木曜時代劇 風の峠〜銀漢の賦〜(4)「懸命」 2015.02.05


(将監)これは私怨か。
それとも上意討ちか。
(源五)問答無用!褒美は何だ?鷹島屋敷の屋敷番。
わしの首がたかだかそれしきとは。
不満か。
当たり前じゃ!わしの首なら500石の加増は望めるはず。
相変わらずうぬぼれの強い男だ。
(みつ)まあ!珍しいお客様ですこと!源五殿がいらっしゃるとは。
まるで昔に戻ったようでございます。
さどうぞお上がり下さいませ。
おいしい羊羹があるのですよ。
さあどうぞ。
さあさあ。
(重輔)あのお二人はどのような…。
(みつ)竹馬の友です。
そうしておられると七弦琴の稽古にいらしていた頃を思い出します。
お二人ともまだ元服前の初々しいお姿で。
フフフ。
調子を外すのはいつも源五殿。
それでも堂々とお弾きになるので稽古をつける父もあきれておりました。
みつ。
もう下がっておれ。
はい。
失礼致します。
命じたのは山崎多聞か。
上意との事だ。
教えろ。
月ヶ瀬のお家に何が起こっている。
我が殿はご公儀の要職に就く事を望まれておる。
ご公儀の要職?そしてご公儀は殿にしかるべき要職を与える代わりに三河の松平家との国替えを持ち出してきた。
松平家との国替え!?先方は将軍家のご一門とはいえその台所向きは火の車。
大坂の商人から10万両もの金を借りてなんとかしのいでおったがまだ足りずご公儀に1万5千両を無心しておる。
まさか!そんなお家と月ヶ瀬の地を取り替えると?そうじゃ。
ばかな!殿様はお断りになられよう。
いやお受けなさるおつもり。
殿をお諫めしなかったのか!お諫めしたゆえお前がわしを斬りに来たのだ。
回想主命なれば否は許されぬ。
これで合点がいったか。
山崎多聞はその事にどう関わっている?やつの望みは天下に名を上げる事。
国替えをしとげたらお家を去りご公儀の学問所で教授にでもしてもらうのであろう。
そのため殿をたぶらかしご公儀に恩を売っておるのだ。
それでは山崎多聞こそが奸臣ではないか!わしは家老。
腹を切ってお諫めする事も考えたが多聞が殿の側におっては無駄死に。
どうする。
脱藩する。
脱藩!?何としてもこの国替えを止める。
江戸に出てさるお方に訴え出ようと思う。
再び鷹島騒動をやるつもりか。
ご本家を動かし殿様の首をすげ替える腹であろう。
1度目は可能でも2度目は難しかろうが…。
ま好きにしろ。
源五お前も手伝え。
何でわしが…。
お前が来たからわしの腹が決まったのだ。
知るか。
長年の友垣ではないか。
友だと?お前とはとうに絶交しておる!この国替えで最も痛い目を見るのは百姓ぞ。
月ヶ瀬をよそ者に渡さば十蔵は何のために命を賭したのだ。
どの面下げてそんな事が言えるんだ。
小弥太!十蔵はお前が…お前が殺したんだぞ!それが政だ。
松浦将監。
ここで聞いた事は全て忘れた。
お前が何をしようとわしは知らん!改めて言うておくぞ。
お前とは20年も前に絶交しておる!わしはこの命を使い切りたいのだ。
わしが死して後のこの月ヶ瀬の地を何としても守りたい。
断る。

(ため息)
(三五郎)母上…。
母上。
あ〜三五郎。
いかがされましたか?何でもありません。
そなたは心配せずともよい。
キャ〜!キャ〜!何者!拙者は怪しい者ではない!
(みつ)源五殿!みつ殿。
酒を飲ませて頂けぬか。
お酒?急ぎ酔わねばならぬ事情が。
すぐにお支度を。
今日はおいで頂きまことにうれしゅうございました。
どうぞ。
どうか将監を助けてやって下さいませ。
夫には源五殿のほかにもう味方はおらぬのです。
(鼻歌)
(酒井)日下部は酒に酔い足元もおぼつかない様子にて暗殺は失敗かと。
(山崎)将監め酒で籠絡したか。
(酒井)新たな刺客を立てられた方が。
いや。
こたびは日下部でのうてはならぬ。
しかし…。
あくまで私怨により日下部がご家老を斬るのだ。
誰もあずかり知らぬ事。
お家には関わりのない日下部の私事だ。
よいな。
はっ。
あ〜。
うぉ〜。
あ〜。
(蕗)旦那様!随分と飲まれたのですね。
いや〜小弥太め。
ハハッいい酒置いとるわ。
ハハハハ。
はてどうしたものか…。
んっ!んっ!はっ。
よっ!大丈夫でございますか?
(次郎作)随分早いですね。
あっしじみ汁!二日酔いにはこれが一番効くの。
ん…。
例のお役目はどうなっておるのですか?え?ご家老様は?あ…あああれはまた今度…。
今度!?今度とはどういう事でございます!旦那様朝餉の用意が出来ておりますが。
おお!父上!あ〜。
五臓六腑にしみわたるわ〜。
こたびの事はお殿様からのご密命だそうではありませぬか。
父上にとっても名誉な事。
ま…そうだのう。
もしや命が惜しゅうなったのですか?ばかを申せ!
(足音)蕗うまいぞ。
よかった。
お代わりもございますから。
蕗。
そなたいつまでこの家に居座るつもりです。
あ…。
私は旦那様の身の回りのお世話をするしかご恩返しができませんから。
ずっとお側にいさせて頂ければと存じます。
いやいやそれはならん。
次こそよき婿を見つけるゆえ幸せになってもらわねば。
いえ私は…。
蕗。
お前は罪人の娘なのですよ。
この家にいるだけで父上に迷惑をかけておるのが分からぬか。
たつ。
お前のような者を置いておくのは日下部家の恥。
ひいては津田の家名に泥を塗る事にもなるのです。
よさぬかたつ!いいえ!蕗。
今すぐこの家から出ていきなさい。
私は日下部家の女中でございますれば津田家の方から暇を出される筋合いはございませんので。
失礼致します。
父上。
かつて母上も蕗を引き取ってどれだけ肩身の狭い思いをなさったか。
さきは分かってくれていた。
いいえ。
私は母上のまことのお気持ちを申し上げているのです。
母上が危篤だと使いを出しても父上は戻られませんでした。
少しは母上に悪いとお思いにはならぬのですか。
お家のためお殿様のためその命お使い下さいませ。
母上もきっとお喜びになりまする。
たとえつまらぬ命でも人に言われて使うものではない。

(泣き声)ありがとう。
(たつ)ただいま戻りました。
おお。
お父上のご様子はどうだった?お役目はまだ…。
「また今度」と申しておりました。
「また今度」?まあせかせる訳にもいかぬしのう。
さっさと済ませればよいのです。
父の命などほかに使いみちはないのですから。
そうあしざまに言うな。
父上はわしの出世のために命を捨てると言って下さっておるのだ。
今までさんざん好き勝手に生きてきたのです。
親としてこのくらいの事は当然でございます。
そうかもしれぬが…。
父には感謝してもらわねば。
こたびのお役目がなければただの持て余し者で終わった身なのですから。
なにもそこまで…。
父が死んだとて誰も困らないのですよ。
それなのにいつまでたってもぐずぐずぐずぐず…。
最後までぶざまな…。
お…たつ。
蕗…。
旦那様。
先ほどはご無礼を。
いや。
たつの方が悪い。
何としても悪い。
ただ…。
…はい。
すまぬ。
たつを許してやってくれ。
わしはよき父ではなかったのだ。
え?ちょっと出かけぬか?ん…ん…あ…あ〜。
ん〜。
水を。
はい。
あ〜。
このお体で江戸まではご無理でございましょう。
源五殿とのお話聞こえてしまいました。
江戸までお供させて頂きます。
それはならぬ。
どうか連れていって下さいませ。
足手まといにはなりませぬ。
せめて杖の代わりにあなた様をお支えしたいのです。
…みつ。
そなたは生き延びよ。
そして三五郎を守ってくれ。
そなたらの事は菩提寺の和尚に計らっておる。
尼になるほどの信心はございませぬ。
今お薬を。
これは難問じゃ。
ここは五郎右衛門堰ですね。
五郎右衛門は立派な庄屋だった。
お知り合いですか?ああ。
百姓衆のために命懸けで田に水を引く井堰の普請を願い出た。
回想日照りの度に餓死する者が大勢出るのです。
雲居川の水を村まで引けば百姓は安心して暮らせるのでございます。
どうした五郎右衛門。
言うてはならんと命じられておるのですが…。
うむ。
もう考えただけで何も喉を通らんのでございます。
だから何だ!雲居川に井堰を造りたいとご家老様に普請のお願いにあがりました。
ご家老に?普請の件相分かった。
(五郎右衛門)ご家老様…。
この普請百姓だけでは極めて困難。
藩も力を貸そう。
まことでございますか?ありがとうございます。
ただし…藩の力を借りるからには相応の覚悟をしてもらうぞ。
普請の失敗は決して許さぬ。
万一失敗した折はその責を問いその方ら3名を磔と致す!磔!?よくもそんな事を…。
鬼め。
さりとて磔とはあまりに恐ろしゅうて。
やめろやめろ!井堰などなくてもよい。
いやそうはまいりません。
日照りの度に餓死する者が大勢出るのです。
雲居川の水を村まで引けば百姓は安心して暮らせるのでございます。
小弥太のやつめ。
回想十蔵は己の命と引き換えに事を成し遂げた。
友ならば見事あっぱれと褒めてやれ。
あ〜!すまん!だが一介の鉄砲衆のわしには何もしてやれん。
おい次郎吉!おい!
(重左衛門)雲居川の井堰の普請はあまりはかどっておらぬようでございますな。
旦那様もご心痛でございましょう。
失敗すればお腹を召されるお覚悟では?フフッ重左。
万一の時はこの重左もお供つかまつります。
いらぬわ。
責を負うのは家老の役目。
回想
(十蔵)小弥太…。
お前が使ってくれてこそこの命が生きる。
これ以上餓死者は出さぬ。
そのためなら鬼にもなる。
叶うならこの手で石も運ぼう。
だが…。
回想お前との…お前との縁もこれまでだ!今お城で手の空いている者は誰じゃ。
おい!日下部様…。
五郎右衛門。
我ら鉄砲衆も普請を手伝えとの命が出た。
ありがたい事でございます。
お侍様の目が光っておれば皆よう働きましょう。
うむ。
手を休めるな!しっかりやれほら!申し訳ございません。
力の出し惜しみか。
こ…腰をやられまして。
嘘をつくな!嘘じゃございませぬ。
何!?こら!佐吉…。
ん?おっ!お願いでございます。
家に帰らせて下さいまし。
何!?すぐに戻りますからどうかお願いします!寝ぼけた事を言うな!ほら戻れ。
ほら戻れ。
どうか…。
いいから!さあ来い!よっしゃ〜!頂き!こら!今ちょうど仕事に…。
つべこべ抜かすなこら!こら!さっさと働け。
怠けたらぶった斬るぞ!ほら!ほら!佐吉!足を滑らせて溺れ死んだようです。
子どもが生まれたばかりで一目だけでも顔が見たいと言ってたのに…。
行くぞ。
(五郎右衛門)井堰が出来れば田に水が引かれ実り豊かになる。
もう百姓一揆が起きる事もなく皆が幸せに過ごせるよう思うておりましたが…。
回想誰かがやらねば皆が飢え死ぬ。
どっちにしても死ぬのならこの命使い切る。
え?日下部様!石を積む。
切りなき石を積むのだ。
日下部様!鬼源五め。
すっ転んで溺れるぞ。
あ〜っ!百姓にやらしておけばいいものを。
一人でええかっこしおって。

(さき)お前様…。
さき。
具合はどうだ?ええ。
今日はよいようです。
すまぬのう。
お前の側についててやれずに。
お忙しいのですから…。
何年たっても普請は思うように進まぬわ。
ハハッ。
百姓衆もわしを鬼源五などと呼んどるわ。
ハハハハハハハ。
私は誇らしゅうございます。
え?お前様の思うとおりになされませ。
さき…。

(五郎右衛門)日下部様!奥様がご危篤だそうでございます。
さきが?すぐにお帰りにならないと。
日下部様!今堰が破れたら川が溢れる。
全てが無駄になる!ハァハァ…。
(すすり泣き)父上…。
井堰の普請とは…母上のご臨終にも立ち会えぬほど大事な事でございますか!父上を…お恨み致します。
さき…。
すまん。
わしは…甘えておった。
井堰の普請間もなく成るとの事。
まことに大儀であった。
完成した暁には褒美をつかわすぞ。
こたびの普請私一人の働きではございません。
大変な普請でございまして皆命懸けで働きけがを負った者命を落とした者もおります。
また鬼と呼ばれたお侍様もおられます。
鬼?誰じゃ?日下部源五様にございまする。
百姓ばかりかお侍様方にも憎まれそれでも怯まず皆を動かして下さいます。
あのお方がおられなければここまでこぎ着けられてはおりませぬ。
鬼か…。
我ら鬼にならねば生きられぬか。
フフフフフ。
あっ!何だ!鬼源五め!くたばれ!おら!思い知れ!逃げろ!逃げろ!う…う…う…う…。
たとえわしがくたばっても井堰は…ここにあり続ける。
フフフフフ…。
ハハハハハハハハ…。
十蔵!わしは…やったぞ。
まるで黄金の海のようです。
十蔵のおかげだ。
父の?十蔵が己の命を使い切って百姓たちを守った。
そのおかげでこんな美しい景色がある。
いいえ。
旦那様が懸命に石を積み井堰を造ったからでございます。
え?旦那様方のお働きで田に水が引かれ民も月ヶ瀬の地も豊かになったのだと蕗は思います。
(足音)お呼びでございますか。
うむ…。
みつ。
この先そなたと三五郎は…。
私は寺へなど参りません。
何とおっしゃっても江戸までお供させて頂きます。
しかしのう…。
あなた様はこの月ヶ瀬のためにそのお命を懸けて大事を成し遂げようとされているのでございましょう。
夫婦の心は二つで一つと申します。
されば私もあなたと同じ思いでございます。
聞き分けるのだ。
万が一の時は私が。
そのご意志を私が継いで代わりに江戸に参ります。
分かった。
一緒に参れ。
供をせよ。
いや…。
供をしてくれと申しておる。
はい。
うむ。
回想この国替えで最も痛い目を見るのは百姓ぞ。
月ヶ瀬をよそ者に渡さば十蔵は何のために命を賭したのだ。
わしが死して後のこの月ヶ瀬の地を何としても守りたい。
この地は…月ヶ瀬は誰にも渡さん。
ここはわしらのふるさと。
将監よ決めたぞ。
お前の命使い切らせてやる。
みつを連れてまいる。
一族郎党を引き連れていくというのか。
それで!風越峠に向かいましてございます。
何!?脱藩!?旦那様と峠を越えます。
越えれば再び月ヶ瀬には帰ってはこれん。
・「遥かなり時代に」・「想いを馳せれば」・「お前との日々が」・「嗚呼〜いちばん」・「呼び捨てあう仲でも」・「互いに気づかい」・「大事な事さえ」・「嗚呼〜伝えず」・「時が呼びあい」・「今を呼ぶ」・「夕映えに燃ゆる」・「漢ありて」2015/02/05(木) 20:00〜20:43
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 風の峠〜銀漢の賦〜(4)「懸命」[解][字]

将監(柴田恭兵)は源五(中村雅俊)に、藩主が幕閣になるのと引き替えに月ヶ瀬の地を国替えに出そうとしていることを伝える。故郷を失うかも知れない。源五の心が揺れる。

詳細情報
番組内容
源五(中村雅俊)と将監(柴田恭兵)が斬り合う寸前、みつ(麻生祐未)が機転をきかして二人の刀を収めさせる。藩主に嫌われた理由を問う源五に将監は国替えを阻止するためと答える。側用人の多聞(中村獅童)にそそのかされ、藩主は幕閣になるのと引き替えに月ヶ瀬の土地を差しだそうとしていると言うのだ。一揆を収めた後、源五が農民と共に作ったせきによって豊かな実りをあげる故郷がなくなるかも知れない。源五の心が揺れる…
出演者
【出演】中村雅俊,桜庭ななみ,中村獅童,池田鉄洋,吉田羊,平岳大,麻生祐未,柴田恭兵
原作・脚本
【原作】葉室麟,【脚本】西井史子
音楽
【音楽】小六禮次郎

ジャンル :
ドラマ – 時代劇
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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