横浜市教育委員会が映画『標的の村』上映会の後援を取りやめたことについて

2015年2月13日

横浜市教育委員会が映画『標的の村』上映会の後援を取りやめたことについて
合同会社東風の見解

(長文になります。すみません!)

本日、2015年2月13日(金)の産経新聞社会面に「横浜市教委、映画上映会の後援取りやめ」という見出しの記事が掲載されました。「映画」というのは 琉球朝日放送製作し、僕ら東風が配給している三上智恵監督の『標的の村』のことでした。「上映会」は、横浜キネマ倶楽部主催で、2月28日(土)に横浜市 西公会堂で開催予定のものです。

その記事はこちら↓紙面とWEB「産経ニュース」とでは見出しが異なります。
http://www.sankei.com/politics/news/150213/plt1502130033-n1.html

僕らはこのことを通信社からの取材の電話ではじめて知りました。その後、他の新聞社からも取材の電話があったので、まずは、ことの経緯の事実確認をすることにしました。こういうケースでは、見解を発表したり、コメントをする前に、まずは報道内容が事実かどうかを確認しなくてはならないからです。

まず、お昼頃に、横浜キネマ倶楽部の僕らが直接やりとりしている上映会の担当者に連絡したところ、その電話で今回の件を知って驚いていました。まだ情報がシェアされていないということだろうと思いました。

次に、午後になって、横浜市教育委員会の生涯学習文化財課の石田課長に電話で問い合わせてみました。「産経新聞に書かれていたことは本当ですか」とお聞きしたところ、要訳すると次のようにお話されました。

「正しい部分と、そうではない部分があります。『後援を疑問視する声』は、メールで10数件、電話は私が対応したものだけで4~5件ありました。それを受 けて、横浜キネマ倶楽部に今後の印刷物や告知の際には後援という表記を出さないでほしいというお願いをしました。これまで作った印刷物をさかのぼって回 収、訂正してほしいということではありませんので、後援を『取り消した』のではなく、『撤回した』という言い方のほうが正しいかと思います。
このような判断をしたのは、記事に書かれているように『「特定の政治活動に関する事業でないこと」という後援条件にそぐわない』からではありません。しか し、予告編やチラシの解説などを見て、また横浜キネマ倶楽部の代表とのお話から、『中立性の観点から市教委としては、オスプレイ配備について賛成、反対の 判断をしているかのように見えるかもしれない上映会の後援をするのは不適切だ』と判断しました。昨夜(2/12)に、横浜キネマ倶楽部の代表者たちと会って相談し、ご理解をいただきました。産経新聞からの取材の電話は、横浜キネマ倶楽部さんと相談してそのような判断をした後、すぐにありました。映画の内容 そのものがどうこうというお話ではありません。まだ市教委は誰も映画本編を観ていないからです」

そして、あらためて3時過ぎに、今度は横浜キネマ倶楽部の代表者に、経緯をお聴きしたところ次のようにお話をされました。

「2/12(木)に市教委から後援を取り消したいという連絡をもらって、夕方に会って話しました。当然そんなこと、承諾できるわけがないじゃないですか。だから、『はいそうですかとは言えない』とお答えしました。
ただし、こちらはこれからも市とのつきあいもあるので、もしも今後の対応についての要望があればおっしゃってくださいと言いました。そうしたら、1.上映 会当日の看板には後援の表記をださないでほしい。2.HPから後援の表記を外してほしい。以上2点の要望があったので、それは承諾しました」

さて、まず産経新聞の記事で、僕らが調べたことと矛盾するのは、横浜市教委がこのような判断をしたのは、『「特定の政治活動に関する事業でないこと」という後援条件にそぐわない』からではない、ということです。ほかは、「取り消し」なのか「取りやめ」なのか、等々の違いはありますが、記事は概ね正しいよう です。

ちなみに横浜市教育員会の後援条件はこちらからご覧いただけます↓
http://www.city.yokohama.lg.jp/kyoiku/soudan/pdf/kouenshinseiannai.pdf

さて、ここからが今回の件を受けての東風の見解です。

そもそも、人はあらゆる映画から、作り手の意図を越えて、政治的、思想的、倫理的なメッセージを読み取ることが可能です。そしてその読み取り方は、見た人 それぞれで異なります。そこが映画の面白いところの一つです。ですから、こればかりは見た人たちそれぞれが、それぞれの責任において受け止め、判断するし かない。これが大前提です。

とはいえ、現実問題として、今回のように上映会の後援団体や主催者に、市民などから「疑問視する声」が集まれば、それに対して何らかの対応が必要だという ことは理解できます。しかし、どのような対応をするのが『より公正であるのか』ということは、よくよく考えていただきたい。すくなくとも映画作品を見たうえで判断していただいきたい。と僕らは考えています。

もしも、横浜市教委の石田課長がおっしゃるように「オスプレイ配備についての賛成/反対の判断をしているかのように見える」ことを危惧するのであれば、横 浜市教委自体は「賛成/反対の判断をしているわけではない」ということを「疑問視する声」を寄せた人たちに情理を尽くして説明していただきたいと思いま す。その声に一つ一つ対応することが業務に支障をきたすのであれば、横浜市教委としての見解をHPやSNSなどを通じて表明するなど、現実的な対応策が考 えられるはずです。

また、すくなくとも、大きな政治問題、社会問題が目の前にあるとき、そのような問題を市民が考えるきっかけとなる場をもうけることに対して「後援」をする ことは、市教育委員会にかぎらず、あらゆるパブリックな役割をになう組織・団体として、理にかなったことだと思います。

どうしても中立性を担保する必要があるのであれば、引き算ではなく足し算で、つまり市民がより多様な意見や作品に触れる機会をつくることによって、それを為すべきだと思います。

もしも、僕ら東風が配給している映画作品の上映に関して、今回のようにお困りのことがあれば、いつでもご相談ください。こういうことって、いろんなプレッシャーや関係性があって、ひとりではなかなか最適解を見いだせないことがよくあります。

だから、僕らには、映画を上映してくれる人たちと、できるかぎり一緒に悩んだり、考えたりする準備があります。

きっと日本国憲法第12条にある「不断の努力」というのは、こういう日々のちょっとした出来事に対して、より公正であろうとする労を厭わない、そういう態度のことを言うのだと思います。

以上、長文失礼しました。
最後まで読んでくださった方、どうもありがとうございました。

 

2015年2月13日(金)合同会社 東風

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