アスリートの魂「ふるさとに誓う勝利 バドミントン 山口茜」 2015.02.05


家の裏山にあるしいたけを取りに来た女の子。
(山口)一番いいしいたけ。
少女は世界を舞台に戦い続けるアスリートです。
(場内アナウンス)「フロムジャパン。
アカネ・ヤマグチ!」。
(拍手と歓声)この冬女子バドミントンの世界のトップを決める戦いに日本人で唯一挑戦権を獲得しました。
結果は堂々の3位。
去年世界で最も躍進した選手に選ばれました。
武器は小さな体に秘められた底知れぬパワー。
矢のようなジャンピングスマッシュ。
高くジャンプしながらスマッシュを打てる女子選手は世界でもほとんどいません。
更に…スマッシュと見せかけてのフェイントを左右に打ち分け相手を翻弄します。
しかしこの1年徹底的に研究され克服すべき弱点が次々と見つかりました。
返すのが精いっぱいの苦手なゾーン。
(実況)こういう所狙ってきた。
(解説)うまいですね。
勝負どころで勝ち急いでしまい雑になるプレー。
アウト!苦しむ山口選手の力となったのはふるさと勝山の人たちの応援でした。
小さな町から世界に羽ばたく山口選手に夢を託しみんなで支えてきました。
リオデジャネイロ・オリンピックまであと1年。
ふるさとに成長を誓って臨んだ12月の全日本総合選手権。
頂点に上るまでの知られざる1年を追いました。
福井県の北東部山あいにある勝山市。
12月市民が集まり山口選手の優勝を祝う会が開かれました。
(拍手)4日前の全日本選手権で優勝したのです。
これからも自分らしく楽しんでプレーして皆さんに元気とか明るい話題をお届けできるように頑張っていきたいと思います。
これからも応援よろしくお願いします。
(拍手)勝山では3年前山口選手を育てる会を結成。
遠征費を募金で集めたりしながら応援を続けてきました。
茜ちゃんおめでとう。
よかった。
頑張ったな。
よかった。
ここまで活躍するってすごいねって今。
小さい時の事を思うと。
山奥の小さな町からですねこういう世界に名をはせるような人たちが出てくる事はこれはもう大きな宝物ですよ。
はい!
(一同)おめでとう〜!山口選手がその名をとどろかせたのは2年前。
世界のトッププレーヤーが集まった国際大会での優勝でした。
(実況)16歳高校1年生の山口茜選手。
大会に出場した時山口選手の世界ランクは145位。
しかし2回戦で世界ランク7位の選手準決勝で8位の選手を撃破。
決勝でも2対0のストレートで勝って優勝しました。
(実況)いい角度だ!
(解説)シャトルの下にスッと入る…。
(実況)ここは打田がもう一回作り直す形になっています。
いいコースに行きましたがどうだ?
(実況)ネットに掛かった〜!16歳3か月。
大会優勝の最年少記録を塗り替えました。
(実況)日本人選手として初めてのジャパンオープン優勝。
山口選手の強さの秘密はどこにあるのか。
身長は156センチ。
バドミントン選手としては決して大きいとはいえません。
しかしハンデを補うのがこのジャンピングスマッシュ。
右足に全体重を乗せためを作り思い切りジャンプ。
宙で反り返り戻る力でスマッシュを打ち込みます。
更に強烈なスマッシュがあるからこそ効くのがフェイント。
スマッシュを打つと見せかけてちょんと左へ。
右へ。
(拍手)スマッシュが来ると身構える相手は意表をつかれ拾う事ができません。
山口選手の自宅は市街地から車で20分の山の中にあります。
部活が終わるとすぐに家に帰ってきてマンガを読んだりゲームをしたりして過ごす事が多いといいます。
ふだんはおとなしくて飾り気のない性格。
家で過ごす時はほとんどジャージー姿です。
私服あんまり持ってないんで買いました。
ジュニアの時はジャージーで海外とか移動するんですけどナショナルチームの人はみんな海外行く時私服で移動するんで。
自分だけジャージーだとちょっとあれかなと思って。
バドミントンを始めたのは3歳の時。
体を鍛えさせようと両親は積極的に勧めてきました。
最初の頃は…今もですけどバドミントンが大好きで大好きでバドミントンができないと泣いたりしてんな。
籠いっぱいのシャトル空になるまでずっとやってこっちが嫌になってやめようっつってももっとやるって言うので。
すごく大変でした。
小さい頃の山口選手です。
どんな球も楽しそうに打ち返していました。
大きくなったら?バドミントン選手になりたいと思います!その後めきめきと力をつけた山口選手は小学校中学校で全国制覇。
「勝山に山口あり」と言われるようになりました。
今通っているのは地元の勝山高校です。
進学の時には全国の強豪校から誘いがありましたが迷わず地元を選びました。
バドミントン部の部員は17人。
半数が小学生の頃から切磋琢磨してきた幼なじみです。
慣れ親しんだ仲間たちと毎日2〜3時間の練習。
この環境でこそ自分らしい伸び伸びとしたプレーが続けられます。
町ぐるみでバドミントンを盛り上げてる地域なんでそこで育ってきた一人の人間として地元で地元の選手と一緒に頑張りたいって思いはやっぱりあったし。
北陸福井でも屈指の豪雪地帯として知られる勝山市。
冬の間屋外での運動が難しい中で盛んに行われるようになってきたのがバドミントンです。
きっかけは昭和43年の国体で競技会場に選ばれた事でした。
以来老若男女がバドミントンを楽しむようになりました。
中でも勝山の象徴となっているのが市内12の小中学校の子どもが集まるクラブです。
教えるコーチはふだん会社員や消防士をしている先輩。
今もアマチュアの全国大会で優勝するほどの実力者が指導に当たっています。
山口選手も長年クラブで技を磨いてきました。
その師弟関係は今も続いています。
この日は3人の先輩がレシーブ力を鍛える練習につきあってくれました。
毎日誰かが必ず部活に顔を出してくれます。
応援はしてるけどプレッシャーは与えてないし愛情を持って教えてるのは勝山市のコーチだけかなと思いますんでやっぱ茜はそういう勝山が好きなんじゃないですかね。
地元勝山で鍛えられ世界で活躍するまでになった山口選手。
しかし1年前の冬大きな壁にぶつかりました。
世界を驚かせた国際大会の優勝から3か月。
日本の女王を決める全日本選手権。
(実況)今年9月のジャパンオープンで優勝。
準決勝の相手はこの大会を5度制している廣瀬栄理子選手でした。
(実況)この全日本総合では5回の優勝を数えます。
試合が始まると廣瀬選手は山口選手が苦手とする所を執ように攻めてきました。
それは山口選手の利き手側コート奥のフォア奥と呼ばれるゾーンです。
半身で腕を伸ばして打ち返さなければならないフォア奥。
リーチの長さと腕力が要求されるフォア奥が弱点である事を廣瀬選手は知っていたのです。
廣瀬選手は執ようにフォア奥を攻め続けます。
(拍手)フォア奥から返しコート中央へ戻ろうとすると…。
またフォア奥。
体勢を崩された山口選手。
正面に返すのが精いっぱい。
廣瀬選手の狙いどおりです。
(実況)第2ゲームでは最大の点差がつきました。
ゲームカウント0対2。
完敗でした。
(実況)終始ペースを握って…。
あんまり自分のプレーが出せなかったので常に相手のリズムで試合が進んでたのであんまり楽しいというか…っていう気持ちは持てなかった。
国際大会の優勝から一転まだまだ足りないものがある事を思い知らされました。
敗北から2週間。
フォア奥を攻められた時どうすればよいか。
山口選手は対策に取り組み始めました。
1年後の全日本選手権までに弱点を克服しなければオリンピックへの出場も危ぶまれます。
監督が提案したのはクロススマッシュでした。
山口選手はフォア奥を狙われると拾うのがやっとで相手の正面に返す事が精いっぱいです。
クロススマッシュは劣勢を挽回するための一打です。
フォア奥から逆サイドに打ち返す事で形勢を逆転する事が可能になります。
まずフォア奥からクロススマッシュをしっかり決めにいけるクロススマッシュを打てるっていう事が重要になってくると思います。
クロススマッシュを打つにはまず今よりも速く落下点に入るフットワークが必要になります。
そのための練習相手を買って出てくれたのが千京尚将さんでした。
先輩たちの中でも一二を争う速さのフットワークを持つ千京さん。
そのラリーについていく事でスピードを高めていきます。
フォア奥へ球を集める千京さん。
山口選手はそこからクロススマッシュを打ち返す練習を繰り返しました。
相手をいかに崩すかとかいかに相手に攻撃させないかとかそういう事を考えてやってるつもりです。
山口選手は毎日の練習時間の半分を男子の先輩との特訓に充てクロススマッシュの完成度を高めていきました。
フォア奥の対策を始めて半年。
山口選手は再び国際大会に臨みました。
フォア奥を克服できているか成果を確かめる戦いです。
世界ランクトップテンのうち上位8人がエントリー。
ハイレベルな戦いとなりました。
1回戦山口選手はいきなり強敵と戦う事になりました。
李雪選手。
身長174センチの23歳。
長身から繰り出す鋭いショットでロンドン・オリンピック金メダル。
世界ランク1位に君臨する女王です。
試合開始。
最初のラリーで李選手がフォア奥をついてきました。
素早くシャトルの下に入り込む山口選手。
(拍手)クロスショットが決まりました。
これで勢いに乗ります。
(拍手)ネット前の攻防も好調。
スマッシュもさえ渡ります。
第1ゲームを21対17で奪いました。
第2ゲームも勢いは止まりません。
この日一番沸いたのはこのラリー。
(拍手)思わず世界女王も座り込んでしまいました。
しかし李選手も意地を見せ第2ゲームを奪取。
ゲームカウント1対1で迎えた第3ゲーム。
17対16で山口選手が1点リードした場面。
もう一点取って流れをつかめば世界女王に勝つ事ができます。
最初のレシーブ。
強引に放ったショットは…。
アウト!勝ち急ぐ気持ちが持ち味のコントロールを狂わせました。
そこから先…このミスで気持ちが折れたところに李選手が攻め込んできます。
逆転。
17対18。
山口選手は気持ちを立て直せないままミスを重ねます。
結局18対21で勝利を逃してしまいました。
(拍手)相手からのプレッシャーだったり…勝機が来るまで我慢する気持ちの強さ。
新たな課題が浮き彫りとなりました。
その後の国際大会でも連続で1回戦負け。
一時は48位だった世界ランクも70位前後を低迷。
勝ちたいという焦りから勝負を急いでミスで落とす試合が続きました。
8月山口選手は日本代表の合宿に参加しました。
リオデジャネイロ・オリンピックでメダルを取るためにも精神面の強化は欠かせません。
この合宿で課題を克服したいと考えていました。
相手がミスをしてチャンスが来るまでラリーを続ける我慢強さ。
それを可能にするためには長いラリーについていく持久力が欠かせません。
何としても課題を克服したい。
山口選手は自らを追い込み練習を重ねていきました。
その後も山口選手はなかなか手応えをつかめずに世界の舞台で苦しい戦いを続けていました。
勝山の人たちはそれでも山口選手の復活を信じて応援し続けました。
海外での試合結果を食い入るように見つめ復活の日を待ち続けていました。
やっぱり気になります。
旦那もコーチしてた時があるんで茜ちゃんの。
やっぱり旦那もすごい気にしてるんでいろいろ聞きますね。
(取材者)昨日負けちゃったの知ってる?茜ちゃんに勝つ人がいるんだって思いました。
中でもひときわ山口選手を気にかけている人がいました。
地元の先輩の一人7歳の頃から指導してきた上田健吾さんです。
上田さんはかつてスランプを乗り越えてきた山口選手の姿を何度も見てきました。
小学生の時山口選手はほかの子よりも身長が高くスマッシュを拾える相手はいませんでした。
しかし中学に上がる頃から成長が止まり体格の差がなくなるとスマッシュが通用しなくなっていきました。
その時スマッシュ以外のプレーを教えたのが上田さんでした。
(上田)打ち過ぎやぞ切る!山口選手はアドバイスを忠実に受け止め壁を乗り越えていきました。
あの時と同じように茜ならば壁を乗り越えられる。
上田さんはそう信じて励まし続けていました。
中国での大会中に山口選手から届いたメッセージ。
(上田)「あっかんべー出来るぐらいの気持ちのゆとりを持って自分らしくマイペースで行きたいと思います!」と返ってきました。
ふだんしゃべらないんですけどLINEでは結構面白い事言うんですよ。
気持ちを落ち着けたい山口選手に対し上田さんは返します。
(上田)とにかく「自分のプレイに専念できればイケる」と。
まあこっちは高校の新人戦だったんでお互いに頑張ろうぜみたいな事を言って。
自分のプレーに専念できればいける。
お互いに頑張ろう。
再び目の前ですばらしいプレーを見せてくれる事を待ち望んでいました。
うちらも…全日本選手権まで1週間を切った11月下旬。
海外遠征後のつかの間の休息を惜しんで高校で練習する山口選手の姿がありました。
久々の地元での練習です。
この日は同級生と一緒にプレーしました。
しばらく見せなかった笑顔がこぼれます。
男子の先輩2人も練習相手になってくれました。
ラリーを通じて思いを届けていました。
いつものように迎えてくれた先輩や仲間に山口選手は勝利への思いを強くしていました。
本当にいつも相手してもらったり応援してもらったりしてるので結果はどうなるか分からないんですけどまずは自分の精いっぱいのプレーをやって成長を見てもらったり伝えたりする事で今の時点での感謝を伝えられればいいなと思います。
全日本選手権当日。
フォア奥を攻められ完敗してから1年。
フォア奥に加えメンタルの弱さという新たな課題にも直面した山口選手。
客席には山口選手の戦いを見守ろうと勝山から家族や先輩が来てくれました。
決勝までの4試合。
強烈なショットがさえ渡ります。
(拍手)フォア奥からの返しも磨きがかかっていました。
1年前は正面に返すだけだった場所から逆サイドに打ち込むクロスショットをここでも見せました。
準決勝まで1ゲームも落とす事なく全てストレートの圧勝で勝ち上がります。
(実況)ネットに掛かって山口勝ちました!山口茜全日本総合初めての決勝進出を決めました!決勝の相手は日本ランク1位世界ランク13位の三谷美菜津選手です。
素早いフットワークに正確で多彩なショット。
ここまで全試合をストレートで勝ち上がってきました。
この日のために努力し続けてきた1年。
ふるさとに成長を見せるための勝負が始まります。
試合が始まると山口選手が磨き上げてきた技術で主導権を握ります。
(実況)追いつけません。
勝山の先輩たちと鍛えてきたフォア奥は日本ランク1位の女王をも圧倒します。
第1ゲームを21対11という大差で山口選手が先取しました。
第2ゲーム。
(実況)おおっとクロス逆をついた!動けず山口。
(実況)返す。
たたきつけた。
両者相譲らず17対17の同点。
一進一退の攻防です。
先にポイントを奪ったのは山口選手。
競り合いを抜け出すチャンスが巡ってきました。
勝利へはやる意識。
その時でした。
「ここが勝負じっくり攻めろ」。
勝山の先輩の一声でした。
頑張れとかも分かってるんですけど言葉に出して言ってもらう事でしっかり気持ちが持ててよかったです。
次のラリー。
三谷選手のレシーブが浮きます。
以前は力んでスマッシュにいったコース。
しかし…。
無理に打たずラリー。
相手を崩したところでこん身のスマッシュ。
競り合いを抜け出しました。
次のラリーも制し20対17。
一気に王手をかけました。
そして…。
(実況)ネットに掛かった!山口茜初優勝!17歳で日本一のタイトルを手にしました。
新たな課題にぶつかりながらも戦い続けた1年。
ふるさとの応援で乗り越えました。
ついにつかんだ日本一の称号。
(取材者)今自分にご褒美をもらえるとしたら何が欲しいですかね?物でなくてもいいんですけど。
できる事ならテストを免除して頂きたいですけど。
はいテスト頑張りたいと思います。
勝山で練習を再開した山口選手。
70位台で低迷していた世界ランクは12位まで上昇しました。
次の目標は来年に迫ったオリンピックで更に成長したプレーを見せる事です。
やっぱりそういう意味で…山口茜選手17歳。
これからも戦い続けます。
支えてくれるふるさとのために。
地球最強の鳥イヌワシ。
2015/02/05(木) 01:45〜02:30
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「ふるさとに誓う勝利 バドミントン 山口茜」[字]

バドミントンの国際大会を史上最年少優勝するなど成長著しい17歳の山口茜選手。翌年に迫ったリオ五輪に向けて、自らの弱点を克服しメダル獲得に挑む姿と素顔に迫った。

詳細情報
番組内容
バドミントンの山口茜選手は、小柄な身長ながら卓越したフットワークと正確なショットで数々の栄冠を手にした。しかし国内最高峰の全日本選手権は優勝に手が届いていなかった。課題は苦手なゾーンの対応と、ここ一番の気持ちの弱さ。弱点の克服のため苦闘し続けた一年。上位進出しなければリオ五輪の道も閉ざされるという12月の全日本で見事優勝を飾った。少女が頂点に上りつめるまでの成長の軌跡を追った。【語り】山本耕史
出演者
【語り】山本耕史

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – その他の球技
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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