島田俊彦著「関東軍」(講談社学術文庫)  


 この本が最初に世に出たのは1965年のことである。すでに40年経っているわけだが、文庫化されてすぐに再版されているところをみると関東軍についての基本文献として評価されているのではないかとも考えられる。著者は、防衛庁や外務省関係の書類を丹念に読み込みながら「なぜ関東軍は暴走したのか」を実証しようとしている。内容に入る前に、私は関東軍という名称についてごくごく初歩的な疑問を持っていた。「なぜ、満州なのに関東なの?」もしかして、この軍隊は関東出身者が多いのか。そう思ってさえいた。が、この本の冒頭でその疑問は解決する。答えは、山海関という都市より東にあるからということである。日本の関東が箱根や碓氷などの関所より東に位置することからそう呼ばれるのと一緒である。どちらも「辺境の地」としての関東という意味なのであろう。意外だったのは、この地名を命名したのはロシアだったということである。日露戦争時に、遼東半島以東のごく限られた地域をロシアが関東州と呼び、それをその後の日本軍が対象地域を東北三省に拡大したというのが実態のようである。以下感想を
① 以前から、政府・大本営を無視した「関東軍の暴走」ということが言われてきたが、この本によりそれが見事に実証されている。ただ、満州事変の産みの親石原完爾が満州国建国後は、完全に独立国をめざすつもりであったのに対し、現状追随的に満州国を「傀儡国家」していくなど、決して関東軍自身が首尾一貫しているわけではない。大本営にいる時に関東軍の暴走を批判していた高級参謀が関東軍に入るとその暴走を主導していくなど、構造的な問題があることがわかる。
② 権謀術数の限りが尽くされて「アジア・太平洋戦争」の端緒が開かれているのがわかる。張作霖爆殺事件など周到にかつ冷酷に、多くの被害者を出しながら実施されていたのがわかる。「裏切り」「スパイ」「隠蔽」「陽動」何でもありという感じである。
③ 「謎」が多いといわれるノモンハン事件について詳しく述べられている。関東軍唯一の本格的戦争であり、こてんぱんにソ連にやられたこの戦争が「完敗」ゆえに闇へと葬られているわけだが、この本でおおよその概略がつかめる。大本営の作戦課長が「ソ連軍の方がタテマエをきちんと守って戦っている」と述べているのが印象的である。「ソ連の戦車に日本歩兵が突撃していき大砲にぶっ飛ばされ、戦車に轢かれる。」これが戦闘のイメージである。村上春樹の「ねじまき鳥クロニクル」の惨劇シーンを思い出す。
 小熊英二「民主と愛国」に、日本軍の命令系統のずさんな状況が書かれているが、政府と軍の対立に加え、陸軍と海軍の葛藤、陸軍の中における大本営参謀と関東軍参謀の対立・・・・
非合理的な組織である。その大日本帝国に命を捧げろというのであるから無茶な話である。
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by yksayyys | 2006-04-10 18:52 | 読書 | Comments(0)

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