テレビ朝日の報道ステーションで原子力規制委員会が九州電力川内原発の新規制基準適合を正式決定したニュースを放送した際、事実誤認と不適切な編集があった問題で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会(以下「検証委」と略称)は2月9日、検証結果をまとめ、「客観性や正確性を欠き、放送倫理に違反する」とする意見を発表した。検証委は、担当ディレクターらの「故意」や「恣意的・作為的な編集」は確認されず、過失であったと指摘。一方で、「局側の事後の対応については迅速で、適切だった」「再発防止策はかなり具体的で、実践的。本件放送の誤りを手痛い教訓として生かそうとする真摯な姿勢がくみ取れる」などと事後対応については肯定的な評価を示している。
ただ、検証委の調査の結果、放送中に誤りが発覚していたにもかかわらず、原子力規制庁の抗議を受けるまで放置していたことが判明。さらに、原子力規制委員長が記者会見で火山の審査基準に関する記者の質問に対して回答を拒否したかのように印象づけた「不適切な編集」については、担当ディレクターが委員長の答弁を省略し、記者の質問と質問の間に「白飛ばし」と呼ばれる手法を用いるよう指示を出していたことも明らかになった。担当ディレクターは「火山の審査基準について強い問題意識を抱いていただけに、火山に質問が集中したことを強調したかった」と話しているという。だが、検証委は、同ディレクターが「抗議されるまで、そういうふうに見られるとの自覚が乏しかった」ことを理由に、当該編集は「恣意的・作為的」とは言えないと判断した。
原子力規制委員長が質問への回答を拒んだように印象づける「不適切な編集」
問題となったのは、2014年9月10日放送の報道ステーションの「川内原発 新規制基準で『合格証』」(約8分間)。同日、原子力規制委が川内原発1、2号機が新規制基準をクリアしたとする審査書が決定したことを受け、様々な問題点を約5分40秒のVTRにまとめて放送。その後半で原子力規制委の記者会見での質疑応答を取り上げ、火山に関する審査基準に疑問を呈していた。
実際の会見では、火山に関する審査基準についての複数の記者の質問に対し、田中俊一委員長が何度も回答するやり取りがあった。しかし、VTRでは、田中委員長が「答える必要がありますか。なさそうだからやめておきます」と答えた部分だけを切り取り、田中委員長が当初から答える必要がないと回答したかのような不適切な編集を行っていた。また、記者が「竜巻影響評価ガイド」について質問し、原子力規制庁担当者が修正すると回答した部分について、「火山の審査基準」についてのやり取りと誤って報じていた。
放送直後の原子力規制委の抗議を受け、テレビ朝日は翌11日午後、原子力規制委に謝罪文を提出。同日夜の番組で約4分40秒を割いて訂正放送を行い、古舘伊知郎キャスターが「大きな間違いを犯しました。田中委員長をはじめ関係者の方々、そして何よりもテレビをご覧の皆様方を含め、本当に心からお詫びを申し上げます」と謝罪した。
BPOが指摘した「空白の3時間」
BPO検証委の意見書によれば、9月10日午後に行われた原子力規制委員会の記者会見の後、火山に関するやり取りの作業に着手するまでに「空白の3時間」があったと指摘。当初、ニュースに責任を負うニュースディレクターらは避難計画や完成していない免震重要棟などの問題に重点を置いて編集する予定だった。だが、放送約3時間前の午後7時前後に、もともと今回の放送に関与しないはずだったディレクター(社外スタッフ)が、会見の文字起こしを見て火山に質問が集中していることに気づき、急きょ火山に関するVTRパートを作成することが決まったという。しかも、文字起こしを担当した別のディレクターが、火山に関するやり取りを途中から省略していたため、残りの文字起こしが完成したのは放送約1時間前の午後9時前後だった。火山に関するVTR原稿ができたのは午後9時20分ごろ。火山に関するVTR編集を開始したのは放送1時間前を切ってからで、放送された午後10時14分にぎりぎりで間に合ったという。
火山に関するVTRを担当したディレクターが時間に追われた状況で文字起こしを確認したため、竜巻に関する審査基準の質疑を火山に関するものと取り違えたままVTR原稿を作成。会見全体を取材していた記者がVTR原稿を一部読飛ばしていたこともあり、VTR原稿をチェックする機能が働かなかったとしている。
放送中に誤り発覚も放置
竜巻と火山の質問の取り違えについては、会見を取材した記者が放送中に誤りに気づいて責任者のプロデューサーやニュースデスクに指摘したが、放送中に訂正するなどの対応はとられなかった。放送終了後も危機管理を担当する報道局幹部らに報告されなかったという。また、田中委員長が火山の審査基準に関する質問への回答を拒否したかのような不適切な編集については、取材記者が誤りに気づきながら指摘せず、問題が報道局内で共有されなかったという。
検証委によると、テレビ朝日は今回の放送不祥事を受け、①文字起こし担当者が編集に立ち会い、VTR原稿の確認を義務づける、②危機管理的な観点でチェックする「サブニュースデスク」を新設する、③大きく扱うニュースなどに「情報統括ディレクター」を新設することなどを柱とする再発防止策をまとめ、実施しているという。
検証委は、川端和治委員長ら弁護士3名のほか、精神科医の香山リカ氏、ジャーナリストの斎藤貴男氏ら合計10名で構成。「放送倫理上問題がある」と指摘された番組は「審議」、「内容の一部に虚偽がある」と指摘された番組は「審理」の対象となる。今回の報道ステーションの問題については、テレビ朝日からBPOに28ページに及ぶ報告書が提出され、10月10日に「審議」入りしていた。テレビ朝日はBPOの見解を待たずに、吉田慎一社長が定例会見で謝罪し、10月29日付で報道ステーションのプロデューサーなど3人を減給処分、取締役報道局長は役員報酬5%を1カ月自主返上とすることを発表している。
- テレビ朝日『報道ステーション』「川内原発報道」 に関する意見 (放送倫理・番組向上機構:放送倫理検証委員会 2015/2/9)
- 9月10日放送分の報道ステーション(テレビ朝日)での報道について (原子力規制委員会 2014/9/11)
- 9月10日放送分の報道ステーション(テレビ朝日)での報道についてのお詫びについて (原子力規制委員会 2014/9/12)
- 放送番組審議会報告(2014年10月9日) (テレビ朝日)
- 吉田慎一社長会見要旨(2014年10月28日) (テレビ朝日)
- (初稿:2015年2月13日 17:59)
- (修正:2015年2月13日 20:55)文中に小見出しを追加しました。
- (修正:2015年2月13日 21:06)「放送狩猟後」は「放送終了後」の誤り、「5分40分」は「5分40秒」の誤りでした。