「3月16日月曜日、ブラックマンデー」説 市場関係者が身構える「大暴落」 気をつけろ!
株式市場の未来を予測するのは簡単なことではない。ただ、確実に言い切れる未来というのも存在する。たとえば、異常に動く相場はいつか必ず終わりを迎えると-。今回も、予兆が浮かんで来た。
■怯える投資家たち
マーケット関係者が不吉な前兆に気付き始めた。
「ブラックマンデー当時に似てきた」
そんな恐ろしい声が、あちこちから聞こえてくるようになってきたのである。
ブラックマンデーとは、'87年10月19日から始まった米国発の世界的株価暴落劇のこと。史上最大かつ最悪の金融事変で、この日が月曜日だったことから「暗黒の月曜日」としていまなお語り継がれる。
この日、ダウ平均は一日で20%以上も下落。パニックは瞬く間に世界中に伝播し、日本でも翌20日に日経平均株価が15%も急落する大惨事に発展した。
実は一部の市場関係者の間では、「次のブラックマンデー」の日付が具体的に指摘されている。いま再びのブラックマンデーがあるとすれば、今年3月16日の月曜日が危ないというのだ。あとわずかひと月余り先のことである。
そんな有事が繰り返されるとは想像もしたくないが、市場関係者は警戒モードに入っている。世界のマーケット事情に詳しいRPテック代表の倉都康行氏が言う。
「金(ゴールド)の価格が上がり始めています。世界中のマーケットにはジャブジャブとカネが溢れていて、いままでそれは米国株を中心としたリスク資産に流入していた。しかし、ここへきて投資家たちがなにかに怯えるように、『有事の金』へ資産を移し替えている。これからなにが起きるのかわからないというマーケットの不安を象徴しています」
世界中で株価が不安定な動きを始めたのも、「不気味なシグナル」(米在住ヘッジファンドマネージャー)だ。
たとえば米国市場は、一日にニューヨークダウ平均が300ドル以上も動くジェットコースター相場に突入。株価変動率が歴史的な低水準だった昨年とは風景が様変わりしている。過去の歴史的な株価暴落劇の前にはこうした壊れた機械のようにグラグラとふらつく相場が見られることから、「短期的な大幅上昇と急落の繰り返しは'87年10月のブラックマンデーや先の金融危機前の状況に似ている」(ロイター)と、その先に歴史的な暴落が連想され始めた。
株式評論家の渡辺久芳氏も言う。
「米国株は史上最高値を取るまで上昇してきたのに、出来高はリーマン・ショック以降、一貫して減少していることが気になります。皆が買っているため、売り物が出ていないということ。こうした状況で株価が大きな調整に入ると、これまで溜まっていた売りが一気に顕在化する危険性がある。つまり、売りが売りを呼ぶ状態になり、さらに売りが加速してしまうのです」
■「上げ3ヵ月、下げ3日」
日本株にしても、同様の不安定相場へと足を踏み入れていることはご存じの通り。年始から一日に日経平均株価が300円も動く異次元モードが続いており、事態が沈静化する気配はない。安倍晋三総理や日本銀行の黒田東彦総裁は強気姿勢を崩さないが、マーケットの見方は違う。カブドットコム証券チーフストラテジストの河合達憲氏が言う。
「日本株は昨年10月31日の日銀による追加緩和で跳ね上がって以降、株価が1万6700円から1万7900円台というボックス内を推移しています。すでにこの間で3往復しており、相場に方向感がなくなっている。ここから春先に向けて企業の決算期を迎えるが、円安の恩恵もあり多くの企業が大幅増益になるでしょう。それを受けて『日経平均2万円』の可能性も出てくるが、方向感がない相場から一方向に一気に動く時は過熱状態になっていく。
そこで何か突発的な事態が起きて梯子を外されると、『上げ3ヵ月、下げ3日』という相場格言があるように、株価は想定外に逆方向に動くリスクが高まります。ブラックマンデーの時もそうでした」
もちろん、世界の株式市場は今年も好調を維持していくと楽観的に見通す向きも少なくない。その通りに事が運んでくれればうれしいが、われわれが生活防衛するためには、最悪の事態に備えたほうが得策だろう。
プロたちが予想する最悪シナリオをまとめれば、まずこれから3月にかけて相場は上昇モードで進んでいく。しかし3月16日前後にはイベントが満載で、いずれかが悪い形で火を噴けば、上昇基調だった株価が一転して崖から転げ落ち、ブラックマンデー級の暴落劇が幕開けするというのである。
まず警戒されるのが中国リスクである。
中国では3月5日から、国会にあたる全国人民代表大会が北京で開催される。ここで'15年度の経済成長目標を公表する予定で、'14年度に「7・5%前後」だったそれを、どこまで引き下げるかが注目される。「7%前後」というのが市場の大方の予想であり、それ以下の目標が発表された場合には市場が動揺する。
「注意点はそれだけではない」と、RFSマネジメントの田代秀敏チーフエコノミストは言う。
「気をつけて見るべきは、中国の不動産政策です。中国では不動産不況が始まっているとはいえ、いまだ住宅価格が高止まり状態にあります。中国政府はこれを引き下げなければならず、その最終的な手段は金利引き上げになる。しかし、中国では昨年11月に、中国人民銀行が突然の利下げに踏み切り、これが上海株を上昇させた。仮にこの3月の全人代で住宅価格引き下げ政策が公開されれば、金利引き上げの連想が働き、上海株下落への警戒感が高まります」
毎年、全人代直後には中国株が下落するのが「恒例行事」(中国経済に詳しいジャーナリスト)となっているが、今年はそれに輪をかけて、下落幅を広げる可能性がある。田代氏が続ける。
「昨年11月から、上海証券取引所と香港証券取引所が相互取引を開始したからです。それまで海外投資家の取り引きが制限されていた上海株に、香港取引所を通じて一定の上限額までは自由に投資ができるようになったいま、海外投資家が香港経由で資金を引き上げれば、これまででは考えられないほど株価が下落する恐れがあります。その際は、東京の株式市場にも相当のショックとなり、日本株暴落を引き起こしかねない」
ちなみに全人代は10日間ほど開催される予定なので、まさに3月16日の月曜日が危険日となるわけだ。
■日経平均株価5000円
次の舞台は欧州。3月は5日のECB(欧州中央銀行)理事会から始まり、9日のユーロ圏財務相会合、10日のEU(欧州連合)財務相理事会、16日をはさんで19日のEU首脳会議と主要会議ラッシュなのだ。
最大の焦点はギリシャの動向。通貨・国際投資アナリストの小口幸伸氏が言う。
「このほどの選挙で勝利した急進左派連合から新たに財務相に任命されたバルファキス氏が、EUとどう交渉していくかがポイントです。EU側は緊縮策の継続などを求めるとされていますが、バルファキス氏は強気な姿勢で知られており、交渉の先行きは不透明。仮にギリシャがユーロ離脱などの強硬策に踏み切れば、市場は大きく動揺するでしょう。欧州では他国でも独立運動がすでに多く起きており、スペインなどに波及するリスクも出てきます」
前出・倉都氏は「ドイツのメルケル首相の動向にも注目すべき」と指摘する。
「ECBのマリオ・ドラギ総裁はこのほど量的緩和を始めることを決めましたが、いまだドイツ国内にはこれに反対する空気がある。特にマーケットの不安心理を高める引き金となり得るのは、ドラギ総裁とメルケル首相の関係です。
'12年の欧州危機時、ドラギ総裁が緩和政策を打ち出すとドイツ連邦銀行のワイトマン総裁は猛反対したが、メルケル首相はドラギ総裁を支持した。しかし、今回の量的緩和が決まった際の記者会見で、メルケル首相はドラギ総裁を婉曲的に批判する発言をしている。ドイツの首都ベルリンと、ECB本部のあるドイツ西部のフランクフルトの間に壁ができつつある。これがより鮮明になれば、欧州売りにつながりかねません」
われらが日本では、まさに3月16日その日から日銀が金融政策決定会合を開催する。黒田総裁が掲げる「2%」の物価目標達成に暗雲が立ち込めている中で、日銀が3度目のサプライズ緩和に踏み切るのは4月だというのがマーケットの想定シナリオだが、早ければこの3月に前倒しされる可能性がある。
しかし、日銀の緩和はすでに円安と物価高という副作用をもたらし、日本経済を足元で蝕んでいる。ここでさらに日銀がアクセルをふかせば、庶民生活や景気実態を顧みずに数値目標だけを見る日銀総裁の限界が露になり、マーケットが一斉に日本売りへと走る危険性が出てくるのだ。
同志社大学大学院教授の浜矩子氏が言う。
「日銀は国債を買い漁っていますが、物価目標の2%達成は遠のくばかりです。目標が達成できないのであれば国債を買い続けなければいけませんが、国債の量は限られているのでいつか限界に達します。仮に目標を達成できたとしてもその際には日銀が国債購入を止めることになるので、日銀買いで支えられていた日本国債は暴落を始めるでしょう。このように日銀の異常な政策には出口がない。
そうした政策の限界が露呈し、日銀の屋台骨が崩れるようなことになれば、日経平均株価は5000円くらいまで値下がりしても不思議ではありません」
■「全部売れ!」
続けて見れば、3月17日から18日にかけて、米国でFRB(米連邦準備制度理事会)が金融政策の方針を決めるFOMC(米連邦公開市場委員会)が開かれる。
「FRBを巡っては、現状ではジャネット・イエレン議長が6月に利上げを決めると見られています。3月のFOMCでは、その利上げについての最終議論が行われる可能性が高い。利上げ自体は既定路線ですが、リーマン・ショック以降過去6年強にわたり続いてきた金融緩和策が、打って変わって金融引き締め策に転じるのだから、市場では拒否反応が出ると見るのが自然です。つまり、この3月での議論内容によっては市場が不安定な状態になる可能性が高い」(前出・河合氏)
となれば、17日の会合前から市場関係者は警戒モードに入り、政府要人の失言や事前に漏れる些細な情報をきっかけにして暴落劇が始まるシナリオは十分にありえる。特に疑心暗鬼が渦巻く相場環境にあっては、周囲よりも先に売り逃げることが傷を最小限におさえるための唯一の作法。16日の月曜が最も危ないとされる所以はここにもある。
総じてみれば、各国政府の動向が最大の焦点になるということだが、それも当然。現在の金融市場は「米欧、日本などの中央銀行が主導して作った異常な相場であり、民間が先頭を走って起こしたものではない」(在米投資銀行家の神谷秀樹氏)からだ。
先進各国が歴史的にも見られなかったほどの金融緩和に踏み切る中で、ジャブジャブと溢れたマネーが相場を動かしているのが世界の株式市場の現状。言い方を換えれば、各国当局の金融政策如何でマネーの動きが大きく揺らぐ世界的な官製相場なのである。
実はこうした事情も、ブラックマンデーを想起させる一因となっている。
「'87年にブラックマンデーを引き起こした原因の一つには、各国の中央銀行の足並みが揃わなかったことがあげられます。当時はドイツと米国の間で政策の相違が発生し、これが株価急落のトリガーを引いた。そしていま、各国は協調態勢を築きにくくなっている。米欧中、そして日本などの歩調が乱れた時、ブラックマンデーの再来が意識されやすい状況なのです。
こういう時は、政策当局者の失言ひとつでマーケットは乱れる。'92年に英国発のポンド危機が起きた時も、ドイツとイギリスの中央銀行トップの意見対立を見たヘッジファンドが、売り仕掛けに動きました」(東京海上アセットマネジメントの平山賢一チーフファンドマネジャー)
ブラックマンデーが起きれば、どんな惨事になってしまうのか。
'87年当時の状況を、日興証券のニューヨーク支店でこの暴落劇に直面した作家の板谷敏彦氏が振り返る。
「みなで崖から飛び降りるような一日でした。直前の週末にニューヨークダウ平均が大きく下げていたので、多くの人が株価は切り返すだろうと思っていたのに、この日は取引開始から投げ売り状態に突入した。しかも、売り注文を出してもいくらで売れたか、どのくらい売れたのかがまったくわからない。売り注文が殺到しているから株を売れない状況になっていて、『全部売れ』『どうなったんだ』と怒声が飛び交いました。
そうした中で、外出していた社員の一人が戻ってきた。彼はコンピューターの表示を見て、『ダウ平均がマイナス500ドル?コンピューターが壊れていますよ』と笑って、みんなの顔を見た。しかし、私たちが真顔で『いや、壊れてないんだ』と言うと、その駐在員も真っ青になって……。あとは株価はどうなってしまうのかと、みなで呆然とすることしかできませんでした」
当時、東京銀行の為替リーディングルームに在籍していた龍谷大学経済学部教授の竹中正治氏も言う。
「米国株の大暴落を前にして、『何が起こったんだ』と大騒ぎでした。『米国の証券会社が大損したようだぞ』などという情報が入ってくるたびに、血の気が引いていくのです。対応も混乱をきわめました。為替課長が『ドルの暴落が来るぞ』とドルを売りまくったのですが、月曜日以降すぐにはドルがほとんど下がらなくて、もう何が起こるかわからない混乱が広がって行きました」
■原油安リスク
それだけに当時と状況が似てきたというのは穏やかな話ではない。しかも、いま再びのブラックマンデーとなれば当時以上の悲劇になる危険性が高いとプロたちは口を揃える。経済・金融アナリストの津田栄氏が言う。
「ブラックマンデー時には、米欧日の中央銀行が協調して金融緩和策を打ったことで打撃を抑えることができました。しかし、現在の先進各国はすでに大規模な金融緩和策を実施していて、打てる対策があまりないのです。各国が対応できなければ、世界的に株価が大暴落したあとにも株価が戻らず、世界的な不況になっていくでしょう。ブラックマンデーどころか、世界は'29年の大恐慌のようなことになるかもしれません」
マーケットバンク代表の岡山憲史氏も言う。
「大暴落相場になれば、ヘッジファンドはブラックマンデーの時と同じように先物からどんどん売り浴びせてくるので、個人投資家は対応できません。現在はコンピュータープログラムによる高速売買がより発達しているので、短期的に売りが売りを呼ぶ展開となるでしょう。もちろんその分、谷も深くなります。
これからマーケットは3月にかけて上昇していくでしょう。しかし3月には大調整が来て、その高い山が上から崩れる危険性があると注意すべきです」
最後に言い添えておけば、3月危機を無事に乗り越えたとしても、安心してはいられない。いちよしアセットマネジメント執行役員の秋野充成氏が言う。
「いま欧州や日本の中央銀行が金融緩和をしているのは、建て前上は株高のためではなく、インフレを引き起こすことが目的です。しかし、日本の現状を見てもわかるように、金融緩和で過剰にカネを流動させても物価高にならなくなっている。今後はこうした政策の是非に議論が及び、日本や欧州の中央銀行が金融緩和を止めるという政策転換に踏み切る可能性すら捨てきれません」
それは市場の想定シナリオが完全に狂うことを意味するので、かつてない暴落劇を引き起こすだろう。
金融史を紐解けば、活況を呈していた市場が轟音とともに崩れ落ちていく例はいくつもあった。そしていま、世界にはこれでもかと爆弾が埋め込まれている。
「原油リスクも燻っています。原油価格の下落で倒産する会社が増えれば、そうした企業の発行する債券のデフォルトが問題化してきます。それだけでも市場心理を冷やしますが、いまは米国が『イスラム国』に対して地上軍を投入するのではないかという噂も出ている。仮に地上戦が始まれば、市場は一気にリスクオフ状態になることは間違いありません」(前出・渡辺氏)
もはやなにが起きても不思議ではない-。
「週刊現代」2015年2月14日号より