高齢者への虐待件数が2013年度、約1万6千件だったことが厚生労働省の調査で分かった。前年度を4%上回り、調査開始以来3番目に多い数字だ。
被害にあった高齢者の多くが、認知症の人だった。誰もが安心して年をとっていけるよう、認知症対策を急ぐなど、社会をあげて防止策を考えていく必要がある。
調査は高齢者虐待防止法に基づき06年度分から行われている。被害の大半は、家族や親族による虐待で、介護疲れやストレスが背景にあるケースが多かった。
一方、介護保険サービスを受けていると、虐待の深刻度が低い傾向もあった。介護する人を孤立させず、適切なサービス利用や支援につなげる対策が不可欠だ。
見逃せないのは、介護職員による虐待が過去最多の221件だったことだ。なかでも30歳未満の若手職員の割合が高く、認知症への知識不足が虐待につながるケースが目立つ。
高齢化に伴い、認知症の高齢者の数は急速に増えていく。厚労省の推計では、25年には高齢者の5人に1人、約700万人となる見通しだ。政府は1月、認知症対策の国家戦略をまとめた。認知症に詳しい職員を養成することは、虐待の未然防止はもちろん、早期発見のためにも急務だ。
高齢者の尊厳を守るためには、対策の中心となる自治体の体制を整え、警察や法律関係者らさまざまな分野の専門家との連携を深める必要もある。成年後見制度も、もっと活用されていい。
地域住民にもできることはある。日ごろから認知症について学び、見守り活動などに参加することは、高齢者やその家族への支えとなるだろう。
高齢者への虐待は密室性が高く、表面化しにくい傾向がある。調査で出てきた件数が少ない自治体も、見逃しているケースがあるのではないかと危機感を持ち、防止策を十分に考えなければならない。ひとつずつ対策を積み重ね、虐待をなくしたい。