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どう防ぐ 認知症による逆走事故

2月13日 15時35分

島契嗣記者・石井大智ディレクター

高齢者が運転する車が高速道路で“逆走”し、事故に至るケースが相次いでいます。
「高速道路の逆走」は毎年200件前後起きていて、去年は人身事故が22件と過去最悪になりました。
このうち、逆走を起こした人のおよそ7割は高齢者で、なかでも「認知症またはその疑いがある」ケースが多く見られます。
認知症のドライバーが逆走して死亡事故を引き起こすという深刻なケースも実際に起きています。
逆走はなぜ起き、それをどう防ごうとしているのか。
長野放送局の島契嗣記者と「おはよう日本」の石井大智ディレクターの報告です。

逆走の悲劇

おととし8月、長野県麻績村の長野自動車道で、高齢者の逆走による死亡事故がありました。
上り線を逆走してきた乗用車がオートバイと正面衝突。オートバイに乗っていた男性が死亡しました。

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乗用車を運転していた60代の女性に、事故や逆走の記憶は全く残っていませんでした。女性は“認知症”でした。
捜査の結果、検察は去年12月、女性を不起訴にし、死亡した男性の遺族は、不起訴の理由について、検察から「本人に事故を起こした認識がなく、裁判で罪に問うことができない」と説明を受けました。

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死亡した男性の妻は「認知症で、事故を起こしたことが分からないという現実はあるにしても、それで不起訴になってしまうことには納得できない。夫が死亡した事故が社会的に軽いものとして扱われるような気がして残念だ」と話し、割り切れない思いを抱いています。

認知症なのに運転?

なぜ、こうした事故が起きてしまったのか。
事実を明らかにしてほしいという遺族の求めもあり、逆走事故を起こした女性の夫がNHKの取材に応じました。
女性は、事故の1年以上前に、医師から“認知症”と診断されていました。
しかし、買い物など日々の暮らしに車が欠かせないことや、自宅周辺だけなら問題はないだろうと考え、運転をやめさせることはありませんでした。
女性の夫は「車を取り上げてしまうと、妻の認知症の症状が進むのではないかとか、悲しがってどこかに歩いて行かれても困るなどと考えてしまった。運転はさせるべきではなかった。取り返しのつかないことをしてしまった」と話しました。

なぜ逆走してしまうのか

認知症の人はどのようにして逆走を起こしてしまうのか。
そのメカニズムを研究している高知大学医学部の上村直人講師によると、認知症の症状によって逆走が起きるパターンはいくつかあると言います。
例えば、「アルツハイマー型」認知症の場合、空間を認識する能力が低下します。
方向感覚がなくなってしまうため、パーキングエリアなどから本線に戻るとき、出入り口が分からず、標識も認識できなくなり、逆走してしまうことがあると言います。

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大脳の一部が萎縮してしまう、いわゆる「ピック病」の場合、「自分の欲求を抑えられなくなる」などの特徴があります。
そのため、降りる出口を誤って通り過ぎてしまったとき、交通ルールを無視してでもUターンして逆走してしまうとみられています。

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上村さんは「認知症になった本人が『運転能力が落ちてきた』とか『事故が起こりやすくなった』などと自覚することは難しい。認知症は早期発見がいちばん大事なので、家族が『運転させるのは少し危険かな』と気付いてあげることが必要だ」と指摘しています。

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逆走を防ぐ対策

一方、重大事故につながりかねない逆走を防ごうという対策も始まっています。

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過去、何度か逆走が起きた高知インターチェンジ。
認知症のドライバーが進行方向を間違えないようにできないかと考え、路面に、進行方向を示す大きな矢印を新たに示しました。
認知症の場合、文字が認識しづらいこともあるため、矢印のみにしました。
進行方向を強く意識させるため、視線の先にも矢印の看板を追加。
本線との合流部には、Uターンしづらくするためのラバーポールも設置しました。

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夜間にはヘッドライトで光るような工夫も凝らしてあります。
国土交通省と高速道路各社では、逆走が何度も起きたインターチェンジなど、全国33か所をピックアップし、3月末までをめどに急ピッチで改修工事を進めています。

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また、認知症の疑いがあるドライバーを発見しようという取り組みも進められています。

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路肩に停車したり、極端に遅い速度で運転したりするケースが多いという認知症のドライバー。
そうした人を発見した場合にどう対応するのか、ネクスコ・パトロール長野事業所では隊員全員が学んでいます。

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認知症の疑いがあるかどうか、速やかに聞き取りを行い、確認されれば警察や家族に連絡。
事故が起きる前に、家族に危険性を認識してもらうことにしています。

免許制度の見直しも

警察では免許制度の見直しを進めています。

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「75歳以上の高齢者」が免許更新時に受ける検査で、「認知症の疑いがある」と診断された人全員に、「医師の診断」を義務づけます。
医師が認知症と診断すれば、「免許の停止または取り消し」が行えるよう、法律の改正作業を行っています。

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また、警察では、認知症の人や、運転に自信がなくなったという人に対して、運転免許証の「自主返納」を勧めています。
返納すると、代わりに「運転経歴証明書」が発行されます。
タクシーや、バスの定期券の割引などが受けられることもあり、申込者は急増しています。
高齢社会が進むなか、より深刻化する「認知症による逆走」の問題とどう向き合うのか。
今後さらに問われていきます。


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