京都メンバー・トリイが「大山崎に、東京から移り住んでコーヒーの焙煎所をしてはる面白いご夫婦がいる」と言いだしたとき、思わず「え、大山崎?」と耳を疑ってしまいました。
普段京都で仕事をしているなかで、東京から京都市内に移住してきたという方にお会いすることは、けっこうよくあります。けれども大山崎は、はじめてだなあ......。
大山崎は、京都の中心地から電車で約20分行ったところにある、京都でいちばん小さな町です。ちかくにアサヒビールの大山崎山荘美術館やサントリーの山崎蒸溜所があるほかは、閑静な住宅街。そんな街中からはすこし外れた大山崎という土地に移り住み、2013年にコーヒーの焙煎所を始められたのが「大山崎 COFFEE ROASTERS」の中村佳太さんとまゆみさんのご夫婦です。
お二人とも大山崎に来られるまでは、東京の企業でバリバリと働く忙しい日々を送っていたそう。そんな二人が、なぜ縁もゆかりもない土地で、今までの職種とはまったくちがう、焙煎所を始めようと思ったのか。お話を伺ってきました。
第38回 大山崎COFFEE ROASTERS 中村佳太さん・まゆみさん
2015.02.13更新
自分は忙しすぎる、と気がついた。
「東京にいるときは、コーヒーに関係するような仕事をしていたわけではないんです。僕は経営コンサルティングの会社に、彼女は医療機器を扱う商社に勤めていて、ふつうに会社員として働いていました。
2010年の終わり頃に結婚をしたんですが、結婚をしてから、二人ともコーヒーにハマりだして。それから、仕事にしようとかは何にも思わず、ただ好きだったので二人でコーヒーの勉強を始めました。はじめは本当にただの趣味です(笑)」
そうおっしゃるのは、朗らかに微笑む中村佳太さん。お二人ともコーヒーは元から好きで飲んでいたけれど、結婚してから豆を挽いたり、ワークショップに行って勉強するようになったんだそう。
「そうしているうちに、翌年3月に東日本大震災があって。結婚をして、まだ半年もたっていない頃でした。そもそも僕は結婚をしてから、自分は忙しすぎるんじゃないだろうかということに気がついた(笑)。
ちょうど結婚をする前に入ったプロジェクトの影響ですごく出張が多くて、ほとんど家にいなかったんです。震災があったときも出張先で。そのときはなんとか家に帰れたんですけど、これはあんまりよろしくないなあ、と思いました。せっかく結婚したのにほとんど一緒に居られないし、次にいつ地震があるかどうかもわからない。そこからすこし自分たちの生活を見直して、東京ではないどこかに移住をして、二人で何かをやろう、という話になって。それで1年間くらい働きながら、移住先や仕事を模索しました」
大山崎は、頭の片隅に残る街
移住先には日本全国いろいろと考え、九州、岡山、神戸...と、実際に行ってみたりもした。関西と地域を特定して探したわけでも、特別に京都で探していたわけでもなかったんです、と、まゆみさん。
「けれどいまいちピンとくるところがなかったとき、ある日私が、『そういえば京都に大山崎というところがあったなあ』と思い出して。アサヒビールの大山崎山荘美術館に来たことがあって、ああ、素敵な街だなあと感じたのを覚えていたんですね。
それから二人で大山崎に来てみたら、やっぱりすごく雰囲気がよかった。私たちはあんまり街中のほうに行きたい気持ちはなくて、すこし落ち着いているところに住みたかった。大山崎は、いい街だなあ、となんだか頭の片隅にずっと残るような街でした」
「あとは仕事もどうするか、二人でたくさん案を出しました。カフェ、本屋さん、コーヒー豆の販売...そのなかで、そんなに人が多くない街でもできて、かつ全国に向けて発送ができるという焙煎所が、まず始めるにはいいんじゃないかなと。なにより二人とも、コーヒーを焼くのが楽しかったんですよね」
佳太さんは東京で18年ほど学生・社会人生活を送り、まゆみさんはロンドンや東京で暮らしていたという、いわば「都会っ子」。そんな二人が移り住む先として選んだ土地は、高層ビルもショッピングセンターもない、静かな住宅街でした。
移住先に街中を避けた理由をまゆみさんに伺うと、「震災が起こったときに東京の高層ビルの上階に居て、『あ、このまま都会に居たら、死ぬな』と漠然と感じたから」。そして「東京にいると、会社を中心に自分たちの人生が回っている気がして、それを変えたかった」と、佳太さんが続けます。
「自分が会社員しかしていなかったからこう思うのかもしれないけれど、東京は経済の中心地だし、会社というものが真ん中にあると思うんです。企業の論理みたいなものが強い気がして。
震災のすぐあと、つぎにいつ余震が起こるかもわからないし、僕たち二人は『とりあえず今は家族と一緒にいるべきだ』と思った。けれど多くの人が、震災があった金曜日の週明けに、ふつうに会社に出社していて。僕はそのときに違和感を感じてしまった。この街の感覚と自分はズレてるんじゃないかな、と思いました」
「会社を中心にする人生が悪いとかそれは違うとか、否定をしたいわけではないんです。ただ僕たちにはそれは合わないのかなと感じただけ。そして東京にいるかぎりはそういう暮らしになってしまうように思ったから、そこを離れたかったんです」
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レトロなアパートの一室が焙煎所。センスのいい店内は、すべて手作りだそう(!) |
はじまりはネットショップから
そうして、2012年9月に大山崎に移り住んだ二人。焙煎所を本格的に始めたのは、2013年の6月。それもはじめはネットショップのみでのオープンで、実店舗はありませんでした。
「本当ははじめから実店舗でスタートしようと思っていたんですが、思っていた以上に街がこじんまりとしていて、テナント物件がほとんどなかったんですよね。来てしばらくしたら見つかるかなと思っていたんだけども、見つかりそうもなくて(笑)。それでまずはネットショップから。そうして結果的に2014年の11月に実店舗をオープンできたので、段階をふめてよかったなと今は思っています」
「2013年の夏頃に、JR山崎駅構内のスペースで対面販売をしてから、地元のお客さんと交流が始まったかな。ちいさな街なので、外から若い夫婦が移住してきてお店を始めたらしいっていうのがめずらしかったみたいで、徐々に知り合いではない人たちからの注文も増えてきて。実店舗を持ってからは、近所のお客さんもよく買いにきてくださるようになりました。それがすごく嬉しいですね」
右も左もわからない土地で、今までとはまったく違うお仕事をする。そのことに不安はなかったですか?
「焙煎所を始めるときに、不安は......めちゃくちゃありました(笑)。けれど、なんとかなるだろうという自信はあった。もう経済的に無理だというときには、今までの経験から何かしらどこかで働いて、生きていくことはできると思っていました。それは会社員として働いていた期間が蓄えてくれたものかなと思います」
「とにかく、夫婦ふたりで何か一緒にやりたかったんですよね。かつ、ふたりが好きなコーヒーを、おいしく楽しんでほしい。そうして始めた焙煎所の輪が少しずつ広がっていっているのが、いまはすごく楽しいです」
二人で楽しんで暮らすことが第一で、そのために仕事がある。働き方にたいする考えは千差万別で、いろいろあっていい。「なかなか大変だよ〜!」とも仰っていましたが(もちろんそうだろうと思う)、楽しそうに笑うお二人がいれてくださったコーヒーはとても美味しくて、きっと二人と話をするためにお店を訪れる方が、これからもっともっと増えるだろうな、と感じました。
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京都府乙訓郡大山崎町大山崎岩崎10-1 大山崎グリーンハイツ201号室
営業日時:毎週木曜日と土曜日の10:00~15:00
※ イベント出店などのため臨時休業があります
※ 店舗ではコーヒー豆の販売のみとなりますが、ゆっくりと試飲いただけます