中東・アフリカ

イスラム国ではなく「ダーイシュ」、
弱点を突いて解体せよ
元バアス党員と元イラク軍人たちが夢想した世界とは

2015.02.06(金)  松本 太

 第2に、「イスラム国」へ容易に移住できない場合には、現在、住んでいる場所において「イスラム国」に忠誠(バイア)を誓うことを要請する。その結果、世界各地の過激派組織が、忠誠を相次いで表明。自称カリフのバグダーディはこれに対して、将来的に各地の州(ウィラーヤ)を「イスラム国」が承認することを示唆している。こうして、世界のイスラム主義者が住む地域が次々に、忠誠を誓うだけで、あたかも「イスラム国」の一部となるという錯覚を作り出しているわけだ。

 第3に、「イスラム国」のスポークスマンであるアドナーニは、昨年9月に、世界各地での個人による一匹狼による攻撃(ジハード)の実行を呼びかけた。この呼びかけが、有志国による空爆の開始と時期が重なったことは偶然ではない。この結果、欧米諸国において、過激なイスラム主義者による無数の攻撃や未遂事件が続発するようになっている。「イスラム国」のあらゆるメディア媒体は、強烈な映像とレトリックを駆使して、個人による攻撃を推奨しているのだ。

 いずれも、イスラムという宗教に関わる言葉や、歴史、そしてロジックを全て駆使した上で、ダーイシュにとって最も費用対効果があがる形で、彼らの戦争を遂行しようとしている。

 そうなのだ。イラクのサッダーム・フセインに仕えたスンニ派の元バアス党員や元イラク軍人たちは、自らの戦略的目標のために確信的に活用しようとしたのだ。

 もともと彼らが狙っていたのは、カリフ制の樹立ではない。それは、むしろバグダードなのである。イラクという国家を自らの手に取り戻すこと。彼らを国家権力機構から追放した米国という敵に対抗し、復讐すること。これが彼らの真の狙いであった。カリフ制や「イスラム国」という名称もすべて、彼らの目標に到達するための手段にすぎなかったのだ。

 イラクというローカルな土壌の中で育ったダーイシュに巣食う魔物は、アルカーイダ中枢が目指すようなグローバルジハードとは元より異なる肌触りがする。そうであるとすれば、ダーイシュという虚構の中にある真実こそが、彼らの弱点ともなるわけだ。彼らが本来持っている世俗性、物欲、権力への執着、そして、部族的な紐帯。これら弱点のまだら模様が、私たちの今後の戦略にとって有益なのである。

 しかし、昨年来、これらの元バアス党員や元イラク軍人…
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