぼくの脳裏を駆けめぐっている。
それらはやがて一つの考えに結実する。
*
気が付けば、翠子さんと別れてから数時間が経過している。
ぼくはずっと駅前広場の時計台の前でカカシのように突っ立っている。
終電が過ぎてしまったのだろう、あたりにはほとんど人通りがなくなっている。
冬の夜の冷気は、容赦なくぼくの身体から一切のぬくもりを奪い去ってしまっている。
けれどもぼくの中……ぼくの中心に、ちっぽけなともしびにも似た熱が残っていた。
大草原に浮かぶ水たまりに過ぎないけれど、それはたしかに青い光を放つ熱だ。
その熱にしたがい、ぼくは冷えきった手でスマートフォンを取り出す。
イングレスを起動。
ややあって、ほぼ完全に緑色に染まった駅前周辺のマップがスキャナーに表示される。
そして次の操作をしようとするぼくの脳裏に、疑念が響く。
――本当にこれでいいのか?
いいんだ。
ぼくは内なる声にそう答えながら、タッチパネルを長押しする。
――彼女はこんなことを望むと思うか?
わからない。でも、いいんだ。
ぼくはパネルの上に添えた指を静かに滑らせ、メニューから「FIRE XMP」を選択する。
――後悔はしないか?
後悔なら、もうずっとしている。
それは今までも、そしてこれからも変わらない。
だからぼくは……。
ぼくはレベル8のウルトラストライクを選択し、それを撃ち放つ。
眼前には時計台。
翠子さんが大事に守ってきたポータル。
その防御力を引き上げている強固なシールドを剥がすために、ぼくはゼロ距離から超破壊兵器を使用する。
たてつづけに、何度も何度も。
とっくに感覚が失せている指先で「FIRE」ボタンをタップする。
ダメージにボーナスの付く長押しのタイミングは身体に染み付いている。そう、これまでのレジスタンスの……青のエージェントとしての活動と経験は、すでにぼく自身の一部になり、分かちがたいものになっているのだ。
つかの間、真っ赤に染まり、その身を包んでいた防護膜を破られた時計台ポータルを見つめながら、ぼくは口ずさむ。
彼女の歌。
彼女に捧げる歌だ。
あるいはこれから失われるガーディアンメダルを悼む歌。
誰もいない広場で、どこか悲しい旋律にぼくは言葉を乗せる。
ある日パパと二人で 語り合ったさ
この世に生きるよろこび
シールドを失った時計台ポータルにレベル8のXmpバースターを撃ち込む。
ぼくの位置座標を中心に、放射状に破壊の円環が広がり、レゾネーターの耐久値を激しく削っていく。
そして 悲しみのことを
やがて八つあるうちの一つめのレゾネーターが、ガラスの割れるような音とともに砕け散る。
グリーングリーン
青空には ことりがうたい
つづけて二つめと三つめのレゾネーターが消滅。
グリーングリーン
丘の上には ララ 緑がもえる
緑色のポータルが、ぼくの攻撃で燃え、炎上している。
周囲のポータルから返ってくるダメージをパワーキューブで絶え間なく回復しながら、ぼくは執拗にバースターを使いつづける。
それは叫びだった。
ぼくがぼくであることを痛切に訴える、それはあがきにも似た、滑稽でいびつなメッセージだった。
どうしようもなくレジスタンスであるぼく。
ずっと青の陣営で戦ってきたぼくを、ただ単にぼくだという理由で好きになってくれた人がいる。
それを、ぼくは愚直に信じる。
ぼくはぼくでいていいのだと。
逆に、ぼくはこれからもぼくでいなければならないと。
エンライテンドのポータルは、すべて焼き払わなければならない。
この世界を青く。
永遠に輝く青へ。
それが馬鹿げた幻想に過ぎないのだとしても、それでもぼくは……ぼくはレジスタンスのエージェントだから。
ある朝 ぼくはめざめて
そして知ったさ
すべてのレゾネーターが破壊され、時計台ポータルは緑色から無垢な純白へと色を変える。
ぼくはそのうつろな空白に、自分のレゾネーターを挿し込んでいく。
この世につらい悲しいことが
あるってことを
「……青野、くん……?」
背中越しに、その声は聞こえた。
たった数時間ぶりだというのに、それはとても懐かしい響きをもって冬の冷たい空気を震わせ、ぼくの耳朶を打った。
自分のポータルが攻撃を受けた際に発せられるアラートメッセージを読んで駆けつけたのだろう。
翠子さん。
ぼくが生まれて初めて好きになった女の子。
どうしてぼくはこんなにも彼女を好きなのだろう。
それは考えるまでもないことだった。
翠子さんは翠子さんだから。
ぼくと同じイングレスをプレイし、でもぼくとは決定的に対立するエンライテンド側のエージェントで、しかもレベル14の翠子さん。
そんな翠子さんを、ぼくはそのまま好きでいることに決めた。
ぼくはぼくのままで、ずっと彼女を好きでいつづけることを選択した。
すぐうしろで、彼女が少し荒く息をつくのが感じられた。
まるで世界に取り残されたように、広場にはぼくら二人以外、誰もいない。
沈黙を破ったのは、翠子さんの問いかけだ。
これまでぼくたちを覆っていた世界の終焉を告げる、それは最後の問いだ。
「……偶然、だねえ」
手の中のスキャナー画面で、ぽつんと青いポータルが一つ、新たに発生したことを確認してから。
凍りついた時間の檻をねじ切るように、ぼくはゆっくりと振り返る。
残念ながら、ぼくがここにいることは偶然ではないことを。
レジスタンスはエンライテンドと未来永劫、戦いつづけることを。
緑が広がる丘の上で、それでもぼくは果てない青を夢見て、求めつづけることを、大好きな子に告げるために。
学校の行き帰りにスキャナー画面を起動して、ポータルレベル8の時計台がひときわ強い青い光を放ち、周囲のポータルと密接にリンクされ、まるで蜘蛛の巣のように複雑な幾何学模様を描き出していることを確認する。
スマートフォンの小さな画面を通して見える青い世界に、名状しがたい安堵をおぼえる。
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実際の地図と位置情報を利用した世界規模の陣取りゲーム「Ingress<イングレス>」
青と緑の両陣営が、日本中……いや世界中いたるところに点在するポータルを巡って熾烈な領土争いを繰り広げている。
ぼくは、その青の陣営――通称「レジスタンス」――に属するエージェントだ。
世界を青で覆い尽くす。
それがぼくの使命だ。
誇り高きレジスタンスのエージェントたるぼくの使命。
自宅から駅、そして学校の周辺はぼくのテリトリーだ。
ぼくは日夜ポータルにレゾネーターを挿し、空きスロットにシールドやらタレットやらのMODsをインストールしたりと青い領土の強化と拡大に余念がない。
ポータルとポータルをリンクする。三つのポータルをリンクで結ぶとコントロールフィールドが完成し、囲まれたところが青く染まる。そうして領土を広げていく。
だが敵対する緑の陣営にもぼくと同じようなエージェントがいて、やはり同じようなことをする。Xmpバースターでレゾネーターを破壊し、ポータルを奪取する。奪取される。その繰り返しだ。果てしないシーソーゲーム。
ぼくは緑色が憎い。
ぼくの綺麗な青い世界を、目障りな緑色で侵食してくるあの連中が心から憎い。
緑の陣営は「エンライテンド(覚醒者)」と名乗り、新人類への進化だか革新だかを標榜しているうさんくさいやつらだ。
なにが新人類だ。
古来、新人類といえばリキラリアットを放って恐竜を倒す原始人と相場が決まっている。
そんな恥知らずなやつらにこの青い地球を明け渡しはしない。
ぼくら「青」は抵抗する。
MAKE-UPだって「永遠ブルー」という曲で歌っている。
ああ、心にしみるブルー。
永遠の輝き。
放課後の夕方、自宅から少し離れたところにある小さな児童公園(もちろんポータルだ)で、不審者さながらに錆の浮くブランコの前をうろうろしながら緑のレゾネーターを破壊し、ぼくはその歌を口ずさむ。
冬の公園で吐く息は白い霧のように口元から広がり、やがて溶けていく。そのつかの間の白さは、周囲のレゾネーターをすべて破壊して中立化したポータルの無垢な白さに似ている。
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「おはよ、青野くん」
登校中、駅を出たところで後ろから声をかけられた。その控えめだが耳に心地いい声は聞き間違えようもない翠子(みどりこ)さんのものだ。
ぼくは浮き立つ気持ちをなるべく顔に出さぬよう抑えようとしつつも失敗していることを自覚しながら彼女に挨拶を返す。
「今日も寒いねえ」
にこにこ笑いながらいつものように天気の話をする翠子さんは、さながら小柄な太陽だ。派手でまぶしすぎるということはない、ちょうど良い小春日のような日差しの笑顔。
しばらく並んで歩いたあと、不意に翠子さんはまわりをきょろきょろと見回し、おもむろにぼくの手を握る。柔らかな感触につつまれたぼくの右手。それを通してぼくの心臓にものすごい量の血液が運ばれてくるのを感じる。ありていにいえばどきどきしている。
「あ、やっぱり青野くんの手はあったかいね。思ったとおり」
そういって、照れたように彼女は笑う。
思ったとおりってなに、と尋ねるぼくに彼女は言う。
「ほら、よくいうでしょ。心の冷たい人は手が……って、あ、うそうそ。冗談だよー」
空いているほうの手をぱたぱたと振り、また宝石のような笑みがこぼれる。
*
翠子さんはぼくのクラスメイトで、そしてぼくの彼女だ。
生まれて初めてできた、ぼくの彼女。
きっかけは半年前。
イングレスのために休日に街を巡るのが日課となっているぼくは、駅前の時計塔を起点にして移動することにしていた。
長らく青に染まり、高レベルポータルに囲まれたファームとなっている駅周辺をハックしてレゾネーターやバースターを補充し、まだ見ぬポータルを求めて訪れたことのない街に繰り出すのだ。
「あれ、青野くん」
ある夏の日、孤独なエージェント行為に勤しんでいたぼくを呼ぶ声がした。駅前の時計台のまわりは広場になっていて、天気のいい日は多くの人でにぎわっている。
通行のじゃまにならないように広場の隅でスマートフォンを操作していたぼくは、顔をあげて、そこにクラスメイトの緑山翠子が立っていることを確認した。
「偶然だねえ」
同じクラスであってもあまり話したことがないぼくに、翠子さんは屈託のない笑顔を向ける。ぼくはおそらくぎこちない表情で、なにか当たり障りのないことを話した、と思う。実のところ話の詳細はあんまり記憶にないけれども、たぶん一分もしゃべってはいなかったはずだ。
それから毎週の休日、その場所でぼくらは顔を合わせるようになった。
時計台の前での邂逅が、何回目まで偶然だったのかはわからない。
会うたびに少しずつ会話が多くなっていき、ちょっとしたはずみで一緒に映画を見ることになり、ご飯を食べることになった。
その帰りにぼくは思い余って告白した。
夕暮れ、示し合わせたように人通りが途絶えた時計台の前で。
もちろん生まれて初めての告白だ。
翠子さんにもはや抑えきれなくなった己の好意を告げ、正式な交際を申し込んだ。
ほんのちょっと前までは、自分がこんなにも誰かを好きになるなんて想像すらできなかったのに、本当にびっくりだ。夏の終わりの日に、みっともなく全身に汗をかき、目の前で恥ずかしげにうつむく翠子さんに向かってたどたどしく拙い言葉をつむいでいる。この状況が信じられない。
だが本当に信じがたかったのは、彼女がぼくの好意を受け入れてくれたことだ。
そのときに翠子さんが見せた笑顔を、ぼくは生涯忘れることはないだろう。なにがあっても忘れられない。
生命よりも大切な大事な宝物のように、ぼくは自分の心の奥にある引き出しに、それをそっとしまい込む。
*
それから翠子さんはぼくにとっての太陽になった。
太陽がなければぼくは生きてはいけない。
彼女がいるだけでこの世界はあざやかに彩られ、輝いて見えるのだ。
照れくさいから言えないけれど、ぼくは翠子さんに会うたびに感謝の気持ちで胸がいっぱいになる。
ありがとう、と言いたくなる。
ありがとう、ぼくと出会ってくれて。ぼくの彼女になってくれて。
その思いは、彼女との交際のきっかけとなったイングレスにも向けられる。
イングレスがぼくと彼女を引きあわせてくれた。
だからぼくは彼女と付き合いながらも、よりいっそうレジスタンスとしての活動に力を入れていく。
ちなみにぼくがイングレスのプレイヤーであることは、翠子さんを含めて誰も知らない。世の中には同じ地域のエージェント同士が徒党を組んでプレイする風潮もあるようだが、ぼくはそれにすら反抗していた。根っからのレジスタンスと言える。
もともと人付き合いが得意でもないし、ソロでのエージェント活動が性に合っていた。
イングレスではソロだけれども、今やぼくの隣には翠子さんがいる。
翠子さんと一緒に世界を青く染める……そんな楽しげな夢想を抱くこともあったけれど、ぼくはなぜかイングレスのことを彼女に語ることはしなかった。
この、はたから見れば無益きわまりない仮想現実での争いに彼女を巻き込みたくない。そんなお為ごかした理由を無理にこじつけて、ぼくは翠子さんに知られないよう慎重に、しかしより深くイングレスの世界に埋没していく。
毎日毎日、潰しても潰しても湧いてくる緑色のポータルを奪い、青く塗り替えていく。
誰にも冒されることのない完全なる青を夢見て。
そこに、永遠につづくであろうぼくと翠子さんの素晴らしい未来を重ねる。
それが文字通りの幻想に過ぎなかったことをぼくが知るのは、夏が終わり、秋と冬がつづけて訪れ、やがて年が明けて一月も半ばに至ったころ。
緑山翠子がイングレスのプレイヤー、しかも緑……エンライテンド側のエージェントであることを知ったあの日から、バラ色ならぬ青色だったぼくの人生は一変する。
*
その日の朝。
駅前周辺のポータルが軒並み緑色に染められていて、ぼくは舌打ちしたい気持ちになった。
前日まで青のファームだったはずが、すっかり緑のレベル8ポータルとフィールドに埋め尽くされている。エンライテンド側でなにか組織的な動きがあったのだろう。各ポータルには軒並みレアシールドが装備されており、とても登校前のわずかな時間でどうにかできる状態ではなかった。
あの時計台も緑色に染まっている。すぐにでも周囲のポータルごと取り返したかったが、手持ちのバースターやレゾネーターの数が心もとなく、しばらくはアイテム稼ぎに徹するしかない……そんなことを考えていると「青野くーん」と翠子さんが駆け寄ってくるのが見えた。
冬休み明けの登校初日だった。
同じ街に住むぼくたちは、付き合いはじめてからは駅で待ち合わせて学校へ行くようになっていた。ちなみに彼女といるときにあまり頻繁にスマートフォンをいじるわけにもいかないので、待ち合わせの時間よりも三十分は早く家を出て近所のポータルを巡り、ハックがてら弱ったレゾネーターの保守を行うのが日課となっている。
それにしても今日のエンライテンドの活動ぶりは、とてもソロ活動で「草刈り」できるような規模のものじゃない……そんな暗澹たる思いが顔に出ていたのか「どうしたの」と翠子さんに心配されてしまった。
あわててなんでもないよとごまかし、いつものように他愛のない……それでいてかけがえのない彼女との時間を過ごすことに専念する。
「あ、ごめん。ちょっとまってね」
駅に向かって歩こうとした足を止め、彼女は鞄から携帯電話を取り出した。スマートフォン。今どきの女の子にしては珍しい、少し無骨なアンドロイド端末だ。
後々になってからぼくは後悔した。
なぜ、あのとき、なにげなく彼女の手元を覗きこんでしまったのだろう。彼女がスマートフォンで操作している画面が、ぼくにとって馴染み深いスキャナー画面……イングレスの画面だと……気づいてしまったのだろう。
「あ、これね。なんていうか、陣取りゲームのアプリ。最近ちょっとハマってるんだ」
へえ、そうなんだ……と相槌を打つ。その声が震えていないことを祈りながら。
ぼくは必死に自分に言い聞かせている。
まだだ。まだ可能性はある。
彼女はイングレスのプレイヤーだった。
エージェントだった。
……でも、まだ決まったわけじゃない。
まだ……。
まだ彼女が「緑」の……ぼくと敵対するエンライテンドのエージェントだと……決まったわけでは……。
「けっこうおもしろいんだよー。昨日の夜ね、他の人たちと協力して駅前をぜんぶ占領したんだよ」
嬉々として翠子さんは語る。ぼくはそれを耳にした瞬間、視界がぐにゃりと歪んだような錯覚にとらわれる。どうにも例えようのない気分。あえて例えるのならば、超至近距離からレベル8のウルトラストライクをぶち込まれたレベル1のレゾネーターになった気分だった。
「あっ、そうだ。青野くんもいっしょにやろうよ。楽しいよ!」
この世にこれほど残酷な言葉が存在することを、ぼくは知らなかった。
ぼくは激しく打ちのめされながらも平静を装って、なんか難しそうだし、とりあえず今度インストールだけしておくよ、などと虚ろな言葉を連ねる。
「ぜったいおもしろいよ。レベルが上がるまでがちょっとたいへんだけど……ちょっとがんばればすぐだよ」
かろうじて話を合わせて、へえ、翠子さんのレベルはいくつぐらいなの、とぼくは尋ねる。
「んーとね、この前やっと14になったところ」
ぼくは驚愕の声が喉からほとばしるところをすんでのところで飲み込んだ。世間一般的なゲームにおけるレベル14と、イングレスにおけるレベル14はその重みがまったく異なる。
ぼくのエージェントレベルは12。昼夜時間を惜しまず、普段の生活の大部分をイングレスに割いていてもなおレベル12なのである。
そんなぼくのおおよそ倍以上……APと呼ばれる経験値を1400万ポイントも稼ぎ、さらに途方もない数のエージェント活動をこなして得られるプラチナメダルを2つ取得してようやく到達できるのが、レベル14という位階なのだ。
そのすごみは、同じエージェントにしかわからない。
ゆえにぼくは、その驚嘆を必死に噛み殺す。
「やってみたくなったら言ってね。いろいろ教えてあげる」
駅のホームで学校へと向かう電車を待ちながら。そう言って翠子さんは、また冬の木漏れ日のような暖かさでぼくに笑いかける。
そうだね、とあいまいに頷きながら、ぼくは彼女から目をそらす。
ちょっとハマってる……などと彼女は言ったが、そんな生やさしい形容でレベル14到達はありえない。
突然、目の前の少女が……大好きなはずの女の子が、得体の知れない何者かになってしまったような気がして、ぼくはめまいをおぼえる。心なしか吐き気すらする。
「青野くん、少し顔色悪いけどだいじょうぶ? もしかして風邪?」
彼女の眉が心配そうにひそめられる。
だいじょうぶだよ、とぼくは身体中の力を振り絞って笑みを返す。
ぜんぜん大丈夫。
なにも問題はない。ないはずだ。
それからぼくは、メールをチェックするふりをしてスキャナーを起動し、駅前の時計台のポータル情報を開く。
その緑色のポータルのオーナーは「midorikko0214」と表示されている。
この地域一帯で活動するエンライテンドのエージェントとして、今までにたびたび目にしたことのあるアカウントだった。 ぼくがキャプチャーしていたポータルを奪われたり、あるいは逆にこちらが奪ってやったことも一度や二度ではない。
midorikkko……みどりっこ……翠子。
そしてぼくは、0214……二月十四日が彼女の誕生日であることを知っていた。
世界がひび割れ、崩れていく。
どこを探しても青く美しい地平は見つからず、青と緑が混沌として入り混じり、絡み合い、ねじれて歪んでいた。それは醜くもあり、同時に美しくもあった。
なぜならそのまだら模様の中心には、翠子さんがいるからだ。
いまや翠子さんがぼくという存在の大半を占めてしまっているからだ。
ぼくは翠子さんに出会い、どうしようもなく惹かれてしまった。
どうしようもなく惹かれ、彼女のことをなにより大事に思いながらも、それでもぼくはレジスタンスのエージェントだった。
緑の陣営であるエンライテンドに反抗する、孤高の青きエージェント。
エンライテンドとは、決して互いに相容れることはない。
*
それからぼくは懊悩した。
ただひたすらに葛藤し、苦悶した。
ふらつく頭で授業を受け、下校し、彼女と別れて家に帰ってから、布団に潜り込んでうなりつづける。
どうして、どうしてこうなった。
なぜ彼女がエンライテンドなんだ。
なぜ。
どうして。
いや、逆か。
レベル14の翠子さんは、ぼくよりもずっと前からイングレスをプレイしていた可能性が高い。だとすれば、わざわざ彼女の反対の陣営を選んだのはぼくだ。ぼくの責任。ぼくの間違いだったのだ。
ならば、間違いを正すべきなのか。
たしかイングレスは、一度だけ陣営を変えることができたはずだ。ただし、それを行うと今まで得た経験は全てリセットされる。
そうすべきなのだろうか。
いや、いっそイングレスをやめるべきか。
エージェントとしての一切合財を捨てて、忘れて、翠子さんとこれまでどおりに付き合っていく……。
あるいはレジスタンスからエンライテンドへと鞍替えして、翠子さんと愉快なイングレスライフを送る……。
それは甘美な想像だった。
一つだけのポータルを二人で仲良く分け合い、交互にレゾネーターを設置する。そうして仲を深めたぼくたちは、やがて性的なレゾネーターを挿したり挿されたりするのだ。
えっ、挿されちゃうのか。
いいのか、それ。
さすがにそれはまずくないか……いや、いやいや……まあ、それはその、ね。
なんせ今どきの若者だから、ぼくたちは。うん。冒険してもいい頃だから。
もはやとめどない妄想の沼に、ぼくはどっぷりと浸かる。
そうしてぼくは、とうとう決断――
……決断は、できなかった。
できない。
ぼくはイングレスをやめることができないし、陣営を変えて今までの経験を捨てることもできない。
もはやイングレスにおける経験はぼくの人生と言っても過言ではなかった。
暑い日も寒い日も。晴れの日も雨の日も。
足しげくいろんな土地に行き、手当たり次第ポータルを巡った。まるで自分の身体の一部のごとく占領したポータルに心を砕き、争奪を繰り返してきた。英単語などよりもよほど必死にグリフを憶えた。ソロプレイを貫いてはいたが、ときおり無言でぼくのポータルを強化してくれる他の青エージェントとの間に緩やかな連帯感を感じることも多かった。
それらをすべてなかったことにすることは、絶対にできなかった。
そもそもイングレスを否定することは、翠子さんとその交際を否定することにもつながるような気がした。
翠子さんとイングレスに捧げてきた感謝の念が、緑色のコントロールフィールドに覆われていく。
広大で優しげな緑色の空間のただなかにおいて、痛々しいまでにぼくだけが青色だった。
ちっぽけな水たまりのように弱々しい青をたたえていた。
*
「今日も寒いね」
学校からの帰り道。
はあ、と吐息を手にかけながら翠子さんはいつもの言葉を口にした。
寝不足のぼくは、霞のかかったような視界に翠子さんの明るい表情をおさめながら、努めて明るく応じる。意識して楽しげな週末の予定を語る。
そう言えば今週末の二月十四日は、翠子さんの誕生日じゃないか……。
「わ、おぼえててくれたんだ……うれしいな」
少し照れた口調で、かけがえのない笑顔を浮かべる翠子さん。彼女を失うことなど、考えることはできなかった。
上機嫌になると翠子さんは歩きながら歌をハミングする。ぼくが愛してやまない、彼女の可愛らしい癖だ。耳をすませて聴くと、それは誰もが小学校で歌ったことのある童謡だった。
今まで彼女の口ずさむ歌がなにかなんて、気にしたこともなかったのに。
なぜぼくは、こんなことにばかり気が付いてしまうんだろう。
それは「グリーングリーン」だった。
ぼくは思わず笑ってしまう。そしてなぜか涙があふれ出そうになっていることに気づき、そっと目尻を指でぬぐった。ぼくのすぐ横にいる彼女に気が付かれないように。
ねえ翠子さん、誕生日になにか欲しいものはあるかい。
ぼくの問いに、彼女はきょとんと首をかしげる。
「えー、そんなのいいよ。ていうか逆に私が青野くんにバレンタインのチョコレートをあげるつもりだし……あ、しまった、これ秘密だったのに!」
ぼくの太陽。
このぬくもりを失いたくない。
「あ……でもね、誕生日だからってわけじゃなくて、十四日はすっごく楽しみなんだ」
どうして。
「ええとね、イングレス……あ、このまえ言ってた陣取りゲームなんだけどね。十四日まで駅前時計台ポータルを守りきればガーディアンのゴールドメダルが……ってごめん、そんなこと言ってもわかんないよね」
もちろんエージェントであるぼくは知っている。
ガーディアンメダル。自分がオーナーとなっているポータルを一定期間、敵陣営に奪取されずにいることで入手できる実績メダル。日々めまぐるしく両陣営でポータルを奪い合うイングレスの世界において、手にするのが非常に困難なメダルの一つだ。
その絶大な価値をぼくは知っている。
彼女の誕生日にふさわしい、それは素晴らしいプレゼントになることだろう。
*
それから幾度かの昼と夜が繰り返されて、金曜日になった。二月十三日。
そして明日は二月十四日。
翠子さんの誕生日であり、恋人たちにとっては一大イベントであるバレンタインデーであり、駅前にある時計台ポータルのオーナーmidorikko0214が二十日の保持期間を経てガーディアンのゴールドメダルを手に入れる日だ。
十四日は、お昼すぎに駅前の広場で待ち合わせて一緒に郊外の遊園地へ遊びに行くことになっている。
放課後。駅前で明日の約束を交わして、ぼくらは別れる。
歩み去ろうとする彼女の細い背中に、ぼくは翠子さん、と呼びかける。
「ん、なあに」
振り返る彼女の顔を見て、思わず言葉に詰まる。もとよりなにか用があって声をかけたわけではない。もごもごと口元を動かした末に出てきたのは、ぼくの素直な気持ちだった。恥ずかしくて普段ならけっして口にできない想い。
ぼくは、翠子さんのことが好きだ。
しばしの間のあと、翠子さんはみるみる頬を赤く染める。
「な……なにいってるの、いきなり……」
困らせてしまったらしい。
ぼくは、ごめん、と思わず謝る。
そうして頭を下げると、不意にもっと彼女に謝罪しなければならないことがあるような気がして、ぼくは軽いパニックに襲われそうになる。動悸が早くなり、喉がからからに乾いていく。
ぼくは……ぼくは……。
そのとき、とても小さな、けれどたしかな口調で翠子さんの言葉がぼくの耳に届く。
「私も、青野くんのことが好き」
ぼくは、えっ、と小さく驚きの声を漏らし、彼女の顔をまじまじと見つめる。いちおう彼氏彼女の関係であるわけだから、普通に考えれば彼女の気持ちはなんら不思議なことではないはずなのだけれど……ぼくは今の今までそのことにまったく考えが至らなかった。
つい、どうして、と尋ねてしまう。
どうして翠子さんは、こんなぼくのことなんかを……。
「どうしてって……そんなの私にもわからないよ。だって青野くんは……青野くんだもん」
ぼくは……ぼく……。
呆けたように立ち尽くすぼくの前で、彼女は恥ずかしくなったのか次第にうつむき、目線を左右に泳がせる。
「じゃ、じゃあ、また明日ねっ。バイバイ、青野くん」
翠子さんは手を振り、早足に去っていく。
ぼくはその場を動けずにいる。
彼女から告げられた言葉がぼくの脳裏を駆けめぐっている。
それらはやがて一つの考えに結実する。
*
気が付けば、翠子さんと別れてから数時間が経過している。
ぼくはずっと駅前広場の時計台の前でカカシのように突っ立っている。
終電が過ぎてしまったのだろう、あたりにはほとんど人通りがなくなっている。
冬の夜の冷気は、容赦なくぼくの身体から一切のぬくもりを奪い去ってしまっている。
けれどもぼくの中……ぼくの中心に、ちっぽけなともしびにも似た熱が残っていた。
大草原に浮かぶ水たまりに過ぎないけれど、それはたしかに青い光を放つ熱だ。
その熱にしたがい、ぼくは冷えきった手でスマートフォンを取り出す。
イングレスを起動。
ややあって、ほぼ完全に緑色に染まった駅前周辺のマップがスキャナーに表示される。
そして次の操作をしようとするぼくの脳裏に、疑念が響く。
――本当にこれでいいのか?
いいんだ。
ぼくは内なる声にそう答えながら、タッチパネルを長押しする。
――彼女はこんなことを望むと思うか?
わからない。でも、いいんだ。
ぼくはパネルの上に添えた指を静かに滑らせ、メニューから「FIRE XMP」を選択する。
――後悔はしないか?
後悔なら、もうずっとしている。
それは今までも、そしてこれからも変わらない。
だからぼくは……。
ぼくはレベル8のウルトラストライクを選択し、それを撃ち放つ。
眼前には時計台。
翠子さんが大事に守ってきたポータル。
その防御力を引き上げている強固なシールドを剥がすために、ぼくはゼロ距離から超破壊兵器を使用する。
たてつづけに、何度も何度も。
とっくに感覚が失せている指先で「FIRE」ボタンをタップする。
ダメージにボーナスの付く長押しのタイミングは身体に染み付いている。そう、これまでのレジスタンスの……青のエージェントとしての活動と経験は、すでにぼく自身の一部になり、分かちがたいものになっているのだ。
つかの間、真っ赤に染まり、その身を包んでいた防護膜を破られた時計台ポータルを見つめながら、ぼくは口ずさむ。
彼女の歌。
彼女に捧げる歌だ。
あるいはこれから失われるガーディアンメダルを悼む歌。
誰もいない広場で、どこか悲しい旋律にぼくは言葉を乗せる。
ある日パパと二人で 語り合ったさ
この世に生きるよろこび
シールドを失った時計台ポータルにレベル8のXmpバースターを撃ち込む。
ぼくの位置座標を中心に、放射状に破壊の円環が広がり、レゾネーターの耐久値を激しく削っていく。
そして 悲しみのことを
やがて八つあるうちの一つめのレゾネーターが、ガラスの割れるような音とともに砕け散る。
グリーングリーン
青空には ことりがうたい
つづけて二つめと三つめのレゾネーターが消滅。
グリーングリーン
丘の上には ララ 緑がもえる
緑色のポータルが、ぼくの攻撃で燃え、炎上している。
周囲のポータルから返ってくるダメージをパワーキューブで絶え間なく回復しながら、ぼくは執拗にバースターを使いつづける。
それは叫びだった。
ぼくがぼくであることを痛切に訴える、それはあがきにも似た、滑稽でいびつなメッセージだった。
どうしようもなくレジスタンスであるぼく。
ずっと青の陣営で戦ってきたぼくを、ただ単にぼくだという理由で好きになってくれた人がいる。
それを、ぼくは愚直に信じる。
ぼくはぼくでいていいのだと。
逆に、ぼくはこれからもぼくでいなければならないと。
エンライテンドのポータルは、すべて焼き払わなければならない。
この世界を青く。
永遠に輝く青へ。
それが馬鹿げた幻想に過ぎないのだとしても、それでもぼくは……ぼくはレジスタンスのエージェントだから。
ある朝 ぼくはめざめて
そして知ったさ
すべてのレゾネーターが破壊され、時計台ポータルは緑色から無垢な純白へと色を変える。
ぼくはそのうつろな空白に、自分のレゾネーターを挿し込んでいく。
この世につらい悲しいことが
あるってことを
「……青野、くん……?」
背中越しに、その声は聞こえた。
たった数時間ぶりだというのに、それはとても懐かしい響きをもって冬の冷たい空気を震わせ、ぼくの耳朶を打った。
自分のポータルが攻撃を受けた際に発せられるアラートメッセージを読んで駆けつけたのだろう。
翠子さん。
ぼくが生まれて初めて好きになった女の子。
どうしてぼくはこんなにも彼女を好きなのだろう。
それは考えるまでもないことだった。
翠子さんは翠子さんだから。
ぼくと同じイングレスをプレイし、でもぼくとは決定的に対立するエンライテンド側のエージェントで、しかもレベル14の翠子さん。
そんな翠子さんを、ぼくはそのまま好きでいることに決めた。
ぼくはぼくのままで、ずっと彼女を好きでいつづけることを選択した。
すぐうしろで、彼女が少し荒く息をつくのが感じられた。
まるで世界に取り残されたように、広場にはぼくら二人以外、誰もいない。
沈黙を破ったのは、翠子さんの問いかけだ。
これまでぼくたちを覆っていた世界の終焉を告げる、それは最後の問いだ。
「……偶然、だねえ」
手の中のスキャナー画面で、ぽつんと青いポータルが一つ、新たに発生したことを確認してから。
凍りついた時間の檻をねじ切るように、ぼくはゆっくりと振り返る。
残念ながら、ぼくがここにいることは偶然ではないことを。
レジスタンスはエンライテンドと未来永劫、戦いつづけることを。
緑が広がる丘の上で、それでもぼくは果てない青を夢見て、求めつづけることを、大好きな子に告げるために。
イングレスは、現実世界を、世界をまたにかけた謎と陰謀と競争の世界へと変化させます。
私達の未来は危機に瀕しています。あなたは、どちらの側につくか選ばなくてはなりません。
ある神秘的なエネルギーがヨーロッパの科学者チームにより発見されました。その力の起源や目的は未知ですが、研究者の中には、この力が我々の思考に影響を及ぼしていると考えている者もいます。我々はそれをコントロールしなければなりません。さもなければ、それは我々をコントロールするでしょう。
「エンライテンド(覚醒者)」は、このエネルギーが我々に与えるものを受け入れようとしています。
「レジスタンス(抵抗勢力)」は、人類に残されたものを守り、保護するために戦っています。
イングレスをインストールして、世界を変えてください。
―― Ingress
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