もうお分かりのとおり、ダーイシュは、イラクの元政権に所属していたスンニ派の人々が築き上げた組織なのだ。その意味で、例えば、カリフに任命されたバグダーディ本人にどれほどの権威や意思決定権があるのか疑問も多い。
「ダーイシュ」の基本戦略はどこから来たのか
ここに1冊の大著がある。イスラム主義者が熱心に読む戦略書だ。『野蛮の作法』と名付けられたイスラム主義者のための一種の指南書だ。もともと2004年にアブ・バクル・ナージという人物の名前で、インターネット上に投稿されたものである。そこには、イスラム主義組織が目指すべき戦略が赤裸々に提示されている。
アブ・バクルは、ジハード諸組織にとって、イスラム諸国において民族的・宗教的な復讐心や暴力を確信的に創り出し、それをマネージすることが必要なのだと強調する。また、戦闘員をリクルートし、殉教者を出す上で、大国からの軍事的反応を引き起こすことの有益性も指摘されている。
そして、長期的な消耗戦(War of Attrition)とメディアの操作によって、米国という大国を消耗させるべきだと説くのである。また、敵の心に絶望感を植え付け、敵が和解を求めるまで、いかなる敵の攻撃に対しても、敵に対価を払わせ続けるべしと主張する。
すなわち、恒常的な暴力をイスラム諸国で継続することにより、これら諸国が弱体化し、結果として「混乱」、すなわち「野蛮」が生じる。それに乗じて、シャリーアを広め、セキュリティと、食糧や医療などの社会サービスを提供することで人々の人気を集め、それらの領域に最終的にカリフ制に基づく「イスラム国」を打ち立てることを明確に提示したのである。
例えば、人質の活用についても明確な提言を行っている。アブ・バクルは、人質に関する要求が満たされない場合には、「人質は、恐怖を煽るように処理されねばならない。これこそが、敵とその支持者の心に恐怖を植え付けるのだから」と指摘するのだ。
『野蛮の作法』によれば、暴力は恐怖をつくり出すだけではなく、「大衆を戦闘に引きずり込む」ために活用される。この戦略においては、ムスリムの世界を恐怖によって分裂させ、米国の支援を求める穏健な人々にも、そのような希望はもはや無意味であると思わせることにある。
また、同書には、敵が例えばアラビア半島やイラクで(イスラム過激派に)攻撃を行う場合に、それへの対応(テロ行為)がモロッコやナイジェリア、インドネシアで起きれば、敵はそれに直接反応できず、また、世界のムスリムに実践的なメッセージが伝わるであろうという、いわば非対称戦略まで明快に指南されている。
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