安倍晋三首相は外交・安全保障や憲法問題で、どんなメッセージを発するのか。戦後七十年の今年は特に、国内外が注視する。施政方針演説で自身の言葉で語らねば、議論の始めようがあるまい。
今後一年の内政・外交方針を示す施政方針演説である。例年、一月下旬に行われるが、今年は衆院選の影響で約三週間遅れだ。
字数にして約一万二千三百字。一九八九年以降の平均約一万九百字を上回り、第一次を含めて安倍内閣では最多だという。内容は内政が七割、外交・安全保障などが三割という割り振りだ。
首相は演説で「改革」という言葉を三十六回繰り返し、日本史上著名な人物の言葉を引用した。
幕末の思想家吉田松陰、明治日本の礎を築いた岩倉具視、明治の美術指導者岡倉天心、戦後再建に尽くした吉田茂元首相。四人とも転換期の日本を主導した人物だ。
演説冒頭で言及した農協改革をはじめ、電力、雇用などの分野で「岩盤規制」打破に挑む自らを、歴史上の偉人に重ね合わせ、奮い立たせているようでもある。
ただ、改革と名付ければ、何でも通るわけではあるまい。国民の暮らしを豊かにするのか、という観点から、改革の妥当性は徹底的に議論されるべきだ。
首相は「この国会に求められるのは単なる批判の応酬ではなく、行動です。改革の断行です」と強調した。必要な改革は果敢に断行すべきだが、改革を批判封じの免罪符とすべきではない。
改革は冗舌に語る半面、安全保障や憲法問題では口をつぐむ。
安保法制はこの国会最大の焦点だが、首相は「あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする安保法制の整備を進める」と述べただけ。昨年の演説で触れた集団的自衛権という文言すらない。
憲法も「改正に向けた国民的な議論を深めていこう」と呼び掛けてはいるが、具体的にどんな改正を何のために目指すのか、演説からは見えてこない。戦後七十年の首相談話への言及もない。
いずれも与党内や与野党間の調整が必要で、踏み込んで語れないという事情はあるにせよ、首相が何を目指すのか明確にしなければ、議論のしようがない。
国論を二分する問題でも具体的なことを語らなければ言質を与えず、異論封じができると考えているわけではあるまい。首相演説では全く触れず、成立を強行した特定秘密保護法の前例もある。語るべきを語らぬは不誠実である。
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