クローズアップ現代「“地図力”が社会を変える!」 2015.02.05


うっそうとした森に覆われた富士山。
最新の技術を使うと詳細な地形が現れました。
この3D地図が今新たな価値を生み出し社会を変えようとしています。
従来の地図と比べて地表の凹凸を詳細に描き出す3D地図。
その可能性を引き出す鍵が地形を読み解き使いこなす地図力です。
アメリカでは3D地図を無料で公開。
誰もが利用できるオープンデータとすることでさまざまなビジネスが生まれています。
日本では、3D地図を活用した防災教育が始まりました。
自治体や企業も膨大なデータの活用に乗り出していますがその用途はまだ一部に限定され広く普及していないのが実態です。
地図力の向上と活気的な3D地図の活用がもたらすものは何かその最前線です。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
車で出かけるときはカーナビ。
駅からの道のりはスマホの地図。
すっかり便利になり地図を読み込む力の必要性をあまり感じなくなっているかもしれません。
しかし、現実には今地図や地形図などから多種多様な情報を正確に読み取る力地図力を高める必要性に注目が集まっています。
地図の情報から津波、地滑り火山の噴火、洪水などの災害の被害を予測したり森林計画作りに役立てたりさらに新たなビジネスのアイデアを生み出す重要なツールになるからです。
注目されている地図とはどんな地図なのか。
ご覧いただいているのはNHKがある東京・渋谷周辺の地図ですがここに国土地理院が一般に公開している3D地図データを加えます。
渋谷という地名どおり大きな谷が描き出されました。
これまでの3D地図と比べると解像度が格段によい特殊な航空レーザー測量によって作成された3D地図です。
地形の凹凸が数センチの精度で描き出され地形の特徴を手に取るように把握することができるのです。
すでに国土の50%近くの3D地図データがインターネット上に公開されていまして誰でも自由に活用できるようになっていますがデータの存在が十分に知られておらず利用が進んでいません。
その上、こうした宝の山ともいわれる地図データからその宝を見つけ出す地図力が利用しようとする側に不足していると見られています。
初めに3D地図データの活用とはどのようなものなのか海外の事例も併せてその最前線をご覧ください。
山梨県北杜市。
年間5000万ケースのミネラルウォーターを製造している大手飲料メーカーです。
この工場で使用するミネラルウォーターの水源は南アルプスの山々の豊富な地下水です。
水質基準を満たした地下水を安定的に確保できなければ商品を製造することができません。
そのため、メーカーは水の供給源である森林の整備を欠かさずに行っていますが森は広く、異変を逐一把握することは難しいのが現状です。
山に降った雨は地面にしみこみ、谷筋からじっくり地下を移動することでミネラルを豊富に含んでいきます。
しかし、森が荒廃し斜面が崩れたりすると雨水は表面を流れ下ってしまうため地下までしみこみません。
広大な森の状態を正確に把握しどこから優先して手を入れ効率的に管理するか。
メーカーが3年前から活用を始めたのが3D地図です。
空からレーザーを照射すると生い茂る葉っぱの隙間をくぐり抜け、地表に当たって観測機に戻っていきます。
その跳ね返りの時間の差を計算することで数センチ単位の精度で地表の凹凸を描き出し3D地図を作るのです。
航空レーザー測量と呼ばれる技術です。
この技術を使うことで木々に覆われた山の地形が初めて明らかになりました。
斜面に刻み込まれた複数の谷。
雨はこうした谷からしみこみ地下水となります。
今回、立ち入りが難しかった尾根の上にも谷が走り地下水の重要な供給源であることが分かりました。
3D地図で、谷周辺の森の異変をいち早く捉え植林などの整備を行うことで地下水の安定供給につなげたいとメーカーは考えています。
人手が限られた林業の現場でも、3D地図が力を発揮し始めています。
人工林の割合が日本一高い佐賀県は4年前県全域の森林の3D地図を作成しました。
県内では過疎化や高齢化が進み手入れが行き届かず荒廃している森林が増えています。
適切な間伐を行い価値の高い木材を育てるには木がどれくらいの密度で何本生えているのか的確に把握する必要があります。
しかし、今まで行ってきた現地調査では、手間がかかり正確な本数を把握することは困難です。
そこで、3D地図に特殊な解析を行い地形の凹凸だけでなくその上に生えているスギやヒノキがどこにどれだけ生えているのか調べることにしました。
すると、一本一本の正確な位置が黄色の点によって示されました。
しかも指定した区域ごとの情報を瞬時に計算することも可能です。
ここでは、高さ平均20メートルのスギの木が1ヘクタール当たり1325本生えていることが分かりました。
これは間伐が必要とされる値です。
3D地図による解析の結果間伐が必要な森が、県内に約1000ヘクタールあると把握。
順次、間伐を進めています。
画期的な3D地図。
その活用で世界をリードしているのがアメリカです。
去年9月、NASAは宇宙から地球全体の3D地図を作るという壮大なプロジェクトを発表しました。
特殊なレーザーを使って地形をくまなく観測します。
2018年には国際宇宙ステーションに設置し観測を開始。
誤差数センチの精度で地表の凹凸を計測し3D地図として世界に公開する予定です。
さらに、こうして蓄積された膨大なデータの多くはオープンデータとして保管され社会で広く使われています。
国や自治体などによって測量された3D地図はインターネットで一般に公開され教育現場や企業家庭から自由にアクセスし活用することができるのです。
今夜は、3D地図の活用や、地理教育にお詳しい、東京大学空間情報科学研究センターセンター長の小口高さんをお迎えしています。
アメリカのNASAは、高度400キロメートルから解像度数センチという、この全球的な3D地図を作ろうと、2018年から挑んだ、そしてそれを公開しようとしている。
これ、地理学にとっては大変なことですね。
まさに画期的な出来事だと思うんですけれども、その世界中の地形のデータというのは、実は従来にもいくつか存在しています。
ただ、今回のは精度がものすごく高いというのが重要です。
なぜ、アメリカがこれだけ精度の高いものを作ろうとしているかというと、やはりそれは、いろんな応用に使えるということがあると思います。
1つは、災害のような問題ですね。
洪水であるとか、そういうものもありますし、あるいは、先ほど山梨の例で出てましたけども、地形によって水の流れ方が決まってくる。
水資源の問題、あるいは人の生活の場でもありますから、そういうのと関連した、いろいろなビジネスの問題。
あるいは、軍事とか、そういうことにも絡みますので、できるだけ精度の高いデータを作りたいという、そういう目的があるんだと思います。
特に日本の場合を考えますと、自然災害が非常に多いですから、こうした精緻な地形のデータが出てくることによって、どういうことが期待されますか?
日本にはいろんな災害がありますけれども、一つ大きなものは地震があります。
地震を起こす一つの原因が活断層ですけれども、その活断層が、特に主要なものは、線上の地形として現れます。
これを従来も、いろんな人が探してきたんですけれども、森林に覆われていたりすると、分からなかったわけです。
ただ今回のような航空レーザー測量で、森林の下の形も分かるということになると、あらたな地震の震源が分かるかもしれないということがあります。
先ほど津波とか洪水って、ちょっと申しましたけども、これが微妙な高さの差によって、発生のしかたが変わるので、やはり防災上、きちんとした3D地図を作るということが重要です。
さらに土砂災害ですね。
山崩れとか、土石流とか、地滑り、これは斜面がどれだけ傾いているかとか、あるいは水がどれだけ集まるかということに左右されますので、やはりその3D地図をきちんと作るということが、すごく日本の防災にとって重要になります。
そして、いったん災害が起きたあと、とりわけ、二次災害などが懸念される場合なども、役に立ちそうですね。
例えば、山が崩れて、それがもう一回崩れるかどうかというのは、かなり重要な問題なんですけれども、崩れたあとに、すぐ飛行機を飛ばして、レーザー測量をすることによって、短期間のうちに新しい地形のデータが取れます。
それを使って、再度強化することによって、そういう二次災害などの防止に役立ちます。
そうしたらなぜこんなに精緻な地形の地図が作れるようになったんですか?
レーザーを測量に使ったアイデアはかなり前からあったんですけれども、一つの大きな問題は、レーザーを当てて、跳ね返ってきたものを、受信する必要があるんですけども、地表の条件によって、非常に左右されて、あまりうまく跳ね返ってこない場合が多かったんです。
初期のころは、そういう問題があったので、測る場所にプリズムを置いて、しっかり反射させるようにして、そこだけ測ったということです。
ただこれはプリズムを動かさなければいけないので、大変なことだったんですけれども、そのへんの送信と受信の技術が上がってきて、広い範囲を一気に測れるようになった、そういうこともあります。
なるほど。
この地図力をどうやって高めて、新たな価値を生み出すことができるのか。
日米で始まった取り組みをご覧ください。
3D地図を活用した新たなビジネスが次々に誕生しているアメリカ。
このITベンチャー企業が目をつけたのは、州政府が公開していた都市の3D地図です。
この地図を独自に開発したソフトで解析しソーラーパネルの設置に必要な屋根の傾きや方角面積などの情報を入手しました。
屋根に表示された黄色の点は1年を通して太陽光が最も当たる場所を示しています。
さらに初期費用と発電量のバランスからこの建物では10年で元が取れると一瞬で表示されました。
無料で公開されていた3D地図をビジネスに結び付ける。
今では全米7都市で事業を展開しています。
この会社のサービスを使って去年、ソーラーパネルを設置した家庭です。
発電量が十分あり、電気代も大幅に削減できることから導入に踏み切りました。
この会社は今後世界各国でビジネスを展開。
2年後には、設立時の35倍約17億円の売り上げを見込んでいます。
3D地図のデータをどう生かすのか。
その鍵となるのが地図力です。
アーカンソー州の公立小学校では2年前から3D地図を使った授業が全学年で行われています。
まず3D地図のデータを3Dプリンターで印刷します。
生徒たちが使っているのは3D地図を閲覧するための最新のソフト。
大手のソフト会社が無償で全米の学校に提供したものです。
生徒たちは何が自分たちの生活に役立つのかアイデアを出しながら地図を作っていきます。
地図力を高めることで3D地図から新たな価値を生み出そうとしているのです。
一方の日本。
3D地図の導入はおろか地図教育自体あまり行われていないのが現状です。
高校では現在、世界史が必修で日本史と地理は選択科目です。
そのため約半数の学生は地理を学ぶことなく卒業していくとされています。
去年、日本学術会議はオープンデータを活用した教育を行い地図力を高める必要があると提言しました。
静岡県のこの高校は3D地図を使った新たな授業を試みています。
教室いっぱいに広げたのは巨大な布に印刷された富士山周辺の3D地図。
自分たちの住む地域がどのように作られどんなリスクがあるのか地形の凹凸からその特徴を読み取る地図力を養っているのです。
アメリカの取材を見てますと、本当にビジネスへの活用の期待が大きそうなんですけれども、どんなアイデアが、例えば、ありますか?
そうですね、今、出ていなかったものの中では、例えば農業がありますけれども、農業は土地の上でいろんなもの作りますので、土地の傾きによって、日射量ですとか、あるいは土壌の水分が変わったりします。
そういうのがすごく重要な分野があって、例えば、ワイン用のぶどうの生産です。
ワインのぶどうって、ご存じのように、いろんな種類があって、しかもぶどうの作り方も、たくさんの種類があるんですけれども、それが今、データとしてこういう所に植わってるというのと、この3D地図の地形を組み合わせる、再評価することができると思います。
例えば、本当はこの種よりも、この種を、日射量から見て、変えたほうがよい、そのようにして最適化することによって、よいぶどうを作って、さらによいワインを造るというような動きが今、アメリカなどで出てきています。
そうするとポイントは、その地形のデータプラス、ほかのデータですか、そのビジネスにつながるのは?
そうですね。
もう一つの例としては、地形のデータと道路とのデータを組み合わせる。
これによって、交通との関係が出てきます。
例えば、そのエネルギーの問題を考えるときに、傾斜の、要するに急な道を回ったりとか、これ普通の2次元の地図だと、距離しか分からないんですけれども、高低差が実はガソリンを使うのに関係してるとか、そのような詳しい評価ができるようになって、ビジネスの効率化とかにもつながっていきます。
日本でもその3D地図と、そして建物の情報があれば、先ほどの太陽光パネルをどうやって効率的に、どれだけの発電量が期待できるかっていうことも分かるようになります?
ただ、日本の場合には、国土地理院とかが、伝統的に建物を除いたデータだけを公開してます。
だから現在は、その応用が難しいんですけれども、そういう建物のデータも含めて、これから出していけば、そういうビジネスが展開できていくと思います。
それにしても、アメリカは小学生のときから週5日間、地理のこうした3D地図を使って勉強してるんですね。
どんなことを子どもたちに教えようとしているんでしょうか?
これはやっぱり、その地理学というものが持つ価値というのも、アメリカではすごく高く評価してると思います。
社会科の中で、地理が空間を扱って、歴史が時間を扱う。
これが縦糸と横糸の関係になって、これを両方しっかりやっていかないと、社会を理解できないという認識があるんだと思います。
そういう点で、日本もこういう3次元地図、3D地図が発展していくという中で、大きな宝の山があると思うんですけれども、それを活用するためには、やはり地理の力を持った人を今後、どんどん育てていかないといけないんだと思います。
そして、そのデータを公開されていますけれども、容易に使いやすくする制度というのは、整っていますか?
そのへんも今、ずいぶん、よくなってきてますけれども、やはりアメリカとは歴史が違うので、今後、よりよくしていく必要はあると思います。
2015/02/05(木) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“地図力”が社会を変える!」[字]

今、個人の地図力を高め、防災強化や新たな産業創出を目指す取り組みが進んでいる。地面の凹凸を立体的に描き出す3D地図の活用で社会はどう変わるのか。最前線に迫る。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東京大学空間情報科学研究センター センター長…小口高,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東京大学空間情報科学研究センター センター長…小口高,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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