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2010年10月アーカイブ

101027_01.jpg 「命や食の大切さを伝えるため、今まで以上に牧場体験に取り組みたい」。広島県東広島市豊栄町の有限会社「トムミルクファーム」の代表・沖正文さん(50歳、成牛150頭、育成牛70頭)は話す。酪農教育ファームの認証を2年前に受け、昨年は4800人を受け入れた。口蹄疫発生で、牧場見学や体験の受け入れを一時的に自粛していたが、活動を再開。牧場への出入り口を1カ所にして消毒槽を設置するなど防疫対策を強化した。天候に恵まれた15日、市内の小学3年生172人が牧場体験を楽しんだ。
 社会見学に訪れた東広島市立寺西小学校の3年生を前に、沖さんは「トンネルの足元に踏み込みマットがあり、消毒液が入っています。牧場に出入りする時は必ず通ってください」と呼びかけた。子供たちは靴を消毒しながら牧場内に入る。
 子供たちは4班に分かれ、〈1〉搾乳体験〈2〉牧場内の見学〈3〉牛の特徴や牛乳の機能性の学習〈4〉牛のスケッチ〈5〉ジェラートの試食――を約2時間半で行った。
 搾乳体験では、乾乳期直前の牛を準備。なかなか近寄れない子供もいたが、乳房を触ると「すごいあったかい」とびっくり。搾乳が終わると、すぐに手を洗うように指導した。
 宮崎県での口蹄疫発生を受け、トムミルクファームでは5月の連休明けから牧場体験の受け入れを自粛した。沖さんは「宮崎県外に飛び火したら店も閉めるつもりだった」と振り返る。口蹄疫の終息宣言を受け、防疫対策を強化した上での受け入れ再開を決めた。
101027_02.jpg 牧場の出入り口は2カ所あり、1カ所は車両の出入りに限定した。道路や牛舎の周囲には消石灰を散布している。人の出入り口には専用のゲートを作り、手洗い場と消毒槽を設置。手洗いと靴裏の消毒を呼びかける看板を立てている。消毒液は随時交換する。
 「酪農のイメージが低下し、牛乳は飲みたくないと思われないように、牛舎はきれいに保たないといけない」と沖さん。
 社員に美化担当を設けて、牛舎まわりだけでなく、牧場周辺の道路美化にも努める。作業で汚れた服は体験を受け入れる時に着替えるなど、常に見られている意識づくりを徹底する。牧場内外の美化は、感染症の防疫対策だけでなく、来場者に衛生対策の大切さを理解してもらう取り組みだ。
 「口蹄疫の原因がまだわからず、防疫対策を徹底しても不安はある」と沖さん。それでも、「食事や牛乳を残さず食べるようになったとの話を聞くと子供への食育は大切だ」と訴える。

衛生対策の徹底呼び掛け――酪農教育ファーム推進委員会

 酪農教育ファーム推進委員会(事務局・中央酪農会議)によると、口蹄疫発生に伴い、全国の酪農教育ファーム認証牧場では不特定多数を受け入れる牧場開放を自粛。教育関係者などに向けた文書を発信するなど口蹄疫に対する措置に理解を求めてきた。  宮崎県による終息宣言を受け、受け入れを再開する牧場が徐々に増えている。同委員会では、中央酪農会議と地域交流牧場全国連絡会が新たに作成した「交流活動における感染症防疫マニュアル」を基本にした衛生対策の徹底を認証牧場に呼びかけている。  また、2009年度の活動実態調査結果を18日に公表。09年度末の酪農教育ファーム認証牧場数は前年度比34牧場増の291牧場に拡大した。  酪農体験学習の受け入れ人数は約25%増の87万9229人となり、そのうち家族連れなど個人グループでの参加が42%増の54万8048人と大きく伸びている。
(1面)

〈写真上:教わった通りに搾乳したら、乳が出てにっこり〉
〈写真下:体験終了後、消毒液を交換する沖さん〉

 米の概算金の大幅引き下げに加え、品質劣化による収入減で、稲作農家に資金繰りへの懸念があるとして、農林水産省は20日、通知を発出。日本政策金融公庫やJAグループなどに対し資金融通や購買事業にかかる代金の支払い時期弾力化など特段の配慮を要請した。2009年産の持ち越し在庫を含め、大幅な供給過剰の状況が変わらず、米価下落は止まらない。稲作農家の経営悪化が懸念されている。JA全中など生産者団体は、米の需給安定を図る緊急対策の早期実施を訴えている。一方で、農林水産省は、戸別所得補償モデル事業の参加者には下落分の補てんがあるとして需給調整対策は措置しない方針を変えていない。米の需給をめぐる状況を話し合った。

〈A〉10年産米の作況指数(9月15日現在)は99の「平年並み」となった。だが、約4万ヘクタールの過剰作付けがあり、予想収量は830万8千トンと10年産米の生産目標数量813万トンを17万8千トン上回る。米消費の低迷で、10年産の需要量は805万トンと見込まれ、10年産米だけで26万トン程度の過剰米が発生する見通しだ。
〈B〉加えて、09年産の持ち越し在庫があり、需給ギャップは50万~60万トンに上る見込み。JA全農は東北を中心に未契約の09年産米を約25万トン抱えているという。さらに猛暑などの影響で10年産米の1等比率(9月30日現在)は、64.4%と過去10年間で最も低い状況だ。
〈A〉需給の大幅緩和と品質低下を受け、全農相対基準価格は出来秋から下落傾向にある。JA全農は概算金を前年比で3500円から1700円低い水準に設定した。
〈C〉かつてない米価下落が農家を直撃している。農林水産省は20日、JAなどの金融機関に、稲作農家の経営継続に必要な運転資金の融通や既貸付金の償還猶予など特段の配慮を要請。各農政局・農政事務所に農家向けの相談窓口を設置した。JA全農などには肥料・農薬代などの支払い時期の弾力的運用を求め、水田協議会などにはモデル対策定額部分の年内支払いに向けた協力を要請した。
〈B〉政府は戸別所得補償モデル事業の参加者には下落分を補てんする変動部分があることなどを理由に需給調整対策は実施しない方針を変えていない。政府買い入れは「モデル対策の未加入農家も米価引き上げの恩恵を受け、消費者負担も増す」と説明する。
〈A〉ただ、変動部分は全国一律単価での支払いのため、下落分を補えきれない地域の発生も予想される。補てんの実施や単価は来年1月以降にならないと決まらない。大幅な米価下落となれば、財源問題も浮上しかねない。さらに過剰米の存在は、11月末に決める来年産米の生産数量目標の大幅削減を招くとの懸念が広がっている。

(2面・総合)

 特定農業法人「俵津農地ヘルパー組合株式会社」(宇都宮凡平代表=53歳、6人)は高齢化などを背景に管理が難しくなった園地を作業受託しミカンを生産、耕作放棄地の防止に一役買っている。園地の管理だけでなく、地域で開かれるイベントの手伝いや墓の掃除・管理なども請け負い「地域のお助けマン」として幅広く貢献している。
 かんきつ栽培が盛んな愛媛県西予市明浜町。中山間地域で園地のほとんどが急傾斜地だ。俵津農地ヘルパー組合は人口1300人ほどの小さな俵津地域で活動する。従業員はパートなどを合わせて6人。実際に園地で作業するのは20~40代の3人だ。「一定の収入を得られ、楽しめる農業を目指している」と宇都宮代表は話す。
 高齢化や後継者不足で管理できなくなった園地を15戸から約5.5ヘクタール借り、園地の施肥管理から収穫・出荷まで全面受託する。
 5.5ヘクタールのうち1ヘクタール以上を「デコポン」や「はるか」などの需要がある品種へ改植した。
 早生ミカンやポンカンなど約8種類を栽培し、昨年は約80トン生産した。JA出荷が中心で、一部は直販する。ジュースの加工・販売にも取り組み、規格外品の有効利用と利益確保に努める。チラシを作り地域の観光協会に置くほか、地方のイベントで配るなどPR活動も積極的だ。
 除草や収穫など作業の手伝いも約20戸から依頼を受ける。高齢農家にとって急傾斜地での作業は体力的に厳しく、依頼は年々増えているという。
 活動の場は農地以外にも広がっている。地域で開かれるイベントの手伝いや空き地の草取り、ふすまの張り替え、墓の掃除・管理など地域住民からさまざまな依頼を受ける。隅田専務は「農地と同様、集落も守っていきたいと思っています。困ってる人がいたら助けてあげたい」と引き受けている。

(3面・暮らし)

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〈写真:俵津農地ヘルパー組合のメンバー〉

 今年の夏は、全国的に記録的な猛暑となった。農林水産省は、9月15日現在の水稲作柄を作況指数99、「平年並み」と予想するが、各地で高温による品質の低下が発生している。9月30日現在、うるち玄米の1等比率は64.4%と、2009年産に比べ18.6ポイント低い。NOSAIの組合等は、圃場の見回りなど、状況把握に努めている。水稲共済の品質方式は、自然災害による収量の減少や品質の低下による生産金額の減少を補償する。また、著しい被害が広範囲にわたって発生した場合は、「損害評価の特例措置」が適用される場合もある。品質方式の仕組みなどを共子さんが済太郎君に聞いた。
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 共子 共済金が支払われる仕組みは、どうなっているの。
 済太郎 品質方式は、筆単位ではなく、農家単位で損害評価を行う。自然災害によって、収量と生産金額の両方が一定基準以下に減少した場合、共済金が支払われるよ。具体的には、(1)品質の低下を加味した当年産の収穫量が、基準収穫量(平年の収穫量)を下回り(2)その年の生産金額が基準生産金額(平年の生産金額)の9割以下になる――という場合だ。
 共子 品質が低下しても収量が十分にある場合は支払われないのね。加入にはどんな条件があるの。
 済太郎 基本的には、過去数年の生産金額が、農協の出荷伝票などで客観的に把握できる農家が対象なんだ。
 共子 ほかに注意しておくことはあるかしら。
 済太郎 ほかの方式と同じで、刈り取り開始前にNOSAIの組合等に被害申告をしてもらわないと、支払われないよ。品質の低下は、収量の減少よりも見た目ではわかりにくいから気を付けてね。
 共子 少しでも「おかしいな」と感じたら被害申告するのが基本なのね。品質方式以外では、品質の低下は補償の対象にならないの。
 済太郎 収量を補償する引受方式では、品質低下は、通常は補償の対象ではない。ただ、気象災害などが原因で、玄米の品位規格が3等以上とならない低品質米が広範囲に発生した場合は、NOSAI連合会(1県1組合の場合は特定組合)の申請によって、品質低下分の損害を減収量に加味する「損害評価の特例措置」が実施される場合もある。その際も、被害申告して損害評価を受ける必要がある。詳しい仕組みなどは、最寄りのNOSAI組合等に問い合わせてほしい。

(5面・NOSAI)

〈図:水稲品質方式の共済金算定の仕組み〉

101027_05.jpg NOSAI全国(全国農業共済協会、竹中美晴会長)は21日、東京都内で「任意共済全国研修会」を開いた。
 鈴木直常務は、「建物共済の昨年度実績は、料率が下がったことを受け、補償額が5年ぶりに増加した。一層の加入推進にご尽力ください」とあいさつした。
 研修では、建物・農機具共済の推進事例を発表。広島県・NOSAI北部の今中政喜第2事業課課長、香川県・NOSAI三豊の川崎光廣建物園芸課課長補佐、佐賀県・さがNOSAIの池田久義家畜任意課課長、NOSAI福島(連合会)の半沢芳光農機具課課長が報告した。
 また、加入拡大に優秀な成績をあげたNOSAI部長等推進員や組合等などを表彰した。(敬称など略)
 〈組合等事業推進功労者表彰〉NOSAI部長等推進員の部=ひろさき広域・増田吉美(青森)、富山市・堀辰雄(富山)、石川中央・喜綿雅之(石川)、東紀州・林まさ子(三重)、高松・香西茂知(香川)、新居宇摩・福田定美(愛媛)、筑前福岡・浦山牧夫(福岡)、都城地区・済陽良夫(宮崎)▽組合員等職員の部=茨城県西・大場孝志(茨城)、新川地域・松井玲子(富山)、三豊・岩本英樹(香川)
 〈任意共済事業計画達成優績組合等表彰〉建物共済の部=県央南(茨城)、松山(愛媛)、大分県北部(大分)▽農機具共済の部=三豊(香川)、筑前福岡(福岡)
 〈任意共済事業推進活動優秀組合等表彰〉建物共済の部=鹿行(茨城)、新居宇摩(愛媛)、筑豊(福岡)、都城地区(宮崎)▽農機具共済の部=仲多度(香川)、伊予喜多(愛媛)、筑前福岡(福岡)、みやざき(宮崎)
 〈連合会等事業拡充表彰〉建物共済の部=奈良▽農機具共済の部=鳥取、佐賀

(5面・NOSAI)

101027_06.jpg 「平棚栽培は作業が楽」と話すのは、神奈川県藤沢市の高橋當侑〈まさゆき〉さん(64)。ナシ棚を利用したリンゴの「2本主枝仕立て」を実践する。低樹高で枝が均一に広がるため、脚立を使わずに剪定〈せんてい〉や授粉、収穫などの作業ができ、防除機の出力を上げなくても薬液が行き届く。日当たりが良く、果実の糖度が増して品質は向上する。色づきが悪い暖地リンゴの欠点をカバーする着色系の品種を中心に栽培し、もぎ取り園を利用する消費者の声を新品種への改植に役立てている。
 高橋さんは、湘南海岸から10キロ余り内陸に入った温暖な気候の平地で高橋果樹園を経営する。妻・ケイ子さん(64)、息子の博晃さん(37)と3人で、リンゴ20アール(うち平棚栽培12アール)とナシ1ヘクタールを栽培。リンゴは「ふじ」「陽光〈ようこう〉」「昂林〈こうりん〉」「清明〈せいめい〉」など10品種を植え、台木は「M9」系統を使う。
 ナシ主体の経営だった高橋果樹園では、19年前から高さ1.9メートルの棚を使ってリンゴ栽培を始めた。身長174センチの高橋さんは「手の届く範囲でほとんどの作業ができる」と話す。防除時のスピードスプレーヤーは高出力にしなくても葉裏によくかかり、ほかへの飛散が少ない。
 「台風が襲来しても風は棚面と平行に吹き抜ける。比較的強い」と高橋さん。園地の周りには高さ4メートルの防風ネットを設置する。太陽光は均一に良く当たり、糖度が増し果実間の品質差が少ない。ふじの糖度は17度程度と高い。短果枝に着けた果実は変形しやすいことから、10~15センチの中果枝を使う。糖度を重視し、葉摘みは収穫直前に数枚摘む程度だという。
 高橋さんは「寒さに遭うことが無いので色づきは良くない」と説明する。そのため味が良くて着色系の品種を植える。消費者の意見を参考にして、「シナノゴールド」のような果皮が黄色の品種を2割程度植えている。

(11面・営農技術)

〈写真:「作業の効率化が図れるため、棚栽培の面積を増やしたい」と話す高橋さん〉

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)の食料安全保障担当相会合は17日、持続可能な農業の発展と農業投資や貿易の円滑化を柱に食料供給の増大を目指すとした「新潟宣言(閣僚宣言)」を採択し、新潟市での2日間の日程を終え閉幕した。宣言の着実な実行に向け、各国の提案事項をもとに62の具体策を盛り込んだ行動計画も採択した。
 宣言では、APECに加盟する21カ国・地域が今後目指すべき共通目標として、〈1〉APEC地域の農業生産の増大〈2〉気候変動や天然資源管理への対応〈3〉責任ある農業投資〈4〉農産物貿易の円滑化――などを掲げた。
 世界人口は2050年までに91億人に達すると予想され、人口を養うには食料生産を70%増大させる必要があると指摘。食料の生産性向上のため農業技術やバイオテクノロジーなどの分野での研究開発や普及、社会資本の整備など経済技術協力の必要性を強調した。農業が国土保全や水源涵養(かんよう)、景観保持などに寄与していることを訴えた。
 農業投資は、途上国で農業投資によるトラブルが発生している現状を踏まえ、地元住民に配慮した投資促進を求めた。また、世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉妥結に向けた努力の継続を確認した。
 行動計画は、農業技術に関する情報共有の仕組み整備や食料生産能力向上のための研修会開催などを挙げた。
 鹿野道彦農相は閣僚らとの共同会見で、食料増産と農業の多面的機能の重要性が確認されたと成果を強調。国内対策を強化し、食料自給率50%目標の達成と貿易促進を「両立させるために最大限努力する」と述べた。宣言の内容は、11月に横浜市で開かれるAPEC首脳会合での閣僚宣言に反映する。

(2面・総合)

101027_07.jpg 【宮城支局】「以前から、珍しいものを育てるのが好きだった」と話す大崎市岩出山・「花夢里(かむり)」の大場千富美(ちふみ)さん(56)は、一般的には観賞用として知られる「朧月(おぼろづき)」を、「べんけいの底力」と商標登録し、食用として販売。「サラダに添えて生で食べるとさわやかな酸味があって、くせがなく食べやすい、新しい感覚の野菜」と注目されている。

 食用としての販売に当たっては、専門書で調べたり、民間の研究所に依頼して安全性や栄養価を確認。肥料なども工夫して栽培した結果、ナトリウムやマグネシウムが豊富で、カルシウムはホウレンソウの2倍以上含まれることが分かった。
 栽培は無農薬で、作業しやすいようにブロックの上にプランターを設置し、虫よけシートで被覆。土が乾燥したら灌水(かんすい)して、気温が下がるとビニールで覆い温度調整する。
101027_08.jpg 株や葉だけの販売もしているほか、オリジナルのジャムも販売していて、さっぱりした口当たりが好評だ。
 大場さんは、朧月を使ったオリジナル料理を持参し、飲食店へ飛び込み営業するなどして、現在、飲食店や旅館など7軒へ出荷する。
 「見て楽しいし、食べてもおいしい。何より生命力の強さに励まされ、癒やされるんです」と大場さんは話す。

〈写真左:朧月を栽培する大場さんと夫の一夫さん(56)〉
〈写真右:朧月「べんけいの底力」〉

101027_09.jpg 【熊本支局】あさぎり町上で水稲80アール、大豆150アール(裏作は麦150アール)を栽培する傍ら、畳店や文具店などを経営する蔵座豊躬(ぞうざとよみ)さん(64)は、初期消毒および除草剤散布用機械を製作し、ドリフト防止や散布に掛かる労力と時間軽減を図っている。
 これまで大豆や麦の初期消毒・除草に動力噴霧機を使用してきたという蔵座さん。トラクターでけん引する荷台にタンクとエンジンを積み、後部に薬剤散布用の噴射口が付いた3メートルほどのアルミ製パイプを接続した。その両サイドに折りたたみ式のパイプを取り付けることで、散布する際の最大幅は9メートルになる。
 3本のパイプからは別々に噴霧することができ、あぜ際ではアルミパイプの片側だけを折り畳むことで、ぎりぎりまでトラクターを寄せて作業することが可能だ。消毒液は地上50センチのところからほぼ真下に噴霧されるため、隣接する圃場に風で流されることはほとんどない。
 今まで150アールの作業に1日かかっていたものが2時間でできるようになり、薬剤の量も今までの3分の1で足りるという。

〈写真:片側のパイプを上げ、大豆圃場のあぜ際で薬剤散布する蔵座さん〉

101027_10.jpg 【神奈川支局】石窯を積んだ移動車でピザを販売する、南足柄市三竹の茶農家・杉山和男さん(49)。材料には自家栽培の食材を使用している。足柄茶の粉末を生地に練り込んだ「茶ガリータ」は、女性を中心に注目を集めている。
 杉山さんは現在、母と2人で茶を約26アール栽培。ほかにも約14アールでさまざまな野菜を栽培している。
 茶ガリータは、茶を石臼で挽(ひ)いた粉を練り込んだ生地が特徴。焼き上がった後の仕上げにも粉末の足柄茶を振りかける。自家産野菜も使用し、店頭にあるバジルの葉は、その場で刈り取り使用するという。

〈写真:車に積んだ石窯と杉山さん。窯の表面は杉山さんの思い入れで大理石にした〉

101027_11.jpg101027_12.jpg 【新潟支局】渋柿品種「平核無」の商品価値を高めて有利販売をしようと、村上市上野の斎藤誠さん(72)は昨年から、柿の「樹上脱渋」に試験的に取り組む。
 村上市は、県内でもっとも北に位置する柿産地のため、収穫時期が10月下旬から11月上旬と遅い。他産地の柿が市場に出回ってからの出荷で、販売面などで苦労している。
 昨年、斎藤さんは300個の袋かけを行った。「固形アルコールを入れたビニール袋にヘタを包むように輪ゴムでとめましたが、作業は比較的楽でした」と斎藤さんは話す。
 袋をかけてから2から3日後に袋の下部を切り、アルコールを除去する。その後、収穫までの約2週間、袋をかけておく。
 樹上脱渋した柿は、通常より1週間から10日早く収穫できる。糖度も14度と高い。収穫後の脱渋をしなくてよいため、早期に販売できる。

〈写真左:園地で作業する斎藤さん〉
〈写真右:袋をかけ樹上脱渋中の柿〉

101027_13.jpg 【香川支局】「牛は目がかわいくて、ずっと見ていてもあきません」と話す鎌田美穂さん(26)は、有限会社鎌田牧場(鎌田武彦社長、肥育牛2500頭、まんのう町炭所西)で、肥育牛500頭の飼養管理を担当している。
 入社して6年目。5年前から、牛舎を任されている。「おいしいお肉へ、試行錯誤の毎日。出荷牛の肉質を数値で表した『牛枝肉格付明細書』に一喜一憂しています」
 父親が一代で築いた鎌田牧場では、生後2カ月の子牛を購入して2年余り飼育している。現在、5人の責任者が同じ餌を使いながら配合に独自の工夫を凝らし、互いに成績を競い合う。「負けられません」と情熱を傾ける美穂さん。
 当面の目標は、肉質を追求しつつ体重を重く仕上げること。元気に育つよう日々の体調管理や観察は重要という。

〈写真:購入したばかりの子牛にミルクを飲ませる美穂さん〉

101027_14.jpg 【岐阜支局】果樹園の鳥害対策に、美濃加茂市山之上町では、蚊取り線香と爆竹を使った手作りの爆音器が使用され、効果を挙げている。
 爆音器の材料は、蚊取り線香と木工用接着剤、小さなサイズの爆竹。線香に少量の接着剤を垂らすように付け、1本ずつにばらした爆竹の導火線を張り付ける。線香を燃やすと、爆竹が次々と間隔をあけて爆発する仕組みだ。
 蚊取り線香1巻に爆竹約50本を取り付けると、燃え尽きるまでの約7時間の間、約7分間隔で爆発する。この仕組みの材料費は約40円だ。
 利用農家は「爆竹を接着する間隔の広さで爆発時間が調節できます。イノシシやサルにも効果があると思いますよ」と効果に満足している。

〈写真:「鳥おどし」として効果を挙げている爆音器〉

101027_15.jpg 【山口支局】荒廃した農地をよみがえらせようと、岩国市美川町東谷地区で、「東谷さぬきパーク」(代表=三浦篤さん・67歳)が活動している。現在、ソバを栽培。農作業体験を行いながら都市住民との交流を深めている。
 10年前、30アールの農地を再生。その後、地元広報紙や新聞などでソバ作り体験希望者を募集したところ、周辺都市部から約100人が応募。今年も約100人が参加している。
 種播きや収穫、そば打ちなどの体験のほかに、日ごろの草刈り作業も、交流会の参加者などが手伝ってくれるため、助かっているという。
 三浦さんは「取り組みが多くの人に受け入れられた。今後もこの地区が元気であればうれしいし、将来は、そば屋を開きたい」と意気込む。

〈写真:水車小屋の前で三浦さん(右)と参加者〉

 ▼名古屋市で開かれている生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)は、今週末の閣僚会合に向けて大詰めを迎えた。自然と共生する社会の実現に向け、2050年の中長期目標と20年までの具体的な行動目標を設定する「新戦略計画」の策定を目指す
 ▼人類は、食料や燃料、医薬品などさまざまな形で生物資源の恩恵を受ける一方、森林や湿地など生態系を維持する環境を破壊してきた。多くの科学者は、現在のような生態系の破壊が続くといずれは多様性を維持できる転換点を超え、甚大な変化が生じると指摘する。しかも、いつ転換点を迎えるのか誰にも予測できないのだ
 ▼COP10の課題は、加速する生物多様性の損失速度をゆるめ、国際的な協調のもとに維持・保全へとかじを切る実効性の高い戦略計画の策定だ。しかし、遺伝資源がもたらす利益配分をめぐり、先進国と途上国の対立が深く、交渉は難航している
 ▼先進国は、途上国から多くの生物資源を持ち出し、医薬品や種苗、食品などを開発して利益を得てきた。途上国は、資源を提供した国への利益配分は当然の権利と主張し、先進国も配分の必要性は認めている
 ▼問題は利益配分のあり方だ。途上国には、植民地時代までさかのぼった利益の還元を求め
る国もあるという。だが、配分すべき負担が大きくなる提案には先進国も了承できず、現実的な妥結点が見つからないままだ。取りまとめ役として議長国を務める政府の調整力が注目されている
 ▼理念だけで人や物事を動かしていくのは難しく、まして国際交渉では、お互いに利益を得られる関係づくりが重要だ。ただ、利益配分をめぐる交渉にとらわれてしまうと、利益を生む生物資源の奪い合いに終始ししてしまう危険性がある。生物多様性の維持・保全が重要視される本来的な意義を見失ってはいけない。持続的に多様な生物が共生できる環境を構築できるのかが問われているのだ。

 今年の日本は百年に一度という猛暑となった。近年は地球規模で温暖化の影響が指摘される現象が増えている。基本的に温暖化が進むと平均気温は徐々に上昇し、農産物の収量や品質の低下、災害の発生、栽培適地の変化――などさまざまな影響を及ぼすとされている。食料の安定生産には、温暖化の進行に対応し、将来を見越した中長期的な技術開発が重要だ。政府は、温暖化による農業生産への影響をどのように予測し、対応技術を組み立てようとしているのか。水稲、果樹、畜産の各分野を対象に農林水産省委託プロジェクトなどで開発が進む、中長期的な視点に立った温暖化対応技術の研究状況を取材した。

101020_01.jpg101020_02.jpg【水稲】増収・品質の両立へ〈茨城県つくばみらい市 農業環境技術研究所FACE実験施設〉
 水稲では、平均気温上昇とともに白未熟粒の発生など米の品質低下が問題となっている。主に登熟期の高温が原因と見られる。
 農研機構では、〈1〉田植え時期を遅らせる〈2〉施肥の適正化〈3〉「にこまる」などの高温耐性品種の導入――といった技術を組み合わせる生産技術の開発に取り組んでいる。
 一方、中長期的な影響の解明に向け、農業環境技術研究所(茨城県つくば市)は、つくばみらい市にFACE(フェイス)実験施設を設置。今世紀半ばに想定される高い二酸化炭素濃度の環境を、実際の水田に作り出す実験を行っている。水稲の生育状況などに、高濃度の二酸化炭素が与える影響を調査するのが目的だ。
 長谷川利拡(としひろ)上席研究員は、「世界的に穀物の需要は大きく増加する。成果を生かし、単収の向上や、温暖化に対応した品種、栽培方法などの開発につなげたい」と話す。
 実験ではチューブを、差し渡し17メートルの正八角形のリング状に水田に設置。風向きに応じてチューブから二酸化炭素を放出し、リング内の二酸化炭素濃度を外気より約200ppm高い590ppmに保つ。
 水稲では、温室効果ガスの二酸化炭素濃度が上昇すると、光合成が促進され、増収効果が期待される。FACE実験では、実際の圃場を使って、〈1〉どの程度の増収が可能か〈2〉どのような品種や栽培方法が適しているか〈3〉温度の影響はどうか〈4〉メタンなど圃場の土中にある温室効果ガスの放出の変化――などを調査している。

【家畜】暑熱ストレス緩和へ〈茨城県つくば市 農研機構・畜産草地研究所 畜産温暖化チーム〉
 暑熱環境下では、乳牛の乳量・乳質が低下し、受胎率の低下、乳房炎の多発などが起こる。初産牛は気温23度、経産牛は21度を超えると採食量が減少。肉畜も増体や飼料効率など生産性が落ちる。
 暑熱対策は、飼養管理技術と畜舎内環境の改善が基本だ。嗜好(しこう)性・栄養価の高い良質な飼料や熱発生の少ない飼料の給与を行うほか、畜舎の風通し改善、屋根に太陽熱を反射する塗装を施す、スプリンクラーの設置、飲水の確保――などが知られている。
 中期的な対策は、農研機構・畜産草地研究所(茨城県つくば市)の畜産温暖化研究チームを中心に、次の暑熱対策研究を進めている。
 畜産温暖化研究チームの永西修チーム長は「農家の生産性・収益性が落ちないよう、新たな研究成果を提案していく。積極的に飼養管理に取り入れてもらえるようにしたい」と話す。
 飼養管理技術では、暑熱ストレスによる体内の酸化作用増加を緩和するため、豚や家きんの飼料に、海藻粉末や茶がらなど抗酸化作用の高い飼料を添加・利用する研究を進めている。

(1面)

〈写真上:FACE実験施設に立つ長谷川上席研究員(左)と白井靖浩研究員〉
〈写真下:乳牛舎を対象に、メタン発酵処理で得たガスをエネルギー源としたスポット冷房システムを構築した〉

 猛暑の影響で逼迫(ひっぱく)傾向にあった都府県の生乳需給が、緩和に向かっている。中央酪農会議(中酪)によると、都府県の生乳生産量は9月上旬には各地域とも前年同月比90%前後にまで落ち込んだが、その後の気温低下で下旬は90%台半ばまで回復した。一方、好調だった牛乳の販売数量は気温低下とともに前年割れへと転じている。4~8月の生産実績は、本年度の計画生産目標数量を1%近く下回る水準だが、不需要期に向かう中での生産量増加は需給緩和を招き、来年度の計画生産に悪影響を及ぼすとの懸念も出ている。酪農経営の基盤強化には牛乳消費の拡大へ、中酪は今月から新たな牛乳消費拡大運動をスタートした。
〈A〉中酪によると7月下旬から9月半ばにかけ、都府県の生乳生産量は大幅に減少した。7月は前年同期比97.1%、8月は94.6%になった。9月上旬には北陸は88.2%、東海は89.8%にまで落ち込み、北海道を除く地域は92%前後に減少した。
〈B〉一方、前年を下回って推移していた牛乳消費(需要)は気温上昇に連動して回復した。農林水産省によると8月の牛乳生産量は前年同月比99.4%と、ほぼ前年並みとなった。9月上・中旬も好調に推移し、都府県の生乳需給は逼迫。9月の北海道からの都道府県への移出量は、日本酪農乳業協会(Jミルク)の当初予測5万8千トンを超え、物理的に対応可能な限界値とされる6万トン強となった。
〈A〉9月下旬以降は、気温低下に伴い生乳生産量は増加。9月下旬の都府県の生乳生産量は北陸が92.7%、東海は94.2%となるなど軒並み回復の兆しをみせている。
〈B〉これに対し、9月中旬まで前年比103%台で推移していた牛乳の販売数量は前年割れに転じた。9月前半も猛暑が続き、酪農・乳業関係者には当初、年末に向けて生乳需給の逼迫傾向が続くとの見方もあったが、需給環境は急速に緩和傾向へと転換。北海道からの移出量も急停止できず、関東など一部地域では加工原料乳が発生している。
〈A〉将来にわたって国民生活に不可欠な牛乳・乳製品の安定供給を図るには、牛乳・乳製品消費の維持・拡大が不可欠だ。中酪は10月から新しい牛乳消費拡大運動「MILK JAPAN」をスタートさせた。若い母親の子育て支援を基本戦略に、酪農体験などの交流を通じて理解や共感につなげる。10日には東京・有楽町ほか、全国8カ所でキックオフイベントを開催。全国300カ所の牧場に呼び掛けた酪農体験も始まった。酪農・乳業関係者が一体となって牛乳の機能性や酪農の役割などを積極的にPRしていく。

(2面・総合)

 NOSAI全国(全国農業共済協会、竹中美晴会長)は14日、NOSAI連合会等全国参事会議を開催した。農林水産省経営局の渡邊毅保険課長は、「引き続き事務経費縮減が課題となっている。1県1組合化を含めた業務運営効率化の議論を始めていただきたい」と発言。道府県と連合会に、検討を要請する通知の発出を準備しているとの説明があった。
 NOSAI制度は、組合等と道府県の連合会、政府の3段階制を基本とするが、県単位で一つの特定組合を組織する2段階制をとる地域(現在は1都4県)もある。
 このほか全国参事会議では、12月1日に東京都千代田区の九段会館で開くNOSAI事業推進大会のスローガン案や決議案、本年度からスタートした「信頼のきずな・未来を拓く運動」の表彰要領案などを協議。業務運営効率化やコンプライアンス(法令等順守)態勢確立に向けた取り組み状況などを報告した。

(2面・総合)

101020_03.jpg 「MILK JAPAN」運動の本格始動にあたり中央酪農会議は10日、東京・有楽町で牛乳啓発・酪農体験イベント「MILK JAPAN LAND 2010」を開いた。
 開会式で、栃木県那須塩原市の酪農家を代表して、人見みゐ子さんは「牛乳の価値を子育てを通してつないでほしい。日本の未来を担う子どもたちに命と健康、愛情をつないでいきたい」と宣言した。会場に訪れた消費者は、牛乳を使った料理の試食や搾乳を体験。酪農家たちは、酪農の仕事を説明したり、子どもたちからの質問に笑顔で答えたり積極的に交流した。
 東京都八王子市の酪農家・三神仁さん(48歳、経産牛36頭など)は「誰が飲んでもおいしいと言う牛乳を搾って、みんなに飲んでもらえるよう努力したい」。

(2面・総合)

〈写真:「あったかい」と子どもから感動の声が挙がった。搾乳のほか、ほ乳やブラッシング体験なども行われた〉

101020_04.jpg 都市の中心部で生産者が自ら対面販売する市場「マルシェ」が活気をみせている。農林水産省の支援で昨年9月から始まったマルシェ・ジャポンには、12の運営者が参画。全国8都市でマルシェを毎週開催する。生産者にとって、都市の消費者に直接農産物をPRでき、ニーズの把握や販路拡大が期待できる機会となっている。東京で運営されている六本木と青山のマルシェを取材した。
 ◇◆
 東京・六本木と赤坂にまたがるアークヒルズのアーク・カラヤン広場で開かれる「ヒルズマルシェ」。色とりどりのテントが並び、35の出店者が、米や野菜、果実、加工品、雑貨――などを売っている。利用者は周辺のマンションの住民やレストラン経営者など。
 千葉県いすみ市の糟屋剛介さん(31)は、5月からほぼ毎週出店する。除草剤や化学肥料を使わずに露地野菜1ヘクタールを栽培し、「自分が納得できる価格で売れる。レストランのシェフの目にとまるチャンスも増える」と販路拡大を目指す。
 ヒルズマルシェは、アークヒルズを管理する森ビルが運営。若手農業者などで組織する「農家のこせがれネットワーク」が事務局を務める。営業は、土曜日の午前10時から午後2時まで。出店料は売り上げの10~15%だ。1日の客数は延べ2500人で、売り上げは200万円前後という。
 「ファーマーズマーケット@UNU」は、渋谷と表参道を結ぶ青山通り沿いにある国連大学前広場で開催する。約50の出店があり、1日の客数は延べ4千人にのぼる。

(8面・流通)

〈写真:1日1万人が訪れる「ファーマーズマーケット@UNU」〉

101020_05.jpg 栃木県真岡市西沼の櫛毛(くしげ)隆行さん(43)は、施設トマトの養液栽培で、長期多段取りから年2作型の8段取り中密植栽培に切り替え、5棟のハウスで周年出荷体制を確立した。自根苗を使い、大玉で品質の良い果実を生産する。栽培期間が短くなり、1作当たりのつる下ろし作業は2~3回で済むなど管理作業の省力化と雇用費の節減につながった。12月に定植する2作目は、通路への採光が良くてハウス内は温まりやすいため、暖房費が半減し、省エネを実現している。

●5棟使い周年出荷確立、12月定植で暖房費削減
 櫛毛さんは3カ所に設置した5棟1・8ヘクタールの鉄骨ハウスで、妻と両親、弟夫妻、パート6人でトマトを栽培している。品種は「麗容」「麗夏」「桃太郎ヨーク」「桃太郎はるか」。
 作型の中心は、7月中旬に定植し9月上旬から11月末まで収穫し、同じハウスで12月上・中旬に定植し3月中・下旬から6月末まで収穫する年2作体系だ。別のハウスでは、そのすき間を埋めるように作型を構成し、周年出荷を行う。
 櫛毛さんは「土づくりが必要な土耕栽培と違って養液栽培は、育苗ハウスがあれば1週間で次の作に切り替えられる」と話す。出荷できない期間をカバーするため密植にして、年間の収量を確保する。
 長期多段取りと比べ、年2作型では、施肥量の調整で草勢を管理する必要がないため、10%近く肥料費を削減した。2作目は、定植後で冬場の株が小さく、ハウス内の採光がよく温められ、風通しが良く病気の発生も抑制される。ハウスを早めに閉めて保温でき、重油使用量は37%削減、年間の動力光熱費は半減の400万円を実現した。

(9面・営農技術)

〈写真上:「年2作体制に切り替え動力光熱費は半減した」と話す櫛毛さん〉

101020_06.jpg 【広島支局】温州ミカンなど(約2.2ヘクタール)を大崎上島町で栽培する山本稔三さん(66)は、国立広島商船高等専門学校(同町)と共同で、イノシシ用のセンサー式の捕獲檻(おり)を製作している。早期の実用化を目指し、獣害対策に活用したい考えだ
 従来の檻では、イノシシが檻の中に入っても扉が反応せず、餌だけを持って逃げられる場合があったという。そのため、「センサーで確実に扉が閉まる仕組みを作り、檻に入ったイノシシを逃がさないようにできれば」と確実な捕獲の実現に向けて、今月から園地に試験設置。早期の実用化を目指す。
 山本さんは、「イノシシをなんとかしてくれ」という周辺農家の声に応え、13年ほど前から捕獲に取り組んでいる。
 イノシシの習性をよく知る山本さんが、同校の専攻科生・中尾友亮さん(22)に、「捕まったイノシシは逃げ出そうとして暴れる。センサーの配線が切られないよう筒に入れて檻にしっかりと固定したほうが良い」など具体的に助言しながら製作を進めてきた。
 中尾さんは「実用化されるものを作るのは初めて。電池を長持ちさせたり、センサーの誤作動を直したりと苦労しました」と話す。
 同校の吉廣晃准教授(42)は「山本さんのアドバイスを参考に、学生のアイデアも取り入れ、より良いものを作って地域に貢献できれば」とサポートする。
 今後は、予算の3倍かかった製作費を安く上げることが課題という。山本さんは「実用新案か特許を取得して、獣害対策に活用していきたい」と期待を込める。

〈写真:「実用化して地域に役立てたい」と話す山本さん(右)、吉廣准教授(中央)、中尾さん(左)〉

101020_07.jpg 【静岡支局】三ヶ日みかんで知られる浜松市北区三ヶ日町で、露地温州ミカン250アールとハウスミカン20アールを手掛ける内藤宏基(ないとうひろき)さん(47)は、緑色の状態で出荷する「グリーンハウスミカン」の栽培に取り組んでいる。
 近年、ハウスを加温するボイラーに使う重油が高騰し、生産コスト増に悩んでいた内藤さん。浜松市内で省力化に優れるグリーンハウスミカンに取り組んでいる例を知り、視察へ行った。
 グリーンハウスミカンは、1月から5月まで加温すればよく、11月から加温する通常のハウスミカンに比べ重油代が半分で済む。また、従来のハウスミカンよりも出荷前の防除が少なくてよいのも大きなメリットで、コストを下げられることから栽培を決意した。
 「加温の時期を遅くすることで緑色をしているが、中味はハウスミカンなので糖度は高いこと。適度の酸味もあり、色が青々していることも加わって、フレッシュさが一番の売りです」と内藤さんは話す。
 収穫も、露地ミカンと違い色付いたミカンから徐々に切っていく必要がなく、総切りできる。浮き皮が無いのでロスが少なく、ほとんど出荷できるので、精神的にも肉体的にも負担が少なくて済む。
 これからの目標を、「今後は、通常のハウスミカンと競えるようお盆前に出荷し、贈答用として販売できるように頑張りたい」と内藤さんは意欲的に話している。

〈写真:ミカンを収穫する内藤さん〉

101020_08.jpg 【徳島支局】「問 稲の花はいつ咲きますか?」「問 レンコンの穴はどんな役目をしていますか?」
 徳島県内の女性農業経営者で組織する「You・Meネット」(ゆめネット、会員31人、代表=佐々木いつ子さん・62歳)は、子供や消費者が農畜産物について関心を持つきっかけづくりになればと「とくしま農と食クイズ」を作成した。
 昨年5月から作成を始め、完成したのは今年3月。週1回、農作業後に集まり、会員自らが栽培・飼育する農畜産物に関しての問題を持ち寄り、検討・修正を繰り返した。
 「会員の農業への思いを、自己満足にならないよう、消費者の方に親しみやすい問題にするのが大変でした」と佐々木さん。
 近年、食育は盛んに行われているが、まだ農と食の距離はあると感じている佐々木さん。「クイズ集を活用し、生産者の思いや農畜産物の知識を伝えたいですね」と話してくれた。

〈写真:「とくしま農と食クイズ」を手に代表の佐々木さん。イベントで出題するなどしている〉

101020_09.jpg 【北海道支局】「おいしいと思ってもらえる牛肉を」と、新ひだか町三石で黒毛和牛を飼育する松本尚志さん(44)は、地元の特産物である「日高昆布」を餌に混ぜて与えている。
 「厳しいブランド和牛の競争で生き残るため、肉質等級や見た目だけにこだわるのではなく、食べておいしいと思える本物の味を追求したい」と松本さん。3年前から加工業者の協力を得て、コンブの切れ端を配合した飼料を牛に与えている。
 精肉は「こぶ黒(くろ)」と名付け、今年の夏、地元道の駅の農産物直売所で販売を始めた。
 肉質検査で、うま味成分であるグルタミン酸やイノシン酸が豊富に含まれていることが分かり、直売所でも「甘味と脂の溶け具合が絶妙」と、評判は上々だ。
 「こぶ黒」は、同直売所での販売のほか、インターネットでの通信販売も行っている。ステーキや焼き肉など各種あり、価格はサーロインステーキが200グラム2500円、カルビが200グラム1300円など。

〈写真:松本さん・照世さん夫妻〉

101020_10.jpg 【埼玉支局】「NPO法人ときがわ山里文化研究所(柴崎光生理事長=68歳)」では、ときがわ町大野の山奥、標高650メートルの湧水(ゆうすい)を利用した「ときがわ源流わさび」の栽培に取り組んでいる。
 同町大野地域では、地元の人が昔からワサビを丹精こめて育ててきたが、高齢化のため急斜面での作業が困難になり、耕地には5から6年、何もない状況だった。同研究所では、マニフェストの一部である山村文化の振興と継承をもとに、このワサビ作りに力を注ぎ、地域の特産品を目指している。
 ときがわ源流わさびは、現在2カ所のワサビ田で、無添加、無農薬で栽培されている。9月中旬に草取り作業で整備され、収穫は11月上旬から4月ごろまで行われるという。
 製品には「わさび根」「わさび葉」「わさび漬」があり、特にわさび漬は、同研究所自慢の一品。添加物は一切使わず、酒粕(かす)は小川町の酒造元から大吟醸の酒粕を仕入れ、砂糖と塩だけを使っている。
 柴崎理事長は「今後、ワサビ田をさらに拡張して、特産品を目指していきたい」と目を輝かせる。

〈写真:急斜面での収穫作業〉

101020_11.jpg 【岩手支局】地域の特産品をインターネットで販売する遠野市の株式会社ぴーぷる(山崎浩幸代表取締役)は、地場産の米や野菜など旬の商品をそろえ、関東・首都圏を中心に人気を集めている。
 同社は市の委託を受け、昨年12月に産直通販サイト「遠野市場」を開設。22の法人・個人と提携している。
 農産物のほかに、トマトジュースやウインナーなどの加工品、民芸品など140種類以上の商品を販売。
 最も人気が高いのは、同市暮坪地区で栽培している「暮坪カブ」だ。暮坪カブは漫画でそばの薬味として紹介され、人気を博している。今年は猛暑の影響で出荷量が少なく、販売数も限定となった。
 当初は、利用者が少なく、苦労したとのこと。現在は、ブログで商品や同市について紹介するなど、認知度を上げるのに日々奮闘している。
 同社の小松正真さんは、「サイトでは米や野菜といった身近なものが売れる。多くの人に遠野の魅力を知ってもらい、購入に結びつけたい」と話す。

〈写真:「ぜひアクセスしてみてください」と小松さん〉

101020_12.jpg 【宮崎支局】都城市山田町の田中哲男(たなかてつお)さん(49歳、水稲20アール)は、廃材の鉄パイプでロータリーの脱着器を自作し、脱着作業のわずらわしさを解消した。
 ロータリー装着の際「ロータリーが不安定で、何度もトラクターから乗り降りしながら着けていたので面倒くさいな」と感じていたという。
 製作日数は約1日で、材料費は0円。廃材の鉄パイプをトラクターの後輪装着位置に合わせ、高さを調整しながら溶接する。「爪(つめ)の部分を少し浮かせた状態で調整するのが少し大変でしたね。でも乗ったままスムーズに脱着できるので便利ですよ」と話す。

〈写真:ロータリーの脱着器〉

 ▼秋が深まる中で東北・北陸地方を中心にクマが住宅地に出没したり、山で襲われるなどのニュースが相次いでいる。キノコ採りシーズンでもあり、山に入る際には十分注意したい。地域でクマを人里に侵入させない対策も必要だ
 ▼ツキノワグマは、北海道と九州、沖縄を除く33都府県に生息する。九州では昭和初期に絶滅したとされ、四国や中国でも生息数が減り、絶滅が心配されている。一方、数年おきに大量出没があり、2006年には全国で100人以上の人身被害が発生。4300頭以上が捕獲された
 ▼人里に出没するクマの増加は、ドングリなどの餌不足が要因だ。ブナの結実は、年ごとの豊凶差が大きく、広い範囲で同調する。数年に一度大量結実するが、通常は凶作の年が多いという。ブナ結実の豊凶と出没を調べた研究では、凶作年に出没数や捕獲数が増える傾向があると分かった。東北では夏の結実予測調査を踏まえ、凶作見込みの時は注意を呼びかける自治体もある
 ▼環境省の『クマ類出没対応マニュアル』によると人身被害を減らす一番のポイントは「遭遇を避ける」ことだ。ツキノワグマの成獣は、体長110~150センチ、体重80~120キロと大型ではないが、力が強く、つめも鋭い
 ▼クマは警戒心が強く、地域ぐるみで環境を整備すれば侵入防止効果が期待できる。森林と農地との間に見晴らしのよい緩衝帯を作り、クマを誘い寄せる生ごみや果実を放置しない対策が基本だ。山に入る際は鈴やラジオを携帯し、存在を知らせればよい
 ▼ただ、山の広葉樹を減らして生息域を狭め、耕作放棄やごみの放置など人里に侵入しやすい環境を作ってきたのは人間であり、クマだけを加害者にできない。すみ分けや共生の方策を探り、実践していく責務は人間側にある。

101013_01.jpg101013_02.jpg 北海道赤井川村の有限会社どさんこ農産センター(二川健司代表、62歳)は、24戸の農家で構成。ジャガイモやカラーピーマン、ミニトマトなどの共同選果・販売体制を整え、生協や外食産業を中心に販路を拡大してきた。農薬や化学肥料を半分以下に減らす特別栽培を基本に、GAP(農業生産工程管理)にも取り組む。分かりやすい栽培の仕様書を作り、GAPのチェック項目をポスターにまとめるなど、栽培管理の負担や間違いを減らす工夫をこらす。研修生の受け入れや新規就農者の支援に力をいれるほか、消費者交流にも努め、地域農業のけん引役だ。

 「若い人がどさんこ農産センターを受け継ぎ、生産額の維持・拡大に頑張ってもらいたい」と二川代表は話す。「特別栽培やGAPは、若手がいなくてはできないし、いろいろなアイデアも出てくる。若い人には期待することばかり」と強調する。
 センターは、東京都の東都生協や関東近辺1都7県の生協で組織するコープネット事業連合などと栽培契約を結び、ジャガイモやカラーピーマンを中心に出荷。現在は年商2億円を超える総売上高を誇る。
 センターが出荷する農産物は農薬・化学肥料を慣行の半分以下に抑える特別栽培が基本だ。作物ごとに農薬や肥料の品名と使用基準などをまとめた仕様書を作成。技術水準の向上を図るとともに、農家の取り組みやすさを考慮した。仕様書をもとに作業を進めていけば、特別栽培の基準を満たす。農家は散布日や散布量などを記入。農産センターが各農家の仕様書を取りまとめ、確認責任者を務める村へ提出する。
 2年前からは出荷先の生協と連携してGAPにも取り組んでいる。「安全」「記録」「点検」などチェックが必要な項目は250項目に及ぶ。そこでチラシを作成し、作業の合間に確認できるよう、選果を行う倉庫や事務所内の目につきやすい位置に張っている。農家が取り組み状況を自己点検し、記録する際の注意を喚起する。
 「GAPはチェック項目が多く負担ばかりと思われがちだが、取り組んでみると自分の欠点がよく分かる」と二川代表。「衛生管理や健康管理の点に問題があった」と話す。確認してみると、選果場所に機械油を置いていたり、健康診断を受けていないなど、不備が見つかったという。農産物の品質確保とともに日常の生活も含めた改善を徐々に進め、今後もGAPの取り組みを継続していく考えだ。
 どさんこ農産センターの設立は1991年。農家の収入安定と販路の確保を目指し、共同選果・共同販売に取り組んだ。「安心と信頼できる農産物の生産・流通をめざす」を理念に、栽培方法を統一して品質向上を図ってきた。

(1面)

〈写真左:どさんこ農産センターのメンバーたち
〈写真右:二川代表の息子英司さん(28)。6年前に就農し、若手農家の一人として活躍中だ〉

 政府は、新成長戦略の推進でEPA(経済連携協定)を経済対策の柱と位置づけた。11月に開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議までに基本方針を策定する。菅直人首相は1日、所信表明演説で「アジア太平洋自由貿易圏の構築を目指す」と意欲を示した。しかし、貿易推進に向けて関税など国境措置を見直せば、農業・農村に大きな打撃となるだけでなく、食料安全保障や食料自給率向上、多面的機能の維持・発揮などに重大な影響を及ぼす。鹿野道彦農相は、今月中旬にも農林水産省の考え方をまとめ、基本方針への反映を目指すとしている。政府には、農業・農村への影響に十分配慮した慎重な対応が求められる。

〈A〉EPAは、関税を原則撤廃し、投資や人の移動、技術などの幅広い分野で協力関係を結ぶ2国間や多国間の協定だ。日本はシンガポールやメキシコ、タイなどアジアを中心に12の国・地域と、EPAを締結・大筋合意している。国内農業への影響に配慮し、米麦や乳製品など重要品目を関税撤廃対象から除外するなど相手国の理解を得てきた。
〈B〉政府は、6月に閣議決定した新成長戦略で「関税などの貿易上の措置や非関税措置の見直しなど質の高い経済連携を加速する」と明記した。菅首相は1日の所信表明演説で、環太平洋パートナーシップ協定交渉(TPP)などへの参加を打ち出し、「国を開き、具体的な交渉を一歩でも進めたい」と述べた。
〈A〉TPPは、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4カ国による地域FTAで、2006年に発効した。物品貿易は100%関税撤廃が原則で、08年に米国やオーストラリアなど農産物輸出大国が参加を表明、交渉が始まっている。日本が参加する際にも、関税撤廃を求められることは避けられない。
〈C〉政府や経済界の貿易自由化への期待は大きい。各国が進めるEPAやFTA締結の流れから取り残されたくないとの思惑もある。前原誠司外相はEPAを外交の最優先事項にする方針を表明。大畠章宏経産相は、日中韓FTAやTPPへの参加に意欲を示している。しかし、貿易推進のメリットに目を奪われ、国内への影響を過小評価していないか。農業や農村が打撃を受ければ、食料安全保障や食料自給率向上、多面的機能の維持・発揮など多大な影響が避けられない。

(2面・総合)

101013_03.jpg101013_04.jpg 「農業と人、人と人とを結びたい」と、滋賀県長浜市小谷丁野町の家倉敬和さん(29)=水稲25ヘクタールなど=は9月26日、「笑顔をつなぐ稲刈りイベント」を開催。無農薬で栽培した米を購入する消費者、友人など約30人が、6月に田植えをした田んぼ(4アールほど)に集まった。かまどで炊いた新米や伝統料理をほお張り、ミニコンサートに耳を傾け、秋晴れの一日を楽しんだ。
 家倉さんは、種まき、田植え、稲刈り――など年に数回、消費者や友人を招いて交流する。水稲は作付面積のうち約2ヘクタールを無農薬で栽培し、「信頼の農家直送便」として産直に取り組む。「交流イベントは授業参観のような面もある。無農薬の栽培を説明しても、十分には伝わらない。メダカなど小動物がすむ田んぼをじかに見てほしい」と話す。
 交流に取り組み始めたのは5年前、友人の姉に「農業体験してみたい。家倉くんはやらないの」と声を掛けられたのがきっかけ。「一緒に作業すると自分自身、農作業が楽しめるようになった。大勢で食べると『おいしい』実感が何倍にも膨らんだ」とほほ笑む。


 ◇    ◇      

 家倉さんは現在、11月14日に米原市の伊吹薬草の里文化センターで開催する「農家フェス」の準備に力を注ぐ。所属する湖北地域の農家集団konefa(コネファ)のメンバーのほか、県内の農業青年グループに呼びかけた。滋賀県の食、音楽などを楽しむイベントで、絵画・工芸品の展示なども交え、「見ごたえがあって、ずっと続く催しに育てたい」としている。
(3面・暮らし)

〈写真上:「やったぞー」と大きな掛け声〉
〈写真下:みんなが待ちに待ったかまどで炊いた新米のご飯「たくさん食べてよ」と家倉さん(右)〉

 政府の行政刷新会議は「事業仕分け第3弾」として、10月の最終週から特別会計ワーキンググループによる仕分けを実施する。国に設置された18会計51勘定すべての特別会計の事業を検証する。NOSAI事業に関係する「農業共済再保険特別会計」も含まれる。大きな災害が発生した時に迅速、確実な共済金支払いを可能とする重要な仕組みで、農家の経営安定に支障を生じさせないよう慎重な検討が求められる。
 NOSAI制度は、自然災害による農作物の減収などを保険の仕組みによって補てんする。組合、連合会、国の3段階制(一部の県では組合、国の2段階)をとっている。組合は連合会に保険を、連合会は国に再保険を掛けて、リスク分散を図っている。大きな被害が発生した時は、国は連合会に再保険金を、連合会は組合に保険金を支払う。
 国は、連合会から支払われる再保険料を「農業共済再保険特別会計」で管理している。巨額な再保険金の支払いが生じた場合、被害状況に応じて一般会計から急きょ財源を確保し、対応するのは難しい。国の財政が厳しい状況下では、財源不足のため、支払時期が非常に遅くなる恐れがある。
 大冷害となった1993(平成5)年の共済金は5487億円、03年には1871億円が農家に支払われた。このうち国が負担した再保険金は93年は4388億円、03年は1111億円に上っている。
 国が再保険者となり、農業共済再保険特別会計で再保険金の原資となる資金を管理しているので、農家は確実、迅速に共済金を受け取ることができる。
 農業共済再保険特別会計を一般会計と区分して経理することで、国が行う再保険事業の収支の透明性を確保する。また、使途は再保険金の支払いなどに法律で限定されていて、目的外で使用されないよう適切な管理をしている。
 農家経営を安定させるNOSAI制度の役割発揮には、農業共済再保険特別会計が重要な役割を果たしている。

(5面・NOSAI)

101013_05.jpg NOSAIえひめ(愛媛県農業共済組合連合会、喜安晃会長)の家畜診療所では、県内四つの診療所の獣医師4人が集まり「チーム蹄(つめ)」を結成。牛の蹄病に特化し治療に当たっている。松山、大洲、東予、南予基幹の各家畜診療所からそれぞれ一人ずつの獣医師で構成。「的確に治療してくれて、治りも早い」と農家から好評を得ている。
 チーム蹄の活動は毎週水曜日。農家の依頼を受け、午前中は個々に管内の農家を回り、午後に大型農場で合流する。
 治療は、炎症が起こっている部分をすべて取り、潰瘍(かいよう)がある場合は、切除し、薬を塗布。患部が直接地面に触れないよう木の下駄を履かせて包帯を巻き、固定すると治りが早くなるという。患部の写真を撮り、記録を付けて再診や再発した時に役立てる。
 「蹄を健康に保つと病気の予防につながる」とチームリーダーの村上慶政獣医師。定期的な削蹄を呼びかけるとともに、蹄の消毒をする蹄浴槽の活用や牛床を清潔に保つよう指導している。
 チーム蹄は結成して3年目になる。昨年は、約750件の依頼があった。多い時は一日10件程度依頼があり、水曜日に回れない農家は個々で治療に行く。特に夏から秋にかけて蹄病にかかりやすく、依頼も多いという。綱崎誠獣医師は「蹄病の治療ができる獣医師を増やしていきたい」と話している。

(5面・NOSAI)

〈写真:潰瘍(かいよう)部分を切除し、木の下駄を履かせる綱崎獣医師〉

 夏場の高温少雨による影響で、関東以西の地域で害虫の発生が増えている。10月の平均気温は平年より高いと予想され、さらに害虫発生を助長する懸念も出てきた。野菜や花き、大豆を加害するハスモンヨトウの多発が懸念されるほか、主な野菜害虫では、オオタバコガ、コナジラミ類、イチゴのハダニ類なども増加が懸念され、警戒が必要となっている。主な野菜害虫の発生状況や対応策のポイントを取材した。
 ハスモンヨトウの注意報は、9月9日から10月7日までに茨城、栃木、神奈川、新潟、岐阜、静岡、三重、奈良、島根、広島、山口、佐賀、長崎の13県が発表した。神奈川は野菜・花き類でオオタバコガの注意報を出し、警戒を呼びかける。そのほか関東を中心にイチゴのハダニ類やキュウリ、ネギのアザミウマ類などの発生が「多い」と見込まれている。
 栃木県農業環境指導センターが実施した9月上~中旬の調査では、ハスモンヨトウ幼虫がキャベツ、キュウリ、ネギ、イチゴ、ナスで多発していた。防除課の大森貴寿課長は「発生圃場割合は、キャベツが平年に比べ約4倍、イチゴは2倍だった。雨が少ないことがハスモンヨトウの多発につながったと思われる」と話す。
 オオタバコガの注意報を発表した神奈川県農業技術センター病害虫防除部の木村厚信副技幹は、「ハスモンヨトウに比べ、オオタバコガの幼虫は単独で加害するため見つけにくい」と指摘する。フェロモントラップによる雄成虫の誘殺数が急増した。
 オオタバコガは卵を1粒ずつ産み付ける習性がある。3齢以降の幼虫はキャベツやハクサイの結球部、ナスやトマトの果実などに入り込み、防除が難しい。齢期が進むほど薬剤の効果が低下するため、若齢期の防除徹底を呼びかけている。
 薬剤によって、効果の発現時期、接触あるいは食毒効果などが異なるので、発生状況に応じた薬剤の選択が大切だ。薬剤感受性が低下しないように、同一系統の連用は避ける。

(11面・営農技術)

 農林水産省は6日、米戸別所得補償モデル対策の定額部分(10アール当たり1万5千円)の支払いについて、関東や近畿の一部地域は年明け以降になるとの見通しを発表した。事務作業の遅れが要因。米の概算金大幅引き下げなど厳しい状況の中、これら地域の農家は年末の資金繰りが苦しくなる恐れがある。
 全国の市町村・地域水田協議会の作業状況などを調査した。北海道や東北、北陸などを中心に、多くの地域は当初予定通り年内(12月24日まで)に支払われる見通し。一方、茨城や群馬、埼玉など関東の一部地域をはじめ、山梨、長野、大阪、兵庫、和歌山など23府県の一部地域で年明けとなる。
 価格下落を補てんするモデル対策の変動部分は来年1月までの相対取引価格で交付単価を決め、3月中に交付する。水田利活用自給力向上事業の交付金は、従来の産地確立交付金の支払い時期を念頭に、早い地域は年内中に支払い、遅い地域でも3月中に交付するとした。

(2面・総合)

101013_06.jpg 農林水産省と環境省は5日、特定農業資材(特定農薬)を検討する合同会合を開き、「焼酎」の指定に向けた手続きを進めることを確認した。食品安全委員会に諮問する。一方、「木酢液」や「電解次亜塩素酸水」「ウエスタン・レッド・シーダー蒸留抽出液」は、製造方法や安全性の面でさらに検討が必要として継続審議となった。合同会合は2年近く休止していたが、検討対象を35に絞り、必要な資料が整い次第、審議を進める方向だ。
 焼酎は、薬効が十分に確認できないと審議を打ち切っていた。しかし、昨年7月に評価指針を改正。食品など安全性が明らかで、生産現場で防除目的に使用されている実態があれば、薬効の確認の一部を省略して評価する規定を追加した。
 北海道や青森県、高知県の生産者が、アブラムシやカイガラムシなどの病害虫防除に焼酎を利用。水や食酢と混ぜて100倍に薄め、キュウリやホウレンソウなどに散布している。薬害や水産動植物に対する安全性も確認されており、特定農薬の指定に向け、食品安全委員会に諮問することとなった。
 木酢液は、成分に含まれるホルムアルデヒドの量が問題となった。食品中にも含まれる物質だが、発がん性が指摘されている。過去に行った試験では高濃度のサンプルがあり、安全性を慎重に審議している。
 電解次亜塩素酸水は、〈1〉長期間の散布で土壌にダイオキシン類が生成しないか〈2〉散布時に生じるハウス内の塩素ガス濃度が高くならないか〈3〉ハウスが腐食しないか――を審議した。
 特定農薬制度は、無登録農薬の問題で農薬の製造・使用の規制を強化した02年の農薬取締法改正の際、明らかに安全な防除資材にまで登録義務を課すと過剰規制になるとしてつくられた。
 食酢、重曹、土着天敵が指定された。重曹は殺菌剤としてイチゴ、トマト、バラの灰色カビ病やカボチャ、キュウリ、スイカなどのウドンコ病に、食酢は殺菌剤として稲のもみ枯れ細菌病やばか苗病に薬効が認められている。
 しかし、安全性や薬効の評価が難しい資材が多く、その後は審議が難航していた。
 合同会合による審議が再開し、農林水産省と環境省はインスタントコーヒーや米ぬかなど35資材(別項参照)に絞って、検討を進めていく方針だ。検討対象から除外した資材は指導通知を出し、取り扱いについて周知する予定だ。

(8面・特集)

〈写真:審議を再開した特定農薬の合同会合〉

101013_07.jpg101013_08.jpg 【秋田支局】菌床シイタケ栽培が盛んな、八峰町峰浜地区。峰浜目名潟の芹田正嗣さん(62)は、この地区で初めてのシイタケもぎ取り体験を行う。「ナシやリンゴなど果樹園のもぎ取り体験はよくある。キノコのもぎ取り体験があってもいいはずだ」との思いから始め、県内外の家族連れなどが訪れている。

 昨年春から始めたシイタケのもぎ取り体験は、通年で実施している。「観光ツアーなどで、一度に50人以上来たこともある。道路に設置した看板に興味を持ち、訪れる人もいる」と芹田さん。
 地元小学校の農業体験も受け入れていて「小学生からお礼の感想文をもらう。見学したら『子供のシイタケ嫌いが直った』との先生の知らせに感激することも」と話す。
 芹田さんは、「せりた椎茸(しいたけ)生産事業所きのこ農場」の代表を務め、ハウス5棟(350坪)でシイタケ栽培に取り組む。
 最近は価格が下落傾向で、経営は大変だという。「おいしいシイタケを作るため頑張っている。もぎ取り体験で収穫の喜びを味わってほしい」と話している。

〈写真:菌床シイタケハウスで芹田さん。看板でもぎ取り園をアピール〉

101013_09.jpg 【長崎支局】トンネル栽培の杭木(くいき)を手作業で引き抜くのは大変な作業だ。そこで、島原市有明町の宇土和徳(うとかずのり)さん(48)は、「杭抜き機」を開発し、近隣の農家で評判となっている。
 杭抜き機は、鉄製のL字型のバールにチェーンを取り付けたもの。杭木にチェーンを巻きつけ、チェーンの目を調整しながら止め具で固定し、60度に傾いている棒を直角になるように引き寄せれば楽に抜けるという。
 「チェーンで締めるので、杭木の大きさや太さ、材質や形状を問わず使え、滑らないのでハウスのパイプにも使えます。杭木が曲がったり、折れたりすることがなくなりました」と宇土さんは話す。
 杭抜き機は2007年に実用新案登録申請し、翌年に認可を受け、現在は鉄工所で製作してもらっている。

〈写真:「杭抜き機」を実演する宇土さん〉

101013_10.jpg 【滋賀支局】社会人野球チーム「滋賀・高島ベースボールクラブ」(高島市、今年設立)では、地元農家の協力を得て、ビニールハウス約50アールでコマツナの水耕栽培を行い、売り上げでチームの運営費の一部を賄っている。
 自活する手段として地元で盛んな農業を選択。作業性や虫害に配慮して、120センチの棚を使って栽培し、朝市や学校給食へ出荷している。
 伊藤剛吏監督(45)は、「スポンサーに頼らない運営は大変ですが、自活でき、地域の発展に貢献できる活動を目指しています。将来は、多品種での栽培や障害者の雇用、外食産業などへの売り込みもしていきたい」と意欲的だ。

〈写真:コマツナの出来を確認する伊藤監督〉

 【新潟支局】101013_11.jpg新潟市南区茨曽根の関根鶴松さん(70)の畑では、ツノナスが見ごろを迎えている。「昨年の正月、友人の家に飾られていたツノナスの珍しい姿に魅力を感じて、栽培したくなりました」と話す関根さん。
 友人から種を譲り受けて栽培を始めたが、管理の仕方が全く分からず、実は約3センチにしか肥大しなかったという。
 昨年の秋、「友人が購読していた農業共済新聞のにいがた版に載ったツノナスの記事に『いらない葉を全部取り除く』とあり、栽培のヒントを得ました」と話す。
 今年は5月上旬に、苗木を購入して栽培を開始。「花に植物成長調整剤を散布し、結実を良くしました。果実が5センチほどに肥大してから、下葉を全部取り除き、今年は大きく育ってくれました」と関根さんは話す。

〈写真:ツノナスの横で関根さん〉

101013_12.jpg 【福島支局】異業種の企業5社が連携して今年3月に設立した、伊達市の福島薬草栽培研究会(貝津好孝代表=55歳)では、漢方薬の材料になる薬草の栽培から加工品の開発、販売までを行おうと活動を始めた。
 薬草の栽培・採集は、株式会社伊達の野菜倶楽部と、桑折町の株式会社感謝農園平井の農業生産法人2社が行う。加工は、伊達市の電子部品製造業・晶和が担当。同市の健康食品卸「ヘルシーサポート」が販路を確保して、大手生薬会社に売り込む計画だ。
 貝津代表は、伊達市で「港屋漢方堂薬局」を経営。漢方を研究している薬剤師ということから、同研究会のアドバイザーを務め、苗の調達や栽培管理を指導している。
 最初の作付けは、今年3月末に行われた。放置されてクドフジが生い茂るような町内の遊休農地を耕し直し、伊達の野菜倶楽部と感謝農園平井がシャクヤクの苗3千本を定植。収穫は、3~5年後になるという。

〈写真:シャクヤク畑で平井國雄取締役〉

101013_13.jpg 【熊本支局】都市型農業の新たな形として、熊本市の良町営農組合(村上義雄組合長=62歳、20人)は、近隣住民が参加する「いきいきふれあい体験農園」(30アール)を運営している。農業未経験者の農業体験や新規就農者の研修受け入れを通し、農地の保全を図るのが目的だ。
 入園料は、種代や肥料代などを含めて1区画(25平方メートル)当たり年間1万3千円。地元農家や同JA職員の指導を受けられることが利点で、体験農園に15人、新規就農研修に10人が参加している。
 熊本市からJA熊本市に委託されている「新規就農支援対策事業」の実践研修では、毎月第1・第3土曜日に伝統野菜「水前寺菜」「春日ぼうぶら」などの栽培を指導。
 村上組合長は「将来は栽培した野菜を販売できるようにし、作る喜びだけでなく売る喜びも共有したい」と話す。

〈写真:農家の指導を受けながら、ニンジンを播種する参加者〉

101013_14.jpg 【静岡支局】「日本人が好む強い甘味と、わずかな酸味が特徴です」と話す静岡市駿河区丸子の西川宜成(よしなり)さん(44歳、茶、ミカン)は、8年前から熱帯果樹「ジャボチカバ」を400平方メートルで栽培している。
 ジャボチカバは、主にブラジルで栽培されるフトモモ科の果物。直径2センチほどの「巨峰」のような果実で、白い半透明の果肉は味も形もライチに似ている。一年中収穫できるのも特徴だ。
 昨年には、摘み取り体験園をオープン。園内の日曜農園カフェでは、西川さんの妻・文(あや)さん手作りのジャボチカバを使ったスイーツなども提供する。
 西川さんは「お客さんが果実を楽しく摘み取り、木の下で異国情緒を感じながら、おいしく味わえる農園を目指している」と話す。

〈写真:ジャボチカバは幹に直接結実する〉

 ▼農山漁村の6次産業化で、地域女性による起業活動への期待が大きい。農林水産省のまとめによると、2008年度は全国で9641件の起業活動が確認された。鈍化傾向にあるものの、97年の調査開始以来、起業数は伸び続けている。グループ経営が6割、個人経営が4割で、494件(5%)が法人化した
 ▼活動内容は「食品加工」が75%を占め、「農業生産」の18%を大きく上回る。全体の半数以上が流通・販売を手がけ、その7割が直売所だ。体験農園や農家レストランの取り組みもそれぞれ3割弱に及ぶ
 ▼経営改善に必要な取り組みに4割が「売れる商品の開発」と回答した。「販路開拓」「加工技術の向上」もそれぞれ3割弱を占める。それに次ぐ課題が「新しいメンバーの加入」だ。特にグループ経営の悩みとなっている。取材した経験でも女性グループの多くは同世代中心の活動で、「年をとってできなくなったらおしまい」と率直な話も聞いた
 ▼女性起業の収入は、年間売上高300万円未満の経営が過半を占める。グループ経営では、約3割が1人当たりの年間手取額10~30万円未満だ。起業活動が、必ずしも高収入につながる訳ではない。ただ、地域に根ざした活動を通じて収入を得る手段があることは大切だ
 ▼10年ほど活動して解散したが、田舎の母親も生活改善活動の仲間で漬物を製造・販売するグループを作り、雪深い冬の収入源としていた。たくさん売り上げた時は小遣いをもらった。収入の一部を積み立て、仲間と温泉に出かけるのを楽しみにしていた
 ▼景気悪化が地域経済を直撃し、政府は6次産業化推進による新たな収入確保や雇用の場づくりを目指している。農林水産省の来年度予算概算要求では、施設整備の支援や資金の融資などを盛り込んだ。地域を元気にする女性の起業活動が次の世代に引き継がれないのはもったいない。経営継承支援にも力を入れてほしい。

101006_01.jpg 今夏の記録的な猛暑が影響し、国産果実は小玉果傾向となり、日焼け果などの被害もみられる。出荷量は軒並み昨年より減少。市況は昨年と比べて高値傾向で推移している。9月中旬の京浜市場の販売実績は、ナシがキロ349円(前年同旬比184%)、リンゴが261円(同140%)――など。昨年までの果実価格低迷からは回復し、各産地では、農家に品質向上に向けた管理と高品質果実の出荷を呼びかけている。
 果実の生育状況を日本園芸農業協同組合連合会(日園連)は「今年の夏は高温で日照が多く、雨が少なかった。果実全般でかなり影響が出ている」(業務部)と説明する。
 ミカン、リンゴ、柿など日焼け果の被害がみられ、下級品の発生が多かった。開花時の低温や凍霜害の被害も受けて生育は全体的に遅れ、出荷量は昨年より減少している。
 一方、干ばつの影響も受け、全般的に小玉果傾向となっているが、糖度は高い。昨年まで低迷していた市況は、今年は単価高で推移している。「単価は大きく伸びているが、昨年まで2年続けて安値だったため一息ついたという印象だ」(業務部)と話す。
 

温州ミカン

 温州ミカンは今年はうら年に当たる。極早生ミカンの生産量は、昨年より若干減る見通し。「着色が遅れている中、着色を待つと後半に出荷が集中する。今年は糖度が高い。産地には品質重視の計画出荷を呼びかけている」(業務部)。昨年は2年連続となる緊急需給調整を発動しており、日園連は一時期の出荷集中を懸念する。
 5月時点で温州ミカンの適正生産量を90万トンとしていたが、現時点では90万トンを下回る見通し。産地には極早生ミカンの出荷を10月で終え、11月から早生ミカンに切り替えるよう指導している。早生ミカンの生産量は前年比15%減となる見込みだ。

リンゴ

 リンゴの適正生産量は85万トンとしていた。日園連では85万トンを割り込むと予想する。  長野県では、梅雨明け後高温が続き、早生種「つがる」の着色が遅れている。日焼け果が多く、玉は一回り小さいが糖度は高い。JA全農長野のつがる販売量は、9月末までで前年比約80%と減少した。これから出荷が始まる「秋映」「シナノスイート」「シナノゴールド」も生育は1週間の遅れ。つがるほどではないが小玉果傾向という。  JA全農長野は「生産者に適熟品の出荷を呼びかけている。つがるの販売価格は前年比約130%と生産者が納得できる価格に近づいた。近年の価格低迷に歯止めをかけたい」としている。
(1面)

〈写真:単価高の状況を維持し、計画出荷を励行して有利販売に努めたい(東京・大田市場)〉

 農林水産省は9月30日、2010年産米の作況指数(9月15日現在)は、99の「平年並み」と発表した。予想収量は830万8000トン。過剰作付けは約4万ヘクタールで、10年産米の生産目標数量813万トンを17万8000トン上回る。10年産米の需要見通しは805万トンで、新たに26万トン程度の過剰米が発生する見通し。すでに09年産米の持ち越し在庫により需給は大幅な緩和傾向にあり、一層の米価下落への懸念もある。ただ、農林水産省は戸別所得補償モデル対策で、下落分を補てんする変動部分が措置されていることなどを理由に需給調整対策は実施しない方針だ。
 10年産米は、5月中旬から6月上旬の低温・日照不足などの影響で、多くの産地で全もみ数が平年を下回った。その後は天候が回復し、登熟はおおむね順調に推移したものの、10アール当たり収量が伸びなかった。
 水稲の作付面積(青刈りを含む)は、前年産比2万ヘクタール増の165万7千ヘクタールと見込んだ。戸別所得補償モデル対策の実施に伴い、不作付地などでの加工用米や米粉・飼料用米など新規需要米の生産が拡大した。加工用米は1万3千ヘクタール増の3万9千ヘクタールに、新規需要米は1万6千ヘクタール増の3万4千ヘクタールとなる見通し。
 一方、主食用米の作付け見込み面積は158万ヘクタールと1万2千ヘクタール減少する。ただ、生産目標数量を4万ヘクタール程度上回る過剰作付けがある。このため全国の10アール当たり予想収量(526キロ)をもとにした予想収穫量は830万8千トンとなる。農林水産省では、10年7月から11年6月までの需要量を805万トンと見通しており、10年産米だけで新たに26万トン程度の過剰米が発生する。

(2面・総合)

101006_02.jpg 「集落に子供の声が戻ったのが一番うれしい」と話す高松市香川町の特定農業団体「アグリ天神」(26戸)の松浦可稔(よしとし)代表。高齢化が進む中山間地で積極的に農作業受託し、耕作放棄地をなくそうと、水稲や麦を生産する。農作業の効率化を図り、農業機械を共有し、オペレーターが農作業を請け負う。農家の後継ぎが子供連れでUターンするなど、集落は活性化に向けて動き出した。
 アグリ天神は、集落のほとんどの農作業を受託し、水稲「コシヒカリ」など4.5ヘクタール、小麦「さぬきの夢2000」4.6ヘクタールを管理する。10アール当たりの委託料は、田植えで7千円、稲刈りで1万円など、近隣の相場の半値程度に抑えている。作業は4人のオペレーターが中心で、追肥と水管理は地権者が行う。有料で農機具の貸し出しにも応じている。
 アグリ天神は1990年に設立した集落営農組織を発展させ、06年に特定農業団体となった。集落の高齢化で耕作放棄地が徐々に増えてきたため、農機具の共有化を図った。時間を掛けて取り組もうと考えていたが、一人暮らしの高齢者も出るなど、高齢化の進行は予想以上に早かったという。「農機具を更新したばかりなのに......」と共有化に反対する声もあったが、個人所有の農機具の廃棄は強制しないと決め、「10年後、20年後の天神集落がどうなるか考えてほしい」と時間をかけて説得した。

(3面・暮らし)

〈写真:アグリ天神の松浦代表(左)と上原悟さん。農機具が増え手狭になったため、新しい格納庫を建設中だ〉

101006_03.jpg 中山間地域を中心にイノシシ被害が拡大し、水稲をはじめ農作物に大きな被害が発生している。農家は防護柵の設置や捕獲などに努めているが、被害拡大を抑えるのが難しい状況だ。島根県のNOSAI東部(島根県東部農業共済組合、浅野俊雄組合長)では、NOSAI部長と連携してイノシシ対策に努め、農家にアドバイスするほか、水稲に被害が発生した農家には、適切な被害申告を呼び掛けている。
 松江市荘成町の成相寺地区は、奥行き1キロを超す長い谷沿いにある。NOSAI部長と損害評価員を務める池本智城さん(76)=野菜=は「以前は島根半島にイノシシはいなかった。5年ほど前から急に被害が出始めた」と話す。
 電気柵の設置など、農家個々に対策は講じている。しかし、破られれば隣接の水田や畑にも侵入される。農家同士注意を促しながらイノシシ対策に苦心しているという。
 水田などを荒らすイノシシの捕獲も重要で、猟友会メンバーの管理の下、水田や畑に通じる獣道に箱わな7基を設置した。設置後3年間で40頭あまりを捕獲している。
 集落で獣害対策の中心的な役割を果たす井上肇さん(75)=農業法人のオペレータ=は「今まで被害がなかった地域だけに、誰かがやらなければ取り組みが進まない」と、休猟期以外は毎日、捕獲おりを見回る。
101006_04.jpg 安来市広瀬町の宮上地区の細田功さん(72)=水稲65アール=はNOSAI部長と損害評価員を担当して15年になる。中山間地域の宮上地区でもイノシシ被害は大きな問題だ。「就任当時はイノシシ被害などほとんどなかった。徐々に増え、7~8年前が最もひどかった」と振り返る。
 コンクリート施工用のワイヤメッシュ、トタンなどのフェンスや電気柵で水田への侵入を防ぐ。侵入された場合は、気づいた農家が被災農家に連絡し、修復・補強する。フェンスを持ち上げられたり、押し倒された場合は修復して埋め戻し、抑え材を補う。ワイヤメッシュにトタン、電気柵と重ねていくと破られにくくなる。
 NOSAI東部では08年度からイノシシ被害農家からNOSAI部長を通して、猟友会や行政に連絡、農家にアドバイスや支援をする「猪(いのしし)110番」に取り組んでいる。防護柵の資材費に一部助成(10%)も行っている。

(5面・NOSAI)

〈写真上:米ぬかやくず米を餌に、田畑に出没するイノシシを捕獲する。「今年の春は100キロを超すイノシシを捕獲できた」という井上さん(右)と池本さん〉
〈写真下:「うまい米を作り続けたい」と細田さん。作付けの一部は今もはさ掛けする〉

101006_05.jpg 茶の生産と販売を手がける静岡県牧之原市の有限会社ヤマセン(畑勝也代表、56歳)は、通常、紅茶や緑茶で飲まれる「べにふうき」をウーロン茶に加工。「花いろ烏龍(ウーロン)茶」と名付けた商品は「100%国産のウーロン茶」として外食関係や小売り業者中心に売り上げを伸ばしている。各地で行われる商談会やイベントなどに積極的に参加し販路を広げ、インターネットや自社の店舗でも販売し、リピーターも増えている。
 「珍しい香りに驚くお客さんがとても多い」と畑代表。「花いろ烏龍茶」は花のような香りと苦みや渋味が少ないのが特徴だ。今年のウーロン茶生産量は約5トンで、茶葉50グラム入を1050円(税込み)で販売する。急須を持たない家庭が多い最近の動向に対応し、ティーバック(2グラム×20個)1050円(税込み)も製造している。昨年の売り上げは約2千万円だった。
 販売先は、静岡県西部の遠鉄ストアの一部店舗やスープ専門店の「Soup Stock Tokyo」など小売りや外食企業が中心だ。現在は約20件と契約している。「待っていても売れない。こちらからどんどん売り込んでいかなければ」と畑代表。自ら各地で行われるイベントや商談会にブースを出展し、「国産ウーロン茶」という珍しさを全面に出し販路を拡大してきた。ほぼ全量を小売りや外食企業に出荷するほか、一部はインターネットや自社の店舗で販売する。 ヤマセンは、契約農家24戸(45ヘクタール)と自社農場10ヘクタールで緑茶用の「やぶきた」を中心に栽培。年間約250トンを生産し、一部製茶している。ウーロン茶用の「べにふうき」は契約栽培含め4ヘクタールで栽培する。

(8面・流通)

〈写真:「今までにないものを世の中に出していくやりがいや面白さがある」と畑代表(左)と息子の恵介さん〉

101006_06.jpg 埼玉県上里町で酪農を営む高田茂さん(62)は、良質な自給粗飼料を生産し、乳房炎の早期発見と治療を実践して乳質向上に取り組んでいる。未経産牛には雌雄判別精液を使い、雌牛出産で難産防止に努めてきた。一部に屋根を付けた運動場の利用と良質粗飼料の自由採食で、肋〈ろく〉張りがよく足腰の強い育成牛が育つ。TMR(混合飼料)の給与で安定した泌乳成績を確保し、自家育成で経産牛1頭当たりの年間産乳量1万キロを10年以上も維持している。

●自給粗飼料の質高めて通年給与
 高田さんは「良質粗飼料の給与、早期発見と治療で乳房炎の慢性化を防ぐことが、良質乳生産につながる」と話す。
 飼料は、イタリアンライグラス6.5ヘクタールやデントコーン5ヘクタール、エン麦2ヘクタールなどを作付け、適期収穫を実践する。収穫後は地下式サイロやロールベーラーを使ってサイレージ化する。

●消石灰混ぜた敷料を使用
 乳房炎対策では、もみ殻やおがくずに消石灰を混ぜた敷料を使う。日々の観察で気になる牛は、乳汁のPLテストを実施。乳房炎の疑いがあると、家畜保健衛生所に乳汁の分析を依頼、原因菌の特定や薬剤感受性を確認し、獣医師の指導で治療を行っている。
 TMRは朝と夕方の2回調製、1頭1日当たり乳量を35キロに設定して設計する。主な給与量は配合飼料11キロ、デントコーン8キロ、チモシーとアルファルファ7キロ、飼料稲4・5キロ、ビールかす4キロなどだ。高田さんの牧場では、労働時間の削減を図るため、自動給餌機によるTMR給与を行う。


〈経営の概要〉労働力は妻・静子さん(60)と長男・和弘さん(32)、雇用1人と研修生1人。経産牛67頭、育成牛45頭を飼養。飼料畑8.5ヘクタール(うち借地約6ヘクタール)。2008年度は、経産牛1頭当たりの年間産乳量1万803キロ、乳脂率4.01%を達成。無脂固形分率8.82%、1ミリリットル中の体細胞数6.1万個、細菌数1万個以下だった。


〈写真:「さらに乳質を高めて、牛乳・乳製品を加工・販売する6次産業化を目指したい」と話す高田さん〉

 2010年産小麦の都府県の収穫量(以下同)は、前年産を5万1900トン(19%)下回る22万2200トンにとどまることが分かった。農林水産省が9月30日に発表した。九州地域を中心とした湿害の発生や春先の低温・日照不足が主な原因。2年連続の大幅減少となり、08年産比では約11万8千トン(35%)減少した。
 作付面積は前年産に比べ1400ヘクタール(2%)減の9万600ヘクタール、10アール当たり収量は18%減の245キロ。地域別では九州が2万1500トンの減となり、特に佐賀県(1万1300トン減)、福岡県(6800トン減)、熊本県(2310トン減)が大幅に減少した。
 二条大麦は9800トン(9%)減の9万8800トンとなった。作付面積は700ヘクタール(2%)増加したが、九州を中心に湿害などが発生した。
 六条大麦は6600トン(13%)減の4万5600トン。作付面積は200ヘクタール(1%)減少し、北陸地域を中心に低温・日照不足の影響を受けた。
 裸麦は700トン(6%)増の1万1900トンとなった。作付面積が370ヘクタール(9%)増の4720ヘクタールとなった。

(2面・総合)

101006_07.jpg コントラクター(飼料生産受託組織)の活動と経営高度化の支援策を検討する「全国コントラクター等経営高度化推進会議」(座長=福田晋・九州大学大学院農学研究院教授)が9月24日、東京都内で開かれた。飼料自給率向上を目指し、オペレーターの確保や研修などの充実、耕畜連携推進を求める意見が出た。
 コントラクターの組織数は2008年で522組織となり、03年と比較し約1・6倍に増えた。営農集団などが282組織と最も多く、有限会社が87組織、JAと農事組合法人がそれぞれ53組織と続く。任意組織が6割を占め、組織として脆弱(ぜいじゃく)な状況にある。
 「トウモロコシの適期収穫や大面積を請け負えない組織は解散に追い込まれる」と指摘するのは全国酪農業協同組合連合会の久保園弘酪農生産指導室長だ。規模拡大と年間作業の確保が経営維持に欠かせないと訴えた。
 デントコーンをロールラップサイレージ化した牧草飼料「サイロール」の製造販売に取り組む、鹿児島県志布志市志布志町の有限会社さかうえの坂上隆代表は、「飼料生産にはコスト削減が必要。そのための組織がコントラクターと再度認識すべき」と強調する。畜産目線から脱却し、耕種農家との連携をポイントに挙げ、「地域性を生かし、耕畜連携が進む取り組みが重要だ」と話した。
 福田教授は、「地域農業にコントラクターをどう位置付けるかが重要だ」と総括した。稲WCS(稲発酵粗飼料)などにこれから取り組む稲作地域と、先進地域組織の高度化を目指す地域の両方を支援する必要があると強調した。
 会議を主催した日本草地畜産種子協会の信國卓史会長は、「農業予算は、経営対策に力点をおくが、畜産の現状を見ると、むしろ構造改革事業に力を入れるべき」と述べた。

(6面・特集)

〈写真:コンストラクターの有識者が集まった推進会議

101006_08.jpg 【愛媛支局】糖度は23度以上、果肉は濃厚でクリーミー、皮ごと食べられるのが特徴の高品質イチジク「バナーネ」――。今治市玉川町の遠山満さん(84)は、13年前からバナーネを栽培している。イチジクは比較的、手間のかからない作物だが、遠山さんは栽培方法に工夫を凝らし、品質向上に努めている。
 「果皮にしわができる日本種と違って、バナーネは最後の一個まで品質がいい」と話す遠山さん。約10アールの畑で、バナーネ11本、在来早生改良品種20本を栽培する。
 フランス原産のバナーネは、夏果は200グラムを超える巨大種だが、遠山さんは小ぶりながら糖度の高い秋果だけを収穫。毎年バナーネ約1トン、日本品種約3トンを収穫し、パックに詰めて、今治市内の産直市場「さいさいきて屋」とスーパーに出荷する。
 栽培方法に工夫を凝らし、鮮度を保つため、朝早く収穫。鳥獣害の低減効果もある。また、糖度を保つため、収穫開始後の灌(かん)水(すい)は3回、施肥は節間伸長を防ぐため、化成肥料を反当たり30キロと少なめに抑える。
 収穫を終えて落葉する12月中旬には、枝を3センチほど残してすべて剪(せん)定(てい)。2月中旬には、防除のため、300倍に薄めたマシン乳剤を、一度だけ散布する。6月に新芽の欠芽を行う際には、30センチ間隔で、左右互い違いに元気な芽を残す。こうすることで、日当たり、風通しが良くなり、品質向上につながるという。
 「イチジクは、捨てるところがないね。今はジャムにしているけど、いろいろ新商品も開発したいね」と、遠山さんは今後の展開にも意欲を見せる。

〈写真:イチジク園で遠山さん〉

101006_09.jpg 【埼玉支局】98歳の現役ナシ農家・岩井廣八さんは、ナシの産地として知られる神川町元阿保で「幸水」「豊水」を25アール栽培している。15歳で家業のナシ栽培を手伝い始め80年以上。努力と情熱を注いだナシの評判は口コミで広まり、全国にファンがいる。
 ナシ畑に隣接する直売所は、毎年甘いナシと岩井さんの話を聞きに利用客が訪れるという。「会いに来てくださるので、わたしがいないと逆に心配されちゃいます。ありがたいです」と話す。
 以前から、近くの国道を通る人がナシ畑へ買いに来ていたため、20年前に直売所を始めた。以来、おいしいナシと岩井さんの人柄から、今では多くの常連客を抱える名物直売所に発展した。
 岩井さんはナシ栽培で一切の手抜きを許さない。毎朝、畑を見回り、木や土の状態を確認する。木の管理から収穫、販売までを娘のイサ子さん(72)と二人でこなす。98歳になってもナシ作りの努力に終わりはないという。
 「消費者とのふれあいが元気の源」と話し、すでに来年の計画を練り始めている。

〈写真:20年前から直売所を開く岩井さん〉

101006_10.jpg 【茨城支局】茨城県は牛乳の生産量が全国第8位と酪農が盛んだが、生産量・消費量ともに年々減少しているのが現状だ。そこで、「酪農を身近に感じてもらい、牛乳の良さを知って、好きになってもらおう」と今年3月、JR水戸駅の自由通路に県産牛乳や乳製品を販売するミルクスタンド「ミルスタ」がオープンした。
 これは、県が茨城県牛乳普及協会に管理・運営を委託。県内乳業メーカーの牛乳をはじめ、ヨーグルト、アイスクリームなど常時約50種類が並び、学生やサラリーマン・OL、主婦など多くの人が訪れている。
 ほかにもウメやメロン、トマトなどを使ったシェイク、冬限定の「ミルク甘酒」「ミルクお汁粉」など、牛乳と県産食材をコラボした商品もあるという。店員は県の畜産情勢や酪農のこと、牛乳の栄養や製造工程などについて1カ月近く研修を受け、牛乳のPRと消費拡大に努めている。
 県牛乳普及協会の担当者は、「遊び心を持って品ぞろえし、牛乳普及のアンテナショップとして位置づけていきたい。牛乳の消費が増えることで、少しでも酪農家の経営安定につながれば」と話す。

〈写真:「ミルスタ」でアイスクリームを食べる女子高生〉

101006_11.jpg 【島根支局】牛乳の消費拡大を目指して、2006年に生産者をはじめ、関係機関を含めた11団体で発足した「島根県牛乳消費拡大運動実行委員会(事務局=島根県農畜産振興課)」。本年度の新たな試みとして、県内の保育所や幼稚園を対象にした「牛乳の出前普及」に取り組んでいる。
 その目玉は、牛乳をPRするオリジナル紙芝居。これは、島根酪農女性ネットワーク「みるくクイーン」の住田富美子会長が物語を作り、友人が紙芝居にしたものだ。
 8月27日の安来市下坂田町の「ふたば保育園」の4歳児を対象とした出前で紙芝居を行った同市上坂田のみるくクイーン・砂流(すながれ)裕美子さん(49)は、「生産者の一方的な思いを押し付けるのではなく、お互いをよく知ることが大切」と話す。
 紙芝居以外にも、模型の牛を使った乳搾り体験や質問コーナーなどが行われた。同保育園の保育士・小別所(こべっしょ)舞さん(26)は「今日は、牛さんからの恵み"牛乳"のありがたさをみんなが感じてくれたと思います」と笑顔。
 島根県農畜産振興課の三輪美保主任は「来年の実施については未定ですが、実行委員会の中で検討していきたい」と話す。6月に始まったこの出前は、今月まで続けられる予定だ。

〈写真:園児に紙芝居を見せる砂流さん〉

101006_12.jpg 【鳥取支局】「贈答用として、規格外でも当初の価値を保ちながら、おいしい飲み物を開発したい」と鳥取市の農事組合法人広岡農場(漆原捷之代表=76歳・農地面積16ヘクタール)では、ナシを原料としたワイン造りに成功した。
 これは、同農場の漆原泰雄専務(48)が2年前、海外でリンゴを原料にした発泡酒「シードル」を試飲し、「この味を国内でも造りたい」と始めたものだ。ナシを原料に酵母が生きた状態で瓶詰めし、さらに発酵を進め炭酸ガスを瓶内に閉じ込める瓶内二次発酵製法で完成させた。昨年4月から、ひるぜんワイン有限会社(岡山県)と関係者の協力を得ながら開発を進めてきた。漆原専務は「アルコール度数は10度、飲みやすくさっぱりとしている」と話す。
 現在、鳥取県アンテナショップと県内のレストランで消費され、「ナシを生かしながら、すっきりとした味で飲みやすい」と好評だ。漆原専務は「販売ルートを拡大し、2年後には年間1万5千本を扱いたい」と話している。

〈写真:大瓶(右)とハーフボトル〉

101006_13.jpg 【岡山支局】倉敷かさや農協女性部(堀澄江代表=63歳)では、地元産のゴボウを使ったどら焼きを「モグ丸焼」の名称で販売し、好評を得ている。
 モグ丸焼は当初、あんの中にゴボウを並べて入れていた。しかし、糖度によって保存が難しくなったり、ゴボウの風味が消えたりするという欠点があったという。「ゴボウをミキサーでペーストにして、皮の生地の方に混ぜ合わせることにしました。連島ごぼうの風味と味わいを生かしたかった」と堀代表は話す。
 倉敷市の連島地域は、良質な砂地を生かしたゴボウの産地。同市ではゴボウを使った料理を特産品として発信していて、モグ丸焼もその一つだ。倉敷かさや農協連島支店に併設された直売所「パティオ連島」で販売している。
 「生産者の方からゴボウが売れなくなっているという声を聞いており、消費拡大につながれば」と堀代表は話す。

〈写真:モグ丸焼。1個150円で販売〉

101006_14.jpg 【大分支局】豊後大野市大野町の黒野道美(くろのみちよし)さん(71歳=水稲18アール)は、「カボス搾り器」を自作し、労力軽減に役立てている。この搾り器は、近所の人からも「作業が楽になった」と好評だ。
 最初は下に容器を置き、上から押さえて搾る簡単なものだった。改良を重ね3作目となった現在の搾り器は、搾った果汁と、果実が簡単に分けられるよう工夫されている。
 黒野さんは毎年、近くのカボス農家から規格外のものをコンテナで3箱ほど購入。それを搾ると、一升瓶で約2本分になるという。搾汁作業を手伝いに来ていた足立哲伸さん(71)は「昨年この器械を借りましたが、非常に楽でした。今年も使わせてもらいます」と話す。
 黒野さんは「みんなが喜んで使ってくれるのがうれしい。これからもいろいろなものを作ってみたい」と意欲を示す。

〈写真:カボス搾り器〉

 ▼取材先で赤米のもみを分けていただき、アパートのベランダで数年間栽培したことがある。子ども用の小さなバケツに植えた。水を切らさないようにしたぐらいで、管理らしい管理をしなくても十分に育った。出穂した時の鮮やかなのぎの赤色が、今も印象に残っている
 ▼一度だけ稲株に小さな虫を数匹みつけた。調べてみるとウンカのようだった。住んでいたのは東京近郊の住宅地で、周囲に野菜畑は散在するが、田んぼはない。ベランダのバケツにある数株の稲にどうやってたどり着いたのか。小さな虫が持つ大きな力に驚いた
 ▼9月半ば以降、各地から害虫多発のニュースが伝わってくる。県によっては注意報を出し、適切な防除を呼びかけている。関東近辺では、野菜類を加害するオオタバコガやハスモンヨトウ、ハイマダラノメイガ(シンクイムシ)が多発している模様だ。発生数が多いため、防虫ネットはかなり厳重に張らないと侵入を許してしまう
 ▼今夏の暑さは、農業にさまざまな影響を及ぼした。果実は、着色不良や日焼け果の被害が確認され、水稲は白未熟粒や胴割れなど品質低下が懸念されている。畜産では、牛や鶏の死廃事故が例年に比べ大きく増えた。猛暑も一段落と安心したいが、対策に気の抜けない状況が続く
 ▼害虫多発の要因も今年の猛暑にある。高温と乾燥は、虫の繁殖に適した環境だ。世代交代のサイクルも早まって個体数の増加が加速し、多発を招く。ただ、人間の都合など関係なく、虫の側からすれば、たまたま繁殖に適した気象推移だったに過ぎない
 ▼気象をみる際は、過去30年間の観測値をならした平年値と比較する。しかし、1年を通じて平年通りに推移する気象経過はあり得ない。今後、地球温暖化が進行すると、平年値との振れ幅がさらに広がる異常な年が増えるとされている。農家には、知識と経験を総動員し、一つ一つ対処できる力が一層求められる。

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