社説:高浜住民説明会 行政の都合で見送るな
毎日新聞 2015年02月13日 02時30分(最終更新 02月13日 09時28分)
関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の再稼働に向けた安全審査で、原子力規制委員会が合格通知となる審査書を決定した。関電は11月の再稼働を見込んでおり、地元同意の手続きが本格化する。
疑問なのは、福井県で、審査内容に関する住民向け説明会の予定がないことだ。西川一誠知事は、原発の安全性や再稼働の必要性は「国や事業者が住民に説明・説得し、理解を得るべき事柄だ」と主張する。県が説明会を主催する考えはなく、開くなら国の責任でとの立場だ。
国が説明を尽くすべきなのは当然だ。しかし、地域住民の生の声に耳を傾け、自らの判断に生かしていくことが知事の責務のはずだ。
高浜町の対応にも首をかしげざるを得ない。町は、審査結果の内容を説明するビデオの制作を規制委に依頼した。ケーブルテレビで町民に見てもらい、説明会に代える方針だ。
九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)の地元同意手続きでは、同県などが主催して県内5カ所で住民説明会が開かれ、原子力規制庁の担当者が審査内容を説明した。住民が質問する機会も設けられた。
高浜町の担当者は「説明会は騒然として冷静な雰囲気が保てない」と言う。ビデオ説明が一方通行に終わらないか、懸念せざるを得ない。
そもそも規制委は説明会の開催に積極的に動くべきだ。田中俊一委員長は審査結果について「可能な限り広く説明したい」と話している。その一方で、「自治体からの要請が前提だ」と言うこと自体がおかしい。
高浜3、4号機の再稼働には、工事計画などの認可を規制委から受ける必要があり、西川知事は「全体をみて判断する」と述べている。
4月の統一地方選で福井県は、知事選、県議選、高浜町議選がある。西川知事は4選を目指し出馬する。再稼働への同意判断は選挙後になる見通しだ。説明会見送りの背景に、自らの選挙に再稼働問題が持ち込まれることを避けたいという思惑はなかっただろうか。
高浜原発の場合、事故時の避難計画の策定が義務付けられた30キロ圏に京都、滋賀両府県も入る。京都府側で高浜原発に隣接する舞鶴市などは、国に審査結果の住民説明会開催を求める考えだ。このままでは、立地県以外でしか説明会が開かれないという奇妙な状況になる。
西川知事は地元同意の範囲を「県と高浜町」としている。京都、滋賀は関電との協定などで「同意」権を持たないが、原発事故の被害に府県境は関係ない。政府は、事故の被害が想定される自治体や住民の意見を再稼働の決定過程に反映する仕組みを整備する必要があるだろう。