プロフェッショナル 仕事の流儀「“清掃のプロ”スペシャル」 2015.02.06


世界一清潔と言われる空港羽田。
総勢300人のスタッフがトイレの壁から便器の裏までを徹底的に磨き上げる。
その努力で「清潔な空港」世界一の座を2年連続で受賞。
その快挙を支えるのは汚れを見つけるとなぜか笑顔になる一人の女性。
掃除のスピードとこまやかさは業界屈指。
ビル清掃日本一の称号を持つ。
そして見上げればここにも。
街の美しさを守る職人がいる。
困難な窓拭きに挑み続ける。
(一同)オー!今夜は特別編。
日本を隅々まできれいにするために。
人知れず闘う清掃の仕事人たちに密着。
魂の仕事ここにあり。
一日20万もの人が利用する東京国際空港羽田。
その美しさを支える女性は朝6時半に出勤してくる。
いきなり50段以上の階段を上り始めた。
おはようございます。
事務所に着いた新津。
毎日こなしている日課に取りかかった。
机の下から取り出したのは5キロの鉄アレイ。
腕と腹筋を中心に鍛えていく。
新津は中国生まれの日本人。
17歳で日本に来た時言葉が分からなくてもできるとこの仕事に就き以来ずっと清掃を続けてきた。
ふふ恥ずかしい。
新津の清掃技術は圧倒的だ。
1つのゴミも残さない緻密さに加え配慮の行き届いた仕事ぶりで他を寄せつけない評価を受けてきた。
朝7時。
担当する国内線ターミナルに入った。
新津は総勢300人の清掃員を束ねる現場監督の一人だ。
日々床やトイレの磨き具合をチェックし難しい汚れがあれば自ら落としていく。
この日ある汚れに気が付いた。
ロビーにある冷水器。
表面がくすみ虹色をした油汚れも目立つ。
空気中のほこりや水に含まれるカルキ。
そして口をゆすいだ時の油分などが汚れの原因だ。
汚れの種類によって新津が使い分ける洗剤は80種類以上。
冷水器の清掃に取りかかった。
まず取り出したのは弱いアルカリ洗剤だ。
僅かに水で薄め優しくなでるようにして油汚れを取り除く。
そして今度は強い酸性洗剤でこびりついたカルキなどを落とす。
強い酸性洗剤は使い過ぎるとステンレスそのものが傷んでしまう。
どれだけ手早く終えられるかが鍵を握る。
濃い洗剤が10秒以上とどまらないようこまめに水をかける。
そしてしつこい汚れを丹念に落としていく。
更に周辺の細かい汚れも見逃さない。
人目につかない冷水器の下。
歯の汚れを取る道具を応用し少しずつ削っていく。
汚れと向き合って2時間。
冷水器はまばゆいばかりの輝きを取り戻した。
清掃の職人であれと自らに言い聞かせる新津。
トイレで熱心に向き合い始めたのは手を乾かす乾燥機だ。
自ら開発に携わったブラシで排水口を丁寧にこすっていく。
目に見えない部分にこそ気を配るのが新津の真骨頂。
今度は一見きれいな床に目を凝らし始めた。
人が行き交う度に舞うほこりはアレルギーの原因にもなる。
どこまでも使う人の事を考え清掃に向き合う新津。
大切にしている流儀がある。
行き交う客の邪魔にならないよう気を配りながら新津はどんな小さな汚れも絶対にゆるがせにはしない。
そうして巨大ターミナルの清潔を守り続けている。
昼休み。
新津さんはいつも同僚と一緒にご飯を食べる。
この日誘ったのは体調を崩ししばらく現場を離れていた仲間だ。
体力勝負のこの仕事を17歳から続けてきた新津さん。
そこには逆境を生き抜いてきた壮絶な半生がある。
新津さんは昭和45年中国の瀋陽で生まれた。
父親は第二次世界大戦の時旧満州に取り残されたいわゆる日本人残留孤児。
その後中国人の母と出会って結婚新津さんが生まれた。
小学生の頃から日本人というだけでさまざまないじめを受けた。
17歳の時一家は日本に向かう事になった。
ところが期待していた日本も心安まる場所ではなかった。
「中国人は帰れ」。
編入先の高校に行くとまた心ない言葉を投げられいじめられた。
苦しみはそれだけではなかった。
両親もすぐには定職に就けず一家の生活は極めて厳しい。
高校生の新津さんは唯一雇ってくれた清掃員のアルバイトを早朝も夜もこなし生活費を稼いだ。
だがその仕事場でも向けられる視線の冷たさに言いようのない思いが込み上げた。
存在を認められず居場所のない自分。
何をよすがに生きていけばいいのか。
23歳の時だった。
新津さんは羽田空港の清掃員として働き始めた。
そこで新津さんの運命を変える一人の上司と出会う。
汚れや洗剤の事で分からない事はないと言われる業界のエキスパートだった。
新津さんは鈴木さんの熱血指導を受けるうちに清掃という仕事に面白さを感じ始める。
いつしか思うようになった。
「自分にはこの仕事しかない。
ならば清掃を極めてみよう」。
だがいくら頑張っても鈴木さんは新津さんの仕事ぶりを褒める事は一度もなかった。
いつも同じ言葉が返ってきた。
がむしゃらに学び続けて3年が過ぎた。
ある日新津さんは鈴木さんから全国の清掃員が腕を競う技能選手権への出場を打診される。
腕には自信があった。
ところが絶対1位になれると思った予選会の成績は2位だった。
「一体自分に何が足りないというのだろう」。
そんなある日。
鈴木さんが新津さんの掃除を止め言った。
初めて鈴木さんから言われ続けてきた事が分かった気がした。
技術だけでなくその場を使う人を思いやり邪魔にならない身のこなし方。
見えない箇所や臭いまで配慮する姿勢が大切なのだ。
そうして2か月鈴木さんと特訓を重ねついに臨んだ技能選手権の全国大会。
新津さんは見事に日本一に輝いた。
(拍手)おめでとうございました。
すぐにそれを鈴木さんに知らせると返ってきたのは意外な言葉だった。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
「生まれて初めて本当に人に認められた」。
それから間もなく新津さんは一つの変化に気付いた。
心を込めて掃除すると利用する人からも「ご苦労さま」と声が返ってくるようになったのだ。
ビル清掃のプロ新津春子。
彼女には同じプロとして憧れているという仕事がある。
高所のガラスを磨く仕事。
特殊な訓練を積んだ者だけに許された仕事だ。
空港の程近く。
高さ60メートルのビルにその男はいた。
窓拭きの世界で屈指の腕を持つと言われる…一度のミスが命の危険につながるこの仕事に30年。
あらゆる高層ビルの窓を磨き上げてきた。
この日の現場は東京赤坂。
高さ50メートルのオフィスビルだ。
羽生田の仕事は現場の下見から始まる。
まず自分をつるす命綱を固定する場所を探す。
強度は十分か。
不具合はないか。
指さし確認を繰り返す。
羽生田は意外にももともと高い所が苦手なたちだという。
体を支えるロープと予備の命綱だけが頼りだ。
この不安定な姿勢に耐えながら大きなガラス窓を一枚一枚磨き上げていく。
モップで洗剤水をつけて汚れを浮かしスクイージーという道具で水分ごと切っていく。
この作業の緻密さと手際の良さで羽生田は業界屈指と言われる。
汚水が下に落ちればクレームの対象となるため丁寧に拭き取っていく。
羽生田は手が届きにくい窓の四隅も1ミリの隙もなく拭き上げる。
その分作業の手数をそぎ落としスピードを稼いでいる。
羽生田には心に刻む流儀がある。
羽生田さんはもともとテレビや舞台で活動する役者だった。
高校卒業後ふるさとの長野から上京。
20代を演劇の道にささげた。
さすが京の都よのう。
でも食べていけるほどには人気が出ない。
生活のため始めたのが窓拭きのアルバイトだった。
29歳の時役者に見切りをつけ7年続けてきた窓清掃を本業にしようと決める。
独立して会社を起こし社員も雇って仕事を受け始めた。
それは会社を起こして10年目の事。
社員が作業中にケガを負ったという知らせが入った。
ロープを掛けていた場所自体が外れての事故だった。
いやもう…一度の不注意が命取り。
羽生田さんは安全対策はもとより仕事の質や段取りに至るまで徹底的に見直した。
作業に慣れが出ていないか。
気の緩みは起きていないか。
見直して見直して。
浮かんできたのは素朴な一つの事実だった。
初心者は絶対に事故を起こさないという事。
それだけではない。
スピードは遅いものの仕事の仕上がりはいい。
以後羽生田さんは毎回初心に立ち返ると決めた。
現場に上がる度怖さを実感し基本の確認を繰り返す。
気付けば30年。
業界でも指折りの職人となった。
そうして年間80近いビルの窓を丹念に清掃し続けている。

(一同)オー!じゃあ頑張りましょう!この日静まり返った空港で天井を清掃する新津の姿があった。
月に2度ほど担当する夜間清掃。
客がいる日中には手が出しにくい場所を徹底的に掃除する。
難しい場所があった。
う〜ん。
多目的トイレ。
担当のスタッフからなかなか汚れが落ちないという報告が上がっていた。
床には油やほこりが黒ずみとなって付着していた。
清掃員にとってトイレこそは最大の課題であり腕が問われる場所。
この床には問題があった。
一般のトイレは平たんな床だがここは使う人が滑らないように細かな凹凸が施されている。
その隙間に汚れがこびりついていた。
担当者が音をあげたトイレ。
今夜1人で向き合うと決めた。
一つのアイデアがあった。
取り出したのは極めて細かい毛がついたパッド。
視覚障害者用ブロックに使っているものを応用できると考えた。
深夜1時半作業を始めた。
まず床に弱いアルカリ洗剤を塗っていく。
用意できたパッドは4つだけだった。
いよいよパッドを機械につけ床を磨き始める。
おお〜!新津の読みは的中。
見事に汚れが落ちていく。
午前3時。
床は見事に本来の色を取り戻した。
だが新津は仕事をやめない。
壁についた原因不明の汚れが気になっていた。
空港の開館まで残り2時間。
新津は更に腰を据えて汚れと向き合う。
洗剤や道具を変えながらたった一つの汚れを地道にこすり続ける。
この場所を使う人々に「当たり前の日常」を届けたい。
新津はその事に全力を尽くす。
朝4時過ぎ。
新津は最後の汚れを落としきった。

(主題歌)私いいと思う。
清掃に人生を懸ける職人たち。
こだわりの仕事が日本の美しさを支えている。
目標を持って日々努力しどんな仕事でも心を込めてできる人と思います。
いつまでもときめきを忘れない言うなればこう永遠の初心者でいられる人…かな。
そうですね…。
2015/02/06(金) 00:40〜01:30
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「“清掃のプロ”スペシャル」[解][字][再]

「世界一清潔な空港」に選ばれた羽田空港の秘密を探ると一人の女性の存在が。その驚異の技!そして高層ビルの窓ふき職人の意外な流儀。清掃のプロの知られざる現場に密着!

詳細情報
番組内容
空港、駅、ビル。人が集まるところなくてはならない仕事が“清掃”だ。「世界一清潔な空港」に選ばれた羽田空港。その秘密を探ると新津春子にたどり着く。「清掃は職人の仕事」と語るプロ意識の高さの陰には自分の「居場所」を探し続けた壮絶な過去があった。高層ビルでロープに身を預け働く、窓ふき職人。30年の大ベテラン羽生田信之の流儀は「怖がる」という意外なものだった。日本の美しさを支える知られざるプロたちに密着!
出演者
【出演】清掃員…新津春子,スウィング代表…羽生田信之,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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日本語
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